ふと気付いたとき、一号はエトナの部屋の真ん中に突っ立っていた。  
(あれ)  
 意識の焦点が、うまく定まらない。  
(なに、しようとしてたんだっけ)  
 ぼんやりと周囲を見回すと、テーブルの上に並べられた食事に気がついた。ベーコンエ  
ッグにサラダ、出来立てのスープに焼きたてのパン。いつもどおりの朝食だ。  
(ああ、そうか。エトナ様のご飯を用意していたんだっけ)  
 どこか違和感を感じながらも、一号はようやく自分が成すべきことを思い出した。  
 すでに、朝食は準備できた。後は紅茶を淹れるだけだ。一号は壁際の戸棚から、紅茶の  
葉が入った瓶をいくつか取り出した。それぞれ種類の違うそれらは、全てローゼンクィー  
ン商会で購入したものだ。一号は頭の中でブレンドを考えると、ティースプーンで紅茶の  
葉を掬い取り、丁寧に量を計りながらティーポットにいれる。あとは、用意しておいた熱  
湯を注ぐだけだ。  
「よし、と」  
 漂い始めた香りに、一号は満足と共に頷いた。今日こそ、エトナに「満足だ」と言って  
もらえるかもしれない。  
 一号は主のベッドを振り返った。ベッドの上で、毛布の小山が規則的に上下している。  
エトナはまだ夢の中らしい。いつものことだった。  
 一号が毎朝エトナを起こすときのパターンは、大体決まっている。  
「エトナさま、朝ですよ。起きてください」  
 ティーカップに紅茶を注ぎながら、そっと声をかけると、必ず布団がもぞもぞと動き、  
眠たげな声が返ってくる。  
「あと十分」  
 いつも、十分なのだ。一号はきっかり十分待ってから、ティーカップを持ってベッドの  
そばに歩み寄る。そして、こう囁く。  
「早くしないと、紅茶冷めちゃいますよ」  
 それを合図としたかのように、エトナは布団をゆっくりと剥がし、眠たげな顔を覗かせ  
る。そうして、伸びを始めるエトナに、一号は控えめに紅茶を差し出す。  
 いつもの朝の風景。一号にとっては、最も心休まる瞬間である。  
 
 
 一号は、ティーカップに紅茶を注ぎ始めた。  
「エトナさま、朝ですよ。起きてください」  
 主の眠たげな声を想像すると、自然に頬がほころんでくる。  
 しかし、いつまで待っても返事は返ってこない。  
「エトナさま?」  
 何か、変だ。一号はティーカップを手に、おそるおそるエトナのベッドに歩み寄る。そ  
して、気付く。いつものように盛り上がった毛布が、少しも動いていない。  
「エトナさま」  
 呼びかけるが、やはり返事はない。  
 嫌な感じがする。不安に胸が高鳴り、背中に汗が滲んでくる。胸を塗りつぶすような不  
安に任せるまま、一号は両手で毛布を引き剥がした。ティーカップが落ちて、床に紅茶が  
ぶちまけられる。  
 毛布の下は、もぬけの殻だった。震える手を伸ばして触れてみると、人のぬくもりを感  
じる。  
 自分の知らない間に、エトナはどこかへ行ってしまったのだ。  
(どうして)  
 凄まじい喪失感が、足をぐらつかせる。一号は頭を抱えた。  
 いつもなら自分の声に答えて起きだして来て、紅茶を飲んでくれるエトナがいない。  
 どこへ行ってしまったのか。何故行ってしまったのか。  
(ああ、そうだ)  
 思い出した。自分のせいだ。  
(わたしが役立たずでエトナさまのお力になれなかったから、エトナさまは一人で、一人  
ぼっちで行ってしまわれたんだ)  
 頭の中に、一人で泣いている赤い髪の女の子の姿が浮かぶ。一号の目に涙がこみ上げて  
きた。  
「エトナさま」  
 周囲を見回す。しかし、求める主の姿はどこにもない。一号は子供のようにぐずりなが  
ら、必死で呼びかけた。  
「エトナさま、どこにいらっしゃるのですか。わたしをおそばに置いてください。わたし  
は役立たずですけど、どうかおそばに置いてください。おそばに置いてください」  
 声をからして叫んでも、エトナは答えてくれない。それでも一号は、ただひたすらに叫  
び続けた。  
 
