聖女会の若きシスター、プリエがラ・ピュセル世界のデパ地下に相当する  
施設で超人気の、モーブーも真っ青の鼻息荒い主婦の行列が出来る噂の  
一日限定十色の焼き豚サンドイッチを人に言える努力とちょっと言えない  
努力の末に獲得し、今まさに最初の一口を食さんとした時のことだった。  
まるで夢から醒めたような感覚を一瞬覚えたプリエは、気づくとまるで  
見知らぬ場所にいた。  
 
「…およ?」  
下を見れば、何やら野茂…違う、ものものしい魔方陣。  
周りを見れば、少年が一人と、彼よりは少し年上のような少女が一人、  
それから辛気臭そうなジイさんが数名。  
「ふむ。とりあえず、護衛獣の召喚は成功のようじゃな」  
「やれやれ、てっきり失敗でもしたのかと思ったぞい」  
「それにしても、見たことない召喚獣だな」  
プリエを興味深そうに…それこそ、珍獣でも見るかのような視線でじろじろと  
見つめるジイさん+生意気そうな少女ズ。  
「ちょ、ちょっと、もしもーし」  
「まあ、良い。ともかくお前と共に戦う護衛獣は召喚された。明日の試験に  
 備えて…」  
「人の話を聞かんかーーーーーーーい!」  
脳天にチョップをくらい、うずくまるジイさんA。  
「ああっ、試験官!」  
「貴様ァ、召喚獣の分際で!」  
「誰が獣かーーーーっっ!!」  
プリエの暴れた後、ジイさんズはKOされ、唖然とした少年と少女だけが  
取り残された。  
「ふーっふーっふーっ」  
「あ、あのぅ…」  
「あーーたーーーしーーーのーーー焼ァァァァき豚サンドォォォォォ!!」  
 
部屋には、気の弱そうな少年と生意気そうな少女とプリエの三人。  
「ええと、とりあえず、状況を説明するとですね…」  
プリエは、彼の召喚術と呼ばれる魔法によって、この世界に呼ばれたらしい。  
「そう。アンタを召喚したご主人様を守る護衛獣としてね」  
「ご主人様?護衛獣?」  
「そーよ。私たちは召喚士。アンタのご主人様」  
「召喚士…?」  
「そーよ。それで、あなたは護衛獣」  
「だっしゃあぁぁぁぁぁぁ!」  
この世界におけるちゃぶ台に相当する小型の円卓を勢い良くひっくり返す  
プリエ。  
「お、落ち着いてください。ちゃんと説明しますから」  
「ちゃんとも何も今の説明が全てじゃない」  
「そんな言い方されたら、誰だって怒るよ…」  
「フン。召喚獣は、召喚獣じゃない。召喚士のアンタがちゃんとしつけて  
 あげないといけないのよ?」  
「だからって、そんな言い方は…」  
「まあ、いいわ。じゃ、アンタが説明しなさいな」  
 
「…と、まあ、こういうわけなんです」  
召喚術と呼ばれる魔法の勉強をしてきた彼が、いよいよ一人前の召喚士と  
なるための試験のために、プリエは異世界から召喚されたのだという。  
召喚獣というのは、異世界から召喚された者の総称らしい。  
「もちろん、あなたを元の世界に送還することも出来ます。ですから、  
 あなたが…」  
「帰る!」  
「…そうですか…」  
「ちょっと、アンタ、こんな強そうな護衛獣みすみす逃すつもり?」  
「…さっきから聞いてれば、あんた随分と偉そうねぇ…」  
「そうよ。召喚士ですもの」  
「…へぇーえ」  
「反抗的な目ね。私たち、召喚士っていうのは、アンタみたいな反抗的な  
 召喚獣を無理矢理制御することだって出来るのよ?」  
視線だけで人が殺せそうな剣幕のプリエをフフンと鼻で笑う少女。  
 
 
「ふぁっ…そんなにぎゅっとにぎにぎされたら、…おかしくなっちゃう  
 よぉぉぉ」  
険しい山岳をものともせず踏破する四足の獣のようにしっかりと発達した  
両足の間に屹立と天に向かってそびえたつ棍の如きそれを少女に握られ  
哀れな召喚獣は、懇願するような目で少女に言った。  
「お願い、そんなに強くぎゅーってしないでぇ」  
そんな召喚獣を嘲るように見下ろす少女。  
「フン、さっきまでの威勢の良さはどこに行ったの?まるで発情した牝犬ね。  
 私に、これを握られてそんなに気持ちいいの?」  
「いい…いいですぅ…」  
「とんだ変態ね。このまま握りつぶしてやろうかしら」  
「ら、らめへぇっ!そんなにっ!強くにぎられたら…ひぁぅっ!」  
「本当によがってるわ。気持ち悪ぅい」  
そう言いつつ、少女はゆっくりと、しかし力強く、まるで野球選手が新品の  
バットの手応えを確かめるように召喚獣のそれをしごき出した。  
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙、いいいっいいのぉっっ」  
「罵られながら、感じちゃってるのね」  
「もっと、もっとぉぉぉっ」  
少女が徐々に手を動かす速度を早める。  
「はっ…ぅぁっ…ああっ…みゃああああああああ゙あ゙あ゙あ゙」  
それに伴い、召喚獣の発する声も大きさと甘美さを増して行く。  
「だめぇえっ!イくっ!でりゅぅっ、おちんぽみりゅくでちゃうぅぅぅぅ!」  
 
