「ね〜ヴァルっち〜大人の営みってさ、どんなことなわけ?」  
事の発端はフーカの何気ないその一言から始まった。  
「は?」  
突然すぎる質問にヴァルバトーゼは読んでいた書類から目を上げ、こいつは何を言っているかと言うような  
目でフーカを見る。  
「いやさ、コレアタシの夢なわけでしょ、それなのに巻き起こる出来事ってなんかガキ臭いことばっかじゃん?  
 ここらで一つアダルティーな出来事が欲しいわけよ。けどそれってどんなことなのかな〜って考えててさ。  
 ヴァルっちわかる?」  
「下らん、これがまだ夢だと思ってる時点でお前の脳みそは赤ん坊以下だ。何がアダルティーだ。  
 アホなこと言ってないでさっさと現実を認めてプリニーになれ」  
と、再び書物に目を落とす。  
普段ならここで会話が終わるのだが、今日は少し勝手が違った。  
「ヴァルっちてさ、アタシのこと本当にプリニーって見てるの?」  
「何?」  
「実は、心の奥底ではコレがアタシの夢だってわかっててさ、アタシがプリニーじゃないって思い始めてんじゃないの〜」  
「そんなわけがあるか!もしコレがお前の夢だとわかったら約束通り潔くお前専用のプリニーになっているわ!!」  
遠回しに逃げていると言うような言い回しにヴァルバトーゼはすぐに喰って掛かる。  
「俺は逃げたりせん!お前との約束はしっかり覚えている!!そして俺はあの日に誓った。お前にこれが現実と認めさせるとな!  
 そしてお前は正真正銘のプリニーだとな」  
どこに向かって言ってるのかわからないように力説するヴァルバトーゼに若干引きながらもフーカは  
「じゃあさ、大人の営みってのを教えてよ、ヴァルっちプリニー教育係でしょ、」  
「ぐ、そ、それはだな…」  
「アレアレ〜どうしたの〜?プリニー教育係なんでしょ、だったらプリニーからの質問には答えるのが普通ってもんじゃないの?」  
正確にはプリニーとしての基礎を教えるのがプリニー教育係の仕事で、大人の営みなどと言うのは全くの専門外なのだが  
ヴァルバトーゼにはそこまで頭が回らない。  
決して頭が悪いのでは無く直情的すぎるこの吸血鬼はプリニー教育係とはプリニーの質問には答えるのが義務と思い込んでいる。  
結果として、反論することが出来ず、こう答えてしまう。  
「いいだろう!プリニー教育係として大人の営みとはなんたるか、その体に徹底的に叩き込んでやる!!」  
「よっしゃあ!さすがヴァルっち話がわかる!!」  
「ただし!!一つ条件がある!」  
 
