悪魔だけあって、前科はそのまま勲章へと変わる。  
人間の世界じゃ不名誉なことでも、悪魔にとってはそれは名誉だ。  
そうしてどんどんと前科を重ねた悪魔ほど、尊敬され、同時に畏怖の対象ともなる。  
だからこそ、俺たち「咎人」は異端だった。  
悪魔の中で、さらに「罪人」と認定されたものたち━━  
 
 
 
俺はいつから、どうしてここにいるんだろうか。  
「咎人」を収容する刑務所だった。  
霊素《ジオ》との交流を絶つ「沈黙」のジオエフェクトで、外界と遮断された部屋の天井を仰ぐ。  
天使や悪魔なら見えただろう。魔導の心得が多少あるならば人間にも見えるはずだ。  
憎たらしい、この「沈黙」の霊素の奔流が。  
俺たち「咎人」には、それすら許されない。  
ただの、黄ばんだ壁でしかない。  
 
俺たちの「罪の償い方」は、あのペンギン共と似ている。  
ぶっちゃけ肉体労働だ。  
……今日通達があった。俺の所属する「咎人A−8班」は、一時的に釈放され、その代わりそれぞれの雇い主に協力しろ、と。  
俺の行き先はヴェルダイムという世界だった。  
雇い主は人間らしい。  
ヴェルダイム━━どこか懐かしい響きだ。  
俺はいつか、行った事があったのだろうか。  
 
 
 
今日、あたし達のパーティに新しい仲間が加わった。「咎人」のレダって言うらしい。  
人選は師匠。  
因みにパーティの内訳は、盗賊出身のあたし。悪魔にあるまじき僧侶のフラウ。女戦士のまるさん(本名は教えてくれないのだ。だから師匠が名前をつけたけど、正直ネーミングセンスを疑う)それからプチオークのオス、ロウくん。  
 
 
 
「はじめまして」  
爽やかに、リーダーらしき男が挨拶した。俺は適当に「ああ」と返す。  
どうせすぐに別れる。意味はない。  
そうして俺は密かにメンバーを観察した。  
女戦士、プチオーク、僧侶━━盗賊。  
そのうち、盗賊とだけは目があった。  
流石、なかなかに鋭い。  
 
 
予想通り「咎人」さんは素っ気ない。  
あたしも師匠に倣って「ジニーだよ、よろしく」って挨拶してみたけど、名前だけ言って終わり。つまんない。  
……でも、一度だけ目が合った。  
とてもとても疲れ切った瞳に、あたしは少しの違和感と懐かしさを見つけた。  
 
 
…こいつらと旅を続けて1ヶ月になる。  
前のパーティでは「俺の距離感」を汲み取れない奴らばかりだったが、今回は違う。居心地がいい。  
何も考えずに、こうしてモンスターと戦う日々。楽だ。これ以上、俺が求めるものはない。  
しかし盗賊……ジニーと言ったか。  
あいつはそれをことごとく無視する。  
そして今夜も俺に絡んできた。  
 
 
レダは時々不安定だ。何も喋らない割に、目はじっとしていない。  
あっち見たりこっち見たり。戦闘中も上の空。  
……今日も野宿だった。眠れなくて外に出ると、レダが一人でいた。  
みぃんな寝てる。夜空は、満月。  
「やっほー」  
じろり。おしまい。  
 
 
そんなジニーに、俺はひとにらみする。しかし彼女はめげなかった。  
「ねぇ、「咎人」なのはなんで?」  
「忘れた」  
正直に答える。  
変化の無い世界の中で、記憶はもう風化してしまった。  
「……なにそれ」  
呆れたような拍子抜けしたような調子で言い、ジニーは近くの岩に飛び乗った。  
 
 
「シシっ」  
頬を撫でる風の感触に、自然と声が漏れた。  
両手を広げ、くるくる回る。気持ちいい。  
「じゃあ、いつ戻るの?」  
「あと一週間だ」  
少し残酷な質問だったかもしれない。  
……あたしは目を閉じた。こうすると、感覚が新鮮になる。  
微風に身体を任せると、まるで空を飛ぶように━━世界から転落した。  
「ありゃっ?」  
あたしは足を踏み外し━━  
 
 
とっさに手が出る。ジニーから伸ばされた右手をしっかり掴み、引き寄せる。  
勢い余って俺に激突、そのまま胸の中に収まった。  
「大丈夫か?」  
訊くと同時に、柔らかな香りが俺の鼻をくすぐる。自由な彼女は、思ったより華奢で、何よりとても……温かい。  
 
