「其はうたかたの幻」
(エトナ純愛)
今までの粗筋
【ここは、宇宙最強の魔王(だった)ゼタの魔界(今はショボい)。
ゼタ(の下僕)に負けた、あたし達3人は、目的の超魔王バールが現れるまで、この青空広場を根城にすることにしたのだが…。】
「はい!そこで友情パワーです!」
フロンちゃんは、ここでも愛と正義と特撮を説き、数人の熱狂ファンに囲まれている。
殿下は殿下で、魔王の面々に刺激され、更なる戦闘力向上とばかりにフリダンに明け暮れる日々。
愛を説き、情を厭い、力を盲信し、陰謀が渦巻く。
どこの魔界も同じ…そう思っていた時だ。
「我が肉体の中身は、誰なのだ!!?」
魔王ゼタ(BOOKタイプ)が、声を張り上げた。
答える者はいない。あたしも、見物しているだけ。
この前、願いごと『宇宙最強の魔王と戦いたい』で、ようやく取り戻した肉体。
それが、意志を持ち、行動しているのが気に食わぬらしい。さっき体にコンファイン<憑依>を試み…弾かれ、地面に激突した痛みも、怒りに拍車を掛けてるんだろうな。
「全知全能の書から抜けもしないで、戻れるわけないじゃない」
プラムが呆れた口調で、ゼタをいさめる。
「だが!」
ミッキーが、なだめに入った。
「でも、このほうがいいんじゃない?ゼタ。寝たきりだと、世話が大変だよ?」
「そぅよぉ。食べさせて、体洗ってあげて、おむつ替えなくちゃならないものね」
オルフェリアが、現実的過ぎて恐いことを言う。
悲鳴をあげ、青ざめるゼタ。
あ、ダメじゃんサロメ。小さくたってガッツポーズ決めちゃ。…ほーら、怒られた。
それはさておき…あたし達は、人間体ゼタを見た。
彼は、淡々と生活し、黙々と訓練し、営々と戦闘をこなしている。
何一つ語らずに。
「分身達ならともかく、人間体はホンモノでしょ。喋ろうとしないのは…何故かしら?」
プラムが、実にマズイほうに話を向ける。
人間体ゼタはというと、会話が聞こえてないらしく、剣の手入れに余念がない。
「おいトレニア、お前知らないか?」
ゼタは蝶を追う少女に、声をかけた。
願いの可否を判断する重要な役柄を持つ人格なのに、著しくトボケ…いや、不思議な心理構造をしている女の子だ。
超魔王バールを言い当てた彼女のこと…質問されれば答えてしまうだろう。
「いまの中身はねー」
「トレニアちゃーん、たいやき食べない?」
あたしは、とっておきのオヤツを差し出した。
「わぁ、ありがと。食べるー」
「我の問いに答えんか!」
無視されて、ゼタが怒鳴る。
「えーと、中に入っているのはね、ま…」
「トレニアちゃん、ドリンクもあるよ。飲みかけだけど」
「わーい、いただきまーす」
「こら小娘!邪魔をするな!」
ゼタは話を戻そうとするが、させるわけにはいかない。
「ま、いいじゃないですか。魔界が復活すれば、元に戻るんでしょ?細かい事気にしちゃ、器が小さいと、お弟子さんに笑われちゃいますよー?」
「だ、誰の器が小さいか!!って、何故サロメを出す必要がある!?」
おぉ、もう誤魔化されてる。つくづく単純な奴だねぇ。
それに比べて…あたしは人間体ゼタの様子を、そっと伺った。
うん、ホッとしている顔だ。──やっぱりね。
半日後。すっかり夜も更け、この魔界の住人すら、大半が眠りについた頃。
あたしは一人、廃墟となっている青空広場の右上の隅へ足を運ぶ。
