生意気。意地っ張り。少し自意識過剰。自分の腕に過剰な自信アリ。アイツに言わせりゃそっくりそのまま言葉を返してやるとか言われたが。
多分お互い、なんとなくモヤモヤっとしてた気持ちも同じだったんだ。オマケにそれを上手く言えないってのも似てたから無駄に時間が掛かっちまった。
いや、無駄な時間なんて無かったか…
「ひてんむそ…」
「飛天無双斬!」
あっさり奪われるオレの獲物。同時に差の付くパラメータ。
「あーっ!あーっ!」
「遅い!私が貰っても文句無いわよね!」
「大アリだ!マスターはオレを強化するつもりだったんだぞ!」
「私のマスターも同じよ。ま…弟子同士の実力も違うんでしょうけど…」
「お前!許さん!」
胸を反らして勝ち誇った姿。こんな場面は無数に見てきた。そのたびにオレは悔しがって、同じ手でやり返してやった。
「体力で行くとオレ達が前衛か…」
「マスター達が地形効果どうにかするまでは稼がないとね…」
無謀な戦い。敵さん有利の地形。不利な状況に飛び込むのは少なく無かった。
だがどこかワクワクしてた、大馬鹿コンビ。
「くたばっても良いけど時間くらい稼いでよね!」
「どっちが!」
「アンタが死んだら攻撃集中するのよ!」
「こっちも同じだろうが!」
一仕事終えて世話してくれるヒーラーのウンザリした顔も良く覚えてる。
認め合うなんて言葉は似合わないから、お互い「使えるヤツ」ってくらいの認識でちょうど良かったんだ。
「…私、ボロボロね」
「下手な化粧より似合うさ」
「…どっちで取ったら良いの?良い意味?悪い意味?」
「優秀なお弟子さんには教えません。ご自分で」
端から見りゃ汗臭い関係だったか。オレはそれで良かったと思ってるけどな。
意識するのが早かったのは、一応の性別のおかげでそういうことに敏感な、アッチの方だったらしい。それも意外なトコロ。
オレに弟子が出来てからだった。手の掛かるシーフ。オレはつきっきりで、正に手取り足取り教えてやった。
気が付けば隣にアイツが居ることが少なくなって、いつのまにか口を聞いてもシカトされる様になってた。正直オレの方が、オレ一人が落ち込んだと思ってた。
実際は違ってたらしい。
初期から戦闘に参加してたアイツの噂はイヤでも流れてくる。そこで聞いたのは元気が無いだの、剣にキレが無いだの。
何でかほったらかしに出来なくて、わざわざ二人きりって状況の場所に呼び出した時が、「決着」で「始まり」だった。
「何かあったのか?」
「別に…何も」
「皆心配してるんだぞ?」
「…」
「…オレを含めて」
「…え?そうなの?」「ああ。腐れ縁もあるが、一応心配だからな」
「…」
「…」
一生で一番キツい沈黙だった。てっきり馬鹿にされて終わりかと思ってた展開が、いつもと全然違う話になって、それで。
「…笑わないで」
何かが変わってた。
あれからマスター達との旅も一段落して、オレは悪魔としてアイツと事を起こそうとしてる。
短髪の下の強かった目が揺れた。弱くて、良い言い方をすれば可哀く見えた。
「不安か?」
「…ちょっとね。悔しいけど」
「…まあ、頑張るな」
「うん…」