「ティ、ティンク殿!これは卑怯でゴザル…ぞ!」  
雪丸は体をくねらせ、吐息混じりに喘ぐ。  
普段は清純そのもの、といった少女が今は、輝く瞳に涙をたたえ、部屋で一人、豊かな黒髪を振り乱している。  
だが目を凝らせば、彼女の装束の内側を、30p程の生きものの這い回る様子が見てとれた。  
「だからぁ雪丸さん。ぼくは元に戻りたいだけなんです。でも、お兄さんが術を解いてくれないから、妹さんの貴女にお願いしてるんじゃないですかー」  
雪丸の背筋や脇腹に、ぺたぺたと触れつつ、動きまわる赤蛙。  
両生類特有のヒヤリとした表皮は、彼女の肌を粟立たせた。  
「けど貴女も意地悪して答えてくれないし? 仕方なく実力行使に出てるんですよーぼく」  
「意地悪では……ないのでゴザル!あっ、兄者の術は…兄者にしか…っ!!」  
胸部に辿り着いた蛙は、左右の乳首を交互につつく。  
「そこは、蛇の道はへび? 何か方法あるでしょー」  
雪丸は答えず、というか答えられず、ティンクを押さえるべく自分の胸を引っ掴む。  
しかし──素早いティンクのこと、彼女の手を擦り抜け、今度は袴の裾から内部に入り込んだ。  
「いたいけな蛙だから、大した事出来ないと思ってます?」  
「や……嫌!」  
太ももの上を、内股に向かって移動する感触に悲鳴をあげる雪丸。  
このままでは、一番過敏な場所に触れられてしまう…その気配で背筋を凍らせた。  
「待って下されティンク殿!拙者、一つだけ策があるでゴザ…って、申している、のにっあ、貴ッ、貴殿は聞ぃあ、ぁ…んぅぅ!」  
力尽くで引き出されるまで、蛙は調子に乗り続けた。  
 
「…変化の術の重ね掛け、ねぇ〜」  
空中で思案顔をするティンク。  
ちっとも考えているように見えないのは、表情筋の不足だけではあるまい。  
ティンクのエロセクハラから解放された雪丸は、乱れた呼吸を整えるのに忙しい。  
「っはぁ、はぁっ…し、少々荒業でゴザルが、術を解く事が叶わぬ以上、それしか無いで…ゴザル」  
ただ、雪丸は人型のティンクを知らないため元には戻せない。  
だから、彼の希望に沿うよう意見を聞いたのだが…。  
「ひゃっはー!誰にしよー!ムチムチな魔物使い!?バクニューな魔法剣士!?いーや、ここはやっぱり姫様にして、秘密の花園探険および制覇でひとつ!」  
「……男性に限定させて貰うでゴザル」  
「なんじゃと、ワレ!ティンク様の淡い期待を一言で切り捨てやがったなテメェ!!?」  
赤い顔を怒りで赤黒くした蛙に凄まれながら、雪丸は、はたと気付く。  
自分が、術に乗せて変化させれるほど、外見を見知っている男性といったら。  
「兄者とアデル殿だけではゴザらぬか…」  
その言葉に、ティンクは即座に反応した。  
「斧雪ぃ〜!? あーんなバケモノに変化なんて最低最悪冗談ポイッ!それに、ぼくチン心眼使えないもんねー。折角人型になっても、女体観察の楽しみを奪われたら、死ぬしかねー!!」  
確かに雪丸も、こんな蛙に、敬愛する兄の格好をさせるのは避けたかった。  
 
「あいわかった。では、アデル殿の外見になるよう術をかけるでゴザル……変化の術っ!!!」  
ドロン!  
やたらと古風な効果音とともに、部屋が白煙で満ちる。  
術が形を成したのは、すぐに分かった。  
ドサリと人が床に落ちる気配と、「ぐぎょー!」とアデルらしき声がしたからだ。  
「大丈夫でゴザルか?ティンク殿」  
「あーうちッ!ぼくチンのキュートな顔面が!……鼻?あ、これ鼻!?」  
様子を確かめようと、雪丸が駆け寄った途端、煙が散った。  
彼の容姿は、まさにアデルそのもので──至近距離で顔を合わせてしまい、彼女の心臓が高鳴る。  
雪丸は即座に後悔した。  
本人不在で造った像だというのに、あまりに似すぎている。…目鼻も、跳ねた髪も、発達した筋肉も。  
「……戯れが過ぎたでゴザルな。お許し下されティンク殿、やはりここは別な手段を」  
自分を見て態度を変えた雪丸にティンクは、心のなかであーらら、と呟いた。  
雪丸がアデルに恋心を抱いていることくらい、仲間の誰もが気付いている。  
知らぬのは当のアデルと、天然な姫様ぐらいだろう。  
ティンクは、この状況を活かすべく、一計を案じた。  
 
