満天の星空。  
そんな安っぽい言葉が最高に似合う夜のことである。  
「……ん?」  
なかなか寝付けなかったアデルが気晴らしに外に出てみると、何やら妙な空気が漂っていた。  
戦闘時のピリピリとした空気とは少し違う、しかし張り詰めた雰囲気。  
これは一体なんなのか?  
疑問に思ったアデルは神経を研ぎ澄ます。  
すると、彼の鋭敏な聴覚が一つの息遣いを捉えた。  
『はあ……はあっ……』  
荒い呼吸。  
それは右手の草むらのほうから聞こえてくる。  
「……誰かいるのか?」  
『!』  
声を掛けると、明らかに慌てたような気配が返ってきた。  
それに草の擦れる音、枝の折れる音が続き、最後に「ふみゅっ」とおかしな奇声が上がる。  
気配を探った感じだと、どうやら転倒したらしい。  
「だ、大丈夫か?」  
誰かは知らないがとりあえず心配するアデル。  
月明かりを頼りに、気配のする方へ近づいていく。  
「ん?」  
そこに、あられもない姿で倒れこんでいたのは――。  
 
「タロー?」  
「こ、こんばんはー兄ちゃん」  
あまりにも意外な登場人物に、アデルも一瞬呆気にとられる。が、すぐに復活した。  
「お前、こんな時間に何をやってるんだ? しかも裸で……」  
うつ伏せに倒れているタローはお尻が丸出しである。  
前の方が悲惨なことになっていなければいいが、とアデルは思った。  
「じ、実はー……」  
微妙にもじもじとしつつ、タローは上半身を起こした。  
そしてこう言った。  
「お、お乳を搾ってたんだー」  
「はあ?」  
再び呆気にとられたアデルが間抜けな声を漏らす。  
「乳って、お前は男で――」  
言い掛けて口を噤む。  
そういえばタローは牛型の悪魔だった。  
一瞬それで納得しそうになったが、まだ説明されていない部分がある。  
「……だとしても、下半身まで脱いでるのはおかしくないか?」  
乳搾りなら上だけ脱げば事足りるであろう。  
「それにはあたしが答えるわっ!」  
「――!?」  
突然横から響いた声に、アデルは咄嗟に拳を構える。  
しかし視線を投げた先に立っていたのは、アデルもよく見知った人物だった。  
「って、ママかよ……って全裸かよ!?」  
慌てて目を逸らすアデル。  
一方のママは気にした様子も無く、そのまま言葉を続けた。  
「タローちゃんが下半身まで脱いでいるのはね――」  
 
「タローちゃんが下半身まで脱いでいるのはね――」  
「いや、二度も言う必要はねぇだろ」  
ノリの悪い子ね、と頬を膨らますママ。  
「母乳の勢いが強すぎて、周りが乳浸しになっちゃうからなの。服なんか、着てたら乳まみれよ」  
「はぁ!?」  
アデルは目を逸らしながらも、ママの胸を見る。  
「い、勢いったってよ……わざわざ、外で裸になって……」  
「うーん、じゃあ百聞は一見にしかずって言うし。タローちゃん、もう一回しましょ」  
「はぁーい」  
ママが地べたに座り込み、膝に乗ったタローが、その胸を揉みしだく。  
彼の手つきは愛撫のそれで、アデルを激しく動揺させた。  
見てられなくて目を伏せると、足元に大量の水溜まりができていることに気付く。  
「? ……まさか、これ」  
アデルが振り返った瞬間だった。怒濤の勢いで、乳が放たれたのは。  
うねる濁流が、アデルを地面に叩きつける。  
次いで彼を飲み込むと、しぶきをあげながら、押し流していった……。  
 
 
 

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