ある日の昼休み、校庭の片隅で梨紅を呼び止め、顔を赤らめながら話しかけた。
「あのー・・。今日、ウチで母さんがお菓子作ってるんだけど、良かったら食べに来ない?」
「えっ。ああ・・うん、いいわよ」
梨紅は突然の事にとまどいながらも、嬉しそうに答えた。
その日の学校からの帰り道、大助は梨紅と一緒に歩いていた。
ポツン・・ポツン
大助の頬に何か降ってきたのを感じ上を見ると、いつの間にか真っ黒な雨雲が空を
覆い始めていた。
「わっ、何時の間に。雨が降ってくるといけないから急ごう」
「うん」
そう言って2人が走りはじめたとたんに勢いよく雨が降ってきた。
突然降り始めた雨から逃げるように走った2人は、何とか大助のウチに着いたものの、すっかり
ずぶ濡れになってしまっていた。
「ただいまー、母さんタオル出してー」
玄関の鍵がしまっていたので大助はポケットの鍵で急いで開け、家に入りながら声を掛けた。
「梨紅ちゃん、ゴメンねチョット待ってて・・・ンッ」
玄関に入ってきた梨紅の方を向き謝ったが、そのまま固まってしまった。
雨に濡れたため、梨紅の身体に制服のシャツがピッタリ張り付いているうえ、下着が透けていた
のである。
大助の目は思わず梨紅の胸元に透ける可愛らしいブラに釘付けとなり、顔を真っ赤にしていた。
「・・・???・・・・・・キャッ。見ないで」
濡れた髪をまとめながら不思議そうに見ていた梨紅は、大助の目線の先の意味に気付き慌てて
胸元を手で隠した。
「ゴ・ゴメン、そんなつもりじゃ無かったんだ」
恥ずかしさで顔を赤く染めた梨紅ににらまれると、急いで顔を背け急いで謝った。そして、逃げる
ように廊下に上がるとタオルを取りにお風呂場に向かった。
お風呂場で大助は心臓のドキドキを抑えると温水器のスイッチを入れ、シャワーを使えるようにして
から、タオルを持って玄関に戻った。
「はい、タオル。まずそれでふいてて、直ぐ着替え準備するから」
「うん、ありがとう」
まだ少し怒っている風の梨紅と出来るだけ目をあわせないようにしながらタオルを渡すと母親を捜しに
居間に向かった。
「あれ、おかしいな。母さん何処にいるのー」
声をかけながら台所に向かうとテーブルにおいしそうなお菓子と置き手紙があった。
「うん?何々、急な用事が出来たのでおじいさんと出かけます、おやつと夕食の準備はしてあるので
留守番お願いね。夜には帰ります・・だってぇ〜」
しょうがなく自分の部屋にいき、梨紅の着替えになりそうな服を選ぶと、玄関に戻った。
「あのー、遅くなってゴメン。制服を乾かすから、これに着替えてよ。そのまま上がっていいから」
「うん。あの〜それで着替える場所を・・・」
「あっ、ゴメン。お風呂場がこっちにあるから、そこに乾燥機もあるから使ってよ」
「ありがとう・・・くしゅん」
「身体冷えちゃった?シャワーも使えるから風邪ひかないように暖まって」
「うん・・・くしゅん」
少し身体が冷えたみたいで、梨紅は時折くしゃみをした。
お風呂場に着くと梨紅に一通りの使い方を教え、着替えを渡してから扉を閉めた。
自分も部屋に戻って着替えようと思い、立ち去ろうとしたとき扉の向こうから声がした。
「大助君、着替えやお風呂覗いたら絶交だからね」
「・・・・はい」
そういったことを考えなかったと言えば嘘になるので、見透かされたような気持ちに顔を引きつらせながら
大助は答えた。
大助は部屋に戻ると濡れた服を着替え、部屋を見回して座る位置を確かめてクッション準備した。
そして、台所にお茶とお菓子を取りに行くため廊下を歩いていると、風呂場から水の音がしてきた。
「……………」
大助は無意識に音のする方を向くと廊下に立ち尽くした。
「……はっ」
飛んでいた意識が戻ると、いけない妄想で顔が真っ赤になっていた。
「梨紅さんがお風呂から上がる前にお茶の準備しないと」
自分に言い聞かせるようにして台所に入り、お茶の準備して部屋に戻った。
梨紅は風呂場の前から大助が離れたのを確認すると、脱衣所で制服を脱ぎ乾燥機に入れた。
ふたを閉める時、ブラまで濡れていることに気づき乾かすか悩んだが、着替えた服の胸の部分だけ
濡れている状態を想像すると乾燥機に入れてスイッチを入れた。