喜ぶフーカの前にヴァルバトーゼはビシッと指を突き出す。  
「大人の営みを学ぼうとするなら、まず精神的に大人になる必要がある!」  
「なんでよ〜大体なってないから大人ってのを学ぶんじゃないの?」  
「甘い!学べるものが全てだと思うな!!大人としての行動と言う物があるのだ」  
とヴァルバトーゼは持っていた書類をばらまきながら熱に浮かされたように演説する。  
「大人!それすなわち、決してあきらめずいかなる障害にもめげず、夢をあきらめぬ者のことを言うのだ!!」  
「ええ〜そうかな〜適当な所で見切りをつけられるようになった人間を大人って言うんじゃないの?」  
「ぐぬ…」  
思わぬ、そして的確なツッコミを、普段は知性の欠片も見せないようなフーカがしたため、ヴァルバトーゼは思わず言いよどむ。  
そこを見逃さずフーカは畳み掛ける。  
「大体さ、大人がみんな夢をあきらめなかったら社会ってのが成り立たなくなっちゃうじゃない。  
 この程度ってあきらめて妥協することで」  
「と、とにかくだ!!」  
あきらかにブラックなツッコミに場が凍りつき始めた上、なんだかフーカの裏側が見えそうな発言をヴァルバトーゼはさえぎる。  
「夢を半ばであきらめるような奴を俺は大人と認めん!そしてそんな奴は大人の営みなんぞ教えるつもりも無い!」  
「何よ、そんじゃどうしろってのよ」  
「簡単だ、小娘よお前が俺にかざした目標を言ってみろ」  
「イケメンの王子様と街角でぶつかって駆け落ちする」  
「違う!」  
「ああ、じゃあアレだ!ギンザパルテノンのゼリーでプール一杯埋め尽くして」  
「もういい!!」  
このままだと下らない不毛なやりとりが延々と続くと判断したヴァルバトーゼは静止をかけ、先に答えを言う。  
「お前の夢は魔界大統領になることだろうが!!」  
「あ、それもう興味無いし」  
あんまりにもあんまりな切り替えしに思わず、ヴァルバトーゼはガクっと仰け反ってしまう。  
確か、しょっちゅうアタシは魔界大統領になるだなんだとほざいてたとは思えない反応にこれ以上突っ込むのも  
馬鹿馬鹿しくなってくる。これ以上会話を続けると無駄に疲れるだけだと判断したヴァルバトーゼは話をまとめる。  
「…とにかくだ。お前に興味があろうと無かろうとアレこそがお前の目標だったはず、それを中途に投げ出す者が大人たる資格は無い」  
「何?じゃあ、アタシに大統領になれと?」  
「そうは言わん、だが一度豪語した以上、なんらかの行動を示してもらう。そうだな現大統領に居座っているあの男にガツンと一撃  
 喰らわして見ろ。もちろんお前一人の力でな、そうすればお前を大人と認めてやる」  
「大人として認められれば、大人の営みってのを教えてくれんのね?」  
「ああ!約束してやる!お前がたった一人の力であのアホに一撃喰らわしたら、大人の営みをお前の満足するまで  
 徹底的に教えてやるとな!!」  
「な〜んだ簡単じゃん、了解!ヴァルっち!その約束忘れないでよ!」  
そう言うと、フーカは一目散に駆け出して行った。  
(ふん、愚か者め)  
ヴァルバトーゼは腹の中でそう笑う。  
元より大人の営みなんぞ教えるつもりは無い。いくらプリニー教育係と言っても簡単に出来ることと出来ないことがある  
だが、正面切って断ってしまえば教育係の沽券に関わる。  
ならば、手は一つ、教える為の条件をつければいい、それはとてつもなく難しいのを。  
(いかに小娘とは言え大統領邸を守護する上級悪魔をたった一人で倒すのは不可!)  
なんせ六十万の軍勢だ。まともにやったら今の自分でも無理だろう。かと言って暗殺などが出来るほどの頭脳もあの小娘  
にはありはしない。  
(まあ、あの小娘なら死ぬことはあるまい。そのうち根をあげて帰ってくるだろう)  
そんなヴァルバトーゼの企みは数日後の新聞の発行とともに叩き潰されることとなる。  
 
”アクターレ大統領死去!アクターレ氏は先日未明、大統領邸入り口で後頭部を殴打された状態で発見された。  
 検死班は詳しく調べるのも面倒なので、死亡と判定、さらに犯人、死亡時刻なども調べるのが面倒なので不明、  
 尚悲しみの声などはあまりあがらず…“  
 
「どーよ!ヴァルっち?アタシの凄さがわかった?」  
新聞を開いたまま固まるヴァルバトーゼの前でフーカは自慢げに薄い胸を張った。  
「な、何故だ!?確かあそこは六十万の軍勢とか、三豪傑とか、十魔王とかいたはずだぞ?一体どうやって?」  
「フフフ、聞いて驚きなさい!アタシのパーフェクトな作戦を!」  
とフーカが長々と語った作戦をおおまかにまとめるとこういうことだった。  
大統領邸直通の電話で、サインが欲しいけど、他のボディガードさんは怖いんです〜とせがんだら、  
あっさり一人で出てきてくれたそうだ。  
「あ、あ、あのアホめ!それでも魔界大統領か!?」  
「まあ、アタシの灰色の頭脳だからこそ考え付ける作戦ね!」  
そう勝ち誇ったように言うと、にんまり笑い勝利宣言を叩き付けたのだった。  
「で、ヴァルっち?わかってるわよね?」  
 
その夜  
「全く、チョロイわね」  
フーカは一人自室でほくそえむ。普段ならデスコが一緒にいるのだが、今はアルティナと一緒に天界に遊びに  
行っているためいない。まあ今からやることを考えればいないほうがいいだろう。  
全ては計画通りだった。  
ヴァルバトーゼをそそのかし、大人への階段を上るための最初の一人とする計画は順調だった。  
当初はフェンリッヒも候補の一人だったが、アレは丸め込むのはほぼ無理だと判断し断念した。  
(それに、一応アタシをあの時助けに来てくれたのはヴァルっちだしね)  
あの凶暴化したスライムに囲まれた時、助けに来てくれたヴァルバトーゼ。  
本人はもう覚えてもいないだろうが。  
結構トキメいたりしたのは事実だ。  
なんせシチュエーション的には完璧だった。まあその後にはロマンの欠片も無い展開が待っていたわけだが、  
それでも助けには来てくれていた。  
イワシしか頭に無い、ズレまくりの男だが結構なイケメンでもある。最初の相手にしては上々すぎるくらいだろう。  
 
