ホルルト村。  
この穏やかな村で行われた召喚儀式の爆音のすぐ後に  
アデル一同に向けて悪魔少女の悲鳴が響き渡る。  
 
「ちょ、ちょっとあんたたち!なんてことしてくれたのよっ!!」  
 
「ど、どうしたんだよ?」  
 
「あたしのレベルがとんでもなく下がっちゃってんのよ!あんた達のせいでしょ!」  
 
魔神ことエトナはそう叫び、アデルはうろたえ、ママは首をかしげる  
 
「おかしいわねぇ〜、召喚自体は成功したはずなんだけど  
ねぇアデル、本当にあれ魔神の爪であってたの?」  
 
「あぁ、魔神エトナにもらった爪だ」  
 
ギクリ・・・。  
アデルのそれを聞いたエトナの表情がこわばる。  
 
「え?あれが召喚材料だったの・・・?」  
 
「あぁ。」「もしや、ニセモノだったのか?」  
 
隣にいたロザリーが疑いの目を向けると、エトナは慌てて目をそらして自問した  
 
(こ、これってアタシの自業自得ってやつ・・?  
ああもぅ!最近のアタシついてねーっ!こうなったら・・・)  
 
「ふ、ふざけんじゃないわよ本物よっ!こんな召喚事故たまったもんじゃないわ  
魔王ゼノンを倒してアタシは他の魔王に狙われてるのに、こんなレベルじゃ殺されちゃうわよっ!」  
 
 
「アタシのレベルが元に戻るまであんたに取り憑いてやるからねっ!」  
 
 
「嫌なこった。」「うむ、そうじゃな」  
 
 
「・・・・・・え?」  
 
 
アデルとロザリーからの意外な返事を聞いて、  
エトナは青ざめ、慌てて反論する。  
 
「ちょ・・な、何言ってんのよっ!あんた達のせいでしょ!」  
 
「ウソつけよ。前やった召喚より簡単な条件のはずなのに  
失敗するわけねぇ、オレはウソは嫌いなんだ。」  
 
「そこまで面倒みてやる義理もないしのう、  
配下のプリニーとやらに守ってもらえばよかろう?」  
 
「うう・・。」  
 
完全に当てが外れた。ロザリーならともかく、  
バカ正直の熱血野郎であるアデルからこんな冷静な反応を受けるとは  
 
「あれあれ〜?みなさん  
ここになんかゴミが落ちてますよ〜?」  
 
話を割ってそう喋りだしたのはティンク。カエルの手に摘まれたそれは  
召喚爆発の際に飛び散った「小悪魔のつけ爪」の残骸、つまりニセモノの爪だった  
 
ママがそれを手に取り、それを凝視する。エトナはさらにギクリと硬直した  
 
「あら〜?これはただのつけ爪じゃな〜い。これじゃ召喚できるわけないわ」  
 
「決まり、だな。」「うむ、自業自得じゃ」  
 
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ・・・これは・・」  
 
エトナは必死に頭脳をフル回転させて嘘を考えるが  
すでに物証はあがってしまっている。どう考えても勢いでごまかせる雰囲気ではない  
 
「いい加減にしろよっ!」  
「ひっ」ビクッ  
 
アデルの怒声が響き、すかさずロザリーも後に続く  
 
「あんまり往生際が悪いとそちのためにならぬぞ?  
あの沼でアデルらを瀕死に追い詰めたこと、よもや忘れてはいまいな?」  
 
ロザリーの銃のグリップに手が静かにそえられる。  
 
「たしか「くたばりな〜」とかなんとか言ってましたよね、姫様♪」  
 
「そ、それは・・・」  
 
いつまにか、アデル一同全員からエトナは、呆れたような  
しかし冷たい敵意を含んだ視線に囲まれていた・・  
 
「あ、あんたたち・・そんな態度とって、後が怖いわよっ!」  
 
そう言ったエトナの唇はかすかに震えていた。どんなに虚勢を張ろうが  
今のエトナのレベルはたったの1だ。全員を力づくでねじふせる魔力などありはしない  
 
「やるってんなら容赦しないぜ。真剣勝負だっ!」  
 
「うぅ・・・・く、そっ!」バッ  
 
もう駄目だ。と頭でなく肌で感じたエトナは  
その瞬間にはその場から空に飛びたって全力で逃げていた。  
 
高速で空中を飛行しながら、  
どんどん視界の中で小さくなっていく  
アデルの家を遠目に見てようやくホッと息を吐いた。  
 
「ちくしょ〜・・こんなことになるなんて・・あぁ、もぅムカツクっ!」  
 
下唇をかみながら牙をのぞかせてエトナはイラだつ。  
とりあえずアルケシティの棲みかのところまで飛び  
ストレス発散にプリニーでもぶっとばして、甘いスイーツを食べながら後の事を考えよう。  
 