 
「エトナさま」  
 主の名を叫びながら、一号は目を覚ました。視界に映るのは、見慣れた感のある薄汚れ  
た天井。病院のベッドに寝かされているらしかった。  
「あ、目が覚めたのね」  
 困惑する一号の視界に、一人の女が顔を出す。長い青い髪と、頭の両脇から生えた二本  
の角が印象的な女だ。夜魔族、という単語が、一号の脳裏を掠めた。  
 その夜魔族の女は、こちらを見下ろしてにっこりと笑った。  
「良かった。ひどい怪我だったのよ、一号ちゃん」  
 心底から安心しているらしい、優しい声音。初対面の人間の警戒心を解く穏やかさが、  
声の裏から滲み出ているかのようだった。  
 しかし、一号は不思議に思った。  
 目の前の女とは、初対面のはずだった。だというのに、どうして自分の名前を知ってい  
るのかと。  
 一号の疑問を、表情から読み取ったらしい。夜魔族の女は舌を出した。  
「ごめんごめん、自己紹介しなくちゃね。あたし、ラミアっていうの。見ての通りの女っ  
て言えば、大体どんなかは分かってもらえると思うけど」  
 いかにも柔らかそうな胸に手を添えて、ラミアはウインクしてみせる。  
(エトナ様が見たら怒りそうだなあ)  
 そんなことを考えながら、一号は挨拶しようと体を起こしかけた。しかし、すぐに全身  
の至るところから激痛が襲ってきた。思わず苦悶の声を漏らしながら、再びベッドに逆戻  
りしてしまう。  
「慌てない慌てない。ひどい怪我だって言ったじゃない。寝たままでお話しましょうね」  
 子供をあやすような声音で、ラミアが言ってくる。一号は痛みに涙を浮かべながら頷い  
た。  
「ありがとうございます、ラミア様。私、一号と申します。エトナ様の弟子というか召使  
というか奴隷というか」  
「知ってるわよ。飾らないのねえ、あなた」  
 ラミアは口元に手を当てて、おかしそうに笑った。それから、少し一号に顔を近づけて、  
悪戯っぽく目を細めてみせる。  
「この城じゃ結構有名なのよ、一号ちゃん。あのエトナちゃんの弟子だっていうのでね」  
「はあ、そうなのですか」  
 どう返事していいか分からず、一号は曖昧に言葉を濁す。自分がエトナ以外の人間にも  
知られているなどとは、想像したこともなかったのだ。  
 
「単刀直入に聞くわね」  
 ラミアは、急に声を硬くした。  
「その傷、エトナちゃんにやられたのよね」  
 一号はぎくりとした。ラミアの視線は先ほどまでとは打って変わって厳しく、偽りを許  
してくれそうにない。慌てて、目をそらしてしまう。  
 正直に言うのは、まずい気がした。  
 このラミアというのがどういう立場の悪魔なのか分からない。弟子を暴行した、という  
のでエトナに咎が及ぶ可能性だってなくはないのだ。  
(ここは誤魔化すの一手に限る)  
 一号は無理矢理笑みを浮かべた。  
「違いますよラミアさま。この傷は、なんというか、自分で」  
「あのねえ」  
 ラミアは呆れたようなため息を吐いた。  
「どうやったら、そんな傷を自分でつけられるっていうの」  
 もっともな意見である。しかし、ここで白状する訳にはいかない。一号は必死で言い訳  
を考えた。  
「こ」  
「こ?」  
「こういうプレイなんです」  
 長い長い沈黙が、病室に満ちる。隣の病室から、数人が騒ぐ声が聞こえてくるほどであ  
る。  
「一号ちゃん」  
 やたらと優しい笑顔で、ラミアは一号の肩を叩く。  
「もうちょっと、説得力のある嘘を吐きましょうね」  
「ごめんなさい」  
 一号は素直に謝った。  
「じゃあ、やっぱりエトナちゃんにやられたのね、それ」  
 ラミアの声は、問いというよりは確認している口調である。  
「でも」  
 だが、一号は反論しようとした。  
 
