ここはオバケ島に唯一ある家の中。
マローネの部屋はその二階にあった。
「はぁー」
大きくため息をついているマローネの表情は重く暗い。
「どうしたんだい?マローネ。元気ないね」
アッシュが背後霊のようにたっている。
「はぁー………」
これでもう何度目のため息だろうか…
言葉のはずみというか、なりゆきというか、
とにかく、ラハールを賭けてフロンに対し宣戦布告してしまったマローネ。
相手は天使…あまりにも常識の範疇を超えた存在………。
だが、そんなことは意外とどうでもよく
むしろマローネの心を痛めてるのは
人(?)の彼氏を奪おうなどという、自分の心の卑しさに対する良心の呵責であった。
イヴォワール世界でも不倫は決して褒められたものではない。
「あー。もー。どーしようー。
こんなこと親友のカスティルに知られたら軽蔑されちゃうわ…」
「その前に、今頃天国のヘイズとジャスミンもさぞかし嘆いていることだろうね」
「むぎゅう」
マローネはベットから落ちてつぶれた。
こんなことではいけない思ったマローネは
「よし!決めた!」
急に立ち上がった。
やはり人様のダンナを奪おうなんて、人間としての道徳に反するという結論に達したようだ。
マローネはフロンに謝りに行くという決意をアッシュに打ち明けた。
「それに相手は天使様だもの…きっと笑って許してくださるにちがいないわ!」
「そうだね。マローネに略奪愛なんて真似は似合わないよ。
僕も一緒に言って謝ってあげるから」
「なんだか心が軽くなった気がするわ。心配かけてゴメンね、アッシュ」
マローネはようやくにっこりと笑った。
いつもの元気なマローネに戻り、アッシュもようやく一安心。
………が…悪魔はすぐそこでせせら笑っていた。
「甘いわよぉ〜マローネちゃん」
窓には赤い髪をツインテールで結んだ少女。
「あっ…あなたは…えーと…たしか………エトナさん?」
いつの間にやらエトナがそこに座っていた。
ふと、気がつくとアッシュがいない。
「あ…あれ?アッシュは?」
「リムーブでもしちゃったんじゃないの?」
「もー。
…いつも肝心なときにいなくなっちゃうんだからぁ」
一緒に謝ってくれる言って、心強い味方を得たと思った瞬間もうこれだ。
マローネはぷっくらと頬を膨らませた。
「で、エトナさん?私に何か用ですか?」
「そうなのよぉ!聞いて聞いてマローネちゃん!」
エトナは語った………。
それまで平和だった魔界が、極悪天使フロンの襲来によって変わってしまったことを…。
その天界で養なわれた脅威のエロテク(エロ・テクニック)で
あっという間に魔王ラハールをたらしこむと
魔界の女王の席に我が物のようにふんぞり返り、
下々のもとには1日20時間の過酷な強制労働を強要、
自分自身は魔王城で毎日のように御馳走を食い荒らすていたらく。
逆らうものは死刑!
悪逆非道の限りを尽くし、ついには大天使に堕天されるにいたり、
いまや完全に魔界の独裁者…支配者きどりだという。
そして、もともと優しい魔王でだったラハールも
そのフロンの悪影響で極悪人になってしまい………今にいたる…と
…………………………もちろんウソ。
しかし純粋なマローネは疑うはずもなく。
マローネ「ゆ、許せないわ!エロ天使フロン!!」
すっかりやる気まんまん。
「わかりました!私が必ずラハールさんを救って見せます」
「頑張って!マローネちゃん。魔界の平和はあなたにかかってるわ!」
さっそく、火がつくような勢いで部屋を飛び出ていったマローネ。
「あの子もたいがい頭、弱いわね…」
そう言いながらエトナが開けたクローゼットの中には、猿ぐつわをされたアッシュがもがいていた。
「あんたもあんな幼い子のお世話するの大変ねぇ〜ンフフ」
「ふがっふがっ」
ついさっきまでは幸せな家庭を壊すようでいまいち気が進まなかったマローネだったが
エトナの話を聞くと急に胸から燃え上がる…使命的な何かを感じるようになっていた。
さっそくラハール探しにオバケ島を走り回ろうとしたのだが…。
ドサドサドサ
「!?」
突然、屋根の上から人が落ちてきた。
マローネは何かいやな予感がして、屋根の上へとよじ登る。
「!!!」
マローネは自分の目を疑った。
屋根の上から見える高い木の上には
あの恐怖の象徴サルファとも戦った屈強のファントムたちが
山のように積み重なってピクリともしない。
そしてその山の上に立って高笑いをあげているのは…………案の定ラハールだった…。
「ななな、なにやってるんですかっ!!!」
マローネは思わず叫ばずにはいられなかった。
「ハァーハッハッハッハッハッ!!
ちょうどいいときにやって来たな、ペタンコ!
見ているがいい!!
この魔界の王ラハールさまがオマエのもつ最高到達点を更新してやる様をっ!!」
たしかにマローネは最高到達点のギネス記録の保持者だが、
それは木々や岩によって積み上げたものであり
人を足場にするなんてひどすぎる…。
「なっ………何を言ってるんですかっ!
やめてくださいそんなこと!
…それに私ペタンコじゃありません!」
「うるさい!
オレ様は一番が好きなのだ!!
それにオマエごとき貧相な体はペタンコで十分だ!
とりゃ!!!」
「あっ!ああ〜!倒れてる人を踏んじゃダメぇ!」
ボゴンッボゴッ!
あっという間に勇者達の魂は壊魂…。
「あ〜ん。またアイテム代かさんじゃうよぉ…」
半分あきらめ気味の泣き声をあげるマローネ。
「ちっ!使えんヤツらだ」
ラハールはマローネの泣き言などには耳も貸さず、再び足場を作り始めるのであった。
人を積み上げながらラハールは訪ねた。
「で、今日はいったい何しにやってきた。
オレ様は見ての通りとっても忙しいのだ!!」
「うそつけ!めちゃくちゃヒマそうじゃねーかっ!」
どこかでエトナの声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
「いえっ…その………実は…」
どうやらフロンはいないようだ。マローネにとっては好都合。
しかし、何から話してよいやらわからない。
話そうとしても、どうにもこうにも、しどろもどろ。
マローネは両腕の人差し指をあわせて顔を赤らめ
ただラハールが人を積み上げる姿を見つめるだけだった…。
マローネは同年代の男と会話なんてしたことがないし
ましては手を握ったことすらない、とってもオクテな女の子だった。
それを知ってか知らずか人山の上に立っていたラハールが
空中三回転をしてマローネの前に着地。
「フフフ!
そんな顔をするな!
キサマが言いたいことなどとっくに察しておるわ」
驚いたのはマローネのほうだった。
「この魔王ラハール!
女性に対する紳士のたしなみぐらい、とうに身に付けておるわ!!」
「ら…ラハールさん?」
キョトンとしているマローネだったが、
自分の気持ちが通じたのかと思うと急に嬉しくなった。
「まぁ、オマエのその気持ちも分からんでもない」
マローネはラハールにあわせ、うんうんとうなずいた。
「たしかに女の口からは言いにくいことだろう」
マローネは目に喜びの涙を浮かべ始めた。
「この前の続きがしたいのであろう?」
「ハイ!
…………………………え!?」
続く