「…………雪丸」  
術を解くため、組もうとしていた雪丸の両手が、止まる。  
スッと伸びてきた男の手に、右の肩を掴まれ、少女は驚愕に顔をこわばらせた。  
「ティンク殿!おやめくだされッ」  
「……」  
言葉は制止を要求する。なのに、簡単に振り払えるはずの手を、雪丸は避けようとしない。しかも、視線はアデル姿の自分に注がれたままだ。  
彼女の細かな震えを、手のひらに感じながら、ティンクは思い切って、雪丸の腹部の蝶結びを紐解いた。  
 
ティンクは、思うように動かない体に、難儀していた。  
不本意とはいえ、彼は30pの蛙姿に順応していたのだ。それがいきなり、180pの長身である。  
また、格闘に特化した筋力は、意識していないと力加減を誤りそうで恐ろしくもあった。  
ましてや、目の前にいる雪丸は、145pの小柄な体だ。  
日頃接していたサイズとの違いに、さしものティンクも戸惑わずにはいられなかった。  
「おやめ…下され……」  
雪丸は唇を震わせ、やっとのことで言葉を発する。  
「本当に嫌なら……オレは、無理強いしない」  
アデルの口調に似るよう、ティンクは言葉を選ぶ。  
雪丸は大きな瞳をギュッと瞑り、ぶんぶん頭を振った。  
「拙者は、拙者には……」  
もちろん、雪丸は自分をアデルでないことくらい、よく分かっている。  
だが、狂おしいほど恋慕う男に…求められている状況で、拒む事が出来ないらしい。  
その様子から、ティンクは自分にGOを出した。  
(これはいける、いけます!チャンス到来ですよ!滅多にありつけねーゴチソウが!!)  
腹の底で淀む黒い感情を胸に、心の中で薄く笑って、今度は背側の赤い紐を引く。蝶結びの、一方の羽だけが小さくなり、やがて消えた。  
 
落ちた袴のなかには、火照った体があった。  
「…あ…っ……」  
右肩以外、何処も触れられてないのに、こんなにも反応──声を震わせ、顔を赤らめ、熱を発し──ている。  
変化の前の悪戯中に、こんな様子は無かった。  
ともすれば、少年に見えるほど、未成熟な外見を持つ雪丸。  
17の姫様を基準に女性を見ていたティンクにとって、彼女が20才なのは、何かの間違いかと思ったほどだ。  
だが今、内なる欲求をあらわにする肢体は、少女のそれではない。  
押し倒すと、腰をよじる。吐息に小さく、甘い声を混じらせた。と、それに気付いた雪丸は急いで口を手で覆う。  
不似合いで、ぎこちなく、見るのがはばかられる気持ちになるのに、惹きつけられて目が離せない。  
「み…見ないで下され…こんな、浅まし……っ」  
濡れそぼった布を剥ぎ取ると、内股を半透明の雫がゆっくり伝い落ちてゆく。  
もう、前戯の必要は無かった。甘酸っぱい、女の匂いに我を忘れそうになりながら、急いで自分のズボンに手を掛ける。  
…驚き過ぎて、危うくティンクは声を上げるところだった。  
処女の知識の限界か…男性性器が、黒いすりこぎ棒だったからだ。  
微妙な気持ちになったが、感度と排出穴はあるので、黙って女の秘部にあてがう。  
雪丸の表情に、内面の葛藤が浮かぶ。  
しかし、興奮したティンクに気遣えるほどの余裕は無かった。  
半ば突き立てるような形で、身を押し進めた。  
 