「丹羽君は変なことなんかしないから大丈夫よ」
自分を納得させるように独り言を言うと、全部脱いで浴室に入った。
シャワーを浴びて身体が暖まると、軽く髪と身体を洗った。そして何気なく鏡に映る自分を見ると、
先ほどの大助の視線を思い出し、自分の胸が気になった。
「……丹羽君、大きい方が好きなのかな……」
乳房にそっと手を添えると大助が自分の胸をどう思うか気になり色々考えた。
梨紅はクラスの中では発育のいい方だと思われるが、やはりまだ中2の為、やや未成熟な胸をしていた。
友達が彼氏に揉んでもらうと大きくなる話をしていたのを思い出し、大助に揉んでもらうことを想像して真っ赤になった。
「まだ、これから大きくなるからいいの」
自分に向かってそうつぶやくと、泡と一緒に恥ずかしい考えも全て流そう強くしたシャワーを頭から浴びた。
「ふう」
タオルで拭いて、脱衣所に行くと大助が準備してくれた着替の服を見た。服とズボンは
シンプルで動きやすいもので、自分の好みに合っていてうれしかった。
乾燥機はまだ動いていて、ブラはまだ乾いていなかったので、パンツだけそのままはき、
直接Tシャツを着て、その上に長袖のシャツを着こんだ。
そしてズボンはくと長さを合わせるため裾を折り曲げた。そのときウエストの部分がそれ
ほど余らないことに気づき愕然とした。
「丹羽君こんなに細いんだ、……ダイエットしよう」
梨紅は大助と自分のサイズがそれほど変わらないことに少し傷つき、なぜか悔しい気持ち
になっていた。
ズボンの事はショックであったが、大助をあまり待たせてもいけないと気持ちを切り替え、
髪を軽くセットしてから風呂場を出た。
「丹羽君どこにいるの」
風呂場から出た梨紅は大助のいる部屋が解らないため、声を掛けながら廊下を歩いていると、
ふと人の気配がしたので振り返った。
「丹羽君??」
「梨紅さん、こっちですよ」
反対から声がしたので振り向くと大助が廊下向こうの階段を降りてきた。
梨紅は気配のした方を見て首を傾げたが、すぐに大助の方に廊下を歩いていった。
一緒に2階にあがると、梨紅は大助の部屋に入った。
初めて見る大助の部屋に、梨紅はウキウキした笑顔で物珍しそうに見てまわった。
その後ろで大助は、風呂上がりの梨紅の少し濡れた髪や少し火照った顔にポ〜と見とれていた。
「ん?」
その視線を感じた梨紅が大助の方に振り返ると、焦った大助は、偶然に墓穴を掘る事となった。
「あっ、いや…その服のサイズどうでしたか。僕の服だからどうかなと思ったんですけど」
ピクッ
その言葉を聞いたとたん、今まで笑っていた梨紅が固まり、一気に気配が変わった。
見つめていたことがバレた恥ずかしさをごまかす為に、何気なく言った言葉だったが、それは梨紅が風呂場でズボンをはいたとき受けた心の傷にふれてしまった。
「えっ……僕、なにか変なこと言いました?」
梨紅の気配が突然変わり、部屋が一気に緊張した事を感じた大助は、心配そうに声を掛けた。
「……………」
大助は、黙り込んだ梨紅にそっと覗き込むようにして近づくと、キッとにらまれ後ろにのけぞった。
「ふん、今に見てなさい」
梨紅のこの言葉の意味がわからない大助は困惑しつつも、何か傷つけることを自分が言ったらしいと思い、
懸命に許しを請うた。
梨紅の機嫌を直そうと一生懸命な大助の姿は、まるで、捨てられた子犬のようで、必死にすがるような瞳に
思わずほだされてしまい。プッと笑うと、しょうがないわねという笑顔を見せた。
大助は何とか機嫌を直した梨紅にホッとすると、梨紅にクッションを勧め、お盆のお菓子を
テーブルにおいた。そして、お茶を入ようとしてお湯を準備していて忘れたのに気づいた。
「ちょっと台所に行ってポットとって来るから、先にお菓子食べていて」
「うん…あ、そうだ。梨紗にお菓子作りのレシピを聞いてくるよう頼まれていたの。大助君の
お母さんに教えてもらいたいんだけどいいかな?」
「えっ、あ…あの実は今留守にしてるんだ、急に用事が出来たとかで、おじいさんと一緒に
出ていて 夜にならないと帰らないんだ。レシピは今度学校で渡すよ」
台所に向かう大助の言葉に驚いた表情をしていたが、背を向けて部屋を出た大助は
気づかなかった。