そう思い巡らしたエトナだったが、レベルが下がったせいだろうか、  
いつもより長く空を飛べず、羽がもう限界まで疲れて息も上がっていた  
 
「ハァハァ・・おっかしいな〜、いつもはこんなので疲れないのに」  
 
バサバサッと途中の街道に着地したエトナは少し休むことした  
空はもう夕陽が赤らみ、日が暮れようとしている。道端に転がる岩に腰かけた、その時  
 
「エトナ様〜!」  
 
プリニー達の聞き慣れた声が響き、  
エトナはいつもと違う、懐かしいような感覚を受けた  
 
「あ!あんた達、ワタシを追いかけて来てくれたの?」  
 
「当然ッス!ぼくらのご主人様はエトナ様だけっスから」  
 
「あんたたち・・」  
 
いつの間にかさっきまでの苛立ちは冷め、胸にじわんとした暖かみを受ける  
プリニーをぶっとばしてストレス発散する予定も忘れ去っていた。いや  
そもそもレベルが下がっているエトナにとってはこのプリニー達が命綱だ。  
そんな扱いはただ自分の寿命を縮めるだけなのは容易に想像できる  
 
 
(ま・・・これからはちょっと優しく接してやるかな・・フフ)  
 
そう目をつぶって笑みをこぼして歩き始めるエトナに  
後ろの一匹のプリニーから質問が投げかけられる  
 
「そういえばエトナ様。なんで急に消えちゃったんスか?」  
 
まわりのプリニー達もうんうん、と  
それが聞きたかった。とばかりにうなづく  
 
それを聞いたエトナは、緊張が解けたせいもあってか  
いつもどおりのノリを取り戻してプリニー達に愚痴をこぼす  
 
「そう!聞いてよあんたたち!あいつらのヘボ召喚のせいでさー  
アタシのレベルがとんでもなく下がっちゃったのよ!酷いと思わない?  
あいつら、あとで必ずぶっ殺してやるわー!」  
 
 
エトナがそう意気込んだ瞬間、周りの空気がピタっと止まった  
 
 
「え・・・・?エトナ様・・・、レベルが下がったんスか?」  
 
止まった空気に気づかず、  
エトナは笑いながらうすっぺらい未来予想図をたてて喋り続ける  
 
「そうなのよー!もう最悪っていうかさ。  
治し方もわかんないしー、それが見つかるまでまずはアイテム界にでも潜って・・・」  
 
・・・・・。  
 
「色々とお世話になりましたッス。おいら達は今日限りで家来やめさせてもらうっスー♪」  
 
「・・・・・・・えっ!?」  
 
エトナの背中に悪寒が走る。アデル一同と対峙した時と同じ冷たい疎外感。  
 
「ちょ、ちょっと、な、何言ってるのよあんた達!?」  
 
「おいら達はもっと金払いが良くて、優しいご主人様の所に就職するッスよ〜」  
 
「あ、あんた達、そんなこと言って後が怖いわよ!」  
 
そう言った瞬間にエトナはハッとした。  
また同じパターンに陥ってることに気づき、  
慌てて他の説得の仕方を考えたが、時すでに遅かった  
 
「レベルの下がったエトナ様なんか怖くもなんともないっスッ〜♪  
じゃ、晴れ晴れとした気分でおいら達はこれでおいとまさせてもらうッスよ。さようなら〜」  
 
「あ・・・まって・・っ!」  
 
エトナの制止などまったく気にせず、言葉通り晴れやかな表情(?)でプリニー達は去っていった・・  
 
 
「・・・・・・。」  
 
 
サワサワ・・と風に擦れる道端の草々の音だけが静かに流れ、  
あたりの空は夕陽が暮れて、紫がかった薄闇に染まろうとしていた  
 
 
「あたし・・・独りになっちゃった・・・。」  
 
 
ペタン、と崩れるように道端の岩に腰を下ろす。  
お尻にヒヤっとした冷たさが伝わり少し驚くエトナ。  
ソファ代わりにしていたプリニーの暖かく柔らかい感触はもう望めないのだろうか  
 
 
魔物うごめく異世界で、か弱い存在となった  
悪魔少女は、独り途方に暮れていた・・・  
 
 
「とりあえず・・・寝るとこ探そっかな・・」  
 
エトナは力無くそうつぶやくと、初心ヶ原の方に向けて歩き出した。  
 
まずアルケシティには帰れない。敵のレベルが高いからだ  
当然、ホルルト村にもいけるわけない。なのでレベルの低いマップで休める場所を探すことにした  
 
そして運よく廃墟のような場所を見つけて  
エトナは適当なガレキに背中を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。  
 
窓の無くなった壁の穴から空を見上げると、すでに星々がチラチラと輝きはじめている  
 
「これからどうしようかな・・・」  
 
ペタン、ペタンと尻尾の先で床に寂しく  
リズムをとりながらエトナはこれからの事を考える  
 
とりあえず、ある程度は地道にレベル上げをしていこうと思ったが、  
レベルの低いマップで戦闘を繰り返せば、他の魔王達に感づかれるかもしれない  
 
レベルが低いと感づかれれば一貫の終わりだ。  
 
「あーもー、これじゃどうしようもないじゃない・・・」  
 
エトナはため息をつき、体育座りで顔をヒザに埋める。  
ふと“ある道"がエトナの頭をよぎった。が、その瞬間にブンブンと顔を振り、その考えを必死に振り払った  
 
(絶っ対にイヤっ!あのアホガキに泣きつくなんて・・・・それに・・)  
 
