「あれは一体…なんだったのだ…」  
 
悪魔はびこる無法地帯、魔界。そこに存在する悪魔を育む学校、魔立邪悪学園。  
その学園にて、魔王の名を冠し君臨する若き筆頭、魔王マオ。  
彼は思い悩んでいた。それは先日彼が目撃した、ある出来事に端を発している。  
アルマースが思い人サファイアとの二度目の交わりを行ったあの日の夜、  
マオはいつものようにアルマースを連れて夜の校舎へと出かけようとしていた。  
あの戦いで手に入れた超勇者オーラムで遊ぶのもそろそろ飽きてきたところだし  
暇つぶしに子分を侍らせて夜遊びをしようというのである。  
善行と悪行とが真逆になっている魔界の優等生ならではの考えであった。  
アルマースとサファイアの部屋の前までやってきたマオだが、そこでふとある異変に気がついた。  
夜の闇の中、本来ならばしっかりと閉められているはずのドアが、金具が緩くなっていたのだろうか、  
ほんの少し開いており、部屋の中の明かりが薄く漏れ出していた。  
 
「なんだ、我の子分ともあろうものが。無用心なやつめ…」  
 
マオは後で説教をしてやらねば、といつものように勢いよくドアを開け放とうとした。  
が、ドアに手をかける寸前に部屋の中から聴こえてきた二人の声にびくっ、とその動きを止める。  
 
「あん、やあぁ…アルマース…もっとぉ…もっと、ほしいのじゃ…」  
「はい…っ、こ、こうですか…?」  
「やんっ、や、ああっ!そう、そうじゃっ、いいぞ、いいぞ、アルマースっ!」  
 
わずかに開いているドアからではいまいち分かりにくいが、どうやら部屋の中の二人は  
全裸に近い格好でお互いの体をまさぐりあっているようだ。時折聴こえる二人の声は、  
マオが今までに聴いたことの無い艶やかさを伴っていた。  
研究熱心なマオである。このような自らにとって初めて見る光景を研究せずにそのままにしておくことなど、  
普段の彼には出来ないことだが、そのときのマオは珍しく非常に動揺しており、  
おのずと一歩一歩ドアから後ずさってしまっていた。  
 
「な、なんだ、この妙な気持ちは…!」  
 
マオのココロに未体験のモノが込みあがってくる。それは、以前魔チコ先生に頬にキスをされたときの  
気持ちにも似ていたが、それよりももっと複雑な難しいモノであった。  
 
「…くっ。い、一時撤退だ。あんな所に入っていくわけにはゆかぬ…」  
 
戦いならば誰にも負ける気がしないというのに、ココロの問題にはすこぶる弱いマオ。  
正体が知れないココロの中のモノにイライラとしているのが分かる。  
その夜マオは自室に篭って外に出てこなかった。  
 
そんなことがあってからというもの、マオはアルマース、サファイアとの間に  
妙な隔たりを作っているようだった。アルマースが彼に話しかけても、どこか生返事で返すし、  
サファイアのおちょくりにもあまり反応しなくなってしまっていた。  
 
「どうしたのかのう、マオ殿は。最近様子が変じゃ」  
「はい。なんだか、上の空で考え事にふけっていて…」  
「魔王になれば色々と考えることも多いのじゃろう。そっとしておくのも良いかもしれんのう」  
 
マオを大切な友人と思う彼らは彼のことを心配に思ったが、自らが原因だとは露知れず、  
見当違いのことを話し合っていた。  
一方マオはというと、自室にて自らの集めたコミックやゲームのコレクションを漁り、  
あの時に見た光景に関係するような資料がないものかと紙面に食いついていた。  
 
「むむ…、これも、これも…。これにも載っていないか…。くそっ、役に立たん資料だ!」  
 
しかしマオの買い漁っていたそれらは生憎と健全なものばかりで、  
清い恋愛モノはあってもそのような行為が描かれているものは見つけることが出来なかった。  
順調に事が進まないことにイライラとするマオ。  
 
