ヴォルフモンに進化した俺は、悪の闘士グロットモンと戦っていた。  
頭上から見下ろす敵。  
足下は奈落の底。  
そんな絶体絶命の危機を救ってくれた仲間達。  
「つかまって」  
そう言って、手を差しのべてくれた君。  
初めて握った君の手は、優しくて温かかった。  
離したくない。  
そう思った。  
だが想いとは裏腹に、その手はするりと滑り落ちていく。  
闇に堕ちていく俺。  
離れていく君の手。  
俺は叫んだ。君の名前を。  
 
「いずみっっ………!!」  
目が覚めた。  
茜色に染まったコンクリートが視界に飛び込む。  
ここが学校の屋上だったことを思い出す。  
時計を見ると、もう放課後だった。  
握り締めていた右手に汗をかいていて、少し気持ち悪い。  
溜め息を吐き、仰向けに寝転んだ。  
空は、朱色から紫へのコントラストが美しい。  
…こんな空を、デジタルワールドでも見たことがあったっけな。  
あれから、もう5年も経った。  
俺達は高校生になり、別々の道を歩んでいる。  
だけど時々、みんなで集まって騒いだり、思い出話に花咲かせたりと今でも良い関係が続いている。  
そして、俺と泉は。  
いつからだったか、お互いを異性として意識し始め、気付けば恋人同士の関係になっていた。  
積極的な彼女と違ってなかなか踏み出せない俺を後押ししてくれたのは、双子の兄の輝一だった。  
最初に仲間達に報告したときは、やっぱり照れくさかった。  
拓也にはからかわれるし、友樹にはあれやこれやと質問攻め。  
泉のことを好きだった純平には、殴られそうにもなったな。  
なんとか拓也と輝一に止められたけど、今にも泣き出しそうな純平のあの顔を見ると、さすがに少し胸が痛かった。  
だけど今では純平にも認められ、俺達の仲を応援してくれている。  
中学生になってからは、毎日が楽しかった。  
同じ電車に乗って、同じ学校に通って、いつも一緒にいた。  
デジタルワールドで旅をしていた時は、いや、あそこへ行く前にだって、こんな生活を送る日が来るなんて思わなかった。  
自分はずっと一人で、これからも一人だと思っていたのに。  
隣に誰かがいてくれることの幸せを、俺は知ってしまったんだ。  
 
 
そして高校生になり、俺達は別々の高校に進学した。  
当然、彼女と会う時間は激減した。  
別に会えないわけじゃない。  
会おうと思えばいつだって会いに行ける距離だ。  
だから寂しくなんかない。  
そう思うと、何だか変な意地で、電話もメールも自分からなかなか出来なくなっていた。  
意地っぱりなのは昔からだ。  
ということは俺は全然成長してないんじゃないかと少し自嘲する。  
…そういえば、泉にはもう一週間ほど会っていない。  
最近、泉は雑誌のモデルのバイトを始めたらしく、忙しそうだった。  
俺の知らないところで、彼女の世界がどんどん広がっているのかと思うと、何だか置いてきぼりにされたような気分になる。  
携帯のディスプレイに表示された、泉の番号。  
俺は無意識のうちに通話ボタンを押していた。  
「もしもし」  
「…俺だけど」  
「輝二からかけてくるなんて珍しいじゃない、どうしたの?」  
受話器の向こうの声は、少し笑っているようだった。  
「今日…会えるか?」  
「え、今日?今から撮影があるんだけど…」  
「じゃあ終わってからでいい」  
「なによ、何か大事な用事でもあるの?」  
「別にない」  
「じゃあ、今日じゃなくても今度の休みにゆっくり…」  
「会いたいんだ」  
率直すぎて、自分でも少し驚いてしまった。  
しょーがないわね、と泉は笑って撮影の後に会うことを約束してくれた。  
なんか俺、女々しいな…。  
仕事にかまけてなかなか会ってくれないサラリーマンの彼女みたいだと、いつかあってたTVドラマを思い出す。  
急に会いたくなったのは、あの夢を見て不安になったから。  
泉がこのまま俺から離れていったらどうしようって。  
 