そう、ある道とはラハール殿下のいる  
魔王城に帰ることだったが、それだけは自分のプライドが許せない。それに、  
 
殿下は掃除・洗濯・食事をするプリニー、そしてアタシの実力が欲しくて  
しつこく追いかけてきてるのに、レベル1になった槍使いなんて今更帰ったところで・・・・  
 
 
「殿下ももう、アタシなんていらないかもね・・・」  
 
寂しくそうつぶやいて、横になろうとしたエトナ。その時  
 
 
ガサッ  
 
「!?」  
 
「て、敵っ!?」バッ  
 
ビクっとエトナが身を硬直させ、入り口から出て槍を構える  
気づくと廃墟の周りはプチオークとゴースト達で固められていた  
 
 
怖い。槍を持つ手が震える。  
いつもはゴミ同然にしか見えなかったザコ達が恐ろしく獰猛に見える  
 
しかし、その恐怖は相手も全く同じ、いやそれ以上だった。  
 
「エ・・、エトナだ!魔神エトナだっ!」「ヒィッ」  
「な・・なんでこんな所に!?」「ヤベェ、どうする!?」  
 
エトナの事情をしらないザコ達は、魔神の意外な登場に慌てふためいていた。  
エトナはチャンスとばかりに必死に吠える  
 
「そ、そうよ!アタシは超絶時空美少女・魔神エトナ!  
あんた達ノコノコ現れてそんなに死にたいの!?  
今なら許してやるからさっさと立ち去りなーっ!!」  
 
「ヒィっ・・勝ち目ねぇよ!」「おいっ逃げようぜ!」「うわぁーっ」  
 
ザコ達はクモの子を散らすようにその場から逃げ去っていく。  
 
「ハァ・・ハァ・・助かったわ・・」  
 
見事ブラフが成功したエトナだったが、  
その膝はガクガクと震え、口は緊張でカラカラに乾いていた。  
 
疲労の溜りきったエトナは泥のように床に横たわる。  
 
「もう疲れた・・・お腹もへったなー・・」  
 
そう思いポケットを探るとふつうのガム一枚が入っていた  
稼いだヘルも金を預けてたプリニーにトンズラされてゼロである  
 
「ぜんぶ・・・殿下が悪いんだから・・・グス」  
 
ガムをちぎって口に含みながら、  
誰にも見せられない涙を目尻に少し浮かべて  
 
エトナの意識は夜の闇に沈んでいった・・・。  
 
 
 
チュンチュン・・・チュン・・・  
 
朝。  
初心ヶ原の廃墟でエトナはすでに何度目かの朝を向かえていた。  
 
「ふぁ〜・・・ふぅ」  
 
爽快な青空が広がる割に目覚めはよくない。  
少し赤みを帯びたまぶたを擦り、アクビをしながら伸びをする  
 
「今日も・・とりあえず食べ物探そうかな」  
 
そうつぶやき、槍を手に持って警戒しながら外に出る。  
ここ数日のエトナは、周りにできるだけ気づかれないように  
数匹のザコを倒し、ステージボーナスの景品で食い繋いで廃墟に帰る。という生活を送っていた  
 
「これじゃアタシ、殿下以下じゃない・・・」  
 
景品のガムやドリンクを口に含みながら、壁の穴から夜空を見上げる  
そんな情けない自分の境遇に涙を滲ませ、すすり泣くのも日課になってしまった  
 
「ホントにこれからどうしよう・・もうヤダ・・」  
 
先の見えない毎日。  
夢や希望なんて悪魔に必要ないが、野心は必要なのだ。  
もはや、魔王神になってラハールを見返す野心も、  
後ろからブスッといって魔王になり変わる野心も叶わない  
 
そして、それ以上に大切な約束。  
クリチェフスコイ様と交した、  
ラハール殿下を見守る。という約束。  
 
それすらも裏切ったのだ。ただのプリンひとつで。  
 
エトナは情けなさと自己嫌悪で涙が更にあふれ、  
ガレキの床で小さく体を丸めて、震えた声を漏らして泣いた。その時  
 
「うぅ・・うぇぇん・・・グスッ」  
 
ガサガサ・・  
 
「ひっ!?」ビクッ  
 
また敵襲か。と思い、涙目で  
その近づいてくる影に槍を構えるエトナ。しかし  
 
「・・・・・エトナ?だよね?」  
 
 
「・・・・・・・ハナコ?」  
 
 
近づいてくる影の正体は、  
心配そうにこちらをうかがうハナコの姿だった  
 
「ハナコ・・・だっけ?どうしてここに」  
 
「エトナ・・大丈夫?どっかケガしてるの?」  
 
その言葉にハッとしたエトナは、  
自分が涙で頬を濡らしている事に気づき、慌てて顔を拭う。  
 
「べ・・別になんともないわよっ!それより何の用?  
ト・・トドメでも刺しにきたってわけ?」  
 
そう虚勢を張って震える手で槍を構えるエトナ。しかし  
すべてを見透かして同情するような目でハナコは顔を横に振る。  
 
「違うよ・・ちょっと前にエトナがプリニー達と別れる所を見かけてさ・・それで」  
 
「・・・・それは・・」  
 
嫌な所を見られた。とエトナは思った。部下に見捨てられ  
独り寂しくポツンと佇んでる姿を見て、哀れに思われたのだろう  
それだけでエトナのプライドはかなり傷ついたが、更に追い討ちするように  
 
