指定された場所は人気の無い廃倉庫街でした。  
そこにプリニーを待ち受けるように一人のチンピラが座り込んでいました。  
事実、チンピラは彼を待っていたようで、彼が近づくと立ち上がり彼を案内するように倉庫街の奥へと歩いてゆきます。  
そして、道案内された先は、一際大きく、一際ボロい薄暗い倉庫でした。  
彼はチンピラに続き、ゆっくりと倉庫の中に足を踏み入れます。  
すると、その瞬間、暗かった倉庫の内部に明かりが灯されました。  
オレンジ色に浮かび上がる倉庫の中。  
そこには何十人もの人相の悪い連中と、その中心には。  
「………………! ……お、お、おとうさ…ん」  
かの魔法使いの少女が柱に縛り付けられ立っていました。  
彼女はかなり衰弱しているようで、弱弱しく第一声をあげた後は、力なく俯いてしまいました。  
彼女のそばに立っていたスーツを着込んだ筋骨隆々の大男が彼に近寄ってきます。  
それはプリニーもよく知った男でした。  
「久しぶりだな。元・頭領。覚えているかな? アンタに昔こき使われた元・副頭領のアゴールだよ」  
スーツの男は、そう自己紹介しました。  
よく見てみると、周りを取り囲んでいるガラの悪そうな連中、すべてに見覚えがあります。  
そう、彼らは、昔、プリニーがまだプリニーになる前の強盗団の仲間たちだったのです。  
しかし、再会を喜ぶ顔は何処にもなく、みなゴツイ顔をニヤニヤと並べています。  
もちろん、プリニーも再会を喜ぶつもりはありません。  
できるだけ冷たい表情を作りながら、目の前にいるアゴールに喋りかけます。  
「フン。またお前らの馬鹿面を拝むことになるとは…ッス。こっちも忙しい身ッス。  
用件をサッサとお伺いできるかな?ッス」  
アゴールは口の両端を吊り上げ、嘲るように言います。  
「忙しい〜? ガハハ、たかだか専業主夫が何言ってるんだ」  
「家事をしたことも無いようなガサツな男には判らんだろうなッス。それとも  
愚鈍すぎてできないのかな?ッス」  
自分もプリニーになるまでは家事など一度もしなかったことを棚に上げて、彼はアゴールを挑発します。  
アゴールは一瞬、眉根を寄せましたが、ソレもすぐに打ち消し、さらにプリニーに近寄ります。  
「ハッ、家事なんてする必要はねぇ。俺たちには力がある。なんでもぶんどれる力がな。  
そう元・頭領……アンタの残した、この『テスタメント』があればな! ガハハハ!」  
アゴールはそういって、自慢げに装備品を取り出します。  
『テスタメント』  
高貴な貴族のみがその着用を許される装飾品。  
全ての能力値が大幅にあがり、こと戦闘では絶対的なステータスになるそれは、  
プリニーが強盗団を立ち上げる前に独力で手に入れたものでした。  
彼はその力を使い、強盗団を統率していたのです。  
しかし、『ちょうまおう・らはーるさま』との戦闘で行方知れずになっていたソレ。  
元・副頭領がこっそり戦闘のどさくさに紛れて持ち出していたようです。  
「やれやれ、コソドロッスか。よくやるッス」  
あきれたようにプリニーは呟きます。  
「ハッ、この魔界では盗みもれっきとした技術。とやかく言われる筋合いは無い」  
プリニーは心底馬鹿にしたように肩をすくめます。  
「ハイハイッス。ま、ご高説賜るのはまたいつか、ということにして、サッサと本題に入るッス」  
アゴールの神経を逆なでしたのか、大男はブルリと身を震わせます。  
「オイ。言葉には気をつけろよ。あのガキがどうなってもいいのか?」  
「はぁ、お前、頭悪いんスか? よくないからわざわざこんな所まで来たんスよ」  
プリニーのその言葉に、アゴールは唇をゆがめます。  
「ハッ! あの冷酷無比な元・頭領が、たかだかガキの命の一つや二つでガタガタ言うようになったとは。なげかわしいなぁ!」  
「………………」  
プリニーは何も答えません。  
「まぁ、忙しいのはお互い様。……では、単刀直入に聞く。お前の隠し財産は何処にある?」  
 