そこは人間体ゼタが寝ぐらにしてる付近で…崩れ易く危険なことと、本人でないとはいえ、その容姿が恐いという理由で彼だけが暮らしていた。
月明かりの下、石柱に身を預けていた人間体ゼタが、訝しげにこちらを見る。
あたしは、まっすぐ彼の方へ歩み寄った。
あと3mと迫った時、その唇から問いが紡ぎ出された。
「……何か用か」
「はい。お聞きしたいことがあって、参りました」
「…申してみよ」
緊張が走る。しかし、あたしは臆することなく、言った。
「は、有難うございます。魔王さま…クリチェフスコイさま」
人間体ゼタは表情一つ変えなかった。
しかしあたしは、こんな異様な返答に顔色を動かさぬ事こそが、確証に思えた。
「仮にも最強を名乗る魔王ゼタ…それは肉体だけでも、あらゆるものを超越した存在です」
あたしは努めて冷静に、理論を展開する。
「並の者が憑依を試みても魂滅するだけです。が、制する精神無く、肉体だけを放置すれば…やがて暴走し、近辺の魔界を消滅させてしまうでしょう。この肉体を押さえ、御する力を持ち、かつ自分の体を持たぬ者…それは、あなたしかおられません、クリチェフスコイ王」
黙して聞いていた人間体ゼタは、静かに一言だけ告げた。
「――残念だが、我は違う」
否定は覚悟の上のはずなのに、やっぱりとても辛かった。
でも…時間は、まだまだある。
「わかりました。もう、ここには来ません…」
あれから毎日通い続け、20日が過ぎた。
結局、あたしは返事を変えることは出来なかった。
「そうか」
でも、違う手段は思い付いていた。
「はい。明日からは、殿下が同じ質問をしに来ます」
…ビンゴ!!人間体ゼタは、明らかに表情を引きつらせた。
「明後日は、堕天使も来ます」
「……」
「次回は、トレニアちゃん止めません」
人間体のゼタが、無言でこちらを見据えている。
あたしは、平気な顔を装ってるけど、実際は足の感覚を失うほど恐怖していた。
確信はある。けれど…これは、脅迫以外の何物でもないのだから。
どのくらい時間が経過した頃か。
「…やれやれ」
さっきと比べ、格段に柔らかな声がした。
「女性は、怖いですねぇ」
──!…やっぱり魔王さま…魔王さまだ!
「そうですよ、女は怖いんです…エトナを…誤魔化そうなんて……っ…」
気付くと、あたしは声をあげて泣いていた。
「ごめんなさい、魔王さま。あたし、約束…」
「いいんですよ、エトナ。あれは仕方ないことでした」
「殿下をお守りするって、約束したのに…」
「あなたが腹心となり、よく補佐してくれたから、ラハールは超魔王バールを退けるほどになった。彼はもう、立派な魔界の王です」
「魔王さま…っ」
涙が邪魔をして、上手く喋る事が出来ない。
この方にもっと沢山感謝を、嬉しさを、想いを、忠誠を伝えたいのに…。
「もう一つ、申し上げたい事があります」
震える呼気を整えて、やっと言葉を口にする。
「お礼をさせて下さい…。結局あたしは、魔王さまの為に何も出来ませんでした」
魔王さまは小さく手をかざして、提案を遮ろうとする。けれど。
「お願いです、あたしにお礼をさせて下さい。それがエトナのささやかな望みです」
「その必要は無いですよ。十分ラハールに…」
「殿下にじゃありません。魔王さまに、です。駄目ですか?殿下でさえ、礼をすると言う者に許しを与えました。魔王さまは…それすらも許して下さいませんか?」
