2004年バレンタイン、タカルキ中1  
 
 
「あんた、チョコとか食べんの?」  
「え?チョコ?」  
 
 
久しぶりで、唐突だった。  
 
最後に会ったのはもう半年以上前だった。  
デリーパーから世界を守る戦いを終え、  
向こうの世界へ帰っていったパートナーたちへパケットを送信したのはもう2年近く前。  
あれから結局返信はなく、かつての子供たちは中学へと進学し、それぞれの道を歩み始めていた。  
デジタルワールドへのゲートは山木達の手によって閉じられ、再び開くこともなかった。  
それでもタカト達は再びパートナー達に会えることを信じていたし、  
彼らの存在を忘れることはなかった。  
 
そんなこんなで、2004年(タカト達中1の冬)バレンタインの1週間ほど前。  
午後8時もすぎた時間に突然の電話。ルキだった。  
いきなりの電話に戸惑うタカトにルキは  
「中央公園にいるから早く来て。」  
とタカトに何も言わせずに告げた(正確には「待たせたら承知しないわよ」という脅しも入ったが)  
 
タカトはその日のうちにやらなければならない課題を抱えてはいたが、  
でも課題とルキを怒らせることを天秤にかけたらあまりにもルキのほうが怖かった(時がたつと恐怖の記憶はより恐ろしくなるものらしい)  
ので、母親にどこに行くのと聞かれても公園!と一言言うのが精一杯だった。  
 
「遅い」  
ルキは白い息を吐きながら、肩で息をするタカトを睨んだ。  
久しぶりにあったルキはなんだかちょっと大人びていて、  
前にもまして迫力のある目で睨んでくるので、タカトは思わず尻込みした。  
「ご、ごめん。それで、どうしたの?」  
思わず謝って、でもなんで謝るんだいきなり呼び出したのルキじゃないかと心の中でつぶやくが、口には出さない。  
「・・・」  
ルキは黙ってタカトのことを睨んでいた(少なくともタカトは睨まれてると思った)。  
「あ、あのほんとごめん。寒かった、よね・・・。」  
タカトは再び謝って、どうにか機嫌を直してもらおうと思ったが(すでにルキが悪いとかそういう考えはどこかに飛んでいった)  
「・・・べつに怒ってないわよ。」  
とルキは小さくつぶやいて、そっぽを向いた。  
タカトはルキが何を考えているのかはわからなかったが、とりあえず怒ってはいないようなので一安心して  
「あ、そう。。で、えっと、どうしたの?急に呼び出して」  
と尋ねた。  
 
「・・・あんた、チョコとか食べんの?」  
「え?チョコ?えっと、チョコって、あのお菓子の?」  
「そうよ。それ以外にどんなチョコがあるのよ。」  
「あ、いや、ないです。。」  
 
いきなりルキに尋ねられて戸惑ってしまたっが、  
でもタカトは男のわりにはわりとチョコは好きなほうなので(余談だが、和博はチョコ等の甘いものは苦手らしい)  
 
「えっと、わりと好きだけど。なんで?」  
「・・・バレンタインじゃない。」  
「バレンタイン?」  
それで理解した。ルキはバレンタインにチョコをくれるつもりらしいと。  
「え、じゃあ僕にチョコくれるってこと?」  
「そうよ、文句あるの」  
「あ、いや、ないです。。」  
 
実はルキはこれまでバレンタインにチョコを配るなんてことはしてこなかった。  
なんで私がそんなことしなきゃいけないの、ばっかみたい、とまで思ってたくらいで、  
もちろんタカト達と知り合った以降のバレンタインにも、彼らにチョコを配るなんてことはしなかった。  
 
「へーでも、どうしたの急に。ルキがチョコなんて」  
「なによ、わたしがチョコあげるのがおかしいの」  
「い、いやそういうわけじゃないけどさ、でもだって今までくれなかったのに。」  
「それは・・・」  
なにか反論するかのように開いた口をそのまま閉じて、ルキは俯いて黙ってしまった。  
「ル、ルキ?」  
急に黙ってしまったルキに驚いて、タカトは思わずルキの顔を覗き込んだ。  
寒さのせいか、ルキの頬がかすかに紅潮している。  
「・・・だって、バレンタインは、、タカトはチョコ好きかなって・・・。」  
「え?」  
要領を得ないルキの回答に、タカトは混乱させられてしまった。  
 
ここでネタバレすると、実はルキはタカトに惚れていた。らしい。  
いや、惚れていたのかどうかはルキには定かではなかったが、どうにもここのところルキの中には  
タカトに対するなんともいえないモヤモヤがあって、自分でもそれが一体なんなのかはわからなかったのだけれども、  
学校の友達に(ちなみにルキはタカトたちの通う中学とは別の私立の中学に通っている)そのことを相談したら、  
それは恋だ。とはっきり告げられてしまった。  
自分がタカトに恋?あのタカトに?  
それでも心当たりは間違いなくあったし、それにタカトのことを思い出してもやもやするのは事実だった。  
 
「へー、でもルキがチョコかぁ、ちょっと楽しみだな。」  
とタカトが言った。  
ルキはタカトに対するもやもやのせいで俯いて黙っていたがその一言で現実に呼び戻されて、  
「そうよ、あたしが作ってあげるんだから、楽しみにしてなさい。」  
と言い返した。するとタカトは  
「うん、ありがとう。じゃあ今年は加藤さんとあわせて2個もらえるのかな!」  
と元気よく返事したのだが、これがマズかった。  
 
「・・・加藤さん?樹里?」  
「うん、加藤さん。加藤さんは毎年チョコくれるんだけど、あ、お母さんとかそういうのは抜かしてね。  
 今年はルキもくれたら2個ももらえるなぁって思って。あ、あれ?ルキ?」  
 
残念ながらまったく女心が理解できてないタカトが気付くと、ルキは既に両のこぶしを握り締めて、  
そうか、樹里か。樹里がいたか、などとぶつぶつ呟いていて、  
タカトにはこうなった原因がまったくわからなかったのだけども  
「あ、あのー、ルキ?大丈夫?」  
などと声をかけるとルキはいきなり  
「打倒!樹里!」と声を張り上げ、  
「タカト!絶対あたしのチョコ食べるのよ!」  
と告げ、走りさってしまった。  
 
一人取り残されたタカトは、  
「えぇ?食べるけど・・・。どうしたんだろう。。」  
と白い息を吐くだけだった。  
 
 
 
後日、このことを電話でジェンリャに話したら、ジェンリャにも呆れられてしまい、  
タカトは己の未熟さを理解するのだった。  
 

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