「ええい!一体あの時に見たあいつ等のしていた事は何だったのだ!ああ、イライラする!  
 しかもなんだ!この胸がムズムズする不愉快な感覚は!」  
「なにをそんなにいきり立ってるんだい?マオ」  
「…うおっ!?何奴!!……なんだベリルか」  
 
頭を掻き毟りながら悶えていたマオの後ろから可愛らしい声が響いた。  
振り返れば、お互い認めるところの彼のライバル、ラズベリルがきょとんとした顔で立っていた。  
募金活動をしてきた帰りなのか、片手には彼女のちんちくりんな体躯には少し大きすぎるほどの  
空の募金箱が抱えられている。マオの様子を一瞥した彼女は、おもむろに口を開いた。  
 
「なんだ、とはなんだい。アンタ最近ずっとこんな調子じゃないか。  
 悩んでるライバルを放っては置けないからね。様子を見に来たのさ」  
「我の様子を見にきただと?…ふん、余計なことをするな。それに我は悩んでなどいないぞ。  
 我はいつでも絶好調だ!」  
「…アンタねえ…」  
 
たった今思いっきり思い悩んでたじゃないさ。彼女は素直になれないマオに  
少し呆れ顔だったが、まあそうでなくてはマオはマオらしくないしな、と思い直し、  
再び話を聞いてみることにする。  
 
「まあまあ。悩みは誰かに聞いてもらうのが一番さ。このラズベリル様が聞いてやるって  
 言ってんだよ?話してみな」  
「だから悩みなど無いと言うに…。まあいい。お前がどうしてもというから話してやるのだぞ」  
 
渋々ながらも話し始めるマオ。こんなところは、少しあの件から丸くなったかな、  
等と思いながらラズベリルは話を聞く。しかし話の途中から、彼女はそんな余計な考えが  
頭に浮かばなくなるほどに興奮していた。  
 
「すっげー!!すっげ、それ『性交』じゃねーか!!愛の中でも伝説中の伝説!  
 愛の究極だぜ!あーっ何で呼ばなかったんだよ!アタイも見たかったーっ!」  
「何?あれは愛の一種なのか?あのような行為、我のコレクションには載ってはいなかったぞ」  
「だから伝説なんだよ!そうかい、あいつらついにヤッたのか!後でサイン貰いに行かなきゃね…」  
「そうか…あれは愛…なのか。では、あのときから我が受けているこの感情は、  
 あの行為から発せられる精神攻撃のようなものなのか。っく、あの二人め!我に  
 そのような攻撃を加えるとは良い度胸ではないか!」  
「…あん?マオ、アンタ何言ってんだい?」  
 
いまだに愛を宇宙のエネルギーかなにかだと思っているマオは、甚だ見当違いの事で憤っていた。  
ラズベリルはマオの顔を見ながら少し考えた後、ははあ、と分かったような顔をしてにやにやしながら言った。  
 
「そりゃあアンタ…恥ずかしいんだよ」  
「は、恥ずかしい…!?バカな!悪魔である我にそのようなことがある筈は…!」  
「いや、『性交』は究極にして最大の愛情表現。そんなものを間近で見ちまった日にゃあ、  
 悪魔だって顔を紅くするってモンさ。現にアタイも話だけで体が熱い」  
「恥ずかしい…。我が、あいつらに対してそのような感情を…」  
 
マオは思い悩んだ。子分に対して顔を紅くする魔王がどこにいるというのだ。  
どうにかしてあいつらのあの行為を我にとってなんでもない行為にしてやらねば。  
そうして、マオは一つの結論に至った。  
 
