ラハール「でやっ!!」
ラハール「ドリャ!」
ラハール「くらえぇぇ!!」
次々に襲い掛かってくる魔物達を圧倒的な力でなぎ倒していくラハール。
殴り飛ばし、蹴り飛ばし、吹き飛ばす。
ラハールの通ったあとはボロボロになった魔物たちが折り重なり、うずたかい山になる。
しかし、ラハールにとってこんなものは準備運動でしかない。
目の前に見える敵を全て倒し、一息つく感じのラハール。
その時、後ろの茂みがガサガサ動く。
ラハール「まだいたか!死ねいっ!」
マローネ「キャア!」
ズバッッ!
ラハール「ん?」
マローネ「ひ…ひぃ…」
ガサガサ動く茂みの正体はマローネだった。
間一髪、ラハールの剣はマローネの頬をかすり、後ろの巨木に突き刺さった。
巨木はミシミシと音をたて、真っ二つに割れた。
マローネは思わず腰がぬけて、その場にへたれこんだ。
ラハール「ん?なんだペタンコか?
そんなとこから出てくるから、あやうく切り殺してしまうとこだったぞ」
ラハールに少しもわるびいた様子はない。
まるで出てきたマローネが悪いというような感じだ。
マローネ「な…な、何言ってんるんですか。
一人で勝手に特攻なんてしないで下さい!
それに私、ペタンコなんて名前じゃありません
マローネっていう両親からもらった名前が…」
ラハール「うるさいっ!
オレ様は魔界の王なのだぞ!
人間の言うことなど、いちいち聞いていられるか!
オレ様はやりたいようにやる!
それにオマエの名前などペタンコで十分だ!
今日からオマエの名前はペタンコだ!」
マローネ「そ…そんなめちゃくちゃなぁ………」
今回は魔物退治の依頼をうけ、緑の守人島へとやってきたマローネ。
新しく仲間に加わったラハールたちも一緒だった。
ラハールの活躍(?)のおかげで仕事は無事終わったが
この我侭で乱暴なラハールの扱いにマローネは頭を悩ませていた。
それでも、この見た目は同じぐらいの年齢にみえるラハール。
なんとかして仲良くなりたいと思うマローネだったが………
ラハール「ふぅ…しかしこの島は熱いな」
マフローをパタパタさせるラハール。
それに気がついたマローネ、
マローネ「ハイ。これ」
ラハール「ん?なんだこれは?」
マローネ「人間界の飲み物よ。
喉が渇いてるかとおもって」
ラハール「うむっ。なかなか気が利くやつだ」
マローネからもらった飲み水を口に入れようとするラハールだったが…
ラハール「ん?まてよ。どうにも話がうますぎる………。
…ささか中に毒でも入っていて…オレ様を毒殺しようとでも!!!?
うっ!いちいちそんな顔するな、飲めばいいんだろ。飲めば!」
ごくごくごく
ラハール(ふむっ…人間界の飲み物とやらもなかなか…)
ラハールが飲んでくれて満足な表情を浮かべるマローネ。
悪魔の口にあうかどうか、正直疑問だったが渡してみて正解だったようだ。
ニコニコしたマローネが気になりながらもラハールは水を飲み続けた。
相当喉が渇いていたようだ。
マローネ「あっ…ラハールさん。
そのままでいいから聞いて下さい。
ラハールさんたちのおかげで、私の仕事もずいぶんとはかどりました。
ありがとうございます」
ラハール「ぶぶっ!」
ラハールは噴出した。
マローネ「キャ!キャア!」
ラハール「ゴホゴホッゲボゴホッ」
むせくりかえっている。
どうやら水が入ってはいけない方に入ってしまったようだ。
マローネ「ど、どうしたの?や、やっぱり、お口にあわなかった?」
ラハール「バ、バカ者!!!!
悪魔に『ありがとう』などいうヤツがあるか!
おもわず噴出してしまったではないかっ!!
ううっ…気持ちが悪い…寒気がするー………ブルブルブル」
ラハールはこの手の言葉が大嫌いだ。
なんだか悪いことをしてしまった気分になってしまったマローネ。
素直な気持ちを言っただけなのに、余計に嫌われてしまったとおもうと悲しくなった。
その時
ガサッ
草むらが大きく動く。
ラハール「あぶない!マローネ!」
マローネを草むらに押し倒し、身構えるラハール。
マローネ「むぎゅう」
ガバッ!
