「僕、梨紅さんをモデルにして絵を描きたいんだ」
「え――」
正直なところ、彼にそう言われて私はとても嬉しかった。でも、それ以上に恥ずかしかった。
「っで、でもでも!私なんか描いたって……」
しょうがないよ、とは言えずに俯いてしまった。そんな私に、彼が声を掛けた。
「僕は、梨紅さんが描きたいんだ」
彼の目はとても真剣で、一途で、真っ直ぐに私を射抜いている。
「ううぅぅ…」
真摯な態度に、私はぽっきり折れてしまった。
数日後、私は美術室に呼ばれた。その日の放課後、つまり今が都合がいいとのことだった。
今日は部活がある日だけど、美術部から依頼されたと言って活動には遅れることを伝えた。
美術準備室に入ると、油絵独特の鼻にまとわり付くような匂いが漂ってきた。
すでに丹羽君が絵を書くための準備をしているみたいだ。
準備室の中から人の気配がする。丹羽君だと思い、私は準備室に足を踏み入れた。
思ったとおり彼がいた。私が近づいたのに気付いたのか、彼はこちらを振り向いた。
「きてくれてありがとう。はい、これ」
「何これ?」
そう言っていきなり彼が手渡してきたのは、肌触りのよい薄い布だった。
「それを着て」
広げると、確かにそれは布を重ね合わせたドレスのように見えないこともない。けど、
「これ、ちょっと薄すぎない?」
そう思った。布を幾重に重ね合わせてはいるけど、もとが薄いので身に付けたらきっと私の身体が透けてしまう。
「平気だよ。この時間は僕たち以外は誰もいないから。恥ずかしいことなんてないよ」
都合がいいっていうのはこのことだったんだ。誰もいないなら丹羽君以外に見られることはない。
「でも、やっぱり恥ずかしいよ」
やはりそれが本音だった。二人きりだとしてもこんな布切れみたいな服を羽織るのは抵抗がある。
「これが一番イメージに近いんだ。お願い」
私にモデルを頼んだ時と同じ目で彼が私を捉えた。
絵のことになると彼の目にはとても強い光りが宿っている。
魅了されているかのように、意思とは関係なく頷いていた。彼のあの目が、私に魔法をかけているみたいだ。
丹羽君から見えないように物陰に移動してから制服を脱ぎ始めた。
ベストのボタンを外してそれを脱ぎ、カッターに手を掛けたときに彼に聞いた。
「ねえ、ブラジャーも脱がないと…だめ?」
「うん脱いで」
即答されてしまった。ブラのラインががはっきりと浮き出てしまうからだと言われた。。
しぶしぶ、カッターを脱いでから胸にぴったりと合ったサイズのスポーツブラをさっと脱いだ。
すぐさま彼から渡された布を頭から被るようにして身に着けた。
誰にも見られないと言われていても、あまり胸を晒していたくはなかった。
それから穿いたままだったスカートを脱ぎさった。ショーツは脱がなくても分からないから別につけていても構わないかな。
上履きと靴下は布の丈が長くて足元が隠れているので、これも脱がなかった。
今の自分の姿を確認してみた。さわっとした肌触りの布が腕以外の身体全体を覆っている。
それにとっても軽くて、服を着ているという実感があまり湧いてこない。
もう少し密着すれば、乳首の桜色が透けてしまいそうで気が気じゃない。
「んっ…」
ちょっと歩くだけで布が乳首を擦ってしまう。
(やだ。これじゃ勃っちゃうじゃない…)
そう思うと急に丹羽君に姿を見せづらくなった。
(こんなところ、見られたくないよぉ)
しゃがみ込んでから気を落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。
「梨紅さん、着替え終わった?」
(…………よしっ!)