「そうかっ!我もあいつらと同じくその『性交』とやらを行えば良いのではないかっ!」  
「…な、なんだってぇ!?ちょ、ちょいと!マオ!」  
 
姫様ん所に言って詳しく聞いてこようかね、などとブツブツ言っていたラズベリルは  
突然とんでもないことを言い出したマオに驚きの声を上げた。  
 
「なんだ、ベリル。だってそうであろう。あいつ等の行為は、我が『性交』に慣れてないからこそ  
 恥ずかしく感じるのだ!我自ら性交を行い、それに慣れることでこの恥ずかしさとかいう  
 ステータス異常は回復されるはずだ!邪悪指数180万の我が頭脳が導き出した答えだ!  
 間違っているとは言わせんぞ!」  
「いや、あながち間違ってないような気はするがね…でもそれは…」  
「よし!ならば、早速校舎へと赴き、適当な相手を見繕ってくるか!」  
「…な!?ちょいと!よしなっ、マオ!性交する相手はそんな簡単に決めちゃいけないんだよ!」  
 
性交する相手を適当に見繕うなどと言い出したマオを、ラズベリルは厳しい顔で止める。  
愛していない者と行う性交など、彼女の理想とするものではないし、  
それに、マオが見ず知らずの相手とそのような行為を行うことが、彼女にはたまらなく嫌だった。  
その感情が、マオを想うがゆえの『嫉妬心』であることには、まだ彼女自身微妙に気付いていないのだが。  
 
「なぜ止めるベリル!子分に気恥ずかしさなどを感じていては、立派な魔王などにはなれぬ!  
 我はオヤジに誓ったのだ!必ずオヤジを超えるすばらしい魔王になるとな!」  
「…バカだねマオ。お互いに愛の無い性交なんかしたって、恥ずかしさは消えるもんか。  
 むしろそんな事をしてしまったことを後悔して、もっと恥ずかしくなっちまうさ」  
「…む…っ?そういうもの…なのか?」  
「そうさ。だからそんなことを言うのは止すんだね。…アタイも、イヤだし…」  
 
ラズベリルの言葉は最後のほうはもじもじと小さくなってしまって聴こえなかったが、  
せっかく思いついた名案が否定され、また思い悩んでしまうマオ。  
縮こまって考えを巡らせるマオを見ながら、ラズベリルはまったく別の考えを巡らせていた。  
 
マオは誰か、アタイの知らないヤツとそういうことをしようとした。  
アタイはあの時、柄にも無く取り乱しちまった。そりゃあ、愛の無い行為なんて、アタイは大っキライだし、  
マオにそんなことをさせるのも許せない。でも、そんなことよりもっと純粋で、  
もっと大切なことで、アタイはマオに対して怒りにも似た感情を持ったんだ。きっと、それは…。  
 
「なあ、マオ」  
「ぶつぶつ…、ん?なんだ、ベリル」  
「…どうしてもしたいんなら…、その、アタイと、しないか」  
 
突然の提案。一瞬の間を置いて、マオの顔が驚愕に歪む。  
 
「な、なにぃ!!わ、我と、お前が性交を行うというのかっ!?」  
「……そ、そうさっ」  
 
なにさ、なにかおかしい事でも言ったかい?そう言うかのようにラズベリルはすました風に  
顔を上についと反らせた。しかしその頬は真赤で、目は泳ぎ、説得力というものが一切無かったが。  
そのような顔を見て、マオのココロにもまたあの恥ずかしさが湧き上がってきた。  
ちょっと待て、我はなぜにこのように動揺しておる!他の者と行為に至る、と言ってやったときには  
このような気持ちにはならなかったと言うに!  
ラズベリルはマオへの想いに気付いたようだが、マオは未だに内に秘めたこの気持ちがラズベリルへの  
大切な感情だとは気付かないようだ。いや、ホントはいい加減気づいてはいるのだろうが、  
素直で無い彼には自分の中のそれを認められないだけなのかも知れない。  
 
「わ、我とお前は、ライバル同士っ!言わば不倶戴天っ!宿敵同士の関係だっ!  
 そのような相手とそのような行為を行うなど、お前とて望むところではなかろうっ!」  
「…いや、それは違うね、マオ。アタイは気付いたのさ。確かにアタイらはライバル同士だ。  
 それはこれからもきっと変わらない。だけども宿敵同士ってのとは大分違う。  
 少なくとも、アタイはアンタのことを、そんな風に悪くなんか思ってないよ。  
 いや、悪いなんてモンじゃない。…よ、よく聞きなよっ、二度は言わないからねっ。  
 ……せ、性交、したって、良いぐらいの相手だって、そう、思ってる」  
「べっ、ベリル…お前…」  
 
