「ふむぅ・・・そ、そんなに大きいのは入らんぞ・・・アデル・・」
「お前がしようって言ったからしてやってんだろ?」
「し、しかたないのう・・・なら、はようしてみせい」
「わかったよ・・・俺も初めてだから、上手くやれる自信ねーけどさ」
「・・・う、む・・・ンあぁぁ・・・アデルぅ」
「くあっ・・・ロ、ロザリー・・・」
2人がこんなになったのには、時間を少しさかのぼらなければいけない。
そう・・・あれは満月の夜のことだった。
「おいちちち・・・・」
ゼノン(であった男)を倒し、ようやく我が家に帰ってきたアデル一行。
死闘を繰り広げて帰ってきたのだから、体中はキズだらけだった。
病院で治してもらおうにも今日は病院は休みだという。
治癒師もSP切れ・・・仕方なく自分で手当てしようと、近隣の住民に包帯やらもらいにいったわけなのだが・・・
「・・っはぁ・・・ヤベぇな・・・体うごかねぇし・・・」
体力の限界が来たのか、木に寄りかかってへたれてしまう。
目にうつっているのは黄色い満月だった。
(今日はここで寝ちまおう)
そう思いながらゆっくり目を閉じていく。
だが、何かに月明かりがさえぎられてしまう。
遮蔽物になったモノは、元ゼノン。ロザリーだった。
「こら、こんな所でへばっておるでない。バトルマニアのおぬしが」
月を背にして、ロザリーはアデルに向かって言った。
金髪が月光を跳ね返してキラキラと輝いている。
その美しさにアデルは息を呑んだ。
「どうしたんだ?お前こそ。こんな時間に出歩くなんてさ」
「うむ・・・少し、キモチの整理がしとぅてな。偶然おぬしを見かけたのだ」
「そっか・・・」
短い会話を交わしながら2人は場を和ませていく。
ふいに、ロザリーはアデルがもたれかかっている木の傍に腰を降ろした。
「いろいろあったのぅ・・・・・」
「ああ、いろいろあったな・・・・・」
アデルの脳裏に浮かんでいるのは、これまでロザリーとしてきた冒険。
支えあい、傷つき、真実を知り、そして乗り越えてきた。
一方、ロザリーの方も今までのコトを思い出していた。
一人きりだった頃の思い出、転生しあたたかい家族に出会えたこと、そしてこの隣にいる男・・・・
全てが走馬灯のように駆けていった。
長い沈黙があった。
でも、何故かそれが心地よかった。
ひょいとロザリーはアデルの体を見る。
古傷もあったが、今は露出しているキズ口の方に目がいった。
「おぬし・・・本当に大丈夫か?」
「ああ・・・とは言いたいが・・・どうもそうは言ってられねぇな。ケガが予想より酷いな」
「ちょっとじっとしておれよ」
そう言うと、ロザリーは木の根元付近に転がっていた救急セット一式を引っ張り出した。
中からキズ薬とガーゼを出しながらアデルに言う。
「わらわだって処置の一つや二つぐらいできるぞ・・・というわけで手当てをさせてもらう」
「え・・・でもさ」
「いいから、どうせ動きたくても動けないのであろう?しかも、このままではバイキンが入るかもしれないではないか」
意外なまで真摯な瞳に見つめられ、アデルは反抗できなくなった。
「む・・・ぅ・・・じゃあ、お願いする・・・」
ロザリーはアデルの言葉を聞いたあと、素早く治療を始めていった。
キズ口の汚れを拭き、薬を染み込ませたガーゼをあてがう。そして、包帯で固定してゆく。
右腕の包帯を巻きながらロザリーはボソボソとつぶやいた。
「ありがとう・・・じゃ・・・わらわを家族と呼んでくれて・・・・」
「今までもそうだったろ?だから、もうお前は家族の一員だ。これからも・・・ずっと・・・・」
その言葉を聞いた瞬間、ロザリーの中で何かがはじけた。
どっ・・・と熱いものがこみ上げる感覚があった。
最初は何かわからなかったけれど、頬を伝う感触でそれがなにかとわかった。
自分は泣いていた
よくわからない・・・・ただ・・・ただ、嬉しかった。
冷たかった一人の頃・・・でも、今は違う。あたたかい家族がいる。
あの時欲しかったものが今手の中にある。
気がつけば、アデルの胸で声をあげて泣いていた。
アデルは、しゃくりあげるロザリーの頭を優しく撫でて優しく微笑んだ。
「・・・っく・・・ひっく・・・」
「もう泣くなって。な?」
「馬鹿者ぉ・・・わらわは泣いたりなどしておらぬ・・・・」
精一杯強がって見せるが、すべて虚勢に終わっていた。
・・・・・・・・・・アデルは言葉を紡ぎだした。