「うん、いいよ」
大分気分が落ち着いてきた。さっきまであったちょっとえっちな考えも何とか散ってくれた。
私が着替えている間、丹羽君は画材を整えていたみたいだ。準備を終え、腕にいろいろと抱えている。
「じゃあこっち来て」
彼の後に続いて準備室から美術室へと繋がる扉をくぐった。
そこには絵をすぐにでも描き始められるように準備されたキャンバスがあった。
「そこに立って。そうそこ。で、こっち向いて」
指示されるままに私は動いた。丹羽君も椅子に腰掛け、キャンバスに向かった。
こうやってみると、改めて緊張が押し寄せてくる。
「それじゃ今から描くよ。立ちっぱなしで疲れると思うけど、なるべく早くするから」
「うん。なるべく可愛く描いてね」
「梨紅さん可愛いから、できる絵も可愛いよ」
緊張を紛らすためにおどけてそう言っただけなのに、彼は本気でそう答えてくれた。
言われたことが恥ずかしくて、顔が一瞬で熱を帯びた。
「じ、じゃあ早く描いてよね!」
今度は恥ずかしさを紛らすために不自然なまでに強い口調でそう言ってしまった。
彼は私の気持ちがわかっているかのように、笑ってはいはいと言った。
そして筆を執り、白紙のキャンバスを睨みつけた。
(下書きもしないで、いきなり筆で描いちゃうもんなのかな?)
素人ながらそう思った。
でも、丹羽君が油絵を描いている姿は見たことが無かったので、きっとこれが彼のスタイルなんだと納得した。
「梨紅さん」
しばらくキャンバスと睨めっこをしていた丹羽君が声を掛けてきた。
「手は後ろで組んで」
「うん」
言われるままに両手を後ろに回して指を絡ませた。
「そう。もう少し胸を反らして」
「こう?」
胸を突き出すようにしたときにあっと思った。また乳首が布と擦れたからだ。
(ま、また勃っちゃう…!?)
そう思って胸を引こうかとしたけど、ここで変に動くと丹羽君に気付かれるかもしれない。
しょうがなく、わたしはそのまま胸を反らした。
「うん、いいよ」
そう言って丹羽君はまたキャンバスと睨めっこを始めた。
さっきから全然筆が動いてないような気がするけど、なんでだろう…。
でもそうしている間は丹羽君が私の乳首の変化に気づくことが無くてほっと一安心できる。
胸のところの布の先端にプックリとした膨らみができているのがはっきりと見える。
正面から見たら、絶対に影ができているに違いない。
丹羽君はまだ私のほうを見ていない。今のうちに身体の変調を治さなきゃいけない。
(お願い、鎮まって……!!)
天に祈るような気分ていうのはこんなものなんだと思う。
すがるような思いで願いを繰り返した。
(こんなの丹羽君に見られちゃったら、私……)
そう思った瞬間、身体が熱く火照ってきた。顔が赤くなって、薄い汗の膜が身体を覆った。
さっきより身体がおかしくなってる気がする。
「なっ……」
私は驚いて声を上げた。慌てて丹羽君のほうを確認した。
幸い聞こえてなかったのか、彼は未だにキャンバスと睨めっこだ。
私が驚いたのは、さっきよりも乳首が、その…硬く勃っていたからだ。
丹羽君に見られると思ったとき、私は興奮してしまった。
(そんなの、私、変態じゃない…!)
「梨紅さん」
私ははっと顔を上げた。いつの間にか丹羽君が私を見ていた。
「乳首が勃ってるよ」
いつもの調子、笑顔で丹羽君がそう言ってきた。
(ばれてる……ッ!)
恥ずかしさがいっぱいになって気が狂いそうになった。
「息もちょっと荒いね。顔も赤いし。興奮してるの?」
「ッ!」
丹羽君がどんどん私の羞恥心を煽ってくる。いつもの彼じゃないみたい。
声を詰まらせた私をニコニコしながら見つめている。
(ダメェッ、そんな目で見つめないで!)
丹羽君の純粋な笑顔が今の私の胸のうちを抉っていく。
「僕に見られるだけでそうなっちゃうんだ?」
「ち、ちがっ……」
彼らしくないひどい言いように私は反発しようとした。けど、そこで彼の目を見てしまった。
光が全く映りこんでいない、漆黒の闇がどこまでも続いていると思えるほど暗い眼。
私の言葉はそこに飲み込まれてしまったように続かなかった。
怖い。大好きな彼のことが、とっても怖い。
椅子から腰を上げて私に近づいてくる。
とっさに逃げなきゃいけないと思った。しかし、思いとは裏腹に身体が全く動いてくれない。
(か、金縛り…?)