 
「これは、その、確かにエトナ様からお叱りを受けてついた傷なのですけど、あの、理由  
があるんです」  
「どんな?」  
 一号の言葉に興味を覚えたらしく、ラミアが身を乗り出してくる。しかし、一号は言葉  
に詰まった。  
「それは、あの、どう説明したらよいものかよく分からないんですけど。とにかく、私が  
悪いんです。エトナ様は別に悪いことをした訳ではないのでして」  
 肝心なところは少しも説明せず、一号は必死にエトナの無罪を主張する。明らかに無理  
のある主張である。ラミアは、一号の主張が繰り返される度に、瞳に宿る疑念を深くして  
いくようだった。  
「ちょっと待って」  
 数度目の主張が繰り返されようとしたとき、ラミアは少しきつい声音で、一号の声を遮  
った。  
「一号ちゃん。なんだか、さっきから聞いてると、ずいぶん熱心にエトナちゃんをかばっ  
てるみたいだけど」  
「いえ、かばっているのではなくて、わたしは本当のことを話しているのです。嘘じゃな  
いんです。お願いです、信じてください」  
 半泣きになって縋りつく一号を、ラミアは何か異様なものを見るような目で見下ろして  
いる。それから、慎重に言葉を選んでいるらしい口調で、問いかけてきた。  
「一号ちゃん、あたしの勘違いでなければ」  
「はい」  
 ラミアは口を開きかけて、一度、閉じた。一瞬目をそらして、考えた様子だった。ため  
らっているらしい。まるで、これからしようとしている質問が、あまりにも馬鹿げていて、  
あり得ない問いであるかのように。  
「もしかして、あなた、エトナちゃんのことを心配してるの?」  
 最初、一号は何を聞かれているのか分からなかった。だから、何も答えることができず  
に、ただラミアの瞳を見返してしまった。その反応で、ラミアは何やら納得したらしかっ  
た。  
 
 
「まさか、ね。てっきり、お仕置きが怖くて嘘を吐いてるんだと思ってたのに」  
 そのラミアの呟きに、一号ははっとした。  
(これは、ひょっとして誘導尋問というものなのでは)  
 何か違う気がしないでもないが、とにかく、まんまと引っ掛けられたらしい。これでは  
エトナが罪人になって臭い飯を食べることになってしまうではないか。  
「違います」  
 一号は叫んだ。  
「わたしはあくまでも本当のことを言っているのです。いえ、エトナ様のことを心配して  
いるという気持ちに偽りはありませんけれども、だからと言って決して庇っているのでは  
なくて実際に悪いのはわたしなのでして」  
 痛む両手を振り回しながら夢中で喋りまくる一号に、ラミアはそっと微笑みかけてきた。  
「安心して、一号ちゃん」  
「え」  
「あたしも、エトナちゃんの味方だから」  
 その言葉を聞いた瞬間、一号の脳裏にある光景が浮かび上がってきた。  
 