それっきり顔を紅くして俯いてしまったラズベリルを前にして、マオはこれ以上無いほど動揺してしまっていた。  
いつもボランティアボランティアと煩く、自分にトラウマを残したラズベリル。  
不良というレッテルを貼られながらも、周りの多くの悪魔から慕われているラズベリル。  
純粋な悪に堕ちようとした自分を命を懸けて必死で止めてくれたラズベリル。  
様々な彼女の顔が浮かび、そして最後に今、自分に言われた事が反響する。  
なんだなんだ、なんだというのだ、この、気恥ずかしく、胸がムズムズとして、それでいて…  
…それでいて、暖かな、心地よいこの気持ちは。…知らぬ、我は知らぬぞ、このようなモノ。  
ベリル、お前は一体何をした。これでは、これではまるで……。  
 
…マオは自らでも知れず、ラズベリルの小さな体を抱き寄せていた。  
ラズベリルの肩がびく、と震える。ゆっくりと彼女は顔を上げて彼の顔を仰ぎ見た。  
普段はしかめっ面で皮肉たっぷりにしか笑わないような彼が、存外穏やかな顔をしている。  
その頬は、隠しようがないほど紅く染まっていた。  
 
「…ふふ。真赤じゃん」  
「…ふん」  
 
バツが悪そうに頬をぽりぽりとかくマオ。恥ずかしさを紛らわせるかのように、  
妙に大きな声でしゃべりだした。  
 
「…そ、それでその、まずは何をしたら良いのだ!?我は性交について詳しくは知らぬ!」  
「…ん、そ、そうだね…ええと…」  
 
言われてラズベリルは今まで培ってきた愛についての知識を頭の中で漁る。  
まずは…、そうだね、やっぱあれだよね…よ、よし、行くよ、ガンバレアタイ。  
 
「ま、まずは、き、キスだ」  
「き、キス!?唇と唇を合わせるあれか!」  
「そ、そうだよ。は、早くしなっ!待っててやるから…」  
 
言ってラズベリルはきゅっと目をつぶり、くいっと顔をマオへと向けた。  
柔らかそうに艶めいた唇がマオを誘う。つぶられた瞳から流れる睫毛が切なそうに揺れている。  
ベリルのヤツ、こんな顔も出来るのか。マオはドキドキとしながらそう思い、  
徐に顔を唇を近づけていった。  
 
「んっ…」  
 
唇同士が触れ合った瞬間、ラズベリルの体はまたびくっと震え、マオもまた、  
ラズベリルの唇の柔らかさに驚いた。下に伸ばしたままだったラズベリルの腕が  
マオの背中に伸び、きゅっとマントをつかむ。優しくだが確実に、もっと、とマオを引き寄せた。  
 
「んあ…、んむっ…」  
 
二人の行為は段々と大胆になっていった。唇を合わせるだけではもの足りなくなったのか、  
どちらともなく口を割り開き、お互いの露を交換し合う。ラズベリルは絡める腕をマオの首に持って行き、  
半ばしがみつく様にマオを貪った。マオもまた、負けじと抱えあげるようにラズベリルを抱きしめ、  
もっと近くへ、と身を寄せ合った。  
 
「ふあっ…、あ、ふ…っ」  
 
しばらくあって、二人は唇を離した。銀の橋が二人の間を伝い、すっと切れる。  
随分と長い間繋がっていたような気もするし、そうでもないような気もする。  
思考がそのように曖昧になって、お互いのこと以外は考えられない。  
マオにもラズベリルにも、そのような経験は初めてであった。  
 
