STAGE-00 LITTLE DAYS  
 
幼い子どもたちの話です。  
四人の少年が公園でサッカーボールを蹴って遊んでいました。  
赤髪の少年と青髪の少年、黒髪の少年と金髪の少年です。  
黒髪の少年が思いっきりボールを蹴りました。  
それは赤髪の少年の頭上を越え、道の向こうまで飛んでいきました。  
偶然、本当に偶然、ボールが向かう先に二人の幼い少女がいました。  
クマさんのぬいぐるみを抱きかかえた短髪の少女。  
ウサギさんのぬいぐるみを抱きかかえたツインテールの少女。  
黒髪の少年が蹴ったサッカーボールがツインテールの少女に当たりました。  
少女の手からウサギさんのぬいぐるみが弾きだされ、通りに面した屋敷の庭に落ちてしまいました。  
そこは高い柵で囲われた、近所では幽霊屋敷と呼ばれて有名なところでした。  
少年たちが駆け寄ります。少女は怒った口調で少年に取ってくるよう言いました。  
でも彼らもまだ子ども。気味悪がって近寄りたくないようです。  
そこに屋敷に住んでいるらしいお爺さんがやってきました。  
ウサギさんに気付いたおじいさんはそれを持って館の方へ去っていきます。  
ツインテールの少女は懸命に声を出して呼びかけますが、どうやらおじいさんには聞こえないようです。  
ツインテールの少女が柵を前に涙を浮かべています。  
それを見た短髪の少女が自分のクマさんをぎゅっと強く抱きしめ、それを渡しました。  
お姉さんのように接する短髪の少女の行為に、ツインテールの少女は泣くのをやめました。  
ウサギさんが気になりつつも、二人の少女はそこを離れました。  
それを見た少年たちもその場を離れます。  
でも赤髪の少年は、去り行く間際の少女の寂しそうな顔を見てしまったのでした。  
少年の胸がずきりと痛みました。  
 
 
――深夜、二人の少女はクマさんのぬいぐるみを挟んで仲良く眠っていました。  
と、髪を下ろした長髪の少女がぱちりと目を開きました。  
そっと短髪の少女に気付かれないように布団から抜け出し、夜の街へと繰り出したのです。  
やっぱりウサギさんが気になるのです。  
目指すはもちろんお昼に訪れた幽霊屋敷です。  
 
 
とてとてとてとて  
 
 
長い髪をなびかせ、少女は屋敷の前に着きました。  
と、  
お昼にいた赤髪の少年が屋敷の前にいました。  
なんでこんなところにいるんだろう? 少女は疑問に思いました。  
つま先を伸ばし、頑張って柵にかけられた鍵を開けようとしています。  
でも、あとちょっとのところで届きません。  
少年は小さく息を吐き、くるっと回って公園の方へ歩いていきました。  
取ってきてくれるのかな、と期待していた少女は少しがっかりしてしまいました。  
その時です。軽快なリズムで足音が聞こえたかと思うと、少年が空を翔け、柵を跳び越えたのです。  
少女は驚きました。  
だって自分の背の何倍も何倍もある柵を跳ぶなんて、信じられなかったからです。  
少年が館の中に姿を消したかと思うとすぐに戻ってきました。  
さっきと同じように柵を超え、そして少年と少女の目が合いました。  
少女がおたおたと慌てふためきます。  
少年はそんな彼女にずいっとあるものを突き出しました。  
それはお昼に少女の手から離れていった、あのウサギさんのぬいぐるみです。  
ウサギさんを渡すと、少年はすぐそこから離れるよう少女に言いました。  
少年が去っていくとすぐに館に明かりが灯りました。  
彼の後ろ姿を見つめ、彼女は小さくありがとうと呟いた。  
 
 
 
 今でも朧気にそんな夢を見ることがある。夢といっても僕の場合は昼寝の時にしか夢は見られないん 
だけどね。  
 夢に出てくる二人の少女の、髪の長い女の子が忘れられない。鮮明にとまではいかないけど、顔も思 
い出せる。その顔は、僕が恋をしたあの子に――、  
(いや、それはないよね)  
 浮かびかけた想いを頭を左右に振って拭い去った。  
 朝、スケッチに出かける前にソファで横になっていたらうとうとして眠ってしまったようだ。身体を 
起こしてバックを肩にかけると、その中からウィズの鳴き声が聞こえてきた。  
今日もまたついてくるつもりらしい。僕としては大歓迎だ。なぜならウィズをきっかけにして彼女と話 
ができるからだ。  
 あの日、初めて原田さんが噴水広場で僕のスケッチするところを見て以来、毎日――といってもまだ 
三日目だけど――そこに来てくれている。おかげで僕は毎日が楽しくて、気恥ずかしくて、多分、幸せ 
だ。  
「行こっか」  
 特に意味があるわけじゃないけど、ウィズにそう声をかけた。鳴くのを聞いてから動き出し、家を飛 
び出した。  
 
 今日も彼女は来てくれる。何故かそう思える。彼女に振られたということもすっかり忘れて、自然と 
話ができる喜びに胸を躍らせ、僕は道を急いだ。  
 

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