 それは、ずっと前の、ある夜のこと。  
 寝相が悪かったせいでずれていたエトナの毛布を直そうとしたところ、瞬時に反応した  
主に床に叩き伏せられたのである。そのまま腕を捻り上げられて、  
「いま、何しようとしてた」  
 と、やたらとドスが利いた声で詰問された。  
「毛布をかけなおそうとしていました」  
 正直に答えても、エトナの瞳はますます疑り深く、細められるばかり。  
「嘘つけ。あたしの寝首をかこうったってそうはいかないわよ。オラ、吐きな、このクズ」  
 そんな風に、エトナはどうやら一号の言葉が本当らしいと分かるまで、ひたすら関節技  
をかけ続けたのだ。  
 それは、客観的に見ると笑える光景だったのかもしれないが、一号はそのとき痛みでは  
なく悲しみによる涙を流していた。  
 眠っているときにも、弟子である一号にすら、エトナは気を許していない。  
 それは、世界中に信頼できる人間が一人もいないと、エトナが思い込んでいることの証  
明だった。  
 その心中を思うと、あまりの悲しさ寂しさに、一号は胸が張り裂けそうになってしまっ  
たのだ。  
 だから、自分だけは絶対にこの人を裏切らないと、そのとき心に誓ったのだ。  
 
 
 エトナからのお仕置きによる恐怖がなくなった今になって、急に主に対する爆発的な愛  
情が胸に蘇ってきた。  
(どうして、そういう気持ちを忘れていたんだろう)  
 一号の瞳から、涙が溢れ出した。  
「ちょっと、どうしたの一号ちゃん」  
 慌てて声をかけてくるラミアの手を握り締め、一号は泣きながら言った。  
「ありがとうございます、ラミア様」  
「え、何が」  
「ありがとう」  
 自分はエトナの味方だと、そう言ってくれる人がいる。  
 その事実が、一号には何よりも嬉しかった。  
 
「ごめんなさい、取り乱してしまいました」  
 しばらくして、一号はようやく落ち着いて話せるようになった。ベッドのそばの椅子に  
腰掛けたラミアが、軽く苦笑する。  
「あたしは未だに一号ちゃんが泣いた理由がよく分からないんだけど」  
 それはそうだろう、と一号は少し気恥ずかしさを覚えた。  
 あんな何気ない一言でここまで感情が爆発するものだとは、今の今まで知らなかった。  
「でも、今度こそちゃんと事情話してもらえそうね。安心して、悪いようにはしないから」  
 一号は小さく息を吐いた。今や、正直に話すこと自体にためらいはない。ただ、どこか  
らどう話したものか。  
 一号の戸惑いを見て取ったのか、ラミアは優しく微笑みながら、彼女の手をそっと握っ  
てきた。  
「いいわ、最初から全部、ゆっくり話して」  
 少しほっとしながら、一号は懸命に、エトナに暴行を受けて意識を失うまでの顛末を話  
した。エトナに犯されかけたところまで、正確にである。  
 話し終えた一号は、そっとラミアの反応を窺った。ラミアは、顎に手をやって何事かを  
考えている様子だった。  
 
 
「ということは、一号ちゃんもエトナちゃんがどこに行っちゃったのかは分からないのね」  
「はい。少なくとも、わたしが意識を失うまではお部屋にいらっしゃったのですが」  
 ラミアは小さく唸った。息を詰めて彼女の一挙一動を見守る一号に気付き、小さく笑う。  
「心配?」  
「はい、もちろん。あの、エトナ様は」  
「大丈夫よ。この魔界、元々法律なんてあってないようなもんだしね。極端な話、たとえ  
一号ちゃんが訴え出たところでエトナちゃんは痛くも痒くもないはずよ」  
「そうなんですか。よかった」  
 一号は心の底から安堵の息を吐く。ラミアは口元に手を当てて、小さく笑った。  
「おかしな子ね、あなた」  
「え、わたしがですか」  
 何がおかしいんだろう、と一号は内心で首を傾げる。するとラミアは、不思議そうに、  
一号の瞳を覗き込んできた。  
「だって、今回のことだけじゃなくて、エトナちゃんにはいろいろとひどいことされてる  
んでしょう」  
「ええと、はい、そうなりますよね、やっぱり」  
 さすがにその事実だけはフォローできず、一号は歯切れの悪い返事を返す。ラミアはま  
た笑った。  
「それなのに、少しもエトナちゃんのこと恨んでいないんだもの。それどころか、心の底  
から心配しているみたい。自分のことよりも、ずっとね。相当おかしいわよ」  
「そうでしょうか」  
 一号は、じっと考え込んだ。  
 日常的にお仕置きと称した暴行というか虐待を受けている、弟子というか奴隷。  
 確かに、客観的に見れば自分はずいぶんおかしな心の持ち主なのかもしれない。  
「でも」  
 ぽつりと、一号は呟いた。  
「やっぱり、わたしはエトナ様が一番大切で、一番心配なんだと思います」  
「どうして」  
 そう訊ねられたとき、一号の口から自然にこんな言葉が漏れ出した。  
 
