選択。  
人生は選択の塊である。  
そして、選択には二種類ある。  
人生を左右する選択と人生を左右しない選択だ。  
 
「お姉さま…接吻をされたことは…ありますか?」  
さあ、ここでプリエに一つの選択肢がつきつけられた。  
「は!?」  
「しっ…お姉さま、声が大きいです。キュロットさんが起きてしまいます…」  
「あ…ああ、ごめん…」  
プリエとキュロットがクレソン城にお泊りに来た時のこと。  
いつもは一人で寝ているというエクレールのベッドに今日はプリエを中央に  
川の字だ。  
キュロットがすやすやと寝息を立て、プリエがいびきをかきだした時のこと  
であった。  
寝ていたプリエをエクレールがそっと起こした。  
そして、先の質問である。  
まあ、主な選択肢としては、お姉さまポジションをキープするために「肯定」  
嘘や見栄はポワトゥリーヌ様が許さないので「否定」  
「き、き、キュロットとなら…」  
「接吻ですよ?おでことか、ほっぺとか手の甲とか足の甲じゃないですよ?  
 お口とお口ですよ?」  
「…ない…わよ…」  
「じゃあ、してみましょう」  
 
さて、プリエはキスをした経験について、正直にノーと答えた。  
ここで、イエスと答えていたら、この後の話の展開は変わっただろうか。  
否、変わりはしない。  
結局、迷った末に答えたプリエの選択は、人生を左右しない方のそれであった。  
 
危うく大声を上げそうになったプリエの口ヲエクレールが両手でふさぐ。  
プリエの表情が少し落ち着いたところで、そっと手を離す。  
「あ、あんた…自分で何を言っているのかわかってるの?」  
「お姉さまは、私が軽々しい気持ちでこんなことを申し上げたと…?」  
「そんなことは言ってないけど、あんた…あたしたち、女の子同士だよ?」  
「そうですよ?」  
顔を真っ赤にするプリエと対照的にさらりと答えるエクレール。  
「は、初めてのキスっていうのは…その…好きな人と…」  
おや、以外に乙女チックなところもあるようで。  
「存じ上げていますわ。私だって、本で読んで知っています」  
「なら、あんたねぇ…」  
「私、お姉さまのこと好きですよ?」  
「なっっ!?」  
「お姉さまは私のことが嫌いなんですね…」  
プリエに背を向け、よよよと嘘泣きを始めるエクレール。  
「そ、そんなこと言ってないでしょっ」  
「じゃあ、私と接吻してくださいまし」  
 
どうにもこうにもエクレールペース。  
女の子同士だから、ノーカンとプリエも諦め…ほんのちょっぴり興味がない  
こともなかったことなんてあったりなかったり、そんなこんなで。  
 
「……」  
「…お姉さま、目は…閉じるものですよ…」  
「そ、そういうものなの?」  
「そういうものです」  
目を閉じると、胸の鼓動が倍くらい早くなったように思えた。  
初めての唇と唇で交わすキス。  
しかも、女の子同士。ポワトゥリーヌ様はお許しにならないんじゃないかしら、  
キュロットが起きたらどうしよう…など、もう思考回路は回路全開光ファイバー  
コミュニケーション夢操作ワンである(意味不明)  
エクレールの静かな息遣いが迫る気配を感じ。  
そして、唇に柔らかい感触を感じた。  
が、それは唇というにはあまりに湿り気を帯び…驚いたプリエは思わず目を  
開いた。  
「もう、お姉さまったら唇が荒れていらっしゃいます…」  
そう囁きながら、まるで子犬のようにエクレールの舌がプリエの唇を舐める。  
「ん…」  
思わず、プリエの口から甘い吐息が漏れた。  
プリエは、だんだん頭が惚けてくるのを躰で感じていた…。  
 
「んふ…お姉さまったら…普段、お肉ばかり食べられて野菜をあまり摂られては  
いないのではないですか?ちゃんと栄養のバランスを…」  
目を細めて微笑むエクレール。  
「そんなアルエットみたいなこと言わな…」  
プリエの口から自分以外の人間の名が聞こえた瞬間、エクレールの唇が  
プリエの唇を塞いだ。  
重なる唇。  
そして、その触れ合う唇を先に離したのもまたエクレールだった。  
「い、いきなり何するのよっっ」  
「お姉さまったら、接吻の前に他の方の名前を口にするなんて…」  
「ご、ごめん…」  
「許しません…そんな唇はこうです…」  
再び、三度、四度、五度、時にエクレールから、時にプリエから、  
互いに相手の唇を求め、まるで餌をついばむ小鳥のように短いキスを  
繰り返す二人。  
初めて唇が触れる前に頭をぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる  
回り回っていたことなど、まるで霧の中に消えてしまったように、  
脳髄は物を考えることを停止し、ただひたすら唇から伝わる甘美な感覚を  
身体の隅々に伝えることにのみ活動していた。  
 
「ん……」  
「…んぅっ…」  
「はぁっ…」  
最初は懸命に息を殺し、息を潜めていた二人だったが、早くなる鼓動、  
乱れる息に、少しずつ声が大きくなる。  
「お姉さま…あんまり大きい声を出すと、キュロ…んんっ…」  
「…キュロは大丈夫。寝ているから、大丈夫……ん…」  
互いの首の後ろに手を回し、知らず知らずのうちに身体を寄せ合い、  
顔の向きを少しずつ変えながら、互いの唇を様々な角度で触れ合わせるうち、  
プリエはエクレールに唇を舐められた時の感触を思い出した。  
「ん…んむっ…んんっっ…」  
最初は、エクレールの唇を舐めるように、そして少し開いた上唇と下唇の間に  
プリエは舌を滑らせた。  
プリエの舌に触れたエクレールの舌は、始めこそ驚いたように口の奥へと  
引っ込んだが、やがて恐る恐るプリエの舌に接触を始め、少しずつ、まるで  
舌同士がキスするかのように触れ合う。  
知らず知らずのうちに互いの感触を確かめるように絡み合う舌、そして脚。  
息遣いがどんどん荒くなっていく。  
「…ふぁっ…んんぁぅ…」  
二人の口腔内には、もはやどちらのものとも知れぬ涎が溢れ、混ざり合う。  
「お姉さまっ…お姉さまぁぁっっ」  
「エクレールっ、エクレールぅぅぅっ」  
 
「大変…お姉さま…」  
急にエクレールが素に戻った。  
「ど、どうしたの?」  
「私、お姉さまとの接吻に夢中なあまり、下着を汚してしまったみたいです…。  
 こんなこと、今まで一回もなかったのですけれど…」  
「ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」  
「ごめんなさい…。履き替えて来ますので…」  
「じゃ、最後にもう1回だけ…ね?」  
「…もう、お姉さまったら…」  
そっと唇を重ね、名残惜しそうに離す。  
「お姉さま…また…泊まりにいらしてくださいね…」  
「うん……」  
 
さて、冒頭部のプリエの選択は、彼女の人生を左右しない選択だった。  
しかし、エクレールとキスをする、しないという選択は彼女の人生を大きく  
左右したのではなかろうか。  
そう、まるで左右のオッパイのように。  
 
人生は、選択の塊。人生を左右する選択にはご用心。  
 
 

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