仕事を終えて、溜息を吐きながら椅子に深く沈み込む。  
 愚痴の一つも言いたくはなるが、最早そんな気力も無く。  
 とっとと寝てしまおう、などと思っている所に、気配を一つ感じて。  
 しかしそちらを向く間も無く、  
 「ラハールさんっ♪」  
 「うおっ!?な、何だいきなり!!」  
 「えへへ〜」  
 声と共に抱きついてきたのはフロンである。  
 顔を赤らめながらも、嬉しそうに、楽しそうに。  
 ラハールに抱きついたまま、幸せそうに微笑っている。  
 いきなり抱きつかれたラハールは驚き、慌てているが、フロンは意に介さず。  
 「いいじゃないですかぁ〜。最近ラハールさんのお仕事が忙しくて、全然愛を確かめ合えなかったんですよぉ?」  
 甘える様にラハールの肩に頬を擦り付けながらそう言ってくる。まるで人懐っこい猫の如く。  
 「…いや、だからなフロン。あまり愛を連呼するのは…」  
 「え〜何でですかぁ〜。愛が足りませんよっ!!ラハールさんっ!!」  
 「あのなぁ…」  
 むぅぅっ、と頬を膨らませてのフロンの台詞に、げんな  
りした様に溜息一つ。  
 そんな会話を交わしている間でも体勢は変わっておらず、互いの顔は赤く。単なるじゃれあいにしか見えないのは、間違いでは無いだろう。  
 フロンは離れようとしないし、ラハールも振りほどこうとはしない。  
 膨れているのに飽きたのか、またごろごろと猫の様に懐いてくるフロンに、苦笑して。  
 「全く…仕方の無い奴だな」  
 その声音が存外に優しかったのには気付かぬ振りで。  
 
 未だ抱きついたまま、甘えているフロンの後頭部に手を添える。  
 「え、あ?…んっ」  
 ふいに訪れた手の感触に、戸惑った様な声を上げ、その後に何か意味を持つ言葉を口にするより早く、そのまま頭を引き寄せられて唇が塞がれた。  
 「ふっ…んぅ」  
 驚いて一瞬目を見開くものの、フロンは抵抗もせずに静かに目を閉じる。  
 最初は触れるだけだったそれは、呼吸する為に離れ、角度を変える度に段々と深くなっていく。  
 無意識の誘いか、純粋に呼吸の為としてのものか。  
 薄く開いた唇の隙間から侵入したラハールの舌は、フロンの口腔内を這い回る。  
 歯列を丁寧になぞり、歯茎まで舐め上げて、震える舌を絡め取り。  
 互いの唾液が奏でる水音が耳に響く。それは今自分達が何をしているのかを強く意識させて。  
 身体も心も、共に昂ぶる。  
 力が入らなくなってきたのか、フロンの膝がかくりと落ちる。それを見て、後頭部に添えられた手はそのままに、片方の手は腰へと。  
 頭だけではなく身体ごと引き寄せたラハールに縋り付くかの様に身を預け、受ける刺激を甘受する。  
 絡まる舌は、双方に熱と甘さを与えて。  
 漸く満足したのか、ラハールがフロンの口腔から舌を抜き、赤く色付き、唾液に濡れた唇を舐め上げてから、少々顔を引いた。  
 「……っはぁ…ラハールさぁん…」  
 とろりと潤んだ瞳には情欲の色。呼ぶ声には熱っぽさと艶。  
 上気した顔を向けられ、ラハールはニヤリと笑う。  
 「…どうだ、満足したか?…これが欲しかったのだろう?」  
 「そ、そんな」  
 「…確かめ合いたかったのだろう?」  
 「うぅ…ラハールさん、いじわるです…」  
 恥ずかしげにぼそぼそ呟くフロンに、ラハールは愉しそうに笑ったまま。  
 