「寂しいお方ですから」  
 結局、それが全てなのだと一号は思った。  
 エトナの寂しさを知っているからこそ、彼女の身を案じずにはいられないのだ。  
「そうなんだ」  
 どこか、遠くを見るように呟いたあと、ラミアは目を伏せた。  
「やっぱり、エトナちゃんのことよく見てるのね、一号ちゃん」  
「では、ラミア様も、エトナ様のことを」  
「ええ。とても寂しい子だと思うわ」  
 ラミアは悲しげに呟いた。  
「元々、そんなに強い子じゃないのにね。あたしの知っているエトナちゃんって、やせっ  
ぽっちで小さくて、いつも隅っこに座って泣きじゃくっているような女の子だもの」  
 ラミアのその表現は、一号の心の中のイメージとぴったり重なった。  
(ああ、この人は、わたしが知らないエトナ様を知っているんだ)  
 そう思うと、一号の胸には心強さと同時に嫉妬めいた感情すら浮かび上がってくるので  
ある。  
「それでも、クリチェフスコイ様がいらっしゃったころは、そうでもなかったんだけどね」  
「クリチェフスコイ様、ですか」  
 聞いたことのない名前だったが、何故かどこかで聞いたことがあるような気がする、不  
思議な名前だった。ラミアは笑顔で頷いた。  
「ええ。前の魔王様よ。今のラハールちゃんもとっても可愛くて、それはそれでありだけ  
ど。やっぱり、クリチェフスコイ様の方が魔王としてはご立派で、威厳があったと思うわ」  
 そのいきいきした口調から、一号は、ラミア自身もクリチェフスコイのことを尊敬  
しているらしいことを見て取った。  
「エトナちゃんのこともずいぶん気にかけてくださってね」  
「前の魔王様が、ですか」  
「そう。エトナちゃんが今みたいに、ちょっと度が過ぎてるんじゃないかって思うぐらい  
元気になれたのも、きっとクリチェフスコイ様のおかげ。だけど」  
 ラミアは惜しむように唇を噛んだ。  
「クリチェフスコイ様は、本当に大切なことをエトナちゃんに教える前に、逝ってしまわ  
れたのよ」  
 その、本当に大切なことというのが何なのか、一号には何となく分かる気がした。  
 
