2月14日は改めて云うまでもなくバレンタインデーである。
恋する乙女らは振り絞った泣け無しの勇気と溢れるほどの愛情をチョコに込め、
それを支えにして、想い人へ告白する神聖なイベントである。
この地球生まれの珍妙なる文化は、とあるローカルな魔界テレビ局経由で紹介されるやいなや
伝染病も真っ青の勢いで魔界全土に浸透していく事となった。
それは今や人間界のそれと変わらぬくらいの一大イベントとして定着しており
ここ辺境の魔界ヴェルダイムですら例外では無かったのだが――
「……アデルの阿呆――っ!」
空で耀いている太陽が転寝してしまうくらいの平和なホルルト村に
ロザリンドの甲高い怒鳴り声が突如として鳴り響いた。
次の瞬間、光速で繰り出された問答無用のビンタが空を切り裂いて唸る。
その攻撃は先程から呆気にとられていたアデルの左頬を
易々と捉えて、状況が今一つ飲み込めていない彼を隣家の壁へと深々とめり込ませたのだった…。