電話で教えてもらった撮影場所の前で、俺は待つことにした。  
繁華街のネオンがまぶしい通り沿いに、そのビルはあった。  
入口の前に座り込んで、行き交う人々を眺める。  
金曜日の夜8時。  
現代に生きる人々が一週間の中で最も開放的になる時間帯だ。  
ほろ酔いのサラリーマンの集団や、着飾ったカップル達が目の前を通り過ぎていく。  
もしも5年前のあの日、あの時、あの場所で、あの電車に乗らなかったなら。  
自分は今、間違いなくここにはいないだろう。  
今頃家に帰って、義理の母を母さんとも呼べないまま、気まずい食卓を囲んでいたかもしれない。  
そんなことを考えていると、入口から数人の女の子が出てきた。  
「あ、あの子じゃない?」  
「やだー、結構カッコいいかもー」  
何やら俺の方をチラチラ見ながら通り過ぎていく。  
みんな泉と同じくらいの背格好で、お洒落な服に身を包んでいる。  
あの子達もモデルなんだろうか。  
去っていく彼女達の背中をボーッと眺めていると、背後に聞き覚えのある声。  
「輝二!」  
振り返ると、逆光で顔はよく見えなかったけど、それは間違いなく泉だった。  
「お待たせ。遅くなっちゃってごめんね」  
俺は立ち上がって改めて泉の顔を見る。  
一週間ぶりに見たその顔は綺麗に化粧をされていて、まるで知らない泉みたいだった。  
 
「急に会いたいなんて言い出すから、びっくりしちゃった」  
とりあえず俺達は繁華街を並んで歩き出した。  
「…さっき出ていった子達もモデルなのか?」  
俺はなんとなく恥ずかしくなって、話題を変えてみる。  
「うん。同じ雑誌のモデル仲間の子達よ。可愛かったでしょ?  
 でもなぜかみーんな彼氏とかいないのよねー。可愛いのに。だから、あたしだけ」  
嬉しそうに口の端を持ち上げて、俺の顔を見る泉。  
どうしてだろう、久々に会うといつも妙に気恥ずかしくて、つい目線を逸らしてしまう。  
「…で、どーしたんだよ。その顔」  
「あ、メイク?もちろん撮影用よ。いつもは落として帰るんだけどぉ、今日は輝二に会うし、せっかくだからこのまま来ちゃった」  
そう言って笑う泉の表情がいつもより大人っぽく見えて、少しドキッとした。  
そういえば服装もいつもより少し大人っぽい。  
ワンピースにロングコート、ヒールのあるロングブーツを履いている。  
俺はというと、だらしなく着崩した制服のブレザーのままだった。  
他人から見たら、俺達はどんな風に映ってるんだろう。  
ちゃんと彼氏と彼女に見えてるだろうか。  
「ねぇ、ゴハンまだだよね?どっかお店入ろうよ」  
ポケットに引きこもりがちな俺の手を、泉がさりげなく引っ張り出す。  
あの時に握った手と、同じ手だ。  
「ああ、そうだな」  
俺はその手を強く握り返した。  
 
適当に入ったファミレスで食事をしながら、俺達は一週間の出来事を報告しあった。  
と言っても喋るのはほとんど泉の方で、俺は聞き役に徹するのが常だ。  
楽しそうに話すよく動く口、ころころ変わる表情を眺めながら彼女の話を聞いているのが俺は好きだった。  
食後のデザートを食べ終えて、俺達は店を出る。  
「あ〜お腹いっぱい!ちょっと食べ過ぎちゃったかな?」  
とても食べ過ぎたとは思えない程へこんでいるお腹をさすりながら、泉は笑ってみせる。  
その仕草が少し可笑しくて、俺は思わずプッと吹き出した。  
「純平みたいな腹にならないように気をつけなきゃな。モデルの仕事クビになっちまうぞ」  
「いくらなんでも、そこまでなんないわよ!ていうか純平に失礼よっ、それ!」  
少し尖らせた唇が赤く艶めいていて、妙に色っぽい。  
「でも…輝二もよくそーゆー冗談、言えるようになったよねぇ」  
ケラケラと楽しそうに笑う顔は、少女のように可愛らしい。  
「…まぁ、お前らのせいだろうな」  
淡いピンク色の頬にそっと右手を添える。  
「…ね、これからどうする?」  
泉の左手が俺の右手に重なる。  
「……明日、学校休みだよな?」  
 
