「イクトー!早く早く!」  
「知香ー、まってよー・・・。」  
 
 
あの戦いから5年が過ぎた。  
 
 
かつての戦いで地上は大きなダメージを受け、もちろん彼女達の住む街も大変な被害を被った。  
それでも人々はあきらめずに復旧作業を続け、ようやく昔のすがたを取り戻したころだ。  
イクトはそのときからこっちの世界に住んでいる。  
デジタルワールドで人生の大半を過ごしてきた彼にとって、現実世界の暮らしはつらいことばかりだった。  
現実世界の常識を彼は知らなすぎたし、それに本物の両親と再会できたとは言え、  
やはり長い間はなれて暮らしていたせいもあり、その間にできた溝を埋めるのは大変なことだった。  
そして、彼にとって一番つらかったのは、長い時間をともにすごしてきた  
彼にとっては本物の両親以上に近い存在であるパートナー、ファルコモンがいないことだった。  
夜中に突然目覚めては、ファルコモンがいないことに気づき、涙することも少なくはなかった。  
 
そんな彼を支えたのは、彼が現実世界の人間で一番慕っていた伝説の喧嘩番長こと大門大の家族であった。  
世界が平和を取り戻し、長年不在だった父親が帰ってきたと同時にこんどはそれまで一家を支えてきた  
長男を失った家族は(といっても、それ自体はそんなに悲しい出来事であったわけではないが)  
やはり彼が本物の弟のように可愛がっていたイクトを、新たな家族のように大切にしてきたのだった。  
 
その大門一家、とりわけ知香は、イクトと同い年ということもあり、  
彼が現実世界で暮らすにあたってさまざまなことを彼に教えてきた。  
 
 
そして5年が過ぎた。  
 
 
彼らは中学3年生になっていた。  
5年間でめざましい成長をとげたイクトは、すっかり現実世界の暮らしにもなれ、  
野生児だったころとはだいぶ違う、男らしく成長していた。  
また知香も、かつて彼女の兄がデジタルワールドに旅にでた時の年齢もこえ、すっかり女性らしくなっていた。  
 
そんな知香に誘われて、イクトは知香の後を追いかけて走っているのだった。  
 
「知香ー、どこいくのー?」  
「こっちこっちー、もうすぐそこだよ」  
「ここ?」  
 
そこは港の見える公園だった。  
 
「ここは・・・」  
「ここはねぇ、マサルにーちゃんとアグちゃんが、初めて出会った場所なんだって。」  
「マサルとアグモンが?」  
「うん、昔聞いたの。ここでマサルにーちゃんはアグちゃんと男と男の会話(殴り合い)をして、  
 パートナーになったんだって。」  
「へぇ、マサルらしいね・・・。」  
 
それは知香がかつて、まだ兄が現実世界とデジタルワールドを行ったり来たりしながら戦ってたときに  
聞いた話だった。2人の出会いの場所。  
 
「・・・あれからもう5年もたつんだよね・・・。」  
「うん・・・・。」  
「・・・マサルにーちゃん、元気かなぁ。きっと、死んだりはしてないんだろうけど、  
 でももう帰って来ないのかな・・・。」  
「知香・・・。」  
 
イクトは知っていた。知香がときどき兄のことを想って泣いていることを。  
幼いころから長年共に過ごしてきたファルコモンというパートナーを失った彼には  
同様に長年を共に過ごしてきた兄を失った知香の心の痛みを知っていた。  
 
 
「・・・知香!」  
「な、なに?びっくりした・・。」  
「ごめん、でも聞いて。マサルはきっと生きてるし、今もデジタルワールドで元気にしてると思う。  
 だけど、デジタルワールドと現実世界の壁は安定していて、デジタルゲートは簡単には開かない。  
 だから、きっと帰って来れないんだと思う。」  
「・・・そっか、そうだよね!マサルにーちゃんは元気だよね!」  
「うん、マサルは絶対元気だよ。でもなかなか帰ってくるのは難しいんだ。だから・・・。」  
「・・・だから?」  
「・・・だから、えっと、・・・知香のことは僕が守る!・・・あの、マサルが帰ってくるまで・・」  
「へ?」  
そう突然宣言して、イクトは知香の手を両手で握った。  
突然のことに知香は驚いて、おもわず「へ?」なんて言ってしまったが、  
5秒もすると状況を理解してきて、思わず顔が紅潮してきてしまった。  
 
「ちょっと、イクト、、急にどうしたのよ、、びっくりするからやめて、」  
「あのね、知香。俺は知香に聞いて欲しいことがあるんだ。」  
「え?」  
 
さすがに知香も気付いていた。イクトが何を言おうとしているのかを。  
 
「あのね・・・、僕・・・俺は、あの、知香のことが、、その・・・。」  
ここまでリードしてきたイクトにも、さすがに恥ずかしいやら緊張やらでどもってしまう、  
それでもイクトは全身の力を振り絞って、自分が伝えたい二文字を必死で言おうとした・・・、とそのとき!  
 
 
ひゅいんひゅいんひゅいん・・・  
 
 
どこかで聞いた事のある音。懐かしい音。が彼らの耳に飛び込んできた。  
思わず音の方向を振り返ると、なんとデジタルゲートが開いてるではないか!  
あまりに突然の出来事にぼうぜんとする2人。手は握られたまま。とそのとき、  
 
 
「おらアグモン、さっさと出ろ!」  
「痛い!兄貴ー、蹴るなよー!」  
「うるさいさっさとしろ!やっと帰れたんだから!」  
 
どすん!という音と共に地面に落ちた黄色の恐竜。と一人の人間。  
 
「やっと帰ってきたー!ここどこだー?・・・って、あれ?」  
 
「・・・マサル?」  
 
目の前の人物に向かって、イクトは無意識に話かけた。  
忘れるはずがない、この声、この口調。  
彼は気付いていた。誰がどこから現れたのかを。だが・・  
 
「・・・誰だ?」  
 
どうやら突然現れた人間には、彼のことがわからないようだった。  
なにしろ5年の間にイクトはあまりにも成長したのだから。しかし  
 
「マサルにーちゃん!!」  
 
知香の叫びが響いた。  
イクトに遅れをとったのは、それだけ状況を飲み込むのに時間がかかったのだろう。  
 
「・・おまえ知香か!?ウソだろ!?・・・・え、じゃあお前、もしかして、イクトか・・・?」  
「そうだよ!遅いよ帰ってくるの!心配してたんだから!」  
「あ、わりぃわりぃ。行ったはいいんだけどさ、帰ってくるのは大変だったんだよって、  
 おまえらなんで手、つないでんだ?」  
「あ、」  
 
予想外の状況を把握するのに時間を必要とした彼らは、まだ手を握ったままだった。しかも両手で。  
 
「あ、いや、これはその・・・。」  
「おいイクト、お前イクトなんだな?なんでイクトが知香の手を握ってるんだ?どういうことだこれは?」  
 
喧嘩100戦練磨は伊達ではない。  
それどころか彼はデジタルワールドでも無敵を誇り、あまつさえ神まで倒した男だ。  
その威圧は恐ろしいものだった。  
 
「いや、あの、、・・・・いや、知香は俺が守るんだ!マサルが帰ってきても!」  
「ちょっと、イクト!?」  
「ほーぅ、いい度胸だな。お前が知香にふさわしい男かどうか、ためさせてもらおうか?」  
 
 
現実世界とデジタルワールド、その両方の世界を制覇した男に挑む少年、  
イクトの物語はここからはじまる・・・。  
 
 

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