困った顔をされたけれど、あたしは瞳を逸らさない。
決意の強さが伝わったのか、気が進まぬながらも了承下さった。
「わかりました。しかし、どのような礼をするのですか」
あたしは、手を自分の胸に当て、目を伏した。
「あたしの…あたしの身体を使って、魔王さまに興を愉しんで戴きたいのです」
「そ、それは出来ません」
「誠実の点なら、問題無いはずです。すでに王妃さまは去られ、肉体も別のもの。何の障害にも」
「いけません、この体は魔王ゼタのものです。そんな不埒な真似など…。ましてや、あなたと関係させるわけにはいかない。エトナ、あなたはいつか出会う…」
あたしは頭を左右に振った。何度も、何度も。
「そんな残酷なこと仰らないで…礼がお嫌でしたら、償いをさせて下さい」
異なる姿─中ボスとして─とはいえ、目の前に居られたのに、魔王さまと気付けなかった腑甲斐なさ。
嘲笑し、罵詈雑言浴びせた事、知らなかったと言って済まされるものじゃない…。
「ごめんなさい、魔王さま」
そう、これが正しい償い方では無いことも、判っている。
「でもあたし、他に方法を知らないんです…」
あたしは、魔王さまの手を取り口づけをし…腕を絡め、抱き締めた。
魔界の支配者である王に、一魔族に過ぎないあたしがこのように触れるなんて、許されることじゃない。
しかし、魔王さまは阻むでもなく、見守っておられる…。
あたしは毎日、決死の覚悟でここへ来ていた。
やっと願いが現実になろうとしている今、怖じけるわけにはいかない。
背と翼をきりりと張り、魔王さまの唇に自分の唇を寄せた。
紅く燃える髪は、涙のゆらぎに消え、記憶の中の美しい群青の螺旋に変わる。
気高く、知己に富んだ、魔界の覇者である、あたしの魔王さまに…。
しかし、魔王さまはまるで応えて下さらない。
あたしの行いは…魔王さまを、ただ困らせているだけなの――?
それでも…拒否されないのは、受け入れて下さってるのだと無理に考え、行為を続けることに決めた。
あたしは、上腕まで覆っているレザーの手袋を外す。
魔王さまに触れるのに、隔たり一つあって欲しくなかったから。
次にあたしは、人間体ゼタのズボンのベルトに手をかけた。
心臓が、変に高く鳴るから、指が上手く動かなくて、ジッパーを下ろすのにもギシギシ軋ませてしまう。
取り出した性器は、だいぶ形が整っており、考えていたものより容量があって、少し恐くなったけど…宿る精神は、愛する魔王さまなのだ、あたしの心は喜びで満たされた。
そっと頬を寄せる。
それはとても熱かった。
あたしの存在と行為で、これ程に熱を…そう思うと、嬉しいのに胸が苦しくなった。
口づける。いく度もいく度も、口づける。
「魔王さま…」
吸い寄せられるように、唇で性器を含んだ。
八重歯に当てぬよう、大切に口腔内で舌を滑らす。
魔王さまが、軽く息を詰まらすのが聞こえた。
あたしは、もっと沢山感じて欲しくて、少ない知識を総動員させ、睾丸をゆっくり丁寧に指で、撫で擦った。
いやらしい娘と思われないか不安になったけど、それ以上に後悔するのが嫌だった。
ずっと後悔して生きてきたのだ。悔いたくなければ、行ったほうがまし。
あたしは首を上下左右に振り、少しでも良くなっていただけるよう努めた。
もっと触れていたい、ずっと舐めていたい、いっぱい感じて欲しい…。