ラハール「!!!」
しかし、草むらから現れたのはただの通りがかりのウサギリス。
ウサギリスは何事もなかったかのように森の奥へと歩いていった。
ラハール「………」
マローネ「………あ、あの…ラハールさん………」
ラハール「な…なんだ………。
!!!!!?」
ラハールの髪の触覚のような部分がビンビンに跳ね上がる。
気づかなかったが
ラハールはマローネをよつんばいで押し倒す格好になっており、
そしてラハールの左手はマローネの平ぺったい胸の上にあった。
ラハール「!!!」
ラハールは思わずそのまま硬直。
マローネ「………」
ラハール「………」
見詰め合う視線と視線…。
なぜか頬を赤らめてしまうマローネ。
そのマローネの困った感じの表情に、おもわずラハールの左手に力が入った。
マローネ「あんっ!」
アッシュにさえ触られたことのない、初めての胸の感触におもわず甘い声をこぼしてしまう。
マローネは本でしか読んだことがない大人の世界に足を踏み入れてしまうのかと思うと
不安と期待で胸がドキドキした。
目は涙ぐんでいるが抵抗はしない。
マローネは目を閉じて覚悟を決めた。
そんなマローネの態度にラハールの理性ももう限界だ。
とその時
フロン「コラぁーーーーーーーーーー!!!!」
ラハールの体がびくっと反り返る。
マローネ「!!!」
ラハール「!!!」
二人して振り向いた先に立っていたのは、
肩で息をしているフロン!
フロン「ラ、ラ、ラハールさん!いったい何やってるんです!!!」
その顔はトマトのように真っ赤だった。
ラハール「ち、違うぞフロン!これはだな…不可抗力というやつで」
まるで浮気現場を見られた夫のようにあわてふためくラハール。
そこに魔王としての威厳は全くない。
必死に弁解しようとするのだが…
エトナ「さっすが殿下!
こんな人ッ気のない密林に幼子をつれこんで襲おうなんて
冷酷非道にもほどがあります」
中ボス「ウィー。
同じ男子として、はやる気持ちはわかりますが、
でもゴーカンはいけません。ゴーカンは」
プリニー1「よ!この極悪人!」
プリニー2「悪魔の中の悪魔」
完全に弁解のタイミングを逃したラハールに
フロン「ラハールさんーーー!私あなたのこと見損ないました!
涙ぐむフロンの言葉がつきささった。
フロン「いつまで乗ってるんですか!
はやくはなれてください!」
フロンは強引にラハールを吹き飛ばす。
ラハール「だ、だから違う!
な、なんでオレ様があんなペタンコなんかとっ!」
エトナ「何言ってんですか!?
それじゃあなおさら殿下の直球ど真ん中じゃないですか!」
ラハール「ぐっ!」
マローネ(えっ?)
キョトンとしているマローネにアッシュが心配そうにやってきた。
アッシュ「だ、大丈夫だったかいマローネ?
へんなことされなかった?」
マローネ「えっ…いや…その…あの…」
偶然とはいえ、あんな状況になってしまい
しかも一瞬とはいえ、ラハールにめちゃくちゃにされることを望んでしまった自分に
いまさら恥ずかしくなって頭から蒸気のような煙をだすマローネ。
アッシュが手を差し伸べ、立ち上がろうとするマローネだったが
マローネ「いたっ!」
急に激痛。
思わずスカートの中の太ももに手を伸ばすと指先には血がべっとり…。
マローネの白いスカートにも血が染み付いていた。
どうやらラハールに押し倒されたさいに、木々か草の茂みで切ったらしい。
まぁ、それほど深い傷ではないのだが、
どうゆうわけかその血を見たアッシュの形相がみるみる変わり………
アッシュ「ラハール君!マローネを傷モノにした責任はとってくれるんだろうね!!」
マローネ(!!!?)
猛烈な抗議の嵐。
フロンはさっきからずっと泣いているし、さすがのラハールもたじたじ。
ラハールとフロンはいい仲のようだと察したマローネは
なんとかフロンの誤解だけでも解いてあげようと思って立ち上がる。
ラハール「えーい!だからオマエら人の言うことをきけっ!」
フロン「ううっ…ひどいですラハールさん…。
私というものがありながら…あんなペタンコな娘に手をだしちゃうなんて。ひぐっひぐぅ」
マローネ(ぴくっ!)
マローネの額に血管が浮く。
マローネ「ちょ、ちょっと!だ、だれがペタンコですって」
アッシュ(気にしてたんだ…)
フロン「な、なによ!人のダンナに手をだしてぇ!
この悪女!毒婦!ドロボウ猫!バカッ!」
マローネ「……あ…あ………悪女…!?」
思いもよらなかったその言葉にマローネは一瞬世界が遠ざかるのを感じた。
その後カチンときたマローネは、ついついラハールの腕にしがみついて言った。
マローネ「あ、あなたみたいなトシマの女より、よっぽどマシよ。ねっラハール」
ラハール「な、マ、マローネ…何をいって!!?」
フロン「と、トシマっていうな!」
フロンの目がゴォォと燃え上がった。
バリバリバリバリ
マローネとフロンの視線が空中でぶつかり火花を散らす。
フロン「こうなったらどっちがラハールさんにふさわしいか勝負よ!」
マローネ「望むところよっ!」
アッシュ「お…おい…。マローネ…何をそんなに…」
マローネ「止めないでアッシュ!これは女の意地と誇りをかけた戦いよ!」
アッシュ「…」
ラハール「…」
エトナ「フフッ。おもしろくなってきたわ」
木陰で小悪魔のような微笑を見せるエトナだった。