「…………うーー…ーー……んんー、んー?」
何だか変な夢を見てたみたいだ。あんまり目ざまが良くない気がする。
真っ暗だった視界に光が差してきた。ぼんやりと、視界が開けてくる。
「……梨紅…さん……?」
視界に一番に飛び込んできた人の名前を呟いた。多分、その人だと思う。
「?」
あれっ、間違えた…?その人は少し小首を傾げるようにした。
左手で目を擦った。もう一度その人を見る。――見間違えるはずがない、やっぱり梨紅さんだ。
彼女の細くしなやかな指が僕の額に触れてきた。
「やだ、大助ったら。中学のときみたいな呼び方して」
うん?何か妙な違和感。僕は確かまだ、14歳の中学生で――――っあ。
そこで僕は状態を起こした。服を確認した。
着ていたのは、去年まで着ていた制服とは少しデザインが違っている。
「……梨紅」
改めて、今の彼女の呼び方を口にした。高校に入ったらそう呼び合おうと、お互いで決めたんだった。
「おはよう、大助」
笑顔が僕に向けられる。ホントにそれは可愛らしい…。
「おはよ。えっと、今何してたんだっけ?」
「あー、さては寝ぼけてるなー」
うりうり、と僕の頭を小突いてくる。
「あははっ、ごめん梨紅。ちょっとね、中学のときの夢見ててさ」
「へぇー…。ねえ、どんな夢だった?」
上体を乗り出すようにして、二人の顔がくっつきそうなほど近づいた。
「んー…、いろいろありすぎて思い出せないよ」
「えー。20分しか寝てないのにそんなに夢見るわけないじゃん」
「でも本当によく覚えてないんだ」
ちぇー、と言いながら梨紅は身を引いた。
「っさ。それじゃそろそろ教室戻ろっか」
昼休みに僕は梨紅と一緒に中庭で昼食をとり、そのまま眠くなって梨紅の膝を借りたんだった。
梨紅の太もも、ホントに気持ちよく眠れる。………なんか変態っぽいな。
梨紅と二人並んで教室へと戻る。さっき懐かしい夢を見たせいか、ついつい比較してしまった。
背、あのころはそう変わらなかったけど、今じゃ僕のほうが随分と高くなっている。
梨紅も梨紅でとても色っぽくなった。その横顔が綺麗だ。
「どうかした?」
僕の視線に気づいた梨紅が問いかけてきた。
「いや、可愛いなと思ってね」
正直に答えた。
「っば…!い、いきなり言わなくたっていいじゃない……」
途端に顔を真赤にして俯いてしまった。こういうところはまだ可愛らしい。
「……そ、そう言う大助だって、大分かっこよくなったよ」
「うん、ありがと」
「………うぅ」
反撃のつもりでそう言ったのだろうが、僕が素直に受け入れたために梨紅が唸った。
「でも、あんまりかっこよすぎても困ったもんよ」
「え、どうして?」
「………」
答えてくれずにじっと僕のことを睨み付ける。ちょっと怖い…。
「あんまり他の女の子と話しないでね!」
いきなりそう言われてしまった。中学のときも女の子とは結構話してたけどなぁ…。
「だからどうし――」
「どうしても!!」
言い捨てて梨紅が駆け出した。怒らせるようなことをしてしまったんだろうか?
少しの間逡巡し、
「――あ、待ってよ梨紅!」
慌ててその後を追った。