「エトナが飛び去ってから、  
アデル兄ちゃん達も反省してたんだよ  
ちょっとキツく言いすぎたって・・・。だから」  
 
「エトナが素直に頼んでくれれば、協力してあげる。だってさ!よかったね!」  
 
「!」  
 
エトナにとって、この最低な生活から脱出する、  
願ってもないチャンスだった。が、しかし  
 
「そ、それって・・・アタシに頭下げて頼めってこと?」  
 
そう。実力差から言って立場は対等じゃない。  
戦力にならないザコを育ててあげよう、というのだから。  
 
それを人間の世界では協力と言うのだろうが、  
悪魔の世界ではまさしく服従。それ以外の何物でもなかった  
 
「そ、そんなこと・・・できるわけ・・・・」  
 
エトナの肩がフルフル震える。  
しかし、魔神のプライドを捨てる以外に道はない。どうしよう  
そうしていつまでも迷ってる間に、ハナコの眉間のシワがだんだんと寄ってくる  
 
「ねぇ、どうしたのエトナ!?嫌なのっ?」  
 
「・・それは・・でも・・・でも・・」  
 
「あ〜〜っもう、いいよ!せっかく協力してあげるって言ってるのに!エトナのバカ!!」  
 
エトナの煮えきらない態度にイラついたハナコはついにキレて、そう吐き捨てる。  
 
そのまま背を向けて帰ろうとしたハナコにエトナは泣いて叫んだ  
 
「まって!!まってぇ!!・・わかった!わかったからぁっ!」  
 
 
ホルルト村。  
ハナコとエトナが村に帰る頃にはすでに朝を向かえ  
アデル一同はぞろぞろと家の外に集合していた  
 
「アデル兄ちゃん!ただいま〜」  
 
「おぅ、ハナコ。それに・・・」  
 
エトナはうつ向き加減で静かにハナコの後ろに立っていた。  
前に出会った時の威圧感は全くなく、小鳥のような弱々しさにアデルは少し驚いた。  
 
「エトナ・・か。その、前は悪かったな。オレも言いすぎたぜ」  
 
「ふ、ふん。まぁ余もレベル1の小娘相手に少々手荒くしすぎたかもしれぬな」  
 
素直に謝るアデルとロザリーにエトナは少し動揺し、ハナコがエトナの腕をつかんで言う  
 
「ホラホラ〜、エトナも言いたい事あるんでしょ〜?」  
 
「・・え・・うん・・」  
 
エトナはうつ向きながらチラチラとみんなの方を伺うが、中々言い出せない  
アデル一同はエトナの思いをわかりきった上で、暖かく微笑みながらそれを待つ。  
 
「あの・・その・・・」  
 
「エトナ殿、我執を捨て去れば、心が軽くなって楽になるでござるよ」  
 
「そうそう。そうですよエトナさ〜ん  
悪魔は欲と保身に忠実なモノですよ〜  
プライドなんて使い捨てみたいなモンじゃないですか〜」  
 
「お前はプライド捨てすぎだけどな」  
 
「アハハハハ・・・」  
 
雪丸が優しくエトナをさとし、ティンクの戯れ言にしっかりとアデルがツッコミを入れて場が和む。  
 
和んだ空気にエトナの心も打ち溶けたのか  
 
「あの・・・前の召喚の時は・・・ごめんね。  
その・・・アタシのレベルが上がるまで・・みんなの仲間に・・・入れてほしいの」  
 
 
その瞬間。エトナの中の“何か"が崩れた。  
 
エトナをエトナたらしめていた“何か"が―――――――。  
 
 
「ああ、これからはお前もオレ達の仲間だ!」  
 
「・・・うん!ありがとう!」  
 
この時から、すでにエトナはエトナで無くなっていた  
あの塔に一同が向かうその時までは・・・  
 
 
新しくエトナを仲間に向かえ、アデル一同は打倒ゼノンを目指して前に進む。  
 
マップを攻略していく内にエトナはその素質の高さを認められ、  
ギリギリ一軍の中に入るまでになっていた。しかし本当に変わったのはレベルの話ではなかった  
 
「あれー?エトナ髪下ろしたんだ?」  
 
「うん、こっちのほうがいいかな・・って」  
 
ハナコにそう指摘されてエトナは柔らかく笑みを浮かべる。  
左右に爆発させていた髪のバンドをはずし、ストレートに髪を下ろしていたのだ。  
しかも、服装も露出度の低い落ち着きのあるワンピースと上着・・・そう、ヒーラーと同じような格好になっていた。  
 
そして戦闘でも  
 
「エトナ!右だ!」  
 
「はいっ!スプラインアローっ!!」ズカッ  
 
十八番であった槍をやめ、いつの間にか弓に装備を変えていた。口調も変わっていた。  
 
戦闘を終え、ホルルト村にに帰って夕方を向かえ、ママの手料理を食べながら一同はリラックスする。  
 
「いや〜、今回もこのわたくし、ドラゴン・ティンクの大活躍で圧勝でしたね!みなさ〜ん」  
 
「あんたはただ飛び回って逃げてただけでしょうが・・・」  
 
呆れたハナコにアデルが続く。  
 
「そうだぞティンク。今日決めたのはエトナじゃねぇか、なぁ?」  
 
「え?エヘヘ・・そうかなぁ?アタシなんてそんな役に立ってないよ」  
 
頬を薄く染めて、照れながら微笑むエトナ。  
 
「ほーぅ、ゼノンをぶっ殺して魔王神になる、と言っておった頃とはえらい違いじゃのう」  
 
「そういえばエトナってさー、なんで魔王を倒しに来たんだっけ?」  
 
「え?」  
 
ロザリーの言葉に疑問が浮かんだハナコはエトナにそう質問する。  
 
(・・・・・あれ?そういえば、なんでアタシ魔王ゼノンを倒しに来たんだっけ?  
そもそもアタシってどこからヴェルダイムに来たんだっけ・・・?)  
 
