「…さよなら」  
淡く掻き消えた蒼い少女の残像を、プラムは心に焼き付けた…沸き出ずる、満ち足りた思いとともに。  
しかしプラムは、その格別の余韻を、長く深く味わう事は出来なかった。  
彼女の背後に、雷光が爆ぜ轟く。  
「あら、もう来たのね」  
現れたのは、アレク。  
驚愕と悲痛さが、ないまぜとなった表情で、叫ぶ。  
「ゼタ!?おいプラム!ゼタは…!!」  
「アホ魔王?…殺したわ」  
サラリと言ってのけた言葉と、彼女の纏う尋常ではない魔力に、アレクはたじろぐ。  
「っ、てめぇ!」  
「何怒っているのよ。あなただって、ゼタを殺したかったんでしょ?」  
プラムは髪をかきあげ、艶然と笑う。  
「どうする?破壊神アレクサンダー。ゼタの代わりに、私を倒すの?」  
彼女の瞳に、凶猛な光が揺らめいた…。  
 
「ごきげんよう、破壊神アレクサンダー」  
次にアレクが意識を取り戻したのは、冥界の底ではなく、見知らぬ部屋であった。  
「プラ…!」  
体が動かない。いや、動かす事が出来ない。鎖が、アレクの手足を壁と床に繋いでいた。  
「本当はね、戦いの途中までは、殺すつもりだったのよ。けど、気に入ってしまったの」  
ふふっ、と含むように微笑み、くるんと回転してアレクを見る。  
「新しいオモチャが、ね」  
「オレ様をオモチャだぁ?笑わせるぜ!てめぇ、いったい何様のつもりだ!!」  
「私?私は天才魔王プラム。あなたは囚徒。罪状は…私に刃向かったことかしら」  
プラムはアレクの側へ歩み寄り、顔を覗き込んだ。  
その表情は、まるで子供そのもので──。  
「観念なさい…大切に、飼ってあげる」  
「ぬかせ!誰が、てめぇなんかに!!」  
「虚勢を張るのも、そのくらいにしておきなさい。時間はあるの。屈伏させるわ…ゆっくりとね、『アレク』」  
この日、初めてプラムは彼を愛称で呼んだ。  
 
百億年…悠久とも思える程の長さの…二人の縷々たる関係が、開始された日であった。  
 
「だいぶ馴染んでいるじゃない」  
アレクが監禁されてから、一月が経過していた。  
 
プラムが退室している時は、鎖が伸び、部屋を歩き回る程度には自由が許されている。  
(勿論、ドアには届かないし、鎖が邪魔して瞬間移動もできないが)  
また、部屋の中には、最低限生活出来る設備があり、食事も与えられていた。  
 
プラムは、多忙であったが、ほぼ毎日時間を見つけては、この部屋を訪れた。  
彼女はゼタとアレクを消したと公言した事で、周囲の魔王から畏怖される存在となったが、まだ明確な位置を確立出来た訳ではない。  
実際、バビロンとシードルは黙したままだし、ヴァルヴォルガも意見がまとまらずにいる様子だ。  
キングダークに至っては、消息すら掴めない。  
(まぁ、アレはどうでもいいけど)  
調停者の動きも無い為、読むことも叶わず、プラムは焦れていた。  
だから、アレクに憤りをぶつけて憂さを晴らそうと、当初ここに足を運んでいたのだが…気付くといつも、他愛の無いやりとりを楽しんでいる自分に気付くのだった。  
 
「いい子にできたら、テレビを用意してあげても良いわ」  
「ま、確かにあるにこした事ねぇけどな…」  
普段のアレクとは、何か違う答えだ。  
しかも視線を避けたまま、ちょっと落ち着かない。  
 
プラムの神経がチリチリと音をたてる。  
「…何か企んでいるのね?」  
「は?そんなんじゃ、ねぇよ」  
どきりとして否定するアレクに、プラムの疑惑はますます深まる。  
「逃げる算段でもしていたの?…これは、調べる必要がありそうね」  
そう言い、アレクの手をチェックし始める。  
「おい、やめろ!」  
「自分こそ、立場をわきまえるべきでしょう。魂滅させられたい?」  
「くっ…!」  
足先のチェックが済み、今度は服に手を伸ばす。  
「うわ、よせ!見んな!!」  
虎柄の布をめくったプラムは、すぐに戻した。  
「…──何で、むき出しなのよっ!?」  
「バカ野郎!トイレだったんだよッ!」  
激しく気まずい空気が、漂う。  
 