「い、嫌ぁ!!…痛…っ!……ひぃ…」  
目を見開く雪丸。けれど、破瓜の痛みで、何も瞳に映らないようだ。  
ティンクはというと、伝わってくる濡れた熱とすべらかな内圧に前後不覚となるほど、のめり込んでいた。  
腰をひねって回転を加えれば、内側の壁の思わぬ場所を男性性器が押し込み、生まれた波紋が反動となって戻り、ティンクに手加減なしの喜悦を与える。  
だが、彼の暴走を留まらせるものがあった。  
雪丸の反応の少なさだ。  
ティンクに触れぬよう体を引き、両手も床に逃げている。  
求める気持ちが強過ぎて、刎ね退ける事が出来ぬ彼女。かといって、縋ることも叶わない。  
雪丸の潔癖さが、彼女自身を苦しめているようだった。  
腰を掴んで引き寄せ、ぶつけるように突き上げる。我慢強い雪丸も、衝撃に声を漏らした。  
「っあ…あぁんんんっ!」  
二度、三度とえぐる。雪丸ののどが、苦痛の呻きを発した。  
「はぁぅ、っく…ティンク殿…っ」  
「アデルだ、雪丸。アデルと呼べ」  
「ティンク殿……貴殿は、アデル殿ではゴザらぬ」  
聞かぬふりをして、ティンクは腰を繰る動作に集中する。  
だが、苦々しさがひっかかり、気持ちが逸れてしまう。  
雪丸の上気した顔、乱れる髪、熱い吐息、潤んだ瞳。  
ティンクは、急につまらなさを覚えた。  
(そうは言ったって、これはアデルさんと雪丸さんのセックスじゃないですか…)  
いくら極上の快楽にありついているといえども結局、自分不在の──。  
 
(考えてたって意味を成しませんよ。ここは全てに目を瞑って、快楽だけを…)  
そう。こんな機会、二度と無い。  
悪魔なら、盗れそうなものは奪うのが常。  
それが、感度が良くて、いじらしくて、可愛い綺麗な女子なら、尚更──。  
「…拙者は、ティンク殿を利用したくないのでゴザル…」  
その言葉を聞き、ティンクは何故か、はらわたが煮えたぎるのを感じた。  
ぬぷ…と、ゆっくり性器を引き抜く。  
ホッと表情を綻ばせる雪丸を一瞥した後、彼女の足の間に顔を寄せる。  
瞬時に雪丸は彼の目的を察知し、身をよじるが避けられない。  
「駄目!そんな…やぁあッ!!」  
ティンクは、花芯に舌を当てた。小刻みに、鋭く弾く。  
なるべく大きな音を出し、羞恥心を煽るように、ぺちゃぺちゃと舐めた。  
早く悦以外、何も考えられなくするべく。快楽の淵に引きずり降ろし、溺れさせてしまうために。  
けれど、その思惑は、雪丸の渾身の抵抗によって阻まれた。  
小柄でも、十何年と鍛えられた忍び。全身が闘う体になっていて、ティンクも今ある筋力で対抗するのが精一杯だった。  
 
最後に、相手を組み敷いたのはティンクだった。  
蛙には無かった歯の存在で口内は切れ、血がしたたっている。腹には蹴られたあとが何ヶ所もでき、手は爪キズだらけだ。  
雪丸もまた、両手首を締め上げられ、小手の下は痣となっている。装束は端々がちぎれ、ハチマキとまが玉は、各々部屋の隅に飛ばされていた。  
 
仰向けに押さえ込まれている彼女は、強姦の被害者を通り越し、リンチでも受けたぐらい、悲惨な有様になっていた。  
ティンクは、思わず溜め息をつく。  
(何で、こんなことに──…?)  
自らの行いの結果とはいえ、うちひしがれるティンク。確かに邪な考えではあったが、雪丸に一時の夢を与えたかったのも事実なのだ。  
(もう、どうでもいいですかね…)  
強引に彼女の足を開かせる。耐久力の尽きた雪丸に、もう抗うすべは残っていなかった。  
先の性交で、擦過傷の生じている秘部は、再度の男の侵入を堪え難い鈍痛と雪丸に伝えてくる。  
しかし彼女には、体の痛みより、訴えねばならぬことがあった。  
「…拙者は…!」  
脱力し、揺さ振られるままになっている体に似あわぬ強い語気で、少女は言い放つ。  
「シノビでゴザル!兄者にも一人前と認めていただいた、雪一族のシノビでゴザル!」  
突然の宣言に、ティンクは唖然とするばかりだ。  
「生きて使命をまっとうすること、決して諦めぬ心を学び申した。しかし、諦めるまいとする心が、他者を傷つける…。それは、許されぬのでゴザル!」  
「それって、遠回しな非難ですか、雪丸さん?」  
口調を造ることも忘れ、ティンクは聞いた。問いにかすかな苛立ちを含んでしまうが、どうしようもない。  
「アデル殿の姿であっても、ティンク殿はティンク殿。拙者は自分を満たすために、貴殿を代用してはいけないのでゴザル。それにアデル殿はロザリー殿のもの…」  
「何言ってるんですか!? ぼくのことなんて気にせず、楽しめばいいんですってば!」  
雪丸は首を振る。そして、小さく笑った。  
「拙者はもう、目を覚まさなければならぬのでゴザルよ」  
「雪丸さんも──」 ティンクの本音が零れ落ちた。 「──ぼくが嫌なんだ」  
 