(・・思い出せない・・・)  
 
ズキンッ  
 
「痛っ!」「エトナ!?」  
 
エトナに頭が割れるような頭痛が走った。  
思い出せない。いや、思い出せないようにしているのか。  
 
「大丈夫?エトナー」  
「うん、大丈夫だよ。心配しないで」  
 
エトナはヴェルダイムに来る以前の記憶をすべて喪失していた・・・。  
 
 
エトナの記憶喪失をよそに、戦いは順調に進んでいくが  
しかしここで雪丸の兄、斧吹が一同の前に立ち塞がった  
 
「魔王の娘、覚悟!!」  
 
「兄者おやめ下され!」  
 
ズシャッ  
 
「ぐぁぁぁぁーっ!!」  
 
その叫びはロザリーのモノではなく、なぜか攻撃を仕掛けたはずの斧吹のモノだった。  
 
「あ、兄者ぁーーーーーーーーーっ!!」  
 
雪丸の悲痛な叫びと共に空間から邪悪な気配が姿を表す  
 
「フハハハハハハハ!!雪一族の死に損いがぁっ」  
 
「魔王ゼノン・・・っ!」  
 
エトナ達はその威圧に気圧された。  
(アタシはこんな恐ろしい奴を倒そうなんて考えてたの・・何のために・・?)  
 
それを考えるとなぜか脳の芯がキリキリ痛みはじめて思考を拒絶する  
なので今はそんなこと考えないほうが良い。エトナはそう判断し、弓を握った  
 
「・・・そちらから来るとは好都合。  
たとえこの身朽ちようとも討ち果たしてくれる!」  
 
「奥技・乱れ吹雪の舞!!」  
 
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁあああっーーーーー!!」  
 
・・・・―――――――――。  
 
ホルルト村。  
ゼノンを一時撃退したは良かったが、斧吹は重傷を負う。しかし  
ロザリーの秘薬を与えたおかげで一命は取り留めた。しかしまだ予断は許されない状況だった  
 
「兄者・・・」  
 
「たしか・・あの秘薬をくれたじいさん、  
神螺の塔がどうとか言ってたな・・」  
 
「そこに行けば何か治す薬が見つかるかもしれぬのう」  
 
「そうね、いってみる価値はあると思うわ」  
 
アデルとロザリーの提案にエトナがそううなずく。  
その秘薬ならアタシの記憶喪失も治るかも・・・と一瞬、  
頭をよぎったがすぐに振り払い、自分勝手な考えを戒めた。  
 
(ダメよそんなの、まずは雪丸のお兄さんを助けないと・・・!)  
 
エトナは本気でそう考えていた。  
 
 
神螺の塔。  
厄介なジオ効果のマップが連続する戦闘だが、アデル達は着実に進んでいく。  
 
「覚悟せい!リフレクトレイ!」  
「当たれ!ライデンミサイル!」  
 
その頃すでにエトナは、ロザリーと同じく  
一軍で弓による遠距離攻撃を担うまでに成長していた。  
 
しかしプリニーがいないのでプリニー落としは使えないし、  
落ち着いた服装からか、セクスィービームも使えなくなっている。いや  
そもそも自分にそんな技が存在することすら忘れ去っているエトナだった  
 
そして、ついに神の交信塔にアデル一同はたどりつく。  
 
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ッ!!!  
 
「な、なんだ!?すごい威圧を感じるぞ!」「何かくる!」  
 
交信塔に響き渡る轟音。地震のような地鳴りにエトナ達はうろたえる。  
 
突如、交信塔の頂上に魔法陣が出現し、  
まわりに雷の柱が連続して打ちつけられ  
爆発と共にその中心からある人物の影が姿を現した。  
 
「ハーーッハッハッハッハッハ!!!」  
 
幼稚な高笑いを上げながら、居丈高に周りを見下す一人の子供。  
 
魔王ラハールだった。  
 
 
(・・・・こいつ・・誰?・・・確かどこかで・・)  
 