「?」  
プリニーには意味がわかりません。  
しかし、アゴール以下全ての強盗団の面々の目は本気です。  
「はぁ?ッス。 隠し財産?ッス」  
「そうだ。お前がまだ頭領だったとき、俺たちに内緒で隠していた財宝があるだろう?  
それは何処にあるのか、と聞いているんだ」  
そんなもの彼には身に覚えがありません。  
そして彼は、自分のおかれた状況を完全に忘れて、しみじみ言ってしまいます。  
「お前たちって、馬鹿だ馬鹿だとは思っていたッスが、本当に真性の馬鹿だったんスねぇ」  
さすがの彼の言葉に、場の空気がさらに殺伐としてきます。  
そんなことにはお構いなしに彼は言います。  
「お前らみたいなの多数抱えてたからアガリはあんまりよくなかったし、日々、生活  
するだけでも結構な出費だったッス。財宝なんてためる余裕なんか無い。だいいち、  
そんな金があったらとっくの昔に、赤い月に行けてるッスよ」  
 
「「あ」」  
 
その場を取り囲んでいたガラの悪い連中が口を揃えてそう言いました。  
アゴールも例外ではありません。  
「で、そんな調子じゃ、どうせ生活が苦しくなったんスね。で、誰かがそんな妄想を  
生み出した。それで、わざわざ俺をこんなところにまでおびき出したっと」  
アゴールは俯き、肩を震わせます。  
「やれやれ、とんだ茶番だったッスね」  
余計なプリニーの一言でアゴールの怒りは頂点に達してしまったようです。  
「言わせておけば! このプリニーごときが!!」  
アゴールは力任せにプリニーを殴りつけます。  
プリニーにはその暴力を真正面から受け、地面にたたきつけられてしまいました。  
アゴールはプリニーを踏みつけ、大声で怒鳴ります。  
「こうなったら! こいつを! 八つ裂きして! バラバラにして! 粉々にしてやる!!」  
そして、まるでボールを弄ぶように、足元のプリニーを壁に叩きつけます。  
アゴールは背後を振り返り、少女の周りにいる男たちに命令を下します。  
「おい! もうかまわねぇ! そのガキ、まわしちまえ!!」  
ガラの悪い男たちは、その言葉を待っていたように下卑た笑いを口に貼り付け、少女に近寄ります。  
少女は怯えたように周囲を見渡し、身を硬くして叫びます。  
「……イヤッ!! …こ、こないで、ください…!!」  
しかし、周囲の男たちはそんな少女の様子を楽しむように、彼女を取り囲み、そして。  
「きゃぁああ!! さ、さわらないで! さわら――」  
「うるせぇガキだ。 ちょっと、だまりましょうねぇ〜」  
男の一人が、少女の口に汚い布切れを押し込みます。  
少女は抵抗し、布を吐き出すと切れ切れに声をだします。  
「た、たすけて……!! おと、おとうさん……!!」  
少女の悲痛な叫び声が倉庫に響き渡ります。  
 
「そのガキから、薄汚い手を退けろ馬鹿共、ッス」  
 
アゴールが振り返り、そして見ます。  
壁伝いに立ち上がり、少女のほうに歩いて行こうとするプリニーの姿を。  
「フン! まだ生きてやがったか。 さっさとおねんねしな!」  
アゴールは大柄な体格を生かして圧倒的な速度で殴りつけます。  
 
否、殴りつけるつもりでした。  
 
しかし、拳は空を切り、明後日の方向にそらされ、そのまま、曲がってはいけない角度に折れてしまいます。  
「ギィヤアァァ!!! なん、なん、なんだぁあ!?」  
倉庫内の視線がアゴールに集中します。  
思わぬプリニーの反撃にアゴールはパニックになってしまいます。  
そんなアゴールを諭すようにプリニーは語りかけます。  
「アゴール。お前は本当に馬鹿ッスね。俺を誰だと思ってるんスか?」  
 
そう言って、アゴールが確かにつけていたはずの『テスタメント』をプリニーは見せ付けました。  
そう、彼は実力主義のこの魔界で、天性の盗みの腕だけでのし上がった男です。  
そんな彼に、能力の大半を依存していた『テスタメント』を見せたのがアゴールの誤まりでした。  
そんなものを自慢げに見せつけ、不用意に接近し、あまつさえ感情まかせに暴力を振るなど、決して見せてはいけない隙。  
プリニーはその隙を突いてアゴールの『テスタメント』を盗んでいたのです。  
大口を開け、全身を震わせるアゴールにプリニーは惜しむように言います。  
「お前は、俺がいなくても強盗団をやっていける人材だと思ってたんスけどねぇ。残念ッスよ、色々と」  
プリニーは『テスタメント』で強化された腕力でアゴールの鳩尾を思いっきり殴りつけました。  
それはとても、とても鈍い音を倉庫内に響かせました。  
腹を押さえ、崩れ落ちるアゴール。  
プリニーはそんな彼を一瞥したあと、倉庫の中心、少女が括りつけられているほうに歩いていきます。  
静かになった倉庫の中、アゴールを沈めた今、彼を止めるものは誰一人いません。  
子分たちは彼の前から遠ざかり道を開け、彼は難なく、少女の元にたどり着きます。  
そして、彼女を捕らえていた縄を優しく解きます。  
「フン。やれやれッス。ほら、もう大丈夫ッスよ」  
少女は全ての力が抜けたように彼に力なく抱きつきます。  
「……お、おとう、さん! おとうさん……!」  
「暑苦しいッスよ。それにおとうさんはよせと――」  
その時。  
「こ、この化け物め!! 頭領の仇だぁ!!」  
少女を取り囲んでいた強盗団の一人が猛烈な勢いで彼に駆け寄ってきました。  
そして、その勢いのまま  
 