水音にも似たいやらしい音を、途切らすこと無く、口元で鳴らし続けた。
魔王さまの熱が一段と増し、張りと重量が増加する。
それはもはや、あたしの唇で含みきれる大きさではなく、口の端から唾液がこぼれ、顎を伝い落ちた…。
急に、肩を掴まれる感覚があった。
「えっ!?」
気づくと、世界が一転し…あたしは、魔王さまの下で抱きすくめられていた。
「ま、魔王さ、まっ」
頭が真っ白になり、呼吸すら忘れてしまいそうになる。
「わたくしが奪わねば、幸せになれませんか?」
「はい…魔王さまでなくては、駄目です」
「エトナ…」
一度だけで、いい。
この代償に、二度と誰とも肌を交わす事が無くても、いい。
この方を愛しているのだから。永遠に愛していくのだから。
「応えて…下さい。お願いです」
自分で、首輪と胸の着衣を取り除いた。
これでもう、上半身につけているものは何も無い。
「…ぅ、ん…」
スカートを落とし、下着の紐を解く…全裸に等しい姿となった。
魔王さまの視線と大気だけが、あたしの体を取り巻いている。
「…どうか、エトナのすべてを愉しんで下さい」
あたしは、その手を胸元へ導いた。
大きな手のひらが、硬い指が、優しく暖かく胸を包み込む。
はふぅ、と息とも声ともつかぬものが、漏れた。
大量の蜜があふれ、尻尾にまで及んでいる。
しばしの沈黙ののち、魔王さまの手が、あたしの膝に置かれた。
スッと、外側へ傾けられる。
「あ…っ」
触れられている感覚と外気の流れの変化に、声がこぼれた。
そこへ、伸ばされた腕が入り指先が、あたしの中心のひだを捕らえる。
「あぁぁ、ん…」
すぐに指は体液で濡れそぼり、ゆっくりとした動きにも関わらず、ぷちゅ…ちゅく、と音になった。
先程、口元でたてたものと似ている。けれど、音の発し方は全く違う。
魔王さまがあたしの身体で、鳴らされる音。
くち…ちゅる…ぬ、ちゅ…
「あ、あ…ぅ…んん、ふ…っ」
──どうしょうもない程に恥ずかしさを感じて、一気に顔が熱くなった。
今度は、ぬるぬるした指が、あたしの乳首を軽くつねる。
「んっ、ふっ…あっ、うっ」
リズミカルに摘まれるので、あたしの声までその通りに弾む。
指がすべるため痛みは全く無く、突き抜けるような快楽と、翻弄される心地よさが両胸を支配した。
「あ、ぁ――…」
十指の腹を使い、羽のような軽さで、ゆるやかに胸全体をなぞられる。
「は、ぅん!」
反射的に跳ねてしまい、胸がぷるぷると揺れてしまう。
その動きが、自分でも戸惑う程にやらしくて、あたしは慌てて手で押さえた。
けれど魔王さまは、そんなあたしの指を一本いっぽん外してしまわれる。
そして、再び露になった胸を…より念入りに、なぞられて。
でも、冷静に見ていられたのは、そこまでだった。
次に始まった行為に、思考は簡単に遮断されてしまう。
「あ、くっ!…はああぁんっ!!」
胸の頂きを細かく摩擦しながら、雫の溢れる秘部に、舌を這わせられたのだ。
「や…あっ!?い、ぃけません、魔王さまっ!あっ、あたしば、かり…ッ」
けれど、魔王さまは舌の動きを続けられるばかりで。
過敏な場所を、一定の速度で丁寧にこすられ、腰椎あたりに膨れあがった快感の波が、収縮に向けて集まっていく。
尾が反り返り、激しく震えだした。達する前兆…やだ、こんなに早く!?