(もしも、エトナ様がそのことを教わっていたなら)  
 少なくとも、今のようにはならなかったのだろうな、と想像して、一号はとても残念な  
気持ちになった。  
「あーあ、それにしても」  
 ラミアは、漂い始めた沈黙を洗い流すように、急に明るい声を上げた。  
「エトナちゃんでもないとすると、また調査は振り出しに戻るってわけね」  
「調査、というと」  
 一号が眉をひそめると、ラミアは少し肩を落とした。  
「例の、ほら、城の中がとんでもないことになっちゃった事件よ」  
「ああ」  
 昨日の城中で繰り広げられていた光景を思い浮かべて、一号は恥ずかしい気分になった。  
同時に、気付く。  
「え、それじゃあ、ラミア様はエトナ様があの現象を起こしたと」  
「もしかしたらそうかな、と思ってたんだけど。やりそうだし」  
「いえ、それは絶対にありません」  
 昨日、自分が戻ったときのエトナの反応を思い出して、一号は断言した。ラミアが苦笑  
する。  
「そんなに言わなくても、分かってるわ。心配しなくても大丈夫よ」  
 一号はほっと息を吐いた。エトナが疑われていないのならば、魔王城内で繰り広げられ  
ていた狂気の宴のことなどどうでもいい問題に思える。  
「でも、確かにちょっと心配よね」  
「なにがですか」  
 急に深刻な顔つきになったラミアに、一号は首を傾げた。  
「結局、エトナちゃん、行方不明ってことになるじゃない。一号ちゃんが目を覚ますまで  
にわたしもちょっと探してみたんだけど、結局見つからなかったし。まさかとは思うけど」  
 ラミアは冗談めかして続けた。  
「誰かにさらわれた、なんて」  
「今すぐ探しに行きます!」  
 一号はベッドの上で勢いよく体を起こした。全身の至るところから痛みが襲ってくるが、  
そんなことはどうでもいい。  
 迂闊だった。確かに、そういう可能性もある。城内がエロイことになっていた影響が、  
まだ残っている可能性だってあるのだし。  
(そうだ。エトナ様はあんなに可愛らしくて愛らしくいらっしゃるのだから、馬鹿な男が  
ハアハア言いながら徒党を組んで)  
 そのおぞましい光景を想像すると、一号の顔からさっと血の気が引いていくようだっ  
た。  
(早く行かなければ)  
 
「ちょっと一号ちゃん、落ち着きなさいって」  
 ラミアが慌てて止めようとしたが、一号はその手を振り払った。  
「離して下さいラミア様。エトナ様を助けにいかなければならないのです」  
「いや、まだ危ない目に遭ってるとは限らないって。拗ねて城の外に出かけただけかもし  
れないし」  
「ああ、それでしたら尚更飛んでいって抱きしめて差し上げたい」  
「んなことしたらまた殴り飛ばされるのがオチだってば」  
「構いません」  
「足とか手とか、いろんなところの骨が折れてるのよ」  
「ならば這ってでもいきます」  
 一号の決意というか、暴走を抑えきれないことを悟ったのだろう。ラミアは深いため息  
を吐いた。  
「仕方ないわね」  
 呟きながら、顔を近づけてくる。  
「ねえ、一号ちゃん」  
「なんですか」  
 邪魔をするなら倒してでもいくぞと、一号はクズに似合わぬ覚悟でラミアをにらみつけ  
た、が。  
「あれ」  
 ラミアの瞳を覗き込んだ瞬間、全身から力が抜けた。  
 ラミアは、成す術もない一号を優しくベッドに寝かせなおし、微笑んだ。  
「よかった。やっぱり効きやすいのね」  
「何を」  
「魔眼、っていうの。相手の目を覗き込んむことで精神を繋いで思うままに操るとか、そ  
ういうの。ちょっと動けなくしてあげたから、しばらくゆっくり休んでなさいな。あ、大  
丈夫よ、おしっことかいきたいときは看護婦さんを呼べばやってくれるから」  
 何をやってくれるんだろうと少々疑問ではあったが、そんなことを気にしている場合で  
はない。  
 由々しき事態だった。  
(ああ、これじゃエトナ様を助けにいけない)  
 既に一号の中では、エトナが何者かにとっ捕まったことは決定事項だった。ついでにい  
えば、あれこれとやられていろいろと大変なことになっている。  
(わたしは、エトナ様を助けにいくんだ)  
 一号は改めて決意し、少しも反応しない体を動かそうとした。  
 
 
           次   回   予   告!  
 
ねんがんのさいとうじょうをはたしたぞ! な一号ですが、  
彼女のこの後の運命を想像してください。  
 
1.ラミアを始めとするいろんな人たちに犯されまくる。  
2.エトナを救出して、肉奴隷と化した彼女をいぢめまくる。  
3.いつの間にかSに目覚め、アラミスとかその辺りの男キャラをいぢめまくる。  
 
1〜3の内、どれか一つだけが不正解です!  
正解者には特になにもありませんので気楽に挑戦してください。  
それでは次回の女帝フロンに乞うご期待?  
 

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