ただ一つ気がかりがあるとすれば、  
 
(アルティナちゃんよねえ)  
アルティナ、ヴァルバトーゼが四百年もの月日想い続けた天使、彼女の存在が引っかかっていた。  
彼女が嫌な性格だったりしたら何の罪悪感も抱かないわけだが、その真逆であるから始末が悪い。  
アルティナもヴァルバトーゼを想ってるのももっと悪い。  
だから罪悪感が無いと言えば嘘になる。  
けれど、ここまで来たらもう戻れない。  
何より自分だってそれ相応の期間ヴァルバトーゼと肩を並べて戦ってきたのだ。  
たった一回ぐらいの夢を見ることくらいなら許されるはず。  
(それに、もうとっくにアルティナちゃんとやってるんだろうしねえ)  
ならば、もうその絆が揺らぐことも無いだろう。  
だから略奪ではないはずだ。そう自分に言い聞かせて罪悪感を押し殺す。  
途中でやめるには計画はうまく行きすぎていた。  
 
そう計画は順調だった。  
だが、たった一つ本人ですら気づかぬ過ちを除けば。  
「にしても、ヴァルっちも大げさよねえ」  
その過ちに気づいて入れば、決してこんな言葉は吐けなかっただろう。  
そうフーカは何も判っていなかった。  
「たかがチューするだけじゃん!」  
己の性知識の無さを、そしてその約束をした相手の覚悟すら何もわかってなかった。  
 
 
それからしばらく経って、扉がノックされる。  
「遅かったわね、ヴァルっち」  
扉を開け、来客の姿を確認するとフーカは後ろに下がってヴァルバトーゼを招きいれる。  
「ああ…ちょっと予習に手間取ってな…」  
「予習?」  
言葉の意味がよくわからずに聞き返す。  
今から自分たちがやろうとしてることはそれほどの手間がいる物なのだろうか。  
「あんたも堅物だよね、あんなもん適当でいいじゃん」  
そう笑うフーカと対照的に、ヴァルバトーゼの顔は暗い。  
「そうはいかん、お前が条件を守った以上、こちらとしても適当に行うことなど断じて出来ん…のはわかってるんだがな」  
いつもなら力説するような台詞もなんだか尻すぼみに終わっている。  
自分との約束をこうも重くとってくれていることに嬉しく感じながらも、同時にそれが彼をここまで苦しめていることに驚く。  
(やっぱ、たった一回でも、ヴァルっちにとっては許せないことなのかな…)  
そう考えると自分はひょっとしたらとてつもなくひどいことをしてるのでは無いかと、今更のように考えてしまう。  
そして同時に  
「あ、あのさ、やっぱ、無かったことにしない?」  
何か良くない不吉な物も感じ取り始めていた。なんだか越えてはいけない一線を踏み越えようとしている、そんな感覚  
その気配を感じ急に恐ろしさが心の内に沸き起こり始めていた。  
「か、考えてみたらさ、ヴァルっちもガキみたいなもんだし〜そんな人に教わっても効果ないって言うか」  
だが、  
「駄目だ」  
すでに遅すぎた。  
 
「お前がアクターレの襲撃に失敗していたらその案はすぐに採用してやったが、お前は成功した。ならばたとえ効果が  
 あろうが無かろうが俺はお前に教育を施さねばなるまい…」  
そう言うと、一歩フーカのほうに踏み出す。  
たったそれだけ、それだけのことなのに、たまらなく怖い。  
(な、なんなのコレ…?)  
喉がカラカラに渇く、怖い、はずなのに、同時にヴァルバトーゼの顔から目が離せない。  
よくよく見れば本当に整った顔をしている。血のように紅い瞳に吸い込まれそうになる。  
そしてその目つきは今まで無く鋭い物となっていた。  
 
考えてみれば、ここまで真剣にヴァルバトーゼと向き合ったことなど一度も無かった。  
いつでも馬鹿みたいなやりとりをして、それで終わりだった。こんな目で見つめられたことは一度も無い。  
 
