「バーストショットッ!!」  
「ファイナル・エルシオンッ!」  
 
無数の爆薬が、赤き光の閃光が駆け抜け、空を埋め尽くす大量の影を次々と消し去っていく…  
 
山手線での暴走デジモン事件…それは、リアルワールド侵略を企てるパラサイモンたちを倒したことで、なんとか事なきを得た。  
しかし…それで侵略を目論むデジモンがまったくいなくなったというわけでもなく……その数ヵ月後、突如開いたデジタルゾーンから、  
おびただしい数のデビドラモンと、それを指揮するかのように十数体のスカルサタモンが現れ街の空を飛び回っていた。  
いくら完全体と成熟期ばかりと言っても、この数ではあまりに多勢すぎ、駆けつけたタカトたちは皆究極体でそれぞれ応戦していた。  
流石に最初はその数に手こずってはいたが、徐々に、しかし確実に空を舞う影は減っていった。  
さらに途中から加勢に来たベルゼブモンの活躍もあり、次第にそのペースは上がっていく。  
ミサイルが、銃弾が撃ち出されるたび、錫杖が、聖槍が振るわれるたびに、断末魔と共に影たちはデータの塵となり霧散していく。  
そして最後の一匹にサクヤモンの式神が直撃し…そこでようやく、戦いは終わった―――  
 
―――――はずだった。  
 
「サクヤモン!後ろだっ!!」  
「なっ………!?」  
 
唐突に響いたデュークモンの声。  
咄嗟に振り返ると、目の前には…ビルの陰に身を潜めていた本当の最後のスカルサタモンが、不気味に黄色く光る杖の先端を眼前に突きつけていた。  
そしてその妖光は、サクヤモンが行動を起こすよりも早く、ゼロ距離で放たれた…  
 
「貴様っ!!」  
 
その瞬間、誰よりも早くデュークモンは動き、白銀の槍を振り下ろす。  
 
「ヒィッ……!?」  
ズシャァァァッ!!  
 
煌いた銀閃は受け止めようと構えた杖ごと、スカルサタモンの体を両断し………今度こそ、戦いは終わりを告げた。  
 
 
「ルキっ…!」  
 
スカルサタモンの消滅を見届けて、タカトはすぐに進化を解きサクヤモンの元へ走った。  
見ると他の仲間達も進化を解きその場に集まっていた。が、皆その顔に浮かんでいるのは…驚きの色。  
タカトもすぐにそこに駆けつけ――――そして、呆然とした。  
そこには攻撃によって進化が解かれたルキが倒れていたが、その傍にいるはずのレナモンの姿がない…  
いや、正確にはレナモンもそこにはいた…ただ……  
 
「ル…ルキ……その体……」  
「は…?体って………え……?」  
 
なんとか声が出たタカトの言葉で、起き上がったルキが自分の姿を見て…同じように呆然とし…傍にあったガラスケースに映った全身を見て…完全に停止した  
両腕に付けられているのは、レナモンの普段つけている紫の布。  
だがそれよりも目に付くのは、人の体であるのにそこから生えた見覚えのある黄色い耳と尾…  
 
『ルキ…どうやら、少しややこしいことになったらしい……』  
 
頭の中に、直接レナモンの声が響く。が、当のルキはいまだに声が出ずにいた…  
 
 
話を聞き、すぐに健良の父が来たが、その顔は複雑なものだった…  
恐らく、データに異常を発生させる技であるネイルボーンを至近距離から食らったことで、  
融合状態にバグが生じこのような状態になったと推測されたが、肝心な解決策は出ず、結局少し様子を見ようということになった…  
 
「ルキ…体とか、変な感じしない?」  
「ん……まあ違和感…はちょっとあるけど、そんなに異常とかはないと思う」  
 
そしてルキの家…万が一何かあった場合を考え、タカトが一日泊まり傍で様子を見ることになった。  
ちなみに家に帰ったルキの姿を見た母のルミ子は「ルキちゃん……!」とやはり愕然と呟き―――その次の瞬間に「…可愛いv」と続けてルキを思い切りズッコケさせた。  
 
「だって女の子の体にぴょこんと動物の耳と尻尾が付いてるなんてスッゴク可愛いじゃない!ルキちゃん元から可愛いからより一層♪」  
「あ、あのねえ……」  
 
ズッコケた際に床にぶつけた額を押さえながらルミ子を睨むルキ。後ろではその様子をタカトが苦笑しながら眺めていた…  
もっともタカトもルミ子の言葉には同感だったわけだが、それを口に出したら即差に彼女の制裁が来ると思い、なんとか堪える。  
いくら成長期の状態とはいえレナモンと同化している今のルキの一撃は、照れ隠しであろうとかなり痛いに違いない。  
 
「あ!今度そのカッコに似合う洋服買ってきてあげる♪」  
「いらないってばっ!」  
 
そんなことを考えながらも、母と子の言い合いは続いていた。……怒鳴るたびに尻尾と耳がピンと伸びながら。  
 
 
 
「だけど……ゴメンね…」  
 
部屋に戻り、適当に時間を過ごしていると、不意にタカトがやや暗い声でそう呟いた。  
 
「何よいきなり」  
「……あの時最初にヤツに気付いてたのは多分僕だったからさ…もっと早く動けてれば、こんなことにならなかったと思って…」  
「……別にアンタが気にすることじゃないわよ。あたしが油断してただけなんだし…」  
『それについては私も同じだ。タカトが気を負う必要はない』  
 
ルキの言葉のすぐ後に、ルキの口からレナモンの声で言葉が流れる。  
それと同時に、澄んだ紫の瞳がレナモンの水色へと変わる。  