何百年も忘れていた衝動が、俺の中で頭をもたげる。  
「ジニー……」  
 
 
(あひゃ〜っ!)  
何だかとても恥ずかしい事になってる。  
今どき有り得ない、漫画的展開。  
あたしはレダの胸にしがみついたまま、身動き出来なかった。  
口も開けない。頭全体が焼けるように熱い。  
それが向こうに伝わっているかと思うと、殊更に熱くなる。  
 
突然。  
あたしは抱き締められた。  
「ひゃあっ!?」  
変な声をあげた事もどうでもいいくらい、鼓動が早くなった。  
 
 
「あぅ……」  
唇と唇が触れ合う。  
誰かの温もりを感じたい。俺は、そんな感情で一杯だった。  
それをエゴだと理解していながら。  
視界に広がるジニーの顔は、真っ赤だった。  
動揺からか、見開かれたその目と俺の目が合う。  
深い青。  
 
「は……ぁっ」  
ジニーの顔が離れる。息すら忘れていたらしく、息が荒い。  
「はぁはぁ……」  
少し、気まずい沈黙が降りる。  
先程まであった俺の黒い衝動も、収まりかけてきたその時  
「あたし……あまりこーゆーの、慣れてないんだから」  
「優しくしてよ……?」  
 
陳腐だって、笑われるかもしれない。  
でも、一番最初、レダと目があったその瞬間に。  
(「そうなってた」んだ……)  
無愛想だった彼が、今あたしにはとても愛おしく見える。  
ずっとずっと、誰かに触れたくてしょうがなかった……迷子みたいに。  
レダが触れる。それだけでとても幸せな気持ちになる。  
「あっ……!」  
ザラザラした何かが、あたしの……その、秘所に触れる。  
「ま、待って……あぁうっ」  
舌の感触が蠢いてる。身体の芯がうずうずして、どうしようもない。  
頭の中がまっしろ。気持ちよさといっしょに、腰が浮き上がりそうになるのを、あたしは必死でこらえた。  
なんだか少し怖くて、でもこのまま任せていたい。  
反発した感情がせめぎ合ってる。  
 
侵入したい。  
シグナルが俺を貫いた。  
 
彼女に触れていたい。  
彼女を犯したい。  
ぬるい感情と、黒い衝動が、点滅するように入れ替わる。  
「いいよ……あたしは……遠慮しなくていいから……」  
見計らったように、声が降ってきた。  
俺はハッとして顔をあげる。  
また、目が合った。  
青色の瞳は真っ直ぐ、無邪気なまま俺を見つめている。  
 
……俺はもうはちきれそうなソレで━━━彼女の中へと入っていった。  
 
「あっ……はぁ……ダメっ……だよ……」  
レダのが……動いてる。あたしの中で。  
摩擦される度に、気持ちよさが膨れ上がっていった。  
水の跳ねるような音。肉の打ちつける感触。  
あたしの上で、あたしの中で。  
「ぁん……やぁっ」  
声が漏れた。  
(あたし……すごい……いやらし……)  
それを認識した途端、何かが決壊したような気がした。  
「あぁ、ふぅっ」  
「ぅう……ひぃ」  
「ふぁぁああ……っ!!」  
あたしは、何度も何度も声をあげていた。  
 
ジニーの秘所は、俺のモノを波打つように締め上げていく。  
段々と熱を帯び、今にも放出してしまいそうだった。  
それに耐え、律動を繰り返す。余りの快感に、我を忘れそうだった。  
「う……ぐぅ…」  
限界が近い。  
上り詰める快感は、俺の全身を駆け巡り━━ジニーの中へ放出された。  
 
 
「服」  
不意に、隣に座っていたジニーが言った。  
「汚れちゃった」  
「……すまない」  
正直に応えた。  
踏み荒らされたような草の跡は、そこで行われた「行為」の激しさを物語っている。  
「みんなに言い訳出来ないよ、これ」  
立ち上がり、彼女は呟いた。  
そこに、ちょうどジニーの好きな風が吹いた。  
猫の耳をかたどった帽子は少し形が崩れ、月光に透けた金色の髪が、さらさらと流れる。  
 
……火照った身体を、風が撫でた。あたしは目を閉じ、両手を広げる。  
瞼の暗闇を、あたしは飛んでいた。  
今、とても、自由。  
「ねぇ」  
あたしは振り返り、レダに話しかける。  
今度は睨みつけられない。大丈夫。  
「また、旅しよーね」  
「………ああ」  
しばらくの間を置いて  
「そうだな」  
笑った。  
 
━━シシシっ  
 

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