「いや、いいんですよ、ぼく。ずーっと道化でやってきたんですから。これからもね、皆を笑わせる役目をするつもりだったんです。  
ほら、小難しい顔して正論交わしてばかりじゃ、場は重くなるだけでしょ?誰かがバカバカしい、んなアホなーと思うぐらい、話をちゃぶ台返ししないと。  
多少、呆れられたって、叩かれたって、それで姫様が元気になるなら…」  
いつもの彼の、飄々とした顔が憎悪に歪む。  
「なのに!!」  
ティンクは力任せに床を殴り付けた。  
「アデルさんが現れなければ!姫様はいつまでも、ぼくだけの姫様だったのに!今までも、これからも一緒だったはずなのに!  
ぼくが一番姫様のこと知ってるのに…。小さい頃は、お一人でよく泣かれてたんですよ。  
姫様は宮殿で大勢に囲まれてるのに一人ぼっちだった。だからぼくは、姫様に笑って欲しくて道化に撤してきたんだ。…なのに、あいつ!あいつはっ!」  
雪丸の心の眼に、きらびやかなドレス姿の幼いロザリーが見えた気がした。すすり泣く少女の横で、彼女に一生懸命話し掛けるタキシードの少年も。  
しかし、少年の顔は見えない。  
(その子の顔が、見たいでゴザル…)  
他者のものとなったアデルではなく、届かぬ想いを胸に涙を流す彼の。  
ティンクの顔が、見たかった。  
「ティンク殿、拙者は…」  
「聞きたくないです!黙っ…!?」  
雪丸は唇でティンクの喋りを封じた。  
舌先で押し合ううちに、撫で擦って生じた快感が、互いの背に走る。  
下手な息継ぎが、やけに口元を熱くくすぐった。  
ティンクは心にも同じように、熱くくすぐったいものを感じ、とてつもない心地良さを覚えた。  
 
その時だ。悦で少々溶けた雪丸の目に、それが映ったのは。  
目を見開く。しばらく事態が認識出来ないでいたが、ようやく脳が理解した時、雪丸は自然と微笑んでいた。  
 
「ティンク殿の髪は、金色でゴザったか」  
「……え?」  
ティンクは目を瞬く。それとは別に、変に体が暑く感じ…気が付いた。  
自分が袖無しシャツではなく、タキシードを着ていることに。  
両手首まで、ぴっちりと。長袖シャツに長袖の上着。首もとは赤ネクタイではなく、緑のリボン。  
「瞳は鳶色なのでゴザルな」  
ティンクは雪丸の瞳のなかに、かつての自分を見つけた。  
雪丸はくすくす笑う。その目から涙が溢れた。  
「あの兄者が、変化の術をキスで解ける仕様にしておられたとは」  
瞳から止まらない雫を見て、出会った当初は、しょっちゅう涙ぐんでいた雪丸が、今日は、いま初めて泣いているのに気付く。  
と、彼女が顔をしかめた。吐き出された息が辛そうで、原因が苦痛と知れる。  
「ど、どうしました?雪丸さん」  
「い…いや、何でもゴザらん…っう」  
雪丸が目線を下げたので、ティンクもそれにならと、下腹部に行き着いた。なるほど。今は見えないが、確かにさっきのすりこぎとはサイズが違うはずだ。  
「あっそーですね!もう抜いちゃいます?抜かなくていいってことは…無いですよね、残念!」  
名残惜しいが、続けるわけにもいかない。腰を引こうとした時、雪丸が止めた。  
「お待ち下され。……ティンク殿も、心に決着をつける時でゴザルよ」  
そのあと、とても小さく…それに、そんな半端なことをされては困るでゴザル…と、呟いた。  
はい…と、ティンクは戸惑いぎみに答えたが、ゴクゴクリと喉を二度も鳴らしたため、空気が微妙に台無しになった。  
 