俺達は近くのホテルに入った。  
俺が制服のままだったので少し気まずい気がしたが、まぁ別に大丈夫だろう。  
変な心配をしながらチェックインを済ませる。  
何度来ても、この時だけは妙に緊張してしまう俺だった。  
部屋に向かうエレベーターの中で、俺達はずっと手を繋いでいた。  
泉は急に無言になる。  
今何を考えてるんだろうと思ったけど、はっきりとした答えは出ないまま部屋に着いた。  
「ホテルって、久しぶりね。こないだは輝二の部屋だったし…」  
思い出して恥ずかしくなったのだろうか、そこで言葉は途切れた。  
俺はベッドの端に腰掛けて、脱いだコートをハンガーにかける後ろ姿を見ている。  
そうだ。この前は初めて俺の部屋で体を重ねたんだった。  
見慣れた自分の部屋がまるで異世界のように感じられたことを思い出す。  
何かが込み上げてくるのを感じて、俺は唾を飲み込む。  
「…輝二、あたし先にシャワー浴びてきてもいいかな?」  
……いずみ。泉が欲しい。  
目の前にいるんだ。こんな近くにいるんだ。  
「こっ、輝二!ちょっ…やめ…」  
俺は泉を床に押し倒していた。もう抑えきれない。  
「もうっ!!そんなにがっつかないでよっ…っん…」  
暴れる手足を押さえ付けて唇を塞いだ。  
ああ、この感触だ。  
触れると消えてしまいそうな。  
絡めると溶けてしまいそうな。  
もっと泉が欲しい。  
離した唇から、はぁ、と吐息が漏れる。  
「ね…輝二…ベッドでしよ?」  
泉の顔を見ると、頬は赤く上気し、目は潤んでいる。  
俺は何も言わず細い体を抱き抱えてベッドに寝かせ、上着を脱ぎ捨てた。  
 
泉はベッドの上で上半身を起こすと、くるりと背を向ける。  
「背中……」  
「何だ?」  
「背中にファスナーあるの。下ろして」  
そう言って長いストレートの髪を持ち上げると、白いうなじが露になる。  
ファスナーに手をかけると、泉が首元まで真っ赤になっているのが分かる。  
「なんだよ、恥ずかしいのか?」  
「………だって」  
さっきの自分のセリフがよほど恥ずかしかったんだろうか。  
ほんとに可愛いやつだな。  
ワンピースを綺麗に脱がせてやると、俺もシャツとズボンを脱いでその辺に放り投げた。  
「…こーじぃ……」  
「……なんだよ」  
泉はベッドの上で、ラベンダー色のレースの下着をつけた体を捩らせてこっちを見ている。  
「お前……エロいな…」  
折れそうな程細い腰のラインを撫でながら耳元で囁く。  
「…っエロくなんかないもん…」  
「こんな下着で俺を誘って、どこがエロくないって言うんだよ」  
背中に手を回してブラのホックを外してやると、形の良い胸がぷるん、と弾ける。  
俺はそれを両手で包み込むように揉み上げる。  
「あっ……やぁん……」  
「胸、デカくなったな…もうフェアリモンに追い付いたんじゃないか?」  
そう言いながらピンク色の先端をいじくり回す。  
「んっ…誰のせいだと思ってんのよぉ……っ」  
「え、俺?」  
「もぉっ、ばかぁ」  
ピン、と上を向いた乳首を舐め上げると、泉は一際甘い声を上げる。  
「ひゃあんっ!!んぅ……ね…輝二ぃ……」  
俺の頭を細い両手が抱き寄せる。  
これが「もっとして」のサインであることを、俺は知っている。  
 
左手で乳房全体を揉みしだき、乳首をこねくり回したりしながらもう片方をわざと音を立てながら吸い上げる。  
紅く熟した先端をいやらしく舌でなぞりながら目線を上げると、潤んだ泉の瞳にぶつかった。  
恥ずかしそうに目を逸らす仕草が可愛くてたまらなくて、俺はその先端にそっと口付ける。  
「泉…もっと…泉の声聞かせて…」  
「やっ…あぁん!…っあ…はぁっ……あ…」  
乳首にむしゃぶりつきながら、俺は無意識に張りつめた股間を泉の太ももに擦り付けていた。  
それに気付いた泉は、足を曲げて俺の股間のモノを刺激する。  
瞬間、下半身に快感が走る。  
「あっ…泉…!!」  
「ねぇ輝二…一緒に気持ち良くなろうよ……」  
いやらしい笑みを浮かべながら、泉は上体を起こす。  
俺をベッドに横たわらせると、泉は俺の顔の前に跨がりお尻を突き出してきた。  
「ふふっ…輝二の……もうおっきくなってるよ…」  
俺の上で逆向きに四つん這いになった泉は、ボクサーパンツを脱がすとブルン、と飛び出たモノを口にくわえた。  
生暖かい感触に、思わず声が洩れそうになる。  
「お前こそ、もうこんなにぐっしょり濡らしてるじゃないか」  
ラベンダー色のパンティにできたシミの部分を舐めると、可愛らしい尻が小さく震える。  
パンツを脱がせてやると、そこから溢れ出している蜜が布との間にいやらしく糸を繋いでいた。  
目の前に現れたピンク色の蕾に中指を侵入させると、腰がピクッと反応し、俺のモノをくわえている小さな口から声が洩れる。  
「泉の液…どんどん溢れてるぞ…」  
すると泉も負けじと俺への愛撫を更に強めてくる。  
指を使って竿を何度も擦り、裏筋を舐め上げ先端を音を立てて吸い上げる。  
ヤバいくらい気持ちイイ。  
押し寄せる快感に溺れそうになりながら、中指でナカをかき回し、親指と人差し指で突起を摘まむととうとう泉の口が離れる。  
「あっあぁん!!やああああぁっ…!」  
腰をビクビクさせながら、それでも俺に愛撫を続けようとする泉。  
 