「ベリル…」  
「…マオ…、はあ…っ」  
 
トロンと上気した顔で見上げるラズベリルに、マオは内に何か熱いものがこみ上げてくるのを感じた。  
そ、そういえば、あいつらはベッドの上でああいった行為をしていたな…。  
マオは曖昧な思考の中、そのようなことを考えた。ラズベリルに教えられてばかりでは良くない、  
と彼の中の男が彼も知らぬ内に警笛を慣らしたのかもしれない。  
マオはゆっくりとラズベリルを自室のベッドへと押し倒した。  
 
「あ、…マオっ」  
 
ぽ〜っとキスの余韻に浸っていたラズベリルは、ぼすっ、と優しく、だが力強くベッドへと沈められた。  
突然行動しだしたマオに対していささか動揺してしまう。  
 
「あ、アンタ、その、やり方、わかるのかい…?」  
「…いや、少し見ただけだから、分からぬことも多い…。だが、お前に教えられてばかりでは、  
 良くないと感じたのだ。…だが、その…。もしかしたら、我の行為は痛かったりするかも知れぬ。  
 そ、そういう時は言うが良いぞ!特別に譲歩してお前の言うことを聞いてやらんでもないっ」  
「……ふふ。…へへ、まったく、アンタってヤツは…」  
 
女にリードされるのは嫌だって素直に言えば良いのに。ホントにアンタは素直じゃないね、マオ。  
普段ならあきれてしまう所だが、今のラズベリルにはマオのそういったところさえ愛しく思えた。  
まあ、まかせてみようか。そんな思いに至ったラズベリルは口を開く。  
 
「…いいよ、マオ。すきにしな」  
「…っ」  
 
そう言ったラズベリルの顔は柔らかく微笑んでおり、全てを許すという天上の女神もかくや、という  
優しさを携えていた。たまらなくなったマオは、もう一度彼女の唇を己の唇で塞ぐ。  
 
「あ、マオ、…ん……っ」  
 
ラズベリルの柔らかな熱に再び浮かされながら、マオはゆっくりと彼女の服を脱がしていった。  
しかし生憎と彼女の身に着けているセーラー服は、マオの知っている服の構造と大分違っており、  
中々上手く事が進まない。そんな様子に気付いたラズベリルは、未だ熱に犯された頭ではあったものの、  
意地悪く、にししっ、と微笑んでこんなことを言い出した。  
 
「…む、…む」  
「…マオ」  
「な、なんだ」  
「…苦戦してるみたいだね」  
「く、苦戦などっ。我に取ってこのような服の構造など…っ…?」  
 
いつものように言い訳をしようとするマオの言葉は聞かず、ラズベリルは優しく彼の手を取り、  
セーラ服の隠れて見えづらいジッパーへと導いた。意地悪い笑みが優しいものへと変わる。  
 
「ほら、ここだよ」  
 
ぬがせて。言外にそんな言葉がついてくるであろうその言い方に、  
マオももう余計な言い訳を言っていられる余裕が無かった。  
ゆっくりとジッパーを開き、ラズベリルの肌を露にしてゆく。  
 
「…あ…、マオ…」  
 
ラズベリルは指して抵抗するそぶりも無く、なすがままだったが、下を覆うショーツ一枚になってしまうと、  
恥ずかしそうな、切なそうな顔をしてその小さな体をさらにちぢこませた。  
体つきは、間違っても豊満とは言えず、胸も殆ど無いほどに薄いものであったが、  
紅く興奮した柔らかそうな肌と、ミルクのような優しい匂いにマオは夢中になった。  
 
「ベリル…っ」  
「あ、そんな、むね…っ」  
 
ささやかながらも紅くぷっくりと膨れたラズベリルの胸の頂点に、マオはむしゃぶりついた。  
ラズベリルの背中に腕を回し、ちゅうちゅうとミルクを飲む子猫のように必死でしがみつく。  
そんなマオの様子と、自らの胸からこみ上げてくる快感に、ラズベリルは艶がかった声を上げる。  
 