私の焦りを見透かしているように彼が冗談めいた口調で告げてきた。
「ちょっとね、魔法をかけさせてもらったんだ」
軽い声のトーンだったけど、私にはなぜかそれが本当のことに思えた。
「な、なんで!どうしてこんなことするの!?」
今にも泣きそうな声で叫んだ。実際、目尻には涙が溜まっていた。
私の叫びを、彼は涼しい顔で受け止めた。
「なんで、ってさ――」
(……あれ?丹羽君、こんな声だっけ?)
「――こうでもしなきゃ、お前とはやれないだろ?」
そう言って、丹羽君の顔が絶対にしないような、そう、自信に満ちた、そんな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
背筋がぞっとした。今、私の目の前にいるのは、丹羽君じゃない。そう確信した。
「あぅッ…!」
目の前のそいつの手が私の内腿に布の上から触れてきた。
「やッ、やめて!!」
気持ち悪い。撫でられるだけで吐き気が込み上げてくる。
「どうしたの?いつもは可愛い声で喘いでくれるのに」
「丹羽君の声で、そんなこと言わないでっ!!」
かっと頭に血が上った。丹羽君の声で、姿でそう言ってくるそいつに激しい嫌悪感を覚えた。
「やれやれ。やっぱ、お前は強情だよ。でもな」
そいつが後ろに回りこみながら言ってくる。
「そういうお前だから、屈服しがいがあるってもんだ」
「んんッ!!」
背後から回された腕手が、私の両胸を包み込んだ。
「や、やだぁッ!気持ち悪い!!」
身じろぎしようとしても身体はまだ動かない。私の身体はそいつにされるがままだった。
「気持ち悪い?でもここはしっかり濡れてるよ」
そいつの手が私の股間の縦筋をなぞった。
「くッ…」
そこが湿っているのは私がさっきまでやらしい想像をしてたからだ。そいつが触れてきたせいじゃない。
でもそんなことを言ってもこんなやつが納得するはずない。黙っているしかなかった。
「――チッ、つっまんねーの」
いらだたしげな声を上げてそいつが毒づいた。
「ま、声上げねえんならそれでもいいけどさ」
私が身につけているものをそいつが裾から捲り上げた。
「!いやぁッ――」
手で押さえようとしてもやはり私の身体は動いてくれない。
下半身を晒して、悔しくて涙が溢れた。
「おいおい泣くなよ。俺が悪者みたいじゃねえか」
「ぐすっ…、丹羽君の格好でこんなことするなんて、あんた最低よ!」
涙声でそう言って、ああ情けないな、と客観的に考えてる自分がいた。
「別に最低でもかまわないよ」
そういわれた瞬間、身体ががくっと落ちた。
(動いた……?!)
そう思ったのも束の間、落ちた私の身体はそのまま動かなかった。
「な、な……」
声が出ない。これもこいつのせいに違いない。
私のお尻が持ち上げられる。腰をしっかりと押さえつけられてる。
上体は机の上に乗せられた。
「あ…あぁ……」
なにをされるか、頭では理解していても心が受け付けてない。
(いや……こ、こんなのいやぁ!)
いくらそう思っても声に出ない。
「僕のほうは準備いいから。じゃあいくよ」
「あぅう!ぁう、ああっ!!」
いくら叫んでもそんな原始的な音しか出てこない。
どうにもならないという絶望が押しかかってくる。
私の、それほど濡れてない秘所に、そいつが後ろから無理矢理ねじ込んできた。
「――――ッ!」
激痛、激痛、激痛。
ただただ痛みだけがそこに拡がった。頭を振って、それで涙が飛び散った。
食いしばった歯からは空気が漏れていく音だけがしている。
(ゴメン、丹羽君…)
丹羽君の姿をしたそいつに貫かれ、丹羽君に申し訳なかった。
彼以外の男にやられている自分が、惨めで矮小に思えてたまらなかった。
(丹羽君、丹羽君丹羽君丹羽君にわくん……っ)
そんな中でも彼にすがりたかった。必死に丹羽君のことだけを考えた。
「ぁあうッ!!」
でもそいつの腰が動くだけで痛みが見舞われ、掻き集めた意識が無残に散っていく。
「あ、あう、あうぅ!」
突かれるたびに散った意識の細かい粒子が粉々に砕かれていく。
「ほら、だんだん濡れてきたんじゃないのか?」
(嘘っ、嘘よそんなの!)