両手で必死にモノを扱いてくる姿を見て、限界が近付いてくる。  
指を引き抜き、愛液の滴るそこに吸い付くと、嬌声は更に大きくなる。  
「あん!ふぁあああん……こうじぃっ…あたしもうっ…はぁっ…ダメええぇ」  
「いいぜ…一緒にイこうな…いずみ」  
俺達は、同時に絶頂に登りつめた。  
「くっ…泉っ、出るっ…!!」  
「ああああぁっ…ひゃんっああああああんっ!!」  
仰け反った泉の首筋や胸に俺の出した白濁がべったり飛び散っている。  
「ねぇ…気持ちヨカッタ?」  
肩で息をしながら俺の顔を覗き込むその表示が、ひどく大人びて見える。  
「ああ…上手くなったな、お前…」  
愛液のついた指で彼女の唇に触れようとすると、直ぐさま顔を背ける。  
「やぁよ」  
「美味いのにな…泉の汁」  
そう言って俺はその指をわざとらしく舐めてみせる。  
「モルトボーナ…だっけ?」  
「そんな発音じゃダメよ、全然伝わんない……やめてよ、恥ずかしいんだから」  
甘えるように抱きついてくる泉の耳にそっと口付ける。  
流れるようにサラサラした金髪の仄かな甘い香りが愛しくて愛しくて、ぎゅっと抱き締めた。  
「輝二ってば…また勃ってるよ」  
クスクス笑いながら股間に伸ばそうとする泉の手を制止する。  
「お前のせいだろ、泉」  
抱き締めたままくるっと寝返ると、今度は泉が下になる。  
「…挿れて、いいよな?」  
「来て…………輝二」  
俺はサイドボードから避妊具を引っ張り出すと素早く装着し、先端をその入り口にあてがう。  
「いくぞ………」  
腰を押し進めて行く間、泉はぎゅっと目を閉じて快楽に耐えている。  
「あ……こーじ…」  
「全部入った…動くぞ…」  
ゆっくりと腰をスライドさせ始める。  
 
泉の目はトロンとしていて、こちらをぼんやり眺めている。  
だがスピードを速めるうちにその目は徐々に見開かれていき、時折切なげな表情を浮かべている。  
「ふぁっ…あっ、輝二っ…こーじぃっ!」  
ナカを掻き回すように腰を動かしながら顔を近付けると、エメラルドの瞳からポロリと涙が零れた。  
「…気持ちイイか?」  
「……キモチ…いいよぉっ…」  
今にも消え入りそうな小さな声を、消えてしまう前に唇で閉じ込めた。  
絡めあう舌、絡みつく下半身。  
俺達は今、ひとつになってココにいる。  
心も体も、俺の全てが今、泉によって満たされていく。  
「ねぇっ輝二ぃ!…ね、もっと、もっとぉ……っ!!」  
しがみついてくる細い両腕を掴んで、俺は自身をギリギリにまで引き抜いた。  
そしてまた最奥を突く。  
その度に泉のしなやかな裸体が魚のように跳ねる。  
その繰り返しで俺達は心も体もバラバラになりそうな程の快楽に飲み込まれていった。  
「あぅぅん!あっ、は…ああああぁんっ!!こうじっ!!」  
「うっ…いずみ……っ!!」  
だけどそれでも、君だけを離したくない。  
求めてくる泉の手をぎゅっと握りしめた。  
「泉……俺は、お前と、ずっと一緒にいたい」  
「…もちろん、あたしもよ」  
握った手を、強く握り返してくれた君。  
この手は絶対に、離したくないんだ。  
 
 
END  
 

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