「え……留守なの………」
梨紅はこの家に大助と二人きりだと急激に意識し始め、自分がいまブラをしていない事が、
とても恥ずかしく感じ始め顔が赤くなってきた。
「……どうしよう。……大助君だから大丈夫…だよね」
さっき自分を納得させるのに使った言葉も自信がなくなってきて不安になってきた。
そのころ台所の大助も、自分たちの状況に初めて気がついてドキドキしていた。
『おい、大助』
闇の中からダークの声が聞こえてきた。
何だよ、ダーク……今日は出てこない約束だぞ。
『オマエがグズグズしているからだよ』
今日はおとなしくしていてよ。
『なんだよ、せっかくのチャンスにモタモタするなよ』
なっ、チャンスなんて。そんなつもりは無いよ。
『焦れったいな、俺にチョット変われ。いいことさせてやるから』
わー駄目、絶対駄目。
『わかったよ。まっ…変身しないようにするんだな』
ダークが再び闇に消えると、大助は気持ちを落ち着かせて台所を出た。
廊下に出るとふと何か違和感を感じてキョロキョロ周りを見回したが、何か解らず首を傾げて
階段を上がっていった。
部屋に戻った大助が、少しぎこちなくお茶を入れると、もらって飲む梨紅も何となく頬がピンク
に染まり緊張しているように感じた。
お互いぎこちない感じだったが、少しずつ話すうちに緊張が解け、しばらくすると普段のように
話していた。
「あのときの写真を冴原がとっていたんだ、見せられた時は参ったよ」
「え〜本当、ねえチョットその写真、私にも見せて」
「うんいいよ。机の箱の中に入っているから」
写真を出すために立ち上がった大助をみて、梨紅も立ち上がり机の方に歩こうとしたらテーブル
に足を引っかけてバランスを崩した
「あぶない」
フローリングの床に倒れそうな梨紅を、大助はベットの方に引き寄せた。
ボフンという柔らかな感触に目を開けると二人は一緒にベットの端の方に重なるように倒れていた。
大助は自分の上に重なる梨紅の身体の心地よい感触と、いい匂いにこのまま抱いていたいと思っていた。
そして梨紅は、大助に抱きしめられたまま、ドキドキして赤くなったのを隠すよう、胸元に顔を押しつけていた。
ドキンドキン
梨紅の心臓の音が身体に響くように聞こえてきて、その音に共鳴するように大助の心臓の鼓動も高まっていった。
いけない、ダークに変わってしまう!
大助は、梨紅を抱きしめ幸せな気持ちだったが、一転、焦るどころでは無くなってしまった。
この状況で梨紅から離れて逃げ出せば、間違いなく確実に嫌われる。しかし、このままではダークに変身して
ばれてしまう。大助はいきなり究極の選択に追い込まれてしまった。
そのとき、階下から突然、天の助けのような声が聞こえてきた。
「大ちゃん〜、お客さんがいるの〜?」
がばっと二人とも跳ね起きると、梨紅は顔を真っ赤にしてベットから飛び降り、テーブルの向こうの
クッションに座った。
大助もホッとしながら、クッションに座ると心を落ち着け、何とかダークに変身せずにすんだ。
パタパタと階段を上る音が聞こえると、扉が開いて大助の母「笑子」が入ってきた。
「大ちゃんただいま〜、あら、こんにちは大助の母です〜」
にこやかな笑顔で挨拶する母を見て、大助はさっき台所の廊下で感じた違和感がなんだったのかが解った。
用事で出かけてなどおらず、二人のことをこっそり覗いていたのだ。
大助は、そのことに対する怒りと、今、助けてもらった事に対する感謝で複雑な表情をしていた。
「初めまして、原田梨紅といいます。おじゃましてます」
梨紅は、まだ赤い顔で挨拶をするとぺこりと頭を下げた。そうして、笑子とお菓子づくりの話しをして大いに盛り上がり、いろんなお菓子のレシピを教えてもらっていた。そして、夕方になると梨紗へのおみやげに、残りのお菓子を持って帰っていった。
梨紅は、帰り道を歩きながら大助に抱きしめられた時のことを思い出し、あのまま流されなくてよかった
という気持ちと、もうチョットだったのにとの想いが交差してしていた。
大助の家では、夕食時に父親の小助に笑子が大喜びで今日の報告をし、大助は梨紅とデートでキスしたり
するには、今日のような究極の選択が待っているという事実に打ちひしがれていた。