 
「…と、まあ、こんな具合にアンタをみしゃくら語で乱れさせることだって  
 できるわけよ」  
安永航一郎の描く漫画のキャラのような視線で、少女はプリエに語った。  
「…マジか」  
「いや、そんなことはしませんけどね…」  
「されてたまるもんですかっ!それに私の股間にはそんなもんないわよ!」  
どうもプリエにとって、どうしてもそれは言わなければならないことの一つ  
だったらしい。  
「知らないわよ。アンタの股間なんか見たことないし」  
「当たり前でしょーが…」  
怒りに拳を震わせるプリエ。  
「ともかく、冗談じゃないわ。私には光の聖女になるって使命があるんだし、  
 弟だって…きっと私の帰りを待ってるもの…」  
「……」  
それを聞いた少女が表情を曇らせる。  
「わかりました。あなたにみたいに強い人が一緒に戦ってくれたら心強かった  
 んですけど、そういう事情じゃ仕方ないですよね」  
 
 
夜も更け。部屋の外からひそひそと話し声が聞こえる。  
部屋の中からは気持ち良さそうないびき。  
「…よくもまあ、知らない場所で平気で寝られるもんね。あの召喚獣」  
「きっと、疲れてるんだよ…」  
「で。どーすんのよ。明日の試験。一人でやる気?」  
「仕方ないよ…」  
「今日の護衛獣の大暴れで試験官の心象、かなり悪いわよ。それに、  
 モンスター相手にあんた一人で何が…」  
「…やるだけやってみる」  
「武器だって使えない、召喚術だって中途半端、あんたみたいな…」  
「でも…」  
少女の声を少年が遮った。  
「あの人、弟さんが待ってるって言ってた。きっと、あの人の弟さんは  
 すごく心配しているよ…ボクだって、姉さんがいきなりいなくなったら…」  
「…アンタ、召喚士になれなかったらどうするつもりよ…」  
「そうだなぁ…でも、ダメだった時のことなんて考えるなっていつも言ってる  
 のは、姉さんじゃないか。大丈夫。きっと、何とかなるよ…」  
「…無理矢理にでも操っちゃえばいいのに…アンタ、バカよ…」  
 
(あの子たち…姉弟だったんだ…)  
 
 
翌日。  
「…おや、昨日の護衛獣はどうした?」  
「試験には、ボク一人で臨みます」  
「…さては、逃げられたか。未熟者め」  
頭のてっぺんにまだ痛々しいコブのある老人が鼻で笑う。  
「いいえ。ただ、彼女には戦わせたくない。それだけです」  
「よかろう。それでは始めようか」  
地面の魔方陣から3体のモンスターが湧き出る。  
(…思えば、小さい頃から召喚士になりたくて、勉強ばっかりしてたけど…  
 チャンバラごっこくらいしとけば良かったなぁ…)  
試験官の指令が下り、3体のモンスターは、少年に襲いかかる。  
モンスターの鋭い爪が少年に迫ったその時!  
「やっきぶたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」  
ボスッ!ドカッ!ボグシャアァァァァァ…  
少年と対比すると、いかにも強そうなモンスターたちだったのだが、  
ジムの前に立ちはだかるビグ・ザムのように圧倒的なプリエの暴力の前には  
一瞬で叩きのめされていた。  
思わず、それを見て口をあんぐりの一同。  
「びびって目をつぶってたら、防げる攻撃も防げないでしょーが!  
 男の子なら、しゃんとしなさいっ!」  
「どうして…ここへ…?」  
「はじめまして。じゃあ、さようなら…じゃ、あんまりにも味気ないでしょ。  
 でも、手助けするのはこれっきりだからね!」  
「ありがとう…」  
 
 
そして、魔方陣の部屋に再び少年と少女とプリエの三人。  
「ごめんね、あなたの護衛獣になってあげられなくて…」  
「いえ、あなたが謝ることじゃないですよ。むしろ、勝手にあなたをこっちの  
 世界に連れて来てしまって、本当にごめんなさい」  
「弟を助けてくれてありがとう…」  
「こっちのことは、よくわかんないけど、頑張ってね」  
「はい…。お元気で…」  
「アンタみたいに強そうな召喚獣、もったいないわぁ。私が欲しいくらいよ」  
「人を獣呼ばわりすな」  
「じゃ…」  
魔方陣に柔らかな光が集まってくる。  
やがて、魔方陣の中央からまばゆい光があふれ、プリエの体を包む。  
(あの男の子だけは、私を召喚獣って言わずに人として扱ってくれていた  
 なぁ…。それに何だか…キュロットのこと思い出しちゃったわ…。  
 あの子たちに、女神ポワトゥリーヌ様のご加護がありますように…)  
 
19世紀イギリス ロンドン  
「…って、ここ…どこよ…」  
気がつくと、プリエはまた魔方陣…また違う場所のようだったが、  
魔方陣の中央にいた。  
周りには山羊の頭みたいなのをかぶった半裸の男やら何やら。  
「…これが魔王か?随分とイメージが違うが…」  
「誰が魔王かーーーーーーっ!!」  
 
彼女の旅は、当分続きそうである。  
 

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