 「ふふん。オレ様は悪魔だぞ?第一、お前こそ腰が揺れているではないか」  
 「ゆ、揺れてませんっ!!」  
 「それにさっきのキスの最中もいやらしい顔をしておったぞ?」  
 「み、見てたんですかっ!?」  
 「なかなか楽しめたな」  
 「うぅぅ…ラハールさんのいぢわる〜っ」  
 顔を真っ赤にしながら、涙目になるフロン。しかしそうは言いつつも、離れるどころか抱きついたまま、しかも本人的には抗議のつもりなのか、頭をぐりぐりと肩に押し付けている。  
 …紛う事無くバカップルのじゃれあいだ。  
 フロンとて、嫌では無いのだ。先程の行為も、ラハールに意地悪な事を言われて煽られるのも。ただ恥ずかしいだけで。  
 そして、幾ら恥ずかしいと思っても、これだけで満足出来る程健全な関係ではなかったりする。  
 堪えてはいたのだが、これより先の事を経験している身体には足りなくて。  
 無意識に内腿を擦り合わせ、どこか期待を含んだ熱っぽい視線を寄越してくるフロンに、ラハールはほくそ笑む。  
 (さぁ、どうしてくれようか)  
 そうは思いつつも、ラハール自身もそう経験豊富という訳でも無く。  
 それでも取り敢えず優位はそのままにしておきたいもので。  
 「…誘ってみろ、フロン」  
 余裕がある様に、を心掛けて。しかし心の底から面白そうに、愉しそうに。  
 「…してやるぞ?」  
 ラハールは笑みを浮かべて言い放った。  
 
 「っん…くふぅ…」  
 吐息に混じって聞こえるのは、堪え切れない喘ぎ。  
 見られているという羞恥と、それによって引き起こされる興奮に、知らず漏れてしまう。  
 いつもならば仕事を片付ける為の、常時書類等に占領されている机の上。  
 その上で、フロンはラハールの言った通りの事をしていた。  
 仰向けになり、足を開いて、ラハールの雄を刺激する。  
 すなわち。  
 「んぅ…ラハールさぁん…まだ、駄目、ですかぁ…?」  
 「ふん、まだまだだな」  
 「やぁん…」  
 己の秘部を晒し、見せつける事で、誘おうと。  
 自身の指でそこを刺激して、溢れる蜜を、いやらしく開いた穴を、収縮を繰り返す中身を。  
 粘質的な音をわざと響かせて、ラハールの眼前に。  
 「ラハールさぁん…お願いですからぁ…んんっ…」  
 最早懇願の涙声。  
 それでもラハールは動かない。  
 別にフロンが誘えていないという訳では無い。  
 ただ、限界まで待った方が快楽は強まると言う事を知っている為だ。  
 (…そろそろいいか)  
 だが、そう長く耐え切れるものでも無い。  
 何せ、目の前だ。  
 音を立てて秘所を掻き回す白い指が濡れる様も、蜜を溢れさせて甘い香りを放ち、早く己のモノを突き立てたいと思わせるそこも。  
 奥に潜む窄まりさえ無防備に晒されて。  
 そんな卑猥な光景に、反応しない筈も無く。  
 「それではいくぞ、フロン。…いい声で鳴くのだぞ?」  
 「あぁ…はいぃ、ラハールさぁん…」  
 熱く滾るそれを押し付けられ、ひくりと身を震わせるフロン。  
 それでも律儀に返事をし、挿れやすい様に身体の力を抜いた。  
 
 従順なフロンの様子に満足そうに笑いながら、ラハールが腰を進める。  
 「んっ…あぁっ」  
 「くっ…熱い、な…」  
 ぐぷ、と音を立て、ラハールの肉棒が溢れる蜜を更に溢れさせながら、フロンのナカへと入っていく。  
 そのまま最奥までナカの熱さを堪能しながらゆっくりと押し入り。  
 「っ、ふぅ…。どうだ、フロン。オレ様を感じるか?」  
 「んぅ、はぁっ…。ラ、ラハール、ひゃんっ…。なんか、いつも、より、お…おっきぃ、れふ…」  
 「おいおい…。この段階でそんなに感じてしまっていると、もたんぞ?」  
 「ら、らって…あつくて、とろとろれふぅ…」  
 「ココを蕩けさせて、オレ様を締め付けているのはお前だろうが…。まぁ、いい」  
 ラハールは、この上無く愉しそうに笑う。  
 「オレ様がいいと言うまで、離さんからな。覚悟しておけ、フロンよ」  
 「は、はいぃ…ラハールさぁん…」  
 そして室内は、熱気と嬌声と粘質的な水音に支配されるのだった。  
 
 
 後に。  
 「へ〜殿下もなかなかやるじゃん♪慣れてきたって言うべきかしらねー。…あたしも後で混ざろっかなー♪」  
 何処ぞで覗き見していたこのエトナの言葉通りの事態になったのかは、誰も知らない事である。  
 

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