思わず唾をゴクリと飲み込んでしまう。  
(違う…こんなの違う)  
想像していた予想図はこんな物ではなかった。  
動揺するヴァルバトーゼに先制攻撃で唇を奪う。そして慌てふためくヴァルバトーゼをからかってやる。  
そんなたわいない事で終わるはずだったはずなのに、今や二人の間の空気は張り詰めた物に変質していた。  
「だ、だったらさ!」  
そんな空気に耐え切れず、フーカは金切り声をあげる。その声は情けないほど震えていた。  
「は、早くしちゃお?」  
この場から抜け出したい。せめていつものふざけたヴァルバトーゼに戻って欲しい。  
そんな心からの本心でそう言う。それが逆効果であることなど夢にも思わず。  
「そうか…そうだな、まどろっこしいのは俺もゴメンだ。邪魔が入っても面倒だしな」  
と、ヴァルバトーゼは後ろ手にドアを閉める。と同時に扉に魔方陣のような物が浮かび上がる。  
「な、何やってんの?」  
「外部から開けられんようにした、後防音もな、フェンリッヒあたりが聞きつけると面倒だ」  
「なんで防音が…?一体な、ムゥ!?」  
理解不能の行動の理由を問う言葉を言い終わる前にフーカは唇を奪われていた。  
口付けされた。  
そう瞬時には理解できないほど事は突然だった。  
頭をがっしり掴まれて、口に口を押し付けられた。  
ロマンチックなどとはほど遠い行為。  
「んん〜、ん、んん!?」  
そして、次の起こったことにフーカは目を見開き、渾身の力でヴァルバトーゼを突き飛ばす。  
「…何をする」  
突き飛ばされ、よろめくヴァルバトーゼにフーカは顔を赤らめながら叫ぶ。  
「い、いきなり何すんのよ、キキキキスってのはねえ、二人が見つめあい目を潤ませながらゆっくりとするもんなのよ!!」  
あまりの出来事に微妙に突っ込みが的外れになっている。まあ、元々こんなものだが、  
「だ、だ、大体何、何、何舌入れてんのよ!?この変態!?」  
キスと言ったら、口と口をつける程度の物しか知りえなかったフーカにとってはあまりに衝撃的すぎる行為、  
到底簡単に受け入れられる物では無い。  
だが、  
「黙れ」  
そんな心情などお構い無しにヴァルバトーゼは声を荒げる。  
「お前がどう思おうと、コレが大人の口づけという物なのだ!お前に教育を施すと決めた以上逃げることは許さん」  
その声と共にヴァルバトーゼはマントから蝙蝠を出す。魔力で作られた蝙蝠の群れは黒い一つの塊に溶け混ざり、  
フーカの両腕、両足に絡みつき動きを封じる。  
「や、やだ、何すんのよ!」  
講義するフーカの声を一切無視して、ヴァルバトーゼは再び距離を詰める。  
なんとか逃げようともがくが、黒い靄のような塊は鉛のように重く手足は全く動かない。  
気づけば、息がかかるほどの距離にヴァルバトーゼの顔があった。  
「わ、わかった、わかったってヴァルっち!も、もう十分大人って物はわかったからさ!もうやめよ?もう十、ムゥ!!」  
許しを請う言葉を最後まで言い終わる前に再び唇が奪われる。  
(や、やだ、また入って…)  
口の中にぬるりと舌が押し込まれるのがわかる。  
(やだやだやだ、気持ち悪いよ…)  
だが、逆らう気力は起こらない。逆らったらどうなるか想像がつかない。  
それほどまでに今のヴァルバトーゼは鬼気迫っていた。  
押し込まれた舌がフーカの口の中を這い回る。口の中を舐られる感覚がモロに伝わってくる。  
(舐められてる…アタシの口の中ヴァルっちに…)  
そして、ついに這い回る舌が口の奥で縮こまっていたフーカの舌を捕らえた。  
そしてそのまま絡め取られる。舌と舌が絡み合い、唾液がこすれあう音がフーカの耳に届く。  
(な、なんなのコレ…)  
確かにおぞましい、けれど同時に甘く痺れるような快感が頭に走る。  
「んふ…んん…んんん〜」  
気づけばフーカは自分から舌を絡めていた。  
夢中で舌と舌を絡ませ、唾液を送りあう。普段なら考えられないようなその行為がたまらなく気持ちいい。  
(アタシ…どうしちゃったのぉ、コレ、ヴァルっちの唾なのに…)  
その後もしばらく舌を絡ませあい、ようやくヴァルバトーゼが顔を離す。  
口を離す時お互いの舌と舌に唾液の糸が伸び千切れる。  
「ふん…」  
その様子を見たヴァルバトーゼが一つ息を吐くと、フーカの腕の拘束が霧散する。  
突然の支えの紛失によろめくフーカの腕をヴァルバトーゼが支える。  
(お、終わったんだ…これが、これが大人ってことなんだ…知らなかった)  
未知の体験になんとも言えない高揚感が胸に溢れる。  
確かに最初は驚いたが、今まで経験したことのない痺れるような快感を感じてしまった。  
終わってホッとした反面なんだか物足りないような気持ちを残しながらもお礼を言おうとしたその時  
「キャ!」  
ヴァルバトーゼはフーカを部屋に据え付けられているベッドの上に投げ飛ばした。  
突然のことに抵抗などできるはずもなくフーカはベッドの上に仰向けに倒れ付す。  
 
