生暖かい風が頬を撫ぜる・・・丘に腰掛け静かに佇む夜魔が一人。  
閉じていた瞳をゆっくり開き、リリムは黒い空を見上げる、そこには赤い月が浮かんでいた。  
しゅるっ。 一瞬・・・リリムが纏っている使い魔が蠢いた。  
「何をなさっているのですか?」  
アーチャーがリリムの背中に問いかけた。  
「私たちは、罪を犯しているのかな?」  
「うふふ、今更そういうこと言うのですね。」  
ゆっくりとプリニー達の魂が空中に消えていく・・・ 2人はしばらく見つめていた。  
「おい、お前ら。 何している、早く行け。」  
背後からラハールの叱咤が飛んできた。  
リリムは再び瞳を閉じる。 頭の中を先日死んでいった同属の顔がよぎっていく。  
ヒュンッヒュンッ!  
アーチャーが矢を放つと同時に、リリムもまた丘から身を投げた。  
「あ〜かい つぅきぃ 赤い月〜」  
落ちていく中・・・リリムは歌いだす・・・  
「罪を犯した者どものぉ〜」 丘の上からもアーチャーの歌声が聞こえてきた。  
眼下に広がるは無数の死霊。  
シュルル! 普段はリリムの衣服に纏られている使い魔が右手に頭を掲げる。  
ピリッ・・・ピリッ・・・、使い魔が帯電すると同時に数多の死霊から魔法が放たれた・・・  
 
「え!?」  
魔法はリリムの脇へ反れた・・・いや、最初から死霊たちはリリムを狙ってはいなかった。  
振り向いた先には、倒れていくアーチャーの姿・・・リリムの右手が大きく揺らいだ。  
 
焼け焦げた死体の海にリリムはひとりポツンと立っていた。  
本来なら彼女はオトリのはずだった、死霊たちの攻撃を受けている間に後軍が攻撃を仕掛ける  
そういう手はずだった。 でも、作戦は気づかれていたのだ。  
腕の傷口を押さえながらリリムは丘の上へ戻ると、  
味方の魔法師や魔物たち・・・そしてあのアーチャーの死体が転がっていた。  
他の味方の姿は無い。 おそらく作戦が失敗した時点で撤退したのだろう。  
たった一人で戦い、そして勝利した者がいるとも思わずに・・・。  
リリムは冷たくなったアーチャーを抱き上げた、そして  
ボロボロの翼をなんとか広げてリリムは羽ばたく、翼の傷から血が飛び散る。  
痛みに歯を食いしばりながらも彼女はアーチャーを抱いたまま  
赤い月へ向かい飛び立った。  
 
 
「殿下〜!!!!!」  
「なんだ、そうぞうしいぞ。」  
「リリムが・・・リリムが帰ってまいりました。」  
「なに!」  
ラハールが門まで駆けつける。 そして、リリムのその姿を見て思わずたじろぐ。  
翼は折れ、全身は血に染まり・・・その腕には冷たくなったアーチャーが抱かれていた。  
「おい! すぐに医院へ連れて行ってやれ。」  
リリムはそれを聞き、ラハールを大声で止めた。  
「まってください、ラハール様!」  
「なんだ?」  
「お願いがございます・・・。」  
「そんなのは後で聞いてやる! 今はとにかく。」  
リリムは静かに首を横に振ると。  
「いいえ、私はどうなっても構いません。 それよりも・・・」  
 
暖かい風が吹いた、リリムは編み物の手を休めて城のテラスから空を仰いだ。  
今宵は赤い月・・・魂が空へ帰る時。  
「うっ・・・。」  
かつての古傷が悲鳴を上げる・・・結局、リリムは戦うことができなくなってしまった。  
「今日は人間界へ遠征だとか言っていたわね・・・大丈夫かしら。」  
不安げにリリムはつぶやく。  
キュイーン!  
時空ゲートの開く音が聞こえた。  
ドタドタドタ! 騒がしい足音が近づいてくると、リリムは思わずクスッと笑みをこぼす。  
「師匠〜♪ たっだいま〜」  
「おかえり、おてんばアーチャーさん。」  
 

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