「ゼタ…感謝してるわよ」
今日はお礼をしにいくの。私に自由をくれた、宇宙最強なんてカッコ悪いフレーズをつける、心優しい魔王様。
身代わりになるつもりなんてなかったんでしょうけど、結果的には私に自由をくれたもの。だからそのお礼。
「どういう事だ?トレニア」
「良いからじっとしてて…」
「む…」
意外と素直なのね。魔法が簡単に効くもの。悪いけど体の自由は…
「う、動けん…」
「…途中で逃げて欲しくないの」
「は?」
「私は全知全能の書だから…こういう時、こんな気持ちになった時、一番したい事を知ってるの」
私がドキドキする理由もわかってる。ゼタ、貴方が好きだから。
…でも、今の貴方の気持ちなんて私には載ってない。それでも私、時間が無いの。だからこうしたの。
「ちゅ…」
「ん…」
無理やり唇を奪うのは、本当は悪いこと。相手に好きな人がいるなら…尚更。
それでも止めたく無い。
「トレニア」
「何?」
「お前は我の事を…」
「好きよ。だから無理やり奪うの」
「魔法を解け」
「いや。離したく無い」
「解…」
それ以上は聞きたくない。貴方の気持ち、どうせサロメにでしょ?私に振り向いてくれる筈が無いわ。
「話を聞け」
「…黙って」
「…トレニア」
「黙ってよ…ゼタ」
「話を!」
「黙って!」
何度でも口を塞いであげる。私はこれで満足。貴方の気持ちが無くったって、こうしてるだけで…いいの。
…魔法が解けてきてる。ゼタが?
…解けちゃった。
「我の自由を奪うなど百年早い」
「や、やっぱり本調子の貴方には叶わないのね」
「トレニア」
「…いいわ。もうすぐ書に戻るから」
また、独りぼっちになるから。
「我の思いは…」
「もういいの…」
「お前にある」
え?
「書になってわかった。お前の悠久の孤独が」
「え?え?」
「お前の思いにはもっと早く答えてやるべきだった」
「…」
「お前を孤独にはさせまい。書に戻るとしても、お前には我の思いを捧げてやろう」
「…わけわかんない」
「我もお前が好きだ」
私は全知全能を得た時の中で、始めて他者を思い、始めてその者と繋がる事が出来た。