何が起こったのか理解する間も無く、再び両手に靄がかかりベッドに張り付けにされたようになってしまう。  
「な、何すんの?こ、これなんの冗談?も、もう終わったんでしょ」  
心の底から願ったその言葉は、  
「馬鹿か」  
あっさり否定される。  
「あんな物前戯にすぎん、これからが本番だ」  
「ほ、本番…?ちょ、ちょっと!こ、来ないでよ!!」  
身をよじって逃げようにも動かせるのが足だけではどうしようも無い。  
ばたつかせる足に当たらないように体の位置を調整しながら、ヴァルバトーゼはフーカに覆いかぶさる。  
男が自分の上に覆いかぶさる態勢など経験したことのないフーカは恐怖に胸が締め付けられる。  
「お願いヴァルっち…もうやめて…」  
心の底からの懇願など意にも介さないように、ヴァルバトーゼは手をフーカの服のすそに潜り込ませる。  
「ひ…」  
肌に触れられる感覚に思わず情けない声を上げてしまう。  
だが、そこで手は止まらない。ゆっくりと服の中を探りながら上へと上がってくる。  
「ど、どこ触るつもりよ!や、やめなさいって」  
このままだとどこにたどり着くかがわかったフーカは必死に抵抗するが、どうにもならず手はその場所に到達する。  
「ん?」  
そこに触れた途端ヴァルバトーゼは怪訝そうな顔をする。  
「な、何よ?あ、アタシがブラしてたのがそんな以外だった!?失礼ね、確かに今はこんなだけど将来ナイスバディ  
 になるのは間違い無いんだし、今のうちに準備って言うか?」  
馬鹿にされてもいい、せめてこのノリに反応してほしい。そう思い叩いた軽口にもヴァルバトーゼは  
何一つ返すことなくただ短く舌打ちすると、胸を覆う下着の真ん中を引き裂く。  
服の中で胸がさらけ出されるのがわかる。  
「うあ…」  
もう言葉すらまともに出せない、怖い、今の感覚はそれだけだ。  
そんなことは気にも留めず、露になった胸をヴァルバトーゼの手が撫でる。  
「ひう!?」  
突然の感覚に頓狂な声を出してしまう。  
素肌それも胸を異性に触られる感覚にフーカが戸惑う暇も無く、ヴァルバトーゼの手がフーカの薄い胸を揉みしだく。  
「ひ…」  
ヴァルバトーゼの手が動くたびに恐ろしいと思いながらも全身に電流が走るような感覚に襲われる。  
「な、何これぇ?」  
はじめは強張っていた体がじょじょに緩んでくる。  
そして、  
「ひゃうん!!」  
硬く勃った乳首を指で掴まれた時、思わず甘い声を出してしまう。  
 