「――か、は…!!」  
 
男は懐に構えた短刀を彼の腹に差し込んだのです。  
プリニーはその男を振り払い、力ずくでたたき伏せます。ですが、プリニーはそのままひざを突いてしまいました。  
「!! お、おとうさん!? おとうさん!!」  
少女が彼に抱きつき、耳元で叫びます。  
ですが、彼の耳にはよく届きません。  
どうやら男の短刀はよほどいい所に刺さってしまったようです。  
手足がしびれ、全身から力が抜け、意識が霞がかってきます。  
それでも彼は冷静でした。  
「(あーあ、ここまで、か……。どうやら俺には正義の味方は向いてないようッスね)」  
どうにか息を吸い込み、プリニーは切れ切れに少女に言います。  
「……お、おまえ。…この、『テスタメント』を、そう、びしてここから、逃げろ……!」  
少女は大きく首を振ります。  
「イヤ……! おとうさん、おとうさん!!」  
少女の目から流れ落ちた涙が、彼の顔を濡らします。  
周りを取り囲んでいた男たちが一斉に寄ってきます。  
動けなくなった彼の止めでも刺すつもりなのでしょう。  
「い、言うこと、を……、聞け!! 速く! 速く!!」  
少女は決然とした表情で涙をぬぐうと、おもむろに立ち上がります。  
「な、に…を。馬鹿が……」  
「おとうさんはわたしが守ります」  
「……は」  
強盗団がプリニーと少女を取り囲みます。  
少女は彼らを見やると、震える声で言い放ちました。  
「おとうさんをこれ以上、イジメさせません……!!」  
倉庫の中にドッと笑いが木霊します。  
「おいおいお嬢ちゃん。おままごとはよそでやってくれ――」  
「馬鹿なガキだ! この人数相手に何ができ――」  
「だいたいお前、いままで人質だっただろう。そんなお前が――」  
強盗団は口々に少女を嘲り、罵ります。  
「おとうさんはわたしが守ります!!  
 
――テラファイア!!!」  
 
「はぁ!?」  
「な、な――」  
プリニーのいよいよ朦朧としてきた意識に天上を揺らす轟音が、地を震わせる衝撃が  
伝わってきます。  
そして爆音。  
プリニーの白い視界の中で、たしかに古倉庫が消し飛ぶ様が見て取れました。  
 