「ひゃ、あ、あ、マオっ、そんな、…しちゃっ…やぁっ」  
 
気がつけばラズベリルはマオの白髪をかき抱き、マオから与えられる快感に酔っていた。  
両方の胸を存分に貪ったマオは、ゆっくりと顔を今度は彼女のショーツへと持ってくる。  
もうすでにそこは喜びの涙を流しており、可愛らしいドクロのプリントは彼女の涙で濡れ、  
その色を濃くしていた。一層と強くなるオンナノコの匂いに、マオの頭はクラクラとしてしまう。  
 
「ぬ、脱がすぞ」  
「…あ、ああ…」  
 
濡れそぼったショーツをゆっくりとおろすと、其処には毛も何も生えていない、  
ラズベリルの無垢な秘部があった。紅く興奮した彼女の体の中でも、一層そこは紅く切なそうにしていた。  
マオはやさしく、やさしく、とココロに念じながら其処を指で撫でた。  
 
「…んっ…あ、はあ…っ」  
 
初めて自分以外のものに其処を触られたラズベリルは、かなり緊張しているようだった。  
マオもそんな彼女の心中を察したのか、どうにかして楽にしてやらねば、と思った。  
ふと、ラズベリルの其処に一部他と違う部分を見つけた。ぴょこんとふくれたそこは、  
時折切なそうにひくひくと震えている。マオは其処を優しく指でこすってみた。  
 
「ひゃああっ!!」  
「べ、ベリルっ!?」  
 
突然ラズベリルが高い声を上げたので、マオは驚いた。しまった、何か悪いことをしてしまったか。  
そのような思考が彼の脳裏をよぎる。  
 
「ど、どうしたベリルっ。何か我は…」  
「はあ…っはあ…っ、ん、ううん…ちがう…。ちょ、ちょっと、キモチよすぎただけさ…」  
「そ、そうか。では、続けるぞっ」  
「ああ…。あ、ひゃあ!ん、んんっ!マオっ、マオっ!」  
 
いじるたび、ラズベリルは切なそうに高い声を上げてよがる。  
そのうちマオは先ほど胸にしたように、彼女の秘部のふくらみに吸い付いた。  
 
「ひうっ!あ、やぁっ!ああっ、マオっ、それ、あ、やぁんっ!や、やぁっ、あ、あああっ!!」  
 
ラズベリルの声がまた高くなり、余裕がなくなってきた。マオもそろそろ限界である。  
 
「ベリル…我は…」  
「はあ…っ、はあ…っ……。あ、ああ、…いいよ。きな…っ、…きて…っ、マオ…」  
 
慈悲の表情で大きく両手を広げてマオを迎えるラズベリル。マオは彼女に覆いかぶさり、  
怒張を彼女の中へと差し込んだ。  
 
「ひ、い、ううううっ!ああああっ」  
「べ、ベリルっ!つらいのかっ?」  
 
ラズベリルの純潔の証がマオのベッドに紅い染みを作る。目に涙を貯めながらも、  
彼女はけなげに耐えながらマオに話しかける。  
 
「へ、へへ。アタイら、ついにやっちまったな…。…っ!…ど、どうだい?マオ。  
 恥ずかしさは、消えたかい?」  
「ば、バカモノ!我のことなどはどうでもよい!ベリルお前、つらくは無いのかっ?」  
「こ、このくらい、全然大したことないさ…。アタイを誰だと思ってんだい…。…っ!」  
 
強がりを言ってもやはり痛いものは痛いのか、ラズベリルの顔が苦しそうに歪む。  
 
「ベリル…っ」  
「…マオ、た、確かにさ、ちょっとは痛いけど、でも平気さ。アタイは今、すっげえ嬉しいんだ。  
 マオと、いっしょに繋がって…。マオ、アンタも、そうじゃないのかい?」  
「…、我は…」  
 
何か気の利いたことを言おうにも、素直で無く不器用なマオには上手い言葉が出てこない。  
言葉で表せないならと、マオは彼に出来るだけの優しさをこめてラズベリルの唇を奪った。  
 
