俺はアデルパパに雇われた戦士♂。名前は噛ませ犬。
「はあ……」
安い給金で猪突猛進バカの面倒を見る毎日に飽き飽きしていた俺は、深いため息を吐く。
不満というかストレスというか鬱憤というか。とにかく、溜まりに溜まったマイナスの感情を少しでも外に吐き出したかったのだが……効果は期待できないな。
はあ……何か、そう、せめて可愛い子のお尻に腰を叩きつける系のイベントでもあれば満足なのだが。
「あの…」
「ん?」
声を掛けられ後ろを振り向く。そこにいたのは……
「美少女……!」
「え?」
俺の呟きにクエスチョンマークを浮かべるのは、見知らぬ魔法使いだ。新人だろうか?
「いや、今のはなんでもない忘れてくれ。それより……もしかして新人?」
「あ、はい。えっと、わたし、セラフィーナと申します。噛ませ犬さんの弟子になるようにとアデルさんに言われて来ました」
「……弟子? 俺の?」
「はい。今日からお世話になります」
にっこりと微笑むセラフィーナ。
か、かわゆい……なんかこう、悪戯したくなる系の可愛さだ。時代はやっぱりロリだな!
「お、おう。こちらこそよろしく。わからないことがあったらなんでも聞いてくれ。手取り足取り腰取り教えてやるから」
「はい、ありがとうございます。……その、早速で申し訳ないのですが、弟子とは具体的に何をするものなのでしょう? わたし、こういう関係は初めてで……」
「……」
ヤバイ可愛すぎ。ムラムラしてきた。
い、悪戯しちゃおうかなあ……理屈をこねれば簡単に言い包められそうだし……
うん、悪戯しよう。
「噛ませ犬さん?」
「あ、うん。まあそれについては向こうで話すから。こっち来て」
俺はセラフィーナの手を引っ張り、人気のない林へと向かった。
「いいか? まず俺のことは師匠、または先生、それかお兄ちゃんと呼ぶように」
「はい、わかりました。――師匠」
ちぃっ! 本命はお兄ちゃんだったのに……! そう内心で舌打ちするも、すぐに思い直す。
今重要なのは「お兄ちゃん」という不思議ワードにこいつが無反応だってことだ。
ふっふっふ、これは相当無茶な要求も通せそうな予感がするぜ。
「それで、だ。さっきの質問、弟子がするべきことの答えだが……えー……………
師匠の信頼を得ることだ!」
「信頼、ですか?」
「そうだ! エクストラゲインは知ってるな? 弟子の能力を師匠が得るってアレだ!
おかしいと思わないか? 普通は弟子が師匠の能力を得るはずだろう!?」
「そ、そう言われると……そうですね」
「実はこれには秘密がある! 弟子は師匠に貢ぐことで信頼を得て、えーっと一子相伝? の超必殺技を覚えることになっているんだよ!」
「そ、そうだったのですか? それは凄いですね!」
俺のテンションに感化されたのか、興奮気味に瞳を輝かすセラフィーナ。
「その、超必殺技とはどのような――」
「ストップ! 言っただろう? 俺の信頼を得なければ、それを知ることは出来ない」
「あ……そ、そうですよね。会って一日も経っていないのに、わたし……」
恥ずかしげに顔を伏せるセラフィーナ。よし、ここだ!
「しょっ」
噛んだ。
「……そんなに超必殺技が気になるなら、師匠の信頼を得るとっておきの裏技を教えよう」
「本当ですか? ぜひお願いします!」
パッと明るい表情になり、頭を下げるセラフィーナ。
俺はゴクリと唾を飲み込み、力強く頷く。
さあ言うぞ。変態の烙印を押される可能性は無視して言うぞ。
「その方法とは…………ズバリ! 『スカートを捲り上げる』だ! わかったか!?」
「はいっ! ……はい?」
一度は元気よく縦に振られた首が、ゆっくりと横に傾いていく。
くそっ、流石に疑問を覚えたか! だが、俺はもう退けないんだ!
「これは恥ずかしいトコロを師匠に見せることで信頼関係を一気に深めることが出来る画期的な裏技だ!
