「ふっ…うん…はぁ…ぅうん…」
月夜の山中。
静かな山に女性の甘い吐息が微かに響いていた。
鞘の先端を淫核に擦り付け、蕩けた表情を浮かべる幼い少女。
「いい…いいでゴザルよ… もっと…もっと…うぁっ…」
だらしなく着崩した衣服、淫らな喘ぎ声はいつもの気丈な彼女からは想像もできない。
だが。 外見からは想像だにできないことではあるが、雪丸も二十歳の女性なのである。
「詐欺だ」「金返せ」「でも毛はまだ生えてないよね?」等のペタンコ好きの罵倒もなんの意味も無い。
彼女もいい年。 火照った肢体と性欲を持て余して自慰行為に浸るのになんの不思議もない。
アデルとロザリーが若さにまかせて毎日ヤり狂っているのだからなおさらだ。
居候しているアデルの家では流石に遠慮して修行と偽ってまで山に篭ってやっているのだから、礼節の元の行為と言っても過言ではない。
「んっ…んっんっんっんっ…ふあっ…ふああああっ…」
鞘を動かす手の動きも早くなる。
ちかちかと閃光の走る脳の中で、一人の男が微笑んでいた。
「アデル殿… アデル殿っ… あ、あ、あでるどのぉぅ…ふわっ…!」
アデルとロザリーが愛し合っていることはわかっている。
それでも、雪丸には兄者以外で始めて出会った、心の底から敬愛できる男性である。
いけないこととはわかっている。 けれど、その背徳感が一層雪丸を高めていく。
「…あでるどのっ… いくっ… いくいく… あでるどののもので…いくっ…!」
背を逸らし、今まさにイこうとする雪丸。
それを止めたのは、雪丸を呼ぶ声であった。
聞きなれた、茫洋とした声が山中に響いた。
「雪丸ーっ、ねー、雪丸ーーっ いないのー?」
「…た、タロー殿っ!?」
夜の山道は心細い。
不安げにあたりを見回すタローの前に、急いで姿を現す雪丸。
「ど、どうしたのでゴザルか、タロー殿…」
「あー、雪丸ーっ。 修行中ごめんねー。 ちょっとお願いがあってー…」
と、最後まで続けられずにタローが固まる。
無理も無い。
一番良いところで思いがけない声を聞いた雪丸は、あせりすぎて着衣の乱れも適当にしか直さずに推参してしまったのだ。
肩ははだけ、ろくに巻けてもいないサラシの隙間に覗く桃色の蕾。
サラシで隠れた部分も汗でべっとりと密着し、小ぶりな胸の形をありありと浮かびあがらせていた。
片側がずり下がった袴、その脇側から覗ける光景もいつもの太股だけではない。
無論下着は履かない派である雪丸の、毛一本無い秘所がほんのわずかに見えるのだった。
自分の格好に雪丸は気付かない。
直前でおあずけを食らった身体をもてあまし、荒いだままの息をどうにか抑えようと必死なのだ。
「ゆ、ゆ、ゆ、雪丸…!?」
顔を真っ赤にし、今にも鼻血を出しそうな勢いでタローがうろたえる。
その反応にやっと自分の姿に気づいた雪丸。
「――――っ!」
羞恥心が脳を直撃する。 真っ赤になって両手で胸を庇う。
脈が早鐘のように響く。
「あ、あの…こ、これは…ち、ちと修行が激しくて…こ、このような見苦しい格好に…っ!」
「そ、そっか… た、大変だねニンジャも…」
ありえない言い訳ではあるが、年端のいかぬタローはあっさりと信じる。
いやらしいこと考えて申し訳ない、そう書いてある顔に、雪丸の羞恥心はどこまでもくすぐられる。
申し訳ないのは拙者だ、と。 はしたないのは拙者のほうだ、と。
恥じ入るごとに湿度を増す自分の秘所に、雪丸は気付かない。
「そ、それで何の用でゴザルか…?」
「あ、そうだ、ご、ごめんね …えっとおねがいってのはね…」
言いにくそうに口を濁すタロー。
そんな姿が雪丸には可愛く見えて仕方が無い。
火の付いた身体が、少年とはいえ、男性を求める。
だが、しかし。 雪丸は頭の中でかぶりをふる。
「(タロー殿はまだ年端もいかぬ少年…っ! そのような邪念を抱いてはならぬのだ…!!)」
そう自らを律しようとする雪丸。
だがそんな思いも次の言葉で吹き飛ぶ。
「姫様と兄ちゃんがさ… 最近夜にその… いっぱいしてるよね…」
「…っ!?」
まさに第二次性兆期。 恐るべし破壊力を持ったタローの一言に雪丸は言葉を失う。
雪丸の脳内を、盗み見した全裸のアデルとロザリーが占める。
腰に妙な熱が篭る。 腰が砕けて座り込みそうだ。
「ぼくも…男の子だから…そういうこと興味があって…」
「そ、そそそそうでゴザルな、そうでゴザルよな! タロー殿も男の子、当然でゴザルよな!」
淫らな妄想が頭を駆け巡るも、刃の下に心の精神で必死に耐える。最後の理性を振り絞る。
「(たたたたタロー殿は純粋な好奇心からして問うてるわけで拙者は拙者は年長者として含蓄ある答えをば…っ!?)」
だが、瓦解寸前の雪丸の自制心は必要以上の打撃をもって破壊される。
「でも姫様は… 兄ちゃんの…だから…ぼく諦めるしかなくて… だから、雪丸にお願いしよーって思って…」
ぼむ。
一撃死。
雪丸の脳と理性がプリニーのように爆ぜた。
月夜のアデル宅。
その屋根の上で一人体育すわりで月を見上げる雪丸がいた。
「…なにやってるんだ雪丸?」
見下ろせば、玄関口にアデルの姿。
力なく微笑みかける雪丸。
「…少々…たそがれていたでゴザルよ…」
「ど、どうした? なにかあったのか?」
心配そうに声を懸けるアデル。
その優しさに癒されながら、雪丸は月を背負った山を見る。
タローと兄がいるはずの山を。
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「ああああっ! ひめさまぁっ! いい! ケツマンコいい!」
「…私も良いぞ… 素晴らしい名器だぞタロー殿…」
「ひめさまぁ! もっと! もっと そう…そのまま飲みこませてぇぇぇ! 姫様のエクスカリバーぁぁぁぁっ!」
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あのときタローは言った。
姫様は兄ちゃんのものだから、だから雪丸にお願いがあるんだ、と。
「姫様に変化した兄者に後ろから掘るように頼んで…でゴザルか…」
「ん、なんか言ったか雪丸?」
「…なんでもないでゴザルよ」
笑顔で返す雪丸。
その笑顔は、童顔の彼女には似合わない、だがしかし年齢相応の疲れた笑顔であった。
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月夜の山にタローの牛乳が降り注ぐ。
それはまるで雪のように優しく、繋がったままの二人に降り注いでいった。
<完>