 
「大方、その短刀に痺れ薬でも塗ってあったんだろうよ。だから力が抜けちまった。間違いないよ」  
病院でそう診断された後、入院などを拒否され、1HL払されたあと、外に放り出されたプリニー。  
そして3日が経過しました。  
プリニーは少女の強制的な決め付けにより、ずっと床についており、少女はその間、家事やら看病やらをこなす毎日を送っていました。  
その間、二人は古倉庫の出来事など無かったように振舞います。  
プリニーには少女に聞きたいことがありました。  
どうして少女はあんなに強かったのに、連中に簡単につかまったのか。  
それが気になりました。  
それでも、ソレを口にすることはしません。  
少女が懸命に家事をし、看病をこなすその姿を見ていると、何故か口が動かなくなるのです。  
今日も言い出せないまま、朝が来て、昼が過ぎ、夜が訪れました。  
プリニーは夕食の片づけをする少女を、自分の寝床に呼び出します。  
「なんですか? お話って?」  
エプロンで手を拭きながら、少女は寝床に入ってきます。  
「うん。まぁ、座るッスよ。……なんだ、ッス。あの、ね。……うん。古倉庫の出来事についてなんスが」  
『古倉庫』という単語が出たとたん、少女は身を固めます。  
「あれについて、なんスが……。いいッスか?」  
少女は深呼吸をして、プリニーの目をまっすぐに見つめます。  
プリニーも、視線をそらしたりはしません。  
「……はい」  
「では聞くッスが……。どうしてお前、あんなに強いのに、簡単に捕まったりしたんスか?」  
「……『テスタメント』です。あれを副頭領がもっていたから抵抗できなかったんです」  
「『テスタメント』……ッスか。ふん」  
たしかに『テスタメント』の威力は絶大です。  
ですが、古倉庫を簡単に崩壊させられる魔力を持っていた少女に、そんなものが通用するのでしょうか?  
それにしても、少しでも抵抗はできたでしょうし、騒ぎを大きくし、魔界自治の連中を  
呼び寄せることも可能だったのではないでしょうか?  
そう考えたプリニーはさらに言い募ろうと口を開きます。  
しかし、それをかき消すように、少女は言います。  
「そんなことより――、不思議じゃないですか? わたしがこんなに強いの」  
「――ん? ああ、たしかに謎ッスねぇ」  
あれだけ強ければプリニーがプリニーになる前の強盗団でも相当目立っていたはずです。  
しかし、そんな少女の記憶はありませんし、取り残されたあとのファーストインプレッションでも  
強そうな感じは一切しませんでした。  
ということは――。  
「実は今働いているところに関係しているんです。何処だと思いますか?」  
「ん〜? 働いているだけで能力が上がるような場所ッスか……」  
少女は彼の答えを待たずに正解を言います。  
「……『超魔王ラハール様』の私設軍で働いているんです。弟子として。そこでLVを相当に上げられてしまいました」  
「――!!!」  
『超魔王ラハール様』。  
それは彼を殺し、プリニーにした張本人。  
彼の胸に複雑な感情が去来します。  
自分から売った喧嘩とはいえ、プリニーにさせられた屈辱、恨み。  
風化してしまっていた怒り、憎しみ。  
ですが。  
「――だから言い出せなかったんです。…………ごめんなさい」  
「……そうッスか」  
「? 怒らないんですね。てっきり、わたし――」  
プリニーは苦笑します。  
プリニーとして少女と生活しているうちに、相当、性格が丸くなってしまっていた自分。  
そのことを自覚すると、可笑しくて仕方がありません。  
かつての自分だったら、どういう反応をしていたのでしょう。  
もう、想像することすらできません。  
「………何を笑っているんですか?」  
少女がこわごわ聞いてきます。  
彼にはその様子すら可笑しくて、ゲラゲラと笑ってしまいます。  
「アイツらのこと、馬鹿だ馬鹿だといってしまったッスが、俺もいい加減、大馬鹿ッスねぇ! 本当に!」  
傍にあった少女の頭を強引に撫で回します。  
少女はされるがままです。  
 
そのまま、しばらくプリニーの笑いは収まりませんでした。  
そして、ようやくプリニーの笑いが収まるころ、プリニーはようやく気づきます。  
少女の頭に載せた自分の手を、包み込むように少女が両手で押さえていることを。  
「なに、してるッスか?」  
「馬鹿じゃありません」  
「はぁ?」  
「おとうさんは大馬鹿なんかじゃありません!!」  
そして、少女はプリニーを布団に押し倒しました。  
「な、なにをするんスか?」  
プリニーは寝転がったまま、少女を見上げます。  
少女は真剣な表情でプリニーを見つめ返します。  
「…………大馬鹿なのはわたしの方です」  
その声はあまりにも小さく、プリニーの耳まで届きません。  
「な、なにか言ったッスか?」  
少女は小さく首を振り、そして言いました。  
「……おとうさん、そういえば、倉庫まで助けに来てくれたことのに、まだお礼  
してませんでしたね」  
「はぁ」  
「じゃあ、おとうさん。わたし、一生懸命、ご奉仕させてもらいますね」  
「はぁ!?」  
 