エトナは目の前に登場した幼馴染みの魔王に、  
キリキリと痛む頭に眉をしかめがら「?」マークを浮かべただけだった・・・。  
 
「だ、誰だこいつは?」「魔王ゼノンの手下!?」  
 
ラハールは派手な登場に満足気に腕を組み、  
他のメンバーを見下しながら、遠目にエトナの気配を見つけて即座に吠える  
 
「よーうやく見つけたぞエトナ!!よくもオレ様から勝手に・・・・ん!?」  
 
「・・・・?」  
 
違和感。エトナを見つけた!と思ったラハールだったが  
その人物を目を細めてよく観察してみると、何が違う  
 
そこでラハールが見たエトナは、  
髪を下ろし、僧侶のような格好をして弓を構え、  
自信なさげにこっちを見つめる少女。エトナであってエトナでない人物だった。  
 
 
「お前・・・本当にエトナか!?」  
 
「え?・・・あ、あんた誰?」  
 
予想外の外見に予想外の返事。ラハールは動揺する  
 
「だ、誰とはなんだ貴様!!  
家来のくせに魔王ラハール様を忘れたのかエトナっ!?」  
 
「け・・・家来・・?」「痛っ!」  
 
ズキン、と思い出すのを邪魔するようにエトナの頭痛が急に強まる。  
 
「一体どうしたのだエトナ!?オレ様のことを忘れたのか!?」  
 
「痛い・・痛い・・頭が・・」  
 
「エトナ・・っ!」  
 
「うるさいっ!うるさい!あんたなんて知らない!変な事言わないでよぉっ!」  
 
苦しそうに頭を抱えて泣きながらその場にへたり込むエトナ。  
 
なぜか。  
精神が昔のエトナを思い出すわけにはいかないと警告を発しているからだ  
今のエトナとギャップが大きすぎて、エトナの精神が耐えられないのだ  
 
だからアデル達に頭を下げた時、エトナの精神は、  
昔のエトナの記憶を瞬時に封印することによって、自我の発狂を避けたのだ  
 
しかし、それが今、ラハールによってこじ開けられようとしている  
 
「おい、エトナぁぁっ!!」  
 
「やめてぇぇっ!!」  
 
「どうしたエトナ?大丈夫か!?」  
 
アデルがエトナの異変に気付き、近づく。が  
 
「近寄るなぁぁっーーッ!!!」  
ズバババァァァーーーン!!!  
 
「うわっ!!」「きゃあっ!!」  
 
アデルとエトナの間に大次元斬が叩きつけられ、大地が2つに割れる  
 
事情がまったくわからないラハールは、きっと  
エトナがアデル達に洗脳か何かをされたのだと即座に判断し、激昂した  
 
 
「貴っ様らァァーーーーッッ!!!  
オレ様のエトナに何をしたぁぁーーーーーーっ!!!」  
 
怒り狂ったラハールはアデル達に獄炎ナックルで襲いかかった。  
 
「く、来るぞ!」  
 
迎え撃つアデル達。しかしレベルの差は歴然。  
あっという間にエトナ以外の出撃メンバー全員が倒されてしまった。  
 
「ぐっ・・こいつ・・とんでもなく強い!」  
 
地に膝を折って立ち上がれなくなったアデル達。  
うずくまって動かないエトナにラハールが近づく  
 
「ハァ、ハァ・・エトナ帰るぞっ!後はフロンになんとかしてもらう!」  
 
(あっ・・・・・フロン?ラハール?・・アタシは・・・そう・・)  
 
「待ていッ!!」  
 
ラハールに手を握られ、エトナの記憶がかすかに復活しかけた時  
ロザリーが体中の痛みを堪えて立ち上がり、ラハールにそう叫んだ。  
 
「なんだ貴様はっ!、生意気な女はエトナで十分だっ!黙ってろ!」  
 
「侮るでない!余は・・  
高貴なる魔王ゼノンの一人娘、ロザリンドなるぞ!」  
 
ロザリンドの体正面に、ゼノンの家系の証である四ツ葉の紋章が光り輝く。  
 
「やかましいっ!!」  
 
ドンッ!! 「ッ!!」  
 
ロザリーの紋章にラハールの魔法が直撃し、紋章が歪んで弾け飛んだ。  
 
その瞬間  
 
「・・・・・・・・・・・。(ドクンッ!!)」  
 
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!!!!  
 
「な、なんだ・・・?」  
 
「ロザリー・・・!?」  
 
響く轟音。揺れる地面。  
ロザリーの体の周りを暗黒物質のようなモノが収束し、  
雷を纏いながらどんどん空間が深紅に染まって歪んでいく  
 
「我ハ・・・孤独ナル・・モノ・・  
何故・・我ヲ静カニ眠ラセテクレヌ」  
 
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ・・・・  
 
それは今のエトナと同じく、ロザリーであってロザリーではない者だった。  
 
 
「まだ邪魔するか生意気な女めっ!!くらぇっ魔王玉ァっーーー!!!」  
 
ラハールの周りに光球がいくつも発生し、  
腕を振り下ろすとロザリーに向けて一斉に爆裂する。しかし  
 
「・・・・。」  
 
「な、何だと!オレ様の魔王玉がきかないっ!?」  
 
立ち上る煙の中から、何ごともなかったかのように佇むロザリンド。  
突如、背中から光り輝く羽を広げ、ラハールの頭上はるか上空に浮き上がった。  
 
「!?」  
 
 
「カオスリバレート」  
 
 
そう呟いた瞬間。  
ラハールに魔の光球を携えた結晶が直撃し  
直後に広大な光の羽が大空を切り裂いて羽ばたいた  
 
「ぐわぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!」  
 
地響きと共に交信塔を破壊しながら床に叩きつけられたラハールは瀕死の重傷を負う  
 
「う・・・が・・・っ」  
 
血だらけで動くこともままならず、顔を必死に上にあげて抵抗しようとする  
 
「消えよ」  
 
しかし無情にもロザリンドが更に魔力を手に溜め、  
ラハールに止めを刺そうとした、その時  
 
「殿下ァァッッ!!」  
 
その瞬間。  
暗黒の雷撃がラハールのいる場所に落雷し、爆煙が立ち上る。  
 
 
 