先に気を取り直したのは、プラムだった。  
「バカ野郎ですって!?私は、あなたの支配者なのよ!いいわ…今後そんな口がきけないよう、全部見てあげる!」  
「プ、プラム!?」  
アレクの付けている巴模様の飾りを風袋ごと取り外す。  
多少のためらいを感じつつも、今度はアレクの布を剥ぎ取るプラム。  
「っ!」  
「見るくらい、平気よ」  
だが、プラムが平気でも、アレクは平常ではいられなかった。  
戦闘のみに明け暮れ、生きてきたアレクは、性的な事には疎かった。その為、他者に見られるという刺激に耐えれる訳もなく…。  
「え。えっ、えええぇ!?」  
膨張の変化で、プラムを狼狽させた。  
 
ちゅる…ぷちゅ、じゅっ…。  
プラムは、たどたどしく、アレクのペニスに舌を這わせる。  
負けん気の強い彼女は、二度も取り乱した自分に怒りを覚えた。  
そして原因となった相手に、自分以上の羞恥を味あわせる事で、精神の安定をはかろうとしたのだった。  
 
「…っ」  
「くふ、いい様ね」  
小さな唇を目一杯広げ、口中へ飲み込む。  
「っあ…!」  
アレクが声を漏らすたびに、プラムは彼を征服している事を感じ、ひそやかな快感を覚えていた。  
「情けないわね…恥ずかしくないの?」  
反応から察して知った性感帯…鈴口を重点的に吸いながら、言葉で彼を虐げる。  
ず、ずじゅう、じゅうぅ、っちゅぷ。  
「…ぅ…っ」  
聞いておきながら、返事はさせない。  
ぴちゅ、ちゅぷちゅっ、ちゅっぷぷ、じゅぷっ。  
きつく吸ったり、柔らかく舐めたりしながら、男の欲望を弄ぶうちに…プラムは、自分の身体の変化に気が付いた。  
(下着が…貼り付いてる?)  
貼り付き方があまりに変なので、腰と脚をつっぱねて剥がそうと試みるが、取れる気配すらない。  
(え、まさか私)  
その時だった。  
「うぁあッ、も、出る…!」  
プラムが唇を離し、身を引くと同時に、一本の白い線が宙に描かれた。  
一瞬、それが何なのか判断つかなかったプラムだが、正体を悟ると、おかしそうに笑い転げた。  
 
「あはははは、無様だこと!」  
まだ、呼吸が整わず返事も出来ないアレクを、プラムは罵る。  
「結構簡単なものなのねぇ、男って。ゼタもそうだったのかしら」  
「…プラムッ、てめぇ!」  
「何よ。こんな醜態を晒しておいて、まだいきがるつもり?」  
アレクの顎を伝い落ちる体液を、指ですくい取り、  
「ほら、見なさいよ…」  
目の前にかざす。彼が辱めを恥じ、悔しがる姿を期待して。だが──  
「ははは!ケッサクだぜ!」  
今まで、大人しくプラムに従っていたアレクだったが、ゼタの名を聞いたことで、怒りを沸き上がらせた。  
「入れた事すら無ぇくせによ、勝手に判断すんじゃねぇ!」  
この状況で、プラムの不興を買うのは無謀な賭けに思われた。  
命を奪われる危険があるし、何より却下されれば、それまでなのだから。  
しかし──アレクには、彼女が挑発に乗る確信があった。  
プラムとは約一月間のあいだ接してきた。  
だが、今日初めて嗅ぐ香り…彼女の発する甘酸っぱいものは、確かに雌の匂いだ、と。  
 
二人は、しばし睨み合うかたちになった。  
やや沈黙の後…好戦的な瞳に切り替わったプラムが、いいわと呟いた。  
「最後の砦も、潰してあげる」  
 
スカートを脱ぎ捨てたプラムは、驚くほど華奢すぎた。  
(こいつの何処に、あれ程の魔力が…ゼタを、葬る程の…)  
プラムは下着を下ろす際に、ようやく不快の元を知った。  
自分でも信じられない位、大量の粘液が付着し、糸を引いていたのだ。  
 
その戸惑いを無理に隠して、アレクの上に身体を進める。  
「吠え面、かかせてやるわ」  
「てめぇこそ」  
プラムは回復したアレクのペニスを掴むと、自分のクレパスへ押し当てる。  
何処までも白い彼女の身体で、裂け目だけが異様に紅く、ひどく淫猥だった。  
「…ちょっと、濡れ過ぎじゃねぇか?」  
愛液量の多さを、からかうアレクを一睨みして、プラムは腰を落とした…  
 
