「アデル、アデルはどこじゃ?」
「お?どした?」
「どした?では無い。もう食事の時間では無いか」
「…あ」
「…おぬしの修行馬鹿、もはや止めようとは思わんが余も忙しいのじゃからな。しっかりして貰わねば困るぞ」
「悪い…」
最近、コイツはまた変わってきたと思う。悪い方にじゃない。成長した。どんな事も面倒くさがらなくなったし、下手すりゃ俺の家で一番の働き者だ。
それと…俺の贔屓を抜きにして見ても綺麗になったと思う。ハナコや母さんも言ったんだから当たってるんだろう。
「それにしても…」
「ぬ?」
「似合ってるな」
「…おぬし、前にも同じ事を言ったであろう?」
「覚えてるさ。それでもやっぱり似合ってる」
前はドレスしか着てなかった事を思い出した。勿論、ドレスは似合ってた。でも、悪いが今の服も似合ってる。
今までは絶対着けなかった、エプロンだ。
こういうのを見ると「それらしい」と思う。元々体つきが良いせいで、前より女らしく見える。胸の所なんか中身が中身のせいか、エプロンの上からでもはっきり膨らんでるのが解る。
…いや、前よりデカくなった気もする。
「む…どこを見ておるのじゃ?」
「い、いや!」
「嘘をつくな。物欲しそうな目をしおって…」
今までそんなに女って奴に興味は無かった。そういう俺の例外になる位なんだから、やっぱりコイツの魅力ってのは並外れてるんだろう。
「昼間からそういうことを考えるな。馬鹿になるぞ?」
「悪い…」
「少しは否定せんか!おぬしは解りやす過ぎじゃ!…っと、食事が冷めてしまう。はやくあの子らを探しに行け。修行馬鹿もその後じゃ」
「あ、ああ!」
結構使われてる気もするが、悪い気分はしない。俺達が安定してる証拠だろう。
「こら!ちゃんと手を洗わぬか!」
「「は〜い…」」
「それにこの子は解るとしてアデル、ハナコ、タロー!なんでおぬしらまで余が注意せねばならん!」
「あらあら、お姉ちゃんがちゃんとしてるから私は楽が出来るわ〜」
「義母上も手伝って下さらぬか!」
「私はもうおばあちゃんだし…」
母さんは楽をしてる。いや、楽が出来てる。コイツがしっかりしてるから。
「ほら…口元が…」
「んっ…」
「アデル、おぬしもじゃ」
「うっ…」
「にーちゃん達、ラブラブだね〜」
「余がしっかりせねば大変な事になるのでな。仕方ないのじゃ」
本当にコイツはよくやっている。炊事、掃除、洗濯…多分、理想的って奴だ。少しだけ口うるさい気はするけど、昔みたいにとげとげしく無くなった。いや、優しいのは昔からで、今はもっと優しくなっただけだ。
「ロザリン?」
「む?」
「今日はこの子、あたしと一緒に寝るからね〜」
「む…そうなのか?」
「そうか。よいぞ。ハナコ」
「へへへ…にーちゃん?」
「ん?」
「今日は速く切り上げてお風呂に入らないと嫌われるよ?」
「バっ、バカ!」
ハナコの方は…ますますあの魔神に似てきた。
「の…のう?アデル?」
「うん?」
「こ、今夜はそういうこと、したいのか?」
「あ…えーと」
こういうやり取りをするからバカにされるんだろう。
…実際俺もあまり回数をこなして無い。
毎日同じベッドなのに、毎回ドキドキして、それだけで終わる。
勿論、一回二回はしてないと母さんがおばあちゃんになったり、タローがおじさんになったりする訳は無いんだが。
それでもまだ、慣れない。この部分だけはあまり戦いの頃と変わっていない。
「…今日は速く帰る。待っててくれ」
「…そうか」
「新しい家族だ〜」
「「タロー!」」」
ウチの姉弟は皆、あの魔神の影響を受けていた。
今夜はそういう日だ。いつもと違って、寝間着は畳んで机の上に置いてあった。
二着とも。
「待ったか?」
「早く来ぬか…寒かったぞ…」
シーツの隙間から見える白い肌と胸元が眩しい。はっきりした谷間が見える。
「…やっぱり見ておったな?」
「…大きくなったんじゃないか?」
「少しだけ…じゃ」
「本当に少しか?」
「前のドレスを着ると溢れてしまうくらい…」
そうなるまで気づかなかったのは、やっぱり俺のせいだと思う。コイツの体はまだ成長過程らしい。
それなのに俺は…もうコイツを…
「ひゃうっ!」
「悪い、抱き締めたくなった」
「…悪い気はせぬ。余は体が冷めた。当分…そうしておれ…」
柔らかい胸と、絹みたいな脚の感触。ここで我慢が出来なくなるのは修行不足だ。
そして俺は…修行不足だった。
「…当たっておるぞ」
「う…」
「しょうの無い奴じゃ。余が治めてやらねばならぬか」
「面目ねぇ…」
「…良いか。余が全て受け止めてやるからな」
えらく過激な事を言う様になったと思う。コイツなりの誘いかもしれない。
「…おぬしの為に」
「…うん?」
「その気なら…おぬしの為にな、例えば…ずっと腹が膨れたままでも良いのじゃ。家族は沢山欲しいと言っていたでは無いか?」
「お前に構えなくなる」
「…馬鹿者」
「一番はお前の幸せだからな」
「もう余は十分幸せじゃ…お前の子を成し、家族も手に入れた」
「二人が良いときもあるだろ?」
「む…」
「まあ、その辺は難しいけどな」
「アデル…」
「うん?」
「あの子も大事じゃが、余も大事にするのじゃろう?それで良いのじゃ…」
「…」
「余を抱け…もう余は…淋しくない…」