別にスカートに限らず、恥ずかしいことなら割とOK! 具体的にはボディタッチとか、他にも――」
「わ、わかりました! わたし、やります!」
「水着の撮影会とか……え?」
「それで信頼してもらえるなら……す、スカートを……その……」
「……マジ?」
「はいっ」
ビバ天然!
前科者街道まっしぐらな俺の前方約1メートル地点。
「し、師匠……よろしいでしょうか?」
そこでセラフィーナは顔を真っ赤に染め、絞り出すように声を出す。
「おう! こっちの準備は万端だ、いつでも来い!」
「で、では……」
セラフィーナは震える手でスカートの端を掴み、ゆっくりと持ち上げていく。
おお……なんて愛らしい膝小僧なんだ。男のごつい膝とは大違いだぜ畜生!
そして次第にあらわになる太股……その先から現れるのは当然――
「はぁ……あの、師匠……や、やっぱり恥ずかしいです……」
「なにぃ!? ここまで来てやめるなんて先生許しませんよ!」
「あうぅ……」
羞恥に顔を赤く染め、緊張のせいか息も荒いセラフィーナ。その潤んだ瞳の破壊力は核爆弾1000発分に相当すると思われる。
正直この表情だけでご飯三杯はいけるのだが、ここで終わらせるわけにはいかない。
「セラフィーナ。――頑張れ!」
「既に頑張っていますけれど……うぅ」
俺の超簡単な激励が効いたのか、再びスカートが持ち上がっていく。
残り3センチ……2センチ……1センチ……!
そしてついに! スカートという神秘のベールに包まれていた禁断エリアが今、俺の目の前に――
ぱんつはいてない。
な、何を言ってるのかわからないと思うが、俺にも何がなんだかわからない……。
頭がどうにかなりそうだ……。
目の錯覚とか妄想の具現化とかじゃあ、断じてねえ。
もっと素晴らしいものの片鱗を味わってるぜ……!
無毛のそこには、まるで子供のような筋が一本走っているだけだ。グレイト!
しかも見られることで感じていたのか、僅かにキラキラと光る液体が漏れ出ているではないか。ミラクル!
「ん……あの、もう、下ろしても――」
やめろまだ早いもう少し目に焼き付けとかなくてはもったいないだろうってかあわよくばこのまま本番に突入だろう!
俺は全力で目を見開き、網膜にこの光景を焼き付けようとして、
「グフッ」
大量の鼻血を噴き出してぶっ倒れた。
「――え? し、師匠? どうしたのですか? 大丈夫ですか?」
赤に塗りつぶされた視界の中、慌てて駆け寄ってくるセラフィーナが目に入る。
ローアングル……最高!
薄れ行く意識の片隅でそんなことを思い、俺は気を失った。
アデル邸。
「――で? 結局あの子はなんでパンツはいてなかったの?」
「故郷の風習だと」
「ふうん……。それを聞いた時のあんたの反応、当ててみせようか」
「は? 予言者でもないくせに、何を――」
「『そこは天国か? ぜひ行ってみたいな!』」
「……」
「変態」
大きめの机を挟んで俺と向かい合うのは、戦士♀のロリエッタ。
俺と同期のヒーラーの弟子で、憎まれ口を叩き合える悪友だ。
聞くところによるとヒーラーと禁断の愛を育んでいるらしいのだが、俺がそのことを聞くと
「馬鹿じゃないの? そんなの事実無根、荒唐無稽な単なる噂よ! あたしが好きなのは……その……この鈍感! 馬鹿!」と逆切れされる。何故だ?
まあそんな話は置いといて。
昨日――
鼻血を出して気絶した俺は、すぐに魔界病院に運ばれた。
もちろん運んだのは非力なセラフィーナではない。その時たまたま近くを通りかかった、このロリエッタだ。
セラフィーナから俺の行いを聞いたこいつは、意識を取り戻した俺に容赦なく魔砲流星群をぶちかましてきた。
「警察沙汰にはしないであげるから感謝しなさいよ」などと無い胸を張っていたが、当事者でないこいつにそんなことを決める権利があるのか甚だ疑問だ。
まあ、セラフィーナは俺に騙されたことに全く気付いていないようだったし、この件はこれにて一件落着ということに無理矢理しよう。
「はあ……可愛い子のお尻に腰を叩きつける系のイベントはいつ起こるのやら」
「血の気の多い童貞野郎になびく女なんていないわよ」
「……」
完。