…つもりだった。  
(は、入らない……っ)  
困惑するプラムの上を、意味なく時間が経過する。序々に微妙な空気が部屋を包み始めた。  
プラムは懸命に、角度を変えたり、脚を広げたり、腰をずらしたりするのだが、どうにも要領を得ない。  
アレクはアレクで、流れ落ちてくるプラムの愛液でぬるむ感触と、何度も握り替えられる指の動きに、声が出そうになる。  
「ちッ!」  
さっぱり進まない事態に、さすがに痺れをきらしたアレクは、タイミングを見計らって腰を強く突き上げた。  
「──ひああぁ゙ッ!?」  
「手間、かけさせやがっ、て…っ」  
日頃の鍛練がなければ使えない、背中や腰の部分の筋肉を酷使した甲斐あって、なんとかアレクはプラムの中を貫く事に成功する。  
「ゃ…ぃっ、いた…」  
「負け認めても、いんだせ?」  
「ま、まさか!言わないわ!そんな事──絶対に言わないわよ!!」  
切り裂かれる痛みをこらえ、必死に動くプラム。  
食い縛った歯、溢れた涙、絞りだすような呼吸…それが彼女を壮絶に美しく見せていた。  
「…!…っ、──ぅ!!…んッ」  
 
当初、溢れていた愛液は、摩擦と熱で消え失せていた。痛みで疼くため、もう最奥からは分泌される事は無い。  
動けば動く程、痛みの増す内壁に、プラムは悲鳴をあげる寸前だった。  
 
一方、アレクも限界が近づいていた。  
何せ、プラムの中は狭すぎるのだ。その上、自分のペースで動くことも出来ず、快楽を堪える為角度を変える等の逃げも打てない。  
が、一度出していることもあり、ギリギリまで粘ればなんとか勝てる。  
しかし…アレクは考えた。  
(本当にいいのか?いま、こいつに勝っちまって)  
激痛に震えてもなお、自分に悦を与えようとする少女…。己が、けしかけた悶着とはいえ、本来の目的は監禁からの解放と、その為の足掛かりであって、プラムの自尊心を踏み荒らす事ではない。  
(かといって、ただ負けんのも…そうだ、こうすりゃいい…)  
 
(痛っ…あぁ、だめ…頑張れない…)  
プラムは、今にも動きを止めてしまいそうな、自分の弱さを呪った。  
(私が負けたら…アレクは何と言って、嘲笑うかしら)  
考えたくなかった。しかし、もう動けない。  
…その時だった。  
「くっ…やべぇ…イ…」  
「ま、待ちなさい!私の中になんて、許さないわよ」  
急ぎ、後方へ下がるプラム。  
それを確認してから、アレクは欲を解放する。  
「──っ!!」  
びゅくびゅく、と白濁液が散った。  
 
落ちた液体が床に流れる様子を、静かに眺める。  
プラムは、思わぬ勝利に安堵の息をつくと、誇らしげに笑った。  
「ふふっ、私の勝ちね」  
言い捨てると、プラムは手早く衣服を整えた。  
ふらつく身体を悟られぬよう、部屋を後にする為に。  
だがもし、彼女が振り返っていたら…見えたはずだ。  
汗だくで息を切らすアレクの方が、よほど勝ち誇った顔をしていたことを。  
 
「いいや。引き分けだぜ、プラム」  
 
自室へ跳んだプラムは、スカートに、小さな魔力の粒がまとわりついている事に気が付いた。  
僅かに放電している。これは──。  
「アレクの魔力!?」  
自らが大きな魔力の持ち主であるが故に、微細な気配に気付けなかったのだ。  
「不覚を取ったわ」  
彼の意図が判らないものの、直感が危険を感知する。  
慌てて取り除こうとする彼女の指を擦り抜け、小さな魔力の球体は、スカートの内側へ潜り込む。  
「何──ぁ、いやっ、いやいやっ、あ、あああぁぁあんんッ!!」  
サロメがゼタに魔力を与えたように、アレクもプラムへ魔力を飛ばしたのだ。ただし、一部を雷撃のまま含ませて。  
魔力は忠実に動いた。主から託された力を、たしかに伝えた。  
指定された場所へ…プラムの花芯に。  
先程の行為で充血し、膨れあがっていたプラムの芯は、狂暴な快感を耐える事が出来なかった。  
 
「ひぅぁっ、あっ!…はあぁぁ!!」  
絨毯に多数の爪あとつけ、掴んだベットカバーを床に引きずり落とし、喘ぐ。  
髪を散らし、四肢をこわばらせ、声の出る限り啼きわめく。  
「ぁ、あ、あッ、あッ、いやっ、い……っあああ──ッ!!」  
達したプラムは、身体を激しく震わせると、崩折れた。  
「あ…あぁ……んんんっ…、あはぁっ…」  
(まさか、まだ続くの!?)  
プラムの不安は的中した。更に数十秒にわたり、魔力は衝撃を伝え…ようやく消え失せた。  
「はぁ…ふ…あ、ふぅ……っ」  
何度も飛ばしかけた意識を、まどろみへ手渡す直前、プラムは唇を噛みしめて決意した。  
「許さないわよアレク、絶対に!!私を侮辱した事を後悔させてやるわ…一生ね!!」  
 
手加減一つ誤ったことで、計画が裏目に出てしまった事を、アレクは、まだ知らない。  
 
【終わり】  
 

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