「余は…」
荒涼たる世界。日の光まで赤く染まっていた。灼け付くような色だ。
一人、直立していた。
「もう余は!この世界の住人ではない!」
叫び声を上げた。ひとりぼっちなのに。ひとりぼっちになったのに。
「この世界の住人では無くなったのじゃ!」
地に転がる命の残骸を見ると気が狂いそうだ。
しかし、過去の事の筈。
「…!」
血だまりが目に入った。写し出されたのは「かつて」の自分ではなく…
「何故余が…」
ロザリンドとして、この世界に居た。
気が遠くなるのを感じ、頭を抱え、近くの石の上に座り込んだ。
「余はもう違う…余はもう違う…」
ただただ、そう呟いている。意識が徐々に遠退いていった。
息苦しさを感じ、目を開けた。顔が何かに押し付けられて、苦しい。
「むぎゅ…」
頭の後ろに回された手が、更に押し込んで来た。呼吸が辛くなる程の苦しさを覚えて、無理やりそこから離す。
「ぷはっ…」
「ん?」
「苦しいではないか!」
「…ああ。すまない」
ベッドの中は温かかった。自分の体温で温もったわけではない。
触れ合っている肌。それが温かかった。
「余を安眠させぬ気か?!」
「わかったわかった…」
何故かアデルは微笑んでいた。安心した様に。
ふと、自分の頬に流れている水に気付いた。
(こやつ…また気を利かせおって…どうせ慰めておったのじゃろう…?)
この男の考える事などすぐにわかる。例えそれが、嬉しい心遣いでも。
心の落ち着きを取り戻して、ロザリンドは更にアデルに密着した。胸で圧迫する程強く抱き付く。
柔らかな膨らみは、その固い体に押し付けられた。
「おい…」
「む?」
「俺は抱き枕かよ…」
アデルがうんざりした様に言う。しっかりとその腕はロザリンドの背中に優しく回されているのだが。
「ふん…しょうがない奴じゃ…」
仕方が無いと言う口調の割には、アデルから離れようとはしなかった。
(少しは褒美でもくれてやるか…)
たまには…と、妖しげな笑みを浮かべ、アデルの方を見上げる。
「…余を好きにしてもよいぞ…」
腕を外し、胸を持ち上げて谷間を見せた。こういう笑みは小悪魔に近い。
「…いいのか?」
「…よい」
「…」
素早くアデルは頭を下げて、ロザリンドの唇を奪った。
「むぅ…」
舌を使い、ロザリンドを楽しませようとそれを絡めていった。
「ぷはっ…」
息苦しくなったロザリンドが、唇を離した。アデルは微笑みを保っていた。
まるで「どうだ」と言わんばかりに。
「…卑怯者」
「俺は卑怯が大嫌いだからな…正々堂々…好きにする…」
「…ふん。したいならばいつでもそう言えばよい……相手してやらん事も…ないぞ…」