「エトナ・・・・・?」  
 
 
 
煙がスーーッと掃けていき、状況が露になる  
 
 
ラハールは自分の体に暖かい温度が覆い被さっているのを感じ、  
それが、自分に抱きついてきたエトナだという事に気づいた  
 
「おいっ!?エトナ!大丈夫かっ・・!?」  
 
エトナの肩を両手で持って揺さぶるラハール。  
カクン、と力無くエトナの頭は揺れ、顔は血の気が引いて青ざめていた  
 
 
「エ、エ・・・ト・・・ナ・・・・そ、そんな・・」  
 
まさか。と、思ったラハールはブルブルと声を震るわせる。そして  
何か生暖かいモノで半ズボンがぐっしょりと濡れてるのに気づき、エトナの背中に目を向ける  
 
 
 
エトナの背中に穴が開き、そこから大量の血が溢れだしていた。  
 
 
「エトナァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!!」  
 
 
 
 
(・・・・・・・・・・・・・!)  
 
 
溶けた闇のまどろんだ意識から目を覚ますエトナ。顔に心地良い風をうけ、その方に目を向ける  
ふわふわと宙を舞うカーテンのレース、その窓の向こうには青空が広がっていた。  
 
(・・・・・・・・ここは・・・)  
 
見慣れた風景に、ここが自分の部屋、すなわち魔王城だということに気がつく  
自分が包帯だらけで、体にほとんど力が入らないことには最後に気がついた  
 
「く・・」  
「エトナ!目が覚めたか?」  
 
声のほうに顔を向けると、替えの包帯を手に持ったラハールが部屋のドアから駆け寄ってきた。  
 
「殿下・・・!あっ」  
「エトナ・・・っ!良かった・・。」  
 
傷に障らないように、エトナの体をゆっくりと、優しく腕の中に包んで抱くラハール。  
エトナは心地良い温度に表情を緩ませる、が、血生臭いような匂いが漂ってきて鼻についた。  
 
よく見るとラハールの瞼の下にはクマができており、  
自分のであろう体中に飛び散った血が乾いてカサブタのようになっている。半ズボンも赤黒く変色していた。  
 
きっと、なりふり構わず徹夜で看病してくれたのだろう。重傷なのは殿下も同じだったのに・・・  
 
「殿下・・・」  
 
そう思うと胸がきゅうとしめつけられ、エトナもその背中に腕を回して抱きついた。  
それに反応してラハールの表情も緩む。その心地良さにお互い離れたくないのか、二人は抱き合ったまま会話を続けた  
 
「あの・・・殿下。なんでアタシは助かったんですか・・・?」  
「秘薬だ・・・ジジィから奪ったヤツのな。あとはフロンが頑張ってくれた」  
 
そう。ラハールは神螺の塔でジオじいさんから奪った秘薬をまだ食っていなかった  
あの時、ラハールは最後の力をふり絞って交信塔からワープして離脱。  
魔王城に帰って秘薬を投与し、あとはフロンや他のヒーラー総出で治療して一命を取りとめたのだった  
 
それを聞いてエトナは周りを見渡すと、部屋の隅でイスに腰かけたまま、眠りこけているフロンの姿があった。  
 
「そうだったんですか・・・」  
 
そう呟き、ラハールの腕の中で、尽してくれた周りの全員に感謝するエトナ。  
しかしその直後、急に“ある不安"が襲ってきて泣きそうな顔でラハールを見上げる  
 
「あの・・・殿下・・」  
「なんだ・・?」  
「助けてくれて嬉しかったです。でも、アタシ・・その・・  
レベルが下がっちゃって・・・プリニーもみんな逃げちゃって・・・だから」  
 
目に涙をためながら、声を震えさせてうつ向くエトナ。  
殿下が必死でアタシを追跡してきた理由。魔神の実力と世話役のプリニー達の確保。  
そのどちらもアタシは叶えられない。レベルが低いだけの生意気な槍使いがそこにいるだけだ  
 
 
捨てられる。そう覚悟した時  
 
 
「どんなお前でもオレ様の家来に変わりはない!」  
「・・・・・・・っ!!殿下・・・。」  
 
ラハールがそう強く言い放ち、抱きしめる腕を強めた。  
エトナはその一言で、今までの不安と苦しみでボロボロになっていた心が解き放たれる  
 
「でん・・ぅ、う、うわぁぁぁぁあーーーーっ殿下ぁぁぁーーー」  
 
エトナはラハールの胸に顔を押し付けながら、いっぱいになった心を溢れさせて泣き声をあげた。  
 
 
 
ラハールが自分を、何よりも大切なパートナーとして心に置いていた事に胸を熱くさせながら。  
 
 
 
