「…っ」  
 苦痛に歪むロザリーの顔に、アデルは動きを止める。  
「…痛いか? 一度止めるか?」  
「だ、大丈夫じゃ…! いいから、続けろ… …ッ!」  
 歯を食いしばり、眉を潜めながら大丈夫もあったものではない。  
 諦めようと腰を引きかけるアデル。 だがロザリーがそれを止めた。  
 首にしがみつき、離れまいと引きとどめる。  
「いいから… このまま…」  
「馬鹿、無理するな」  
 制止の言葉も聞きはしない。  
 目端に涙を浮かべながら腰をゆっくりゆっくりと近づける。  
「…置いて…行かれるのは…もう御免じゃ…」  
 ぽつりとロザリーが呟く。  
 痛みの中、もう自分が何を口走っているのかもわかっていないのだろう。  
 ただ、脳裏に浮かんだ言葉を口にしているだけ。  
「余を、もう一人ぼっちにしないでくれ…」  
 それが、彼女の本当の思い。  
 
 ただ一人の屋敷。  
 ただ一人の部屋。  
 ただ一人の世界。  
 
 唯一の救いであった、いや、救いであると思っていた父親すら虚構の中に消えた。  
 光の見えぬ暗闇にただ一人座り込む少女。  
 ただひとりの寒さに身を震わせる少女。   
 そんな少女が出会い、共に歩んできた炎こそアデルなのである。  
 その炎こそ光だった。  
 その炎こそがぬくもりだった。  
 少女が抱える闇、自らで封印した闇すらも包み込むほどのぬくもりをもった炎。  
 
 アデルがそのことを自覚しているのかはわからない。  
 だが、その言葉に彼は覚悟を決めた。  
 彼女への愛しさに、最後まで遣り通す決意を固めたのである。  
「…わかった。 ちょっとだけガマンしてろよロザリー」  
「あ、ああ… 余に恥をかかすでないぞ…?」  
 と、腰を突き入れようとした寸前、ロザリーが悲鳴のように叫んだ。   
「ち、ちょっと待てアデルっ…」  
「ど、どうした? …今更もう止まらないぞ」  
 もうアデルの中の導火線には火が付いている。  
 いくらなんでもここまでの覚悟を決めてからのおあずけは男として無理だ。  
 そんなアデルを恨みがましく見上げ、ロザリー曰く。  
「…さっきよりちょっと大きい気がするぞ」  
 屹立したアデルのソレは、覚悟の量に比例して硬さと大きさを増していたのであった。  
「…あ、あれだ。 …愛の大きさが増したんだよ!」  
「…阿呆か」  
 口下手なアデルの言葉を聞いて。  
 辛らつな言葉とは裏腹の笑顔に、目端に浮かぶ涙が一筋流れた。  
 
「入った…のぅ…」  
 荒い息を抑えつつ、信じられないといった様子でロザリーが呟く。  
 アデルの背中に痛々しい爪痕を残しながらもどうにかここまで導けた。  
 腰の異物感と温もりがロザリーにはむしろ誇らしい。  
「入った…な」  
 感慨深くアデルも呟く。  
 苦労もあった分、愛おしさが増してくる。  
 
 しばしの沈黙。  
 どちらからともなく互いに目が合う。  
 と、脊髄に微弱な電流が走ったようなむずかゆさが二人を襲う。  
 顔が紅潮する。 鼓動がやけに早い。 身体の熱が高まっていく。  
「…動くぞ?」  
 沈黙に絶えられずアデルが申し出た。  
「…ち、ちょっと待て!? おぬしは余を殺す気か!?」  
 入れるだけであれだけの騒ぎだ。 動くなど想像だにしたくはないだろう。  
 焦るロザリーに、しかしアデルは引かなかった。  
「やめるのか?」  
「…う」  
 真剣な顔で問いかけるアデルにロザリーは返す言葉がない。  
 だが、どう考えても無理だ。  
「…悪いが、俺は止める気がない。 最後までやる、そう誓ったからな」  
 真っ直ぐな目でロザリーを見据えるアデル。  
 一度決めたことをアデルが翻すはずもない。  
 そのことをロザリーはよく知っていた。  
 そんなアデルの決心に、ロザリーの心は痛みへの恐怖よりも安らぎで満ちる。  
 受け入れようと決めた。 アデルと共にならやり通せると信じた。  
 だから、肯定の意思を告げる。 切実なる願いをそっと篭めて、願う。  
「優しく…じゃぞ?」  
 自らの中のモノの体積が増して、ロザリーは逆効果であったことに気付くのだった。  
 