「――で、何でこんなことになってるんスかね」  
「ん、ぷはぁ、き、気持ちよくないですか?」  
少女はプリニーの股下から顔を覗かせます。  
ご奉仕。  
それは文字通りの体を使った奉仕行為でした。  
少女は怪しげな魔法を使い、プリニーの生殖器を取り出す(作り出す?)と、それを  
まるでアイスキャンディのようにしゃぶりだしたのです。  
その技術は、少女の幼い外見とは完全に乖離した卓越したものでした。  
「お、お前。どこでこんなこと覚えたんッスか?」  
少女は、彼のモノを口にくわえたまま喋ります。  
「ははひ、おはないほろはら、ほほはへひ――」  
彼女が何かを口にするたびに、彼は敏感になってしまいます。  
「くぅっ! しゃ、喋るときは口を、離すッスよ!」  
「はぁ、はひ」  
ようやく、彼のモノを彼女は解放します。  
「ど、どうでしたか? ちゃんとご奉仕できてますか?」  
「あ、ああ。……っていうか、こんなことどこで覚えたんスか?」  
ふ、と少女の顔が翳ります。  
「まだおとうさんとわたしが強盗団にいたころ、『それなりの礼儀作法だ』っていわれて  
副、頭領とか、……仲間の、方々に、い、いろいろと教わって…………」  
言い募るたびに少女の体が小刻みに震えます。  
プリニーは身を起こすと、少女をしっかりと抱きしめました。  
「……ごめんなさい、わたし。その時、はじめてを――」  
「もういいんス。もう思い出さなくていいんスよ。それに元を正せば、俺がお前の  
ことを攫わなければそんなことには……。本当にすまないッス」  
「いいえ! ちがいます!」  
少女は確固とした声で否定します。  
「おとうさんがわたしのこと攫ってくれたから、おとうさんに会えたんです!一緒に  
暮らせたんです。これからも暮らせるんです。だから――、だからそんなこと言わないで下さい。  
そんな悲しいこと、言わないでください……」  
少女は彼に力いっぱい抱きつき、静かに泣き出しました。  
彼は彼女の背中を優しく撫でます。  
「判ったッス。もう、言わないッス」  
「……本当に、もう、言わない、で、下さい、ね」  
しゃくりあげながら、少女は彼から離れません。  
しばらく二人はそのまま、月夜の下、抱きあうのでした。  
 
「じゃあ……、いくッスよ。いいッスか?」  
「は、はい」  
暗い部屋の中、服を脱いだ魔法使いの少女の白い体が、プリニーの寝床にぼんやりと光っています。  
少女はプリニーに自分の体を使ってくれと頼みました。  
プリニーは初め、彼女の心の傷を抉ってしまうのではないかと思い、拒否しましたが、  
少女は一歩も譲らず、結局、肌を合わせることに。  
「あの……」  
「ん? なんスか?」  
少女の頼りない顔が薄闇にうっすらと浮かんでいます。  
「フ、フツツカモノですが、何卒、よ、よろしくお願いいたしま、す」  
少女のたどたどしい言葉を聞いて、プリニーは吹き出してしまいます。  
「な、なんで笑うんですかぁ、わ、わたし、真剣なのに……」  
「悪い悪いッス。なんか、これからするっていうのに、なんともなぁ、ッス」  
「ぶー」  
少女はむくれ、そっぽを向いてしまいました。  
プリニーはそんな彼女を真剣に見つめ、言います。  
「もし、どっか痛くなったり、怖くなったりしたら、言うんスよ」  
「だ、大丈夫です。おとうさんですから」  
プリニーは頭をかき、困ったように言います。  
「信じてくれるのはいいんスけど。おとうさん、っていうのはやめるッス」  
「じゃあ、親分、ですか?」  
「……いや。こういう時は、お互い、名前で呼び合うのが礼儀ってもんッス」  
そういって、ハタと気づきます。  
「……お前、なんていう名前ッスか?」  
「……わたしも、おとうさんの名前、知りません」  
しばらく沈黙が室内に木霊します。  
そして二人して、吹き出し、大笑いしだしてしまいました。  
笑いの中、息も絶え絶えに、自己紹介します。  
「うふふふ! わ、わたし、エリーゼっていいます!」  
「ハハハハハ!! お、俺はテイルっていうんスよ!」  
そのまま、二人は薄暗い部屋の中で笑っていました。  
 