「駄目です、駄目ッ、ひぁ、あっ」
あたしは、必死で絶頂をこらえた。自分だけが悦ぶなんて失礼な真似は、避けたかったのに…なのに。
後頭部の髪が石の表面を擦り、ザリッと音をたてる。
何かにすがらなければ、堪えきれない。
でもそうしたら、魔王さまに爪をたてる事になってしまう。
空を掻いていた指で、あたしは自分の口を押さえる。
駄目、ダメ、だ…め…
「っあぁ…あっ!ま、おぉさまあああぁぁっ!!!」
それでも、喘ぎ声が高くあがり、体内から何かの体液がほとばしったのを感じた。
熱いものが、秘部にあてがわれる。
高い熱を持ち、ぬるりとしたそれが、指などで無い事はすぐに判った。
「この男のものは、あなたには辛過ぎるかも知れませんね…」
あたしは首を振った。たとえ、この身が壊れようと、愛する魔王さまを受け入れるのに、何を躊躇することがあるだろう。
「…平気です。あたし、大丈夫ですから」
魔王さまが頷く気配に続いて、性器が力強く押しつけられてくる。
「──ッ!」
力は更に強まり、それは刃物で切り裂くような、鋭い痛みに変わった。
「っく、……!…ぅ…!!」
激痛から逃れようとする精神の弱さを、歯をくいしばり耐える。
言葉にならない悲鳴が、喉の奥で何度も上がり、とめどなく涙が流れた。
「エト…」
「大丈夫です、大丈夫ですから…っ」
一度達し、潤っていたからこそ、この位の辛さで済んでるんだと気がつき、あたしは再度、この方の深い優しさと心遣いを感じた。
「魔王さまを、全部……!」
気を失いそうになる程の痛みの波を、数度越えただろうか…あたしはとうとう、魔王さまと一つになることが出来た。
息は乱れ、涙に汚れ、苦痛に震え…夢見ていたものと全然違ったけれど、嬉しくてたまらなかった。
痛みが治まるまで待って下さった魔王さまに、落ち着いたとお話しすると、あたしを気遣いながら、ゆっくり抽送を開始される。
押し開かれる疼きと、引き抜かれる空虚感、じりじり続く鈍い痛み。
でもそれは、まぎれも無く魔王さまから与えられる感覚だった。
そして、わずかにだけれど…感覚に、快楽が混じり始めた。
「あっ、あっ…くふ、ん…んぅ…あぁ、んっ」
普段なら、けして出さない鼻にかかった声が、唇から漏れる。
「はぁ!…ああ…っ、んく…っあん」
不意に、あたしの頭部の周りにパサリと髪が落ち、顔の上に影がかかった。
弾力ある柔らかな唇が重なり、大きな舌が入ってくる。
「ふっ…く」
本当に、大きな舌だった。口の中が舌で一杯になるという、未知の感覚。
それによってもたらされる悦が、思考の全てを麻痺させた。
口腔で蠢く舌は、じかに神経をいじるような、あまりに荒々しい刺激で。痺れとしか表現できない快楽が、あたしを蹂躙した。
…満たされている。
精神も心も、口腔も秘部も、全てが魔王さまで占められている…。
背後から抱かれ…右手で両胸を、左手で両翼の付け根を、表裏同時に責められる。
艶混じりの吐息を静寂に響かせながら、思う。
…魔王さまは、あたしで歓楽を得て下さっているだろうか──?
すると、それを察したかのように、魔王さまが囁かれた。
「エトナは、心地が良いですね…」
どこが、とも…なにが、とも仰らず、ただ『エトナは』と。
あたしに恥ずかしい気持ちにさせることなく、女として認めて下さったのだ。
なんという多幸感だろう。愛する方と、快楽を分かち合った…それだけなのに。
なんだか信じられない。
ただ、溢れてきて止まらない涙が、現実である事を教えてくれた。
「あ…ぁ…」
尾をピッと、引っ張られた。
尻尾の付け根の筋肉は、お尻の筋と連動している。
ピッ、ピピッ…引かれた事が刺激となり、あたしの中も震えだす。
それが、次第にうねるような蠢きに変わっていくのを、自分でも知っている。
「っう…ん、…あんっ」