「・・・・・・・グスッ」  
「もう大丈夫か・・?」  
「はい・・」  
 
思いを全部ラハールの胸に吐き出して、泣きやんだエトナは  
スッキリとした顔で、ラハールに口から牙をのぞかせ、不敵な笑顔を浮かべて言う。  
 
「殿下」  
「なんだ?」  
 
「アタシまだ・・  
殿下を後ろからブスッといく計画。あきらめてませんから!」  
「フン・・・それでこそオレ様の家来だ!」  
 
ようやくいつもの悪魔らしい笑顔とノリを取り戻した二人。そのせいか  
ラハールは急に恥ずかしくなり、エトナに回していた腕をバッと離して、顔を赤らめて目をそらす  
 
「さ、さて・・オレ様も疲れた。もう寝るぞ」  
「殿下、よかったらアタシの隣が空いてますよ♪」  
「バッ、バカモノ!!体の傷に障るでないか」  
「寝るだけならなんともないですよ、あっそれとも乱暴する気だったんですか〜?」  
 
「な、・・・・!!」  
 
真っ赤になって動揺するラハールを見てケラケラと笑うエトナ。エトナはエトナを完全に取り戻したようだった。  
 
「ほらほら〜、遠慮せずに」  
「おわっ!引っ張るな!オイっ」  
 
グイっとラハールの腕を引っ張って自分の隣にボフッと倒れ込ませるエトナ  
その表情は悪戯っぽい笑顔から、母親のような、暖かく柔らかい笑顔に変わっていた。  
 
「バカモノ・・・」  
「フフ・・・」  
 
エトナのその表情を見て、ラハールは顔を赤らめてムスっとしながらも、  
緊張の糸が切れて今までの疲労がどっと押し寄せてきたのか、  
すぐに顔を緩ませ、瞳を閉じてスヤスヤと眠りに落ちていった・・。  
 
 
「・・・ふにぁ?」  
「あっフロンちゃんおはよー。助けてくれてありがとね」  
「エ、エトナさぁぁーーーーんっ良かったですぅー!!」  
 
寝惚けた表情から一転、エトナの無事を確認したフロンは、涙を流しながらエトナに抱きついた。  
 
「フフ・・フロンちゃんもアタシと寝る?♪」  
「あっラハールさん寝てる・・ずるいですよ私も!」  
 
大きなベッドに、エトナを中心にしてラハールとフロンが心地良さそうに眠りに入っている。  
スヤスヤ眠るラハールの横顔を見て、エトナは顔を近づける  
 
「殿下・・・大好きですよ」  
 
エトナはラハールの頬に静かにキスをして、瞳を閉じる。  
窓から入る一陣の風、カーテンがふわりと漂い、魔王城に静かな時間が過ぎていった―――――――――。  
 
 
エピローグ  
 
「はぁー、今日も見つかんなかったッスねぇ、新しいご主人様」  
 
アルケシティ。エトナから解放されたプリニー達は、  
未だに次の就職先を見つけられずに野生の魔物として街にたむろしていた  
 
「仕方がないッスよ〜、おいら達みたいなのを  
全員雇う悪魔なんてそうはいないッス」  
「あの斧吹っていうヤツも、散々おいら達を利用したあげく捨てていきやがったッスし・・」  
「でもまぁ、自由なのが一番ッスよ!・・・たぶん」「そんなもんスかねぇ〜・・・」  
 
「何スか?あれ」  
 
愚痴をこぼすプリニー達の中の一匹が、空中から高速で接近してくる物体に気がつく。  
 
「コラァァァッッ!!!糞プリニー共ぉぉッーー!覚悟しなーーーーーッ!!!」  
 
「ひぃぃッス!?」「え、エトナ様!?」「なんで・・・ぎゃぁぁぁぁぁぁあッスーーーーッ!!」  
 
はるか上空から落花星で突撃してきたエトナに、その場にいた数匹のプリニー達が爆裂して吹き飛ぶ  
 
「あんた達・・後が怖いって言ったわよねぇ・・・?」  
 
パキポキ、と指を鳴らして邪悪なオーラを吹き出しながら脅しをかけるエトナ。  
その髪はいつも通りに左右に爆発させ、黒革のデビルファッションも復活していた。  
 
「え、エトナ様、レベルがお下がりになったのでは・・・ッス?」  
「あぁ〜〜ん?レベルが低いから何か文句あんの?」「ヒィィ〜ッス」  
 
エトナはラハールの協力もあり、練武の洞窟4であっという間に元のレベルに戻っていた。  
 
「そ、そそんなワケないッス!おいら達は永遠にエトナ様の忠実な家来ッスよ!」  
「そ、そうッスよ!エトナ様を裏切るわけないじゃないッスか!長き休暇、ありがとうございますッス!」ビシッ  
 
「ふーーーん、休暇を与えてやった記憶なんてないけど、ま、  
今まで休んだ分の給料天引きと重労働追加でチャラにしてやるわ、さっさと城に帰ってきなー!」  
 
「はいッスーーーーーーーー!!」  
 
必死の形相で魔王城に帰っていくプリニー達を満足気に見送るエトナに、ある気配が近づく  
 
「エトナァァァーッ!!!貴っ様ぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」  
「あ、ヤベっ」  
 
油性マジックで顔をグチャグチャに落書きされたラハールが上空から炎を纏って突進してくる  
 
「スキだらけの殿下が悪いんですよー♪精進してくださーい」  
 
羽根をバサッとひろげ、悪魔の笑顔を浮かべたその少女は、シッポを振りながら上空へ飛び立つ。  
 
 
この二人のイタチごっこはまだまだ終わらない―――――――。  
 
 
完  
 
 

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