 
「で、えーと、なんだか締まらないッスけど……」  
「はい、始めましょう」  
ようやく笑いが収まり、微妙な空気の中で、二人は再び向かい合いました。  
少女は小さなプリニー用の布団に寝そべり、プリニーは少女を上から覆うような体勢をとります。  
まずは、プリニーは少女に口付けします。  
それは小鳥がつついている様な軽いキス。  
プリニーはくちばしを離します。  
「っ! はぁ、テイルさん。……なんか、うれしいです」  
耳まで真っ赤にした少女の顔を見て、彼は皮肉気に言います。  
「ハッ、プリニーとキスするなんて魔界中探してもお前一人だけだろうッス」  
「はぅう、そうかもしれませんね。……もう一度いいですか?」  
「何度でも、お姫様」  
彼はくちばしを少女の柔らかい唇に触れさせます。  
そして――。  
「んんっ!!」  
そのままくちばしを少女の口内に侵入させ、舌を出すと、そこを優しく舐ります。  
最初は驚き、目を見開いた彼女ですが、両腕でプリニーの頭を抱きしめ、少女からも  
プリニーの内部に舌を絡めていきます。  
「んっ! んん…………れる、んじゅ、……ているさぁん」  
二人は貪るように互いの口を冒していきます。  
そして、ようやく口を離したプリニーに、少女は上気した表情で囁きます。  
「ているさん。からだ、あつい、です。すいっち、入っちゃいましたぁ、んっ」  
再び、プリニーは彼女の口をふさぎます。  
舌で舌を愛撫しながら、プリニーの不器用そうな手を少女の胸に当てます。  
「んんぅっ………………」  
少女はわずかに身を捩じらせますが、プリニーはかまわず、うっすらと膨らんだ双丘を  
撫で、その頂点をクリクリといじります。  
「や…………、や、ん…………」  
嫌がるような口ぶりとは対照的に、少女は自ら胸を寄せ、より刺激を求めます。  
「う、ん………。うっ……うっ」  
プリニーが胸を弄るたびに少女は甘い声を上げ、いつのまにか乳首は自己を主張するように  
ピンと屹立していました。  
プリニーは乳首を中心に、乳房全体を押し上げるようになで、緩やかに愛撫します。  
「て、ている、ん、さぁん……。せ、せつないで、す。もっと、もっと」  
答えはわかっていましたが、意地悪するように彼は言います。  
「ん? もっと、なんスか?」  
「んぅ……、もっと。もっとぉ、ら、らんぼうに、うんっ、して、くだぁ、……さい」  
少女は息を荒げながら、ようやく口にします。  
「こういうのが、いいんスか、ねぇ!」  
プリニーはいままでとは調子を変えて、乱暴に少女の胸を蹂躙します。  
「ん!! んっ!! あうっうぅぅ! はぁ、そ、そんな、いきなりぃ!」  
「乱暴にしていい、って言ったのは、お前、ッスよ!」  
「でもぉ、でもぉ! あんっ。そ、そこまでするな、ん! てぇぇ。ダメっ、ですよぉ。あぁん!」  
握り。揉みしだき。摘む。  
それらの動作を複雑に連動させ、少女の胸を犯します。  
「お前、胸の感度よすぎ、ッスよ」  
「あうっ! んんっ!! そんな、はぁん………こと、んぅ!」  
しだいに喋る余裕がなくなったのか、少女は嬌声しか発さなくなってしまいます。  
少女の額に汗が光り、肌がピンク色に染まっていきます。  
そろそろ頃合かと、プリニーは片手を少女の秘所にあてがいます。  
「んん!! やぁあ! ソコ、弄っちゃあ!」  
少女は電撃に打たれたかのように痙攣します。  
そして少女の性器から透明な露が少量吹き出してしまいます。  
「あれ? お前、もしかして、これだけでッスか……?」  
少女は肩で息をして、両手で顔を覆います。  
「イっちゃった、んスか……?」  
 
泣きそうな声で、力なく少女は反論します。  
「……だって。だってだってだって! テイルさん、らんぼうにしすぎるから、ですよぉ!」  
「イヤ、それにしたってお前――」  
ソコまで言いかけて、プリニーは口をつぐみました。代わりに  
「ん。イヤ。すこし急すぎたッスね。すまんッス」  
プリニーは謝りました。  
「い、いえ。元はといえば、わたしが言い出したことですから……」  
「じゃあ、次は優しくするッスよ」  
少女は顔を隠したまま言います。  
「あの〜、できれば適度に乱暴に……」  
正直な少女の言葉に苦笑しながら  
「はいはい。承りましたッス。お姫様」  
了承しました。  
 