「あ…マオ…ん、ん…」  
 
痛みで硬くなっていた彼女の体が、くたっと柔らかさを取り戻す。  
しばらくそうしていると、痛みも薄れてきたのか、ラズベリルは口を開いた。  
 
「もう、いいよ、マオ。うごいて…。…つらいんだろ?…アタイも、な?もう…」  
「…わかった…」  
 
もう一度唇を合わせた後、マオはゆっくりと動き出した。  
ラズベリルの声が、徐々に痛みから来る物では無く、快感から来る艶がかった物へと変わってゆく。  
 
「あ、あ、マオっ、まおっ!いい、よ、あ、ひゃん!やん!やぁぁ…っ!」  
「ベリル、少し、早めるぞっ」  
「うんっ!うんっ!いい、よ!もっとしてぇ!たくさん、してぇ!あ、あ、やぁぁっ!ひぅぅぅっ!」  
 
我慢できなくなったマオがさらにペースを早める。ラズベリルもそれに合わせてさらに高みへと上ってゆく。  
ぐちゅぐちゅとお互いが交じり合う音が部屋に響く。  
 
「ひぃっ!ひぃっ!あ!やぁ!も、りゃめ!も、あたひ、りゃめぇ!なん、か、くゆっ!  
 なんか、くゆのぉっ!あ、まおっ!まおぉっ!」  
「我も…もう…っ!」  
「きてぇっ!まおっ!きてぇっ!なんかくゆのぉっ!こわ、い、からぁ!いっしょ、いっしょが、  
 いいのぉっ!あた、ひ、と、いっしょ、きてぇぇ!!」  
「くあ…っ!」  
「くゆぅ!きちゃ、まおっ!まおっ!や、ああーーーーーーーーっ!!」  
 
どく!どくどくっ!  
ラズベリルの中で、マオの欲望がはじける。満たされてゆく快感、満たしてゆく快感に酔い、  
二人は固く抱きしめあった。  
 
「あ…、あ…、まお、の、が、アタイの、中に……っ」  
「ベリル…っ」  
「ああ…っ……へ、へへっ…あった…かい……」  
 
放出が終わってもなお、彼らはお互い離れたがらなかった。  
ラズベリルはマオの頭を胸に抱き、マオもそこに落ち着いて身を休めた。  
そのうち心地よい疲労感が二人を襲い、まどろみの中に、その意識は融けていった…。  
 
 
 
 
「ええい、なんたることだっ!」  
 
ラズベリルとの行為からあけて翌日。マオは憤っていた。  
性交を経た彼は、もう恐れることは無い、とアルマースとサファイアの元へ自信満々向かっていったのだが、  
二人から発せられるラブラブオーラに絆され昨日の行為をまざまざと思い出してしまい、  
結果今まで以上に恥ずかしい思いに駆られることになってしまったのである。  
 
「こ、これではあの行為はまったく意味を成さないではないかっ!  
 我の偉大なる魔王への道が…っ!」  
「なに言ってんだい、マオ。たったの一回で克服できるなんて思ってたのかい?  
 やっぱりボンボンは甘いねえ」  
 
自分の席でブツブツと自分の誤算についての愚痴を呟いていたマオに  
あきれたような顔でラズベリルが言う。昨日あれだけくっつきあっても、  
そこはライバル同士。凶室ではいつも以上のスキンシップなどは無い。  
が、ラズベリルは皆が視線を外している所を見計らって、  
未だブツブツ言い続けているマオに顔を近づけ、ぽそっ、とこう言った。  
 
「何度だって、慣れるまですりゃあいいだろっ。つきあってやるから…。  
 で、でもアタイとだけだぞ! 他のヤツとなんて許さないからなっ」  
 
すぐに拗ねたように顔を紅くして、ぷい、とむこうを向いてしまうラズベリル。  
それを見たマオが余計に恥ずかしくなって悶絶してしまったのは言うまでもない事であった。  
 
 
終  
 

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