声に出せない代わりに自分にそう言い聞かせる。
「聞こえねーか?ぐちょぐちょ響くこの音がよ」
「はぁッ…!」
息を呑んだ。確かにそいつが言うように私の耳にいやらしい水音が聞こえてきた。
「い、いやぁぁ…」
流れた涙も拭えずに、自分の不甲斐なさに腹が立って、そしてさらに涙を流した。
「この調子ならすぐ堕ちるな。梨紅がえろくて助かったぜ」
言われて私ははっとした。
(そ、そうよ…身体はこんなんなっちゃっても、心だけは……!)
私の心だけは絶対に堕ちない。それは丹羽君だけにしか向けないものだから。
「ん、うん、んん…」
口をきつく結び声が出ないようにした。こいつが悦ぶようなことはしないつもりだ。
「へぇ、やっぱり梨紅さんは強いや」
また、丹羽君の声。でも今は嫌悪感をむき出しにするよりも必死に堪えなきゃいけない。
「でもここは僕の世界なんだ。全て僕の思うがままなんだよ」
(わけ、わかんないわよ…)
ついつい頭の中でぼやいた。でも、こいつがどういうつもりだろうと、私は絶対屈しない。
「わかりやすく説明するとこういうことさ」
口調が戻ると同時に腰の動きが早くなった。また痛みが腹の下、股の辺りに拡がっていく。
「くぅッ……う、うぁあッ!」
急に今まで痛みが駆け巡っていた箇所が熱く、とけるようにどろどろになっていった。
「は、はぁぅッ!ひゃうぅ…!」
「おぅおぅ。いつもどおりの可愛い声で鳴いてんじゃないの」
言われるとおりだ。いつも丹羽君の前でしか出さないような声を、今出している。
下腹部に走っていた痛みが突然、丹羽君とつながった時と同じ快感に変わっていた。
「い、いやぁぁ…こんな、のぉ、だ…めぇ」
いつの間にか声が出るようになっている。
言えば言うほどそいつが悦んでしまうのは分かっている。
でも言わずにはいられない。言わないとすぐにでも理性が飛んでイきそうだったから。
私の中で擦れあうたび、多量の愛液がどろどろと分泌されている。
つながったところはさっきとは比べ物にならないほど大きな音を立てている。
「分かったか?ここじゃお前の感覚は俺の思うままだ」
得意げな解説がひどく遠い。
「はなっからこうしてもよかったんだけどな、女は自力でイかせたいじゃないか」
もうダメだ。私の心が折れてしまう。
「ったく。お前が強情だからこうなったんだぞ」
丹羽君の顔が、もう思い出せなくなりそうだ。
(どんな……顔だっけ…?…丹羽君、って、誰だっけ……)
下半身の肉が、疼いている。快楽を求めて――
「――――ッ!!」
機械仕掛けの玩具のように上体が跳ね起きた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……はぁ」
呼吸が乱れてる。汗もたくさんかいてる。
とんでもない夢を見ていた気がする。けど、ほんの数秒前のことがうまく思い出せない。
深呼吸をして気分を落ち着かせた。すると最後に思ったことだけが思い出せた。
(丹羽君って、誰?)
「ッ!!」
急に怖くなった。なんでそんなことを思ってしまったのか。
慌てて隣を見ると、そこにはすぅすぅと寝息を立てて眠っている丹羽君がいた。
私に背を向けて眠っている。顔が見えないことがとっても不安だ。
彼の顔が見えるように上体を乗り出した。
横顔が見えて、そっと手を伸ばした。触れて、体温が伝わって、実感した。
(ああ、丹羽君だ――)
とても安心できた。心の中のわだかまりが取れてすっきりしたような気分だ。
自然と笑みが漏れた。彼の側にいるだけでこんなに幸せを感じることができる。
離れたくないと願う私は無駄なく引き締まった彼の背中に身を寄せた。
裸で触れ合う。全身で彼のぬくもりを感じて、私はまた眠りに落ちた。
(っっああぁーー!いい夢見させてもらったぁ!)
大助の中で、ダークは一人大満足だった。
(たまには俺がいい思いしたってかまわねえだろ。それも夢ん中だしな)
ダークは梨紅の夢に進入し、性欲を発散していた。
(さってと、いいおかずになったし、脳内手淫でも始めるか!)
大助の中で、ダークはそんなことをしていたりした。