尾の付け根から先端へ。指を巻き付かせながらの、柔らかな愛撫。
「きゃ…!あ、ふあ、ぁぅう…!」
魔王さまが、あたしの尾の先を口内に入れ、舌で包み込んでくる。
「あ、ダ、ダメです、そんな…あっ、汚な…」
キレイに洗ってあるけど、尻尾はそんなに清潔なものじゃない。
しかも、魔王さまにそこまでしていただくなんて失礼過ぎる。
なのに…制止の声が甘くとろけてちゃ、全然意味ない…。
「いけません、魔王さま、い…あぁッ!」
貫かれる速度が、急に早まる。
愛撫を受けたことによって、潤みが生じたらしい。僅かな余裕だったけど…挿入は滑らかに、抜きは淀み無く、繰り返された。
…じゅ、ぐ…ぷぢゅっ…ちゅ、じゅぷ…
「え、や…いやっ!?」
粘度を感じさせる、くぐもった音が、鳴り響く。
にゅ、ずる…くぷぷ…ぐじゅ、ぢゅぬぷ…
女性器と男性器に、体液が絡まって発する、淫猥な音だった。
意識すれば、するほどハッキリと聞こえてくる。
「いや、やらし、い…っ、そんな…ぁあ、っく…」
羞恥のあまり、何とかして音を押さえようと、身体をひねったり、秘部を狭めようとしてみたけど、ますます高まるばかり。
逆に、音に併せるように、魔王さまとあたしの呼吸までも重なった。
突き入れられる動きはやがて、鋭くねじ込むものになった。
「あ、んんッ魔王さま、まおうさ、ま…まお、ぅさまあぁ!」
あたしは腰骨を固定され、逃れられない痛みを甘んじて受けながら、声が嗄れるまでその名を叫び続けた。
この方の名を口に出して呼べるのは、今だけ。
明日からまた、胸の奥に仕舞っておかなければならないのだから。
「あ、たし、まぉうさまの、こと…!ずっと、…っ!これか、らも…!」
「エトナ!」
「貴男、をッ……愛!!」
唐突に魔王さまは、あたしの身体から退かれた。
次の瞬間、白濁が右腕をかすめるギリギリの位置に散った。
「あ……」
「っ…この者の種を、あなたに植えるわけには、いきませんから…」
そうだ、借り物の体。
改めて魔王さまが幻なのだと、思い返す。
しかし、かりそめでも良い。触れ合えた喜びは、比ではない。
…拒むことも出来た、あたしの我儘。聞き入れ赦して下さった、お心を考えると感謝の気持ちばかりが湧いてきて。
なのにあたしは、お礼とか償いとか言ってたのに、結局また、魔王さまの手をわずらわせてしまった。
謝らなければ…そう考え、顔をあげた時だ。
「エトナ…ありがとう」
「ど、どうしてですか!?だって、あたし…!」
「嬉しかったんですよ。想ってくれていたこと…忘れずにいてくれたこと…感謝の気持ち、それ故の行為…全てにね。お礼を、言いたかったのです」
「…魔王さま…」
また泣き始めてしまったあたしを、魔王さまはそっと包み込むように抱きしめて下さった。
朝の光が、あたしの頬を照らすまで…。
あれから一年。
今日もあたしは広場の隅にいて、人間体ゼタが剣の手入れしてるのを、遠くから見ていた。
相変わらず彼は、淡々と生活し、黙々と訓練し、営々と戦闘をこなしている。
何一つ語らずに…。
まー、それはそれとして。
「何故、またプラムエンド(バッドED)なのだ──!?」
魔王ゼタ(BOOKタイプ)が、声の限り叫んだ。
勿論、犯人はあたし。
アハハハ、あったりまえじゃーん。
グッドEND→ゼタは体に戻る=魔王さま、どっか行っちゃう、でしょー。
…あたしは、人間体ゼタを見続ける。
その後方にある食料プラントの窓が、チラチラと2回光った。
魔界厨師の合図だ。
その意味は──今回も60人分の毒物と賄賂、確かに受け取った──と。
愛を説き、情を厭い、力を盲信し、陰謀が渦巻く。
どこの魔界も同じ。やっぱりここも、変わらない。
…買収も通じるしね。
魔王さま…エトナはずっと、魔王さまのそばに…。
【終わり】