 
「うん。これだけ濡れてたら、もう大丈夫ッスかね」  
プリニーは横になっている少女の秘所に手をあて、濡れ具合を確かめました。  
「はぁ、はい。じゃ……あの」  
「入れるッスよ」  
そして、少女の足の間に腰を進めていきます。  
「は、はい。テイルさん。よろし……く!」  
少女が言い終わらないうちに、プリニーは少女の内部に侵入しました。  
ソコは極めて狭く、用意には奥に進めません。  
「ぐっ、き、きついッスね……。ん!」  
「はぁ! あうん!! す、少し痛い、です」  
半分ほど入ったところで、プリニーは息をつきます。  
「ちょっと力を抜けないッスか? これ以上いったら、よけい痛くなるッスよ」  
「そ、そんな、こと、を言われて……も! け、けっこう、せい、いっぱ…いです」  
プリニーは頭を掻くと、言いました。  
「今日は、もう、これくらいにしとくッスか?」  
「え!?」  
唐突なプリニーの発言に、少女は驚きます。  
プリニーは優しく、諭すように言います。  
「ま、別に、今日しかできないってわけじゃないッスからね。無理に痛い思いをして――」  
「ダメです!! せっかくココまできたんですから! あぅ……。お、大声を出すと、  
お腹に響きますぅ」  
「な。もう今日はやめるッスよ」  
少女は唇をかみ締めると、状態を起こし、プリニーを押し倒します。  
もちろん、一部がつながったままです。  
そして、少女はプリニーの性器に両手を添えると、そのまま、強引に腰を落としました。  
プリニーの性器は少女の奥深くまで埋まり、少女の最奥を感じられるほどです。  
「あうぅ!! い、いたい、で……すぅ!」  
驚いたのは、いきなり騎乗位をとられたプリニーです。  
彼は大声で叫びます。  
「ば、馬鹿!! そんないきなりやったら……!!」  
苦悶の表情を浮かべながら、ゆっくりと腰を動かし、少女は囁きます。  
「テ、テイルさん……。優しすぎます、よ。適度に、ん、らんぼうにぃぃ、んあぅ!  
して下さい、ってぇ、言ったじゃ、ない、ですか……」  
「でも、お前、これは負担が――」  
「いいん、です。……これはお礼、でも……、あるん、ですから。あん! テイルさんがぁ、  
気持ちよくないと、ダメ………んん!! なん、です……!!」  
「………………」  
「もしかし、てぇ……。はぁ、きもちよく、ありません、か? わたしの中」  
「……気持ちいいッスよ。すごく」  
お世辞ではありませんでした。  
少女の中はとても熱く、狭く、繊細なひだで埋まっていました。  
それを敏感な部分で感じているのです。  
気持ちよくないはずがありません。  
 
それに、少女が少しだけ動くたびに、プリニーの胸には暖かい何かが溢れてきました。  
それはプリニーが、まだプリニーでないときにさえ味わったことのない特別な感覚。  
その感情を、プリニーはなんと呼べばいいのかわかりませんでした。  
「きもち、いいんです、ね。……ん! うれし――」  
「じゃあ、もう知らねぇッスよ。俺からも動くッス」  
プリニーは胸の温かさをごまかすように、わざとぶっきらぼうに言います。  
そして、少女の僅かな動きに合わせるように下から腰を突き上げていきました。  
「あう! ん! す、ごい、です!! テイ、ルさん!」  
「………………まだ、痛い、ッスよね」  
「はあ! は、い。でも、痛いけど! ん、痛く、ない、です、ぅ!!」  
「………………」  
無心で腰を振るプリニー。  
「あああぁんうう………んん、くふ、奥まで、奥のほうまで入ってぇ……きてま、す」  
少女は吐息を混じらせ声を上げました。  
「すご、い……です。ほんとうに、ている、はん! つながってぇえ……!!」  
「そうッスよ。つながってるッス」  
プリニーのモノが少女の内部をするたびに、少女は彼を放さないように複雑にうごめきます。  
キツキツのそれは、プリニーの全てを受け止め、入れるときは精を搾り取るように締まり、  
抜くときは名残惜しむかのように絡まります。  
「こ、こんな……かんじ、で! ど、どうでしょう……」  
「ああ、すごく気持ちいいッス。このまま、続けるッスよ」  
少女の性器はプリニーの声を聞くたびに震え、蜜を吐き出します。  
プリニーはそれに気づくと意地悪く尋ねます。  
「どうしたッスか? 俺の声を聞くだけでこんなに濡れてるッスよ?」  
「ス、スミマ、セン。てーるさんのぉ、こえをきくと。恥ずかしいけど、で、でちゃうんですぅ。てーるさんにぃ、だ、だかれてると思う! とぉ……」  
狭苦しい少女の中で、プリニーの性器は動き回ります。  
ピストン運動だけではなく、左右に動かしたり、奥のほうを書くように動かすと、  
性器と性器がグチュグチュといやらしい音を立てます。  
「あぅ、あっ、そ、そんなにおとぉ、ならさないでくだ、さい………!」  
「ハッ! お、お前が、そんなに締め付けたりするから、ッスよ!」  
「あぅぅ。あんっ、し、しめつけ、て、なんかぁ、いま、っせん、よぉ………!!」  
「ウソ、つけッス……! て、いうか本当、キツ……い!」  
結合部から泡立った蜜があふれ出し、シーツを濡らしていきます。  
やがて、少女とプリニーから流れ出した汗で、二人はずぶ濡れになっていました。  
暗闇の中で、二人の濡れた腰が打ちつけられる音がリズムのように響きます。  
少女もプリニーも息が上がり、ヘトヘトになりながら、それでも運動をやめません。  
「わ、わた……し! あっ、ずっと、ずぅっと、こう………んん! なりたかった……んで、すぅ!」  
「恥ずかしいことを、言うなッス! くぅ、この……!」  
それでも、とうとう終わりが見えてきました。  
「も、もう限界ッス! 出るッスよ!!」  
「あん! は、はい! いっぱい、いっぱい、出してぇ、くだ、さい……!」  
夢中になっている少女は自分がどんなにいやらしいことを喋っているのか気づきません。  
「じゃ、あ! 出すッス、よ!」  
「はい! 来て……! あ、あっ、んん! 来てください!!」  
そして、プリニーは精を叩きつけるように少女のなかに射出します。  
「んん!! ………なかに、わたしのぉ、なかに、出てるの、わかりますぅ……」  
長い長い射精も、やがて終わります。  
それを待っていたように、少女はプリニーの上に倒れこみます。  
「だ、大丈夫ッス、か?」  
「はぁ、い。だいじょう、ぶ、ですぅ……」  
少女はそう言うと、ゴロリと寝転がり、プリニーの横に寝そべります。  
「でも、ちょっと、張り切り、すぎちゃいました……」   
そして、息も絶え絶えに微かに笑います。  
「無茶しすぎッスよ」  
「あはは………。そう、ですね」  
「後片付けは、俺がするッスから、もう自分のベッドで寝るッスよ」  
「そう、ですか……。でも、わたし……、テイルさんと、一緒に、寝たい……」  
「ん?」  
プリニーが聞き返したとき、少女はもう夢の世界へと旅立っていました。  
 