 肉の打ち合う音と、水の跳ねる音、荒い息の音が響く。  
 初めての痛みにロザリーが耐えていられるのもローゼンクイーン商会特性のローションのお陰なのであろうか。  
 アデルは少しづつ少しづつ、腰の速度を速めていく。  
 摩擦の快感に流されそうになる心を抑え、ロザリーの身体を気遣う。  
 それでも身体を合わせているという興奮が、少しづつ精神をケダモノへと近づける。  
 ロザリーの息にすこしだけ甘いものが交じる。  
 それは肉の快楽ではなく、愛しい人と一つになっているという陶酔である。  
 だが、偽りもそこではまた真実。 胸の高鳴りがアデルの腰の動きと同期をとって高まっていく。  
「…う」  
 アデルが呻く。 限界が近い。  
 ロザリーがアデルの手を取り、指と指を絡める。  
「いっしょに…」  
 初めての肉体は達することはできなくても、心だけは一緒に。  
 頷き、腰を引こうとするアデル。  
 だがロザリーはその手をきつく握り締めて拒絶する。  
「…お、おい」  
 意図がつかめず狼狽するアデルにロザリーは微笑むと言った。  
「中に…出せ…」  
 予想しない一言に驚き固まるアデル。 ロザリーは続ける。   
「お前を… アデルを… 胎内(なか)で… 一番傍で感じていたい…」  
 アデルは口をパクパクと開閉し、何か反論しようとしたが。  
 真剣なロザリーの目に返す言葉もなく。  
 ただ答えとして真剣な眼差しを返すしかなかった。   
 覚悟など、とうの昔に決めていたのだから。  
 
 腰の動きが早くなる。  
「う… あ… あ、アデル!?」  
 予想を超えた速度と、これまでで一番大きく硬くなったアデルのそれにロザリーは驚く。  
 驚くだけならともかく  
 耐え難い痛みが襲う。 同時に脊髄に響くような甘い痺れもある。  
 暖かい。痛い。愛しい。痛い。   
 唇をかみ締め耐えるロザリーに、アデルは出来る限り優しく声を懸ける。  
「安心しろ… 大丈夫だ…」  
 激情に身を焼かれながら、それでも優しく優しく。  
 誓うように囁いた。  
「俺はいつだってお前の傍にいるから…」  
   
   
 アデルがロザリーの中で達する。  
 ロザリーがアデルと共に達する。  
 放たれた精の温もりに、その幸せに気を失いそうになるロザリー。  
 だが、今宵はまだ始まったばかり。  
 その幸せは一晩中尽きることはない。  
 一晩中どころか、ずっとずっと、いつまでも。  
 少女は暖かな炎とともに在るだろう…  
 
 
 後日。  
「兄ちゃーん」  
「お、どうしたハナコ?」  
「えーっとねー、兄ちゃんとロザリンに新しい罪状来てたよー」  
「む、おかしいな? パラメータも他のもまだ足りないはずなんだが…」  
 身に覚えのない罪状に眉を潜めるアデル。  
 無邪気にハナコは罪状を読み上げる。  
「『超ヤりすぎの罪』だってー。 なんだろーねこれー」  
 
 
---+++---  
 
 
「おや? ハナコ、アデルはどこにいったか知らんか?」  
「んー、なんだかわかんないけど『出歯亀野郎を焼いてくる』ってアイテム界潜りにいったよー」  
   
 その言葉にロザリーはため息をつく。   
 なにがあったかは知らないが昨日の今日でもうこれか、と  
 思い立ったら即行動。  
 その直情さには呆れ果てるばかりである。  
 だが、そこがアデルの好ましいところなのではあるが。  
 
「…ふぅ、相変わらずの戦闘マニアよな」  
「んー、おいてけぼりにされてさみしーのロザリン?」  
 
 瞬時に、ロザリーの顔が赤に染まる。  
 動揺も、必死の言い訳も、ハナコにはこうとしか思えないのであった。  
 ロザリンかーわいい♪     
 
 
 

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