「はあ、はあ…」  
わけのわからない感覚に翻弄され荒い息を吐くフーカの服から手を引き抜く。  
ついでに外れたブラも同時に取り去り、投げ捨てる。  
「もうわけわかんな…いい!?」  
最早ついていくことすら出来ずに戸惑うフーカが再び目を見開く。  
ヴァルバトーゼは今度はフーカの服の裾を掴み、胸の所まで一気に引き上げたのだ。  
当然ヴァルバトーゼの前にフーカの胸がさらされることとなる。  
「こ、この変態、馬鹿、チカン!!や、やめなさいよ」  
必死に手で隠そうとするが、拘束されているためそれすら出来ない。  
だが、そんな行動など次に起こったことに比べれば何でもなかった。  
「はう!?」  
むき出しになった胸にヴァルバトーゼがしゃぶりついたのだ。そして舌で胸を嘗め回し、乳首を弾く。  
「ひゃあ!ちょ、やめ、んんん!!」  
揉まれていた時とは比べ物にならないほどの刺激に、口からははしたない声が漏れ出す。  
(こんなのおかしいよ、ヴァルっちが赤ちゃんみたいにアタシのオッパイ吸ってて…ぜったい、絶対おかしいのに)  
「あうっ、あん、ああぁぁぁ!!」  
(なんでこんな気持ちイイの?)  
理解することも、味わったこともない快感に押し流され、そしてその中で下半身に異常を感じる。  
(う、嘘!?だ、駄目止めなきゃ!!)  
そう考えたのと、ヴァルバトーゼがフーカの胸を思いっきり吸い上げたのはほぼ同時だった。  
「ひぃああああああ!!」  
不意打ちのようなその行為にフーカは嬌声をあげて悶える。  
と同時に下半身の下着の中に熱い感触が広がるのがわかった。  
(も、漏らしちゃった…)  
あまりにも情けないその結果に頭の中が羞恥で埋め尽くされる。  
そんな思惑を知ってか知らずか、ゆっくりと口を離す。  
(こ、今度こそ終わり…よね)  
そんな希望もヴァルバトーゼの次の行動で微塵に砕かれる。  
 
今度は手をスカートの下に潜りこませたのだ。  
「ちょ、だ、駄目!ヴァルっち!お願い、そ、そこだけはやめて!!今は今は絶対駄目ぇ!!」  
漏らしたことなど絶対に知られたくない。この歳になって漏らしたなどと他人に知られたら間違いなく死にたくなる。  
「ほ、他のことなら何でもいい、そこだけは、そこだけは…ああ!」  
そんな懇願にヴァルバトーゼは耳を貸さず、手を止める事無く、その下にある下着に手を潜り込ませ。  
そして、一旦その動きを止める。  
(ばれた…漏らしたって…ばれちゃった…)  
羞恥に顔が赤らめる。  
「ヴァ、ヴァルっちが悪いのよ、へ、変なことばっかりするから…も、漏らしちゃったの!」  
そう言って、顔を赤らめながら、目の前のヴァルバトーゼを睨み付ける。  
「漏らす?」  
今までフーカの問いかけを無視し続けるだけだったヴァルバトーゼが、始めてその言葉に反応した。  
その反応に勢いを得たフーカは一気にまくしたてる。  
「そうよ!!大体さっきからわけわかんないのよ!変なことばっかやって!女の子の体にこんなこと  
 気安くしていいと思ってんの!?もういい加減にやめなさいよ!」  
怖い気持ちを押し殺して、一気にそう言い切った後突然恐ろしくなる。  
(怒らせちゃったらどうしよう…?)  
そもそもこの事態を望んだのは他ならぬ自分自身なのだ。  
予想とは全く違っていたとはいえ、あまりにも勝手な言い分だったと言い終わってから後悔する。  
だが、ヴァルバトーゼは以外にもすんなりと下着から手を抜く。  
(わ、わかってくれたんだ…よかった…)  
そう安心するフーカの前にヴァルバトーゼは今下着を突っ込んでいたほうの手をかざす。  
「な、何?」  
「よく見てみろ」  
そう言い見せられた手には透明に輝く液体が付着していた。  
明らかに尿とは違うそれを目をそらすことも出来ず、ただ呆けたようにフーカは見つめる。  
「これはな、愛液と言って、女が性的快感を与え続けられると分泌する液体だ。尿じゃない」  
「オシッコ…じゃないの?」  
「ああ、したがってお前は漏らしたわけではない。安心しろ」  
(そうなんだ良かった…)  
漏らしてはいなかった。その事実に思わず力が抜ける。だから次のヴァルバトーゼの言葉が耳に入らなかった。  
「しかし、思ったより分泌量が少ないな…これでは指でやっていたら時間がかかる…口でするか」  
そうつぶやいたヴァルバトーゼはフーカから離れる。  
さっきの言葉を聞き逃していたフーカにはそれが終わりの合図としか映らなかった。  
「ちょっと、終わったんならこの煙を消し…て?」  
だから次に行われた行動に抵抗する暇がなかった。  
 
 
 

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