ある魔界に、ある女格闘家がいた。名をトーニャという。  
超魔王ラハールの下に仕えて150年。  
今となっては魔界広しといえど、彼女ほどの使い手は早々見つからないだろう。  
それは幾度目かの転生を終えて、ヨーツンヘイムでWMの鍛え直しをしていた時の事であった。  
そこには岩場の影で、無傷ながらもボコボコに殴られている女の子がいた。  
「(まぁ、無敵のパネルにいるからね。)」  
トーニャはもくもくと味方の忍者を殴りながら思った。  
どうやら少女は、無敵パネルから出た時点で瞬殺されるぐらいのレベルのようだ。  
先程から延々と殴られている。  
「(魔物の方も無駄だって気付かないものかな・・・)」  
ネコマタの一匹が気付いたようで、三角蹴りでパネル外に出そうとしている。  
「(う〜ん、やっぱり見過ごせないよなぁ)・・・カゲト。ちょっと待っててくれる?」  
殴り合っていた相棒に話し掛けた。  
「何用か・・・む?あれか。わかった。」  
何の音もなく掻き消えるトーニャ。次の瞬間には少女の目の前に立っていた。  
「あんたらは殴ったってWMないんだから意味ないでしょうが!どうしてもやるってんならあたしが相手だよ!」  
一瞬ひるんだネコマタだったが、トーニャのレベルを見て勝機ありと踏んだか、まとめて襲い掛かってきた。  
「そんじょそこらのレベル1と同じだとは思わない事だね・・・」  
 
―――数秒後には全ての敵を瞬殺したトーニャが立っていた。  
蝶のように舞い蜂のように刺す。  
そんな言葉がしっくりくる戦い振りであった。  
「ま、多少の武器上達にはなったか。あんた、ダメージは無いとはいえ、大丈夫?」  
トーニャは殴られまくっていた少女に話し掛けた。  
彼女はしばらく頬を赤らめぼうっとしているようだったが、話し掛けられハッとして答えた。  
「ぁ、はぃ。あ、ありがとうございました・・・」  
「あんた、アーチャー?早く村に帰んなさい。今、魔界全体がレベルアップしてるから気を付けなきゃだめだよ?」  
「ぅ・・・でも・・・」  
少女が言いよどんでいると、そこにラハールが現れた。  
「おい、城にもどるぞ!・・・ん?どうした、トーニャ」  
「あ、ラハール様。どうもこの子、家出してきたみたいで」  
「ふむ・・・」  
しばらく少女を観察した後、ラハールは口を開いた。  
「おい、おまえ。オレ様の元で働いてみないか」  
「えッ!?ラハール様、何を?」  
「(こいつの装備を見ろ。あれは伝説の弓ギャラクシーだ。思わぬ拾い物かもしれんぞ)  
と、いうわけで、今日からおまえはトーニャの弟子になる事を命じる!!」  
「はい!?なんであたしの!?」  
「おまえが見つけたんだから、おまえのものだ。立派なアーチャーに育てろよ!ハァ〜ッハッハッハッ!!」  
 
高らかに笑いベースパネルに戻るラハールを唖然と見送る二人。  
「・・・ごめんね。ああいう人だから・・・。やめたほうがいいよ?」  
「あのぅ、わたし、もう戻るところが無いんです・・・弟子にしていただけませんか?」  
「う〜、いや、まぁ・・・」  
「お願いします!」  
まっすぐな視線に耐えきれずにトーニャは折れた。  
「わかった。あたしの弟子にしてあげる。あたしはトーニャ。あんたの名前は?」  
「あぁ!ありがとうございます!わたしはクラネリスと申します。宜しくお願いします、トーニャお姉さま!」  
「お、おね・・・普通に師匠って呼んでもらった方がいいんだけど。」  
「うぅ、そうですか?・・・わかりました、師匠」  
ちょっと残念そうな顔をするクラネリス。  
「引き受けた以上、ガンガン鍛えるからね!」  
「は、はい!」  
あわててトーニャについていくクラネリス。  
(そう、わたしはもうトーニャお姉さまのものなんだから・・・)  
 
 

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