「やれやれ……。お疲れ様ッス」  
プリニーはタオルで少女の全身を拭くと、器用に少女を寝たまま、寝室着に着替えさせます。  
そして、少女を抱え、昨日使われなかった少女の寝床に横たえさせ、布団をかけてやります。  
プリニーは、自分の寝床の後片付けをして、少女の布団にもぐりこみます。  
「……これで、ご満足、ッスか? エリーゼ?」  
初めて呼んだ少女の名前は、なんだかくすぐったくて、少し微笑んだあと、プリニーはすぐに寝付きました。  
 
「なぁんで、起こしてくれなかったんですか!?」  
「起こしたッスよ! それでも『あと、五分』とか言って、寝てたのは誰ッスか!?」  
「ふぇ〜ん! ち、遅刻ですよぅ!」  
「ほら! ちゃんと寝癖直して! しゃんとするッスよ!!」  
「はい〜! あ、朝ごはん……!」  
「食べてる暇はないッス! ほら! おにぎり包んでおいたから、行く途中で食べるッス」  
「はぅ〜! す、すみません! あ! あの、恒例の……!」  
「えっ? やるんスか? 時間無いのに……」  
「はい! 行って来ますの“ちゅ〜”! “ちゅ〜”!」  
「はいはい……! わかったっすよ、………。ほら」  
「わーい! テイルさん、行ってきまぁ〜す!!」  
「行ってらっしゃい! 気を付けるんスよ、エリーゼ!!」  
 
少女が強盗団に攫われるという事件から、もう幾月も経ちました。  
そのあいだ、少女は何とか立ち直り、いまではまた『超魔王ラハール様』のところに働きに出ています。  
プリニーは考えます。  
あの時、強盗団に少女が攫われたことを。  
たぶん、少女はわざと捕まったのではないのかと。  
それは恐らく、テスト。  
少女のことを彼がどう思っているのか確かめるための危険なテスト。  
彼は少女のテストに合格したのでしょうか?  
今となっては、それを尋ねることに意味はありません。  
そして、プリニーは前と同様、専業主夫の仕事に撲殺されています。  
変わらない日常。  
変わらない毎日。  
もう、強盗団だったときのことはもう、あまり思い出せません。  
そんなことよりも、ゴミだし日のほうが、スーパーの割引日のほうが重要なのです。  
プリニーは思います。  
何でこんなことになったのかを。  
 
「どうしてお前、あんなに俺と生活することに拘ったんスか?」  
「………笑わないで下さいよ?」  
「答え次第ッス」  
「う〜ん。じゃあ言いますけど。わたしにとって、テイルさんは物心ついたときからの  
初恋の人なんです。だから――」  
 
そして、こんな日常に慣れてしまった自分を苦笑しもします。  
それでも。  
もういまさら、後悔も何もありません。  
今はただ。  
少女と一緒に生活するだけ。  
赤い月に還るまで。  
ただただ、日々を生きていく。  
 
今日も魔界は暑そうです。  
今晩は冷やし中華にしよう。  
少女は喜んでくれるだろうか?  
そう思いながら、プリニーは掃除機のスイッチを入れました。  
 

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