一心不乱に突き続ける。このペースでは保たないんじゃとか、角度くらい工夫しなきゃとか、考えが脳裏をかすめるけれど、拡げた彼女の白い太股が、自分の腰に絡んでいるのを見たら、止まらなかった。  
「っふ、ぁ、あっ…んう、んんっ!」  
大事にと思っても、雪丸の声に艶が出た瞬間、たまらなくなって激しく攻めてしまう。  
「も、もうっ、駄目…でゴザ…はぁっ」  
駄目とか止めて下されとか、否定語のなかに逆の響きを感じては、彼女の全身を揺らすほど、体をぶつけていた。反り返った胸の小さな朱に誘われ、摘むと内奥がキュウッと狭まる。  
「い、嫌っ、やん…んあぁんん…っ!」  
嫌だと言われるとは何度目だろう。しかし、先程の「嫌」なんかより、まるで違う声。  
「もう少し深いのは、どうでしょうねぇ」  
ティンクの言葉を聞き、雪丸の正気が蘇る。羞恥と困惑がないまぜとなる顔。それが、次の瞬間突き崩される。  
雪丸の内側が、更に熱を増した気がして、確かめようと下へ伸ばそうとしたティンクの指が、組まれることで阻止された。  
何か焦るように、忙しなく彼女の指が絡まる。  
小さく柔らかい手が、汗と熱をまとわらせながら、キツく握り締めてきた。  
腰を打ち付けていた音に、新しくぴちゃぷちゃと隠猥な音が連なる。  
「っは、あ、あっ、っく、んっ、んんっ、あ、はっ」  
ひっきりなしの喘ぎ。声は高まるばかりで、雪丸の頭の中は何もかもが、快楽で掻き消されているようだ。  
だが、それはティンクも同じこと。  
「っ…っ…!!ああああ──ッ!!」  
極みに達した雪丸が仰け反る。いつまでも続く嬌声が、喜悦の深さを物語っていた。  
 
痙攣のため、収縮する内部がティンクを捉え、追い上げる。  
大きなうねりに、声をこらえられない。  
「うっ、ぐ…」  
去ったはずのうねりは、すぐまた訪れて、彼の性器を根元から先端まで、ねぶる。  
逃れる事は出来なかった。四度目のうねりで、とうとうティンクは精を放った。  
「──っ!!」  
最後の一滴まで絞りだすと、そのまま床にくずおれた。  
 
「…24、25、26、27…今日は27…ホッ」  
雪丸が安堵の息をつく。卓上カレンダーを置き、両手で○をつくった。生理周期が29日の雪丸は、安全日だったらしい。  
「良かったぁ…。…すみませぇぇん」  
正座で平伏するティンクの手に、手が重なる。  
「謝らんで下され。拙者にも、非はゴザル」  
「非……?」  
訝しげな視線を避け、あらぬ方角へ目をやる雪丸。  
彼の腰に回していた足──それを、彼が逃げれぬほど絡ませてしまっていた…とは、さすがに言えないワケで。  
咳払いをして、ティンクに向き直り、雪丸は一言発した。  
「変化の術っ!!」  
ドロン! 古めかしい爆音と白煙がティンクを包む。  
煙が消えた時、そこにいたのは…。  
「ウッキョーン!!何でまたカエルゥゥウ──ゥ!?」  
「その、申し訳ないのでゴザルが、貴殿はアイテム界のエース。戻せば、移動力30超の逸材が失われてしまうのでゴザルよ」  
雪丸は、屈託なく答えた。そして、笑顔で付け加える。  
「アデル殿がガッカリされる姿は、見たくないのでゴザルゆえ」  
「え、ええー!?ちょっ、雪丸さーん!!?」  
 
こうして、結局変わらぬ日常に帰った、一人と一匹。  
周囲に人がいない時、たまに「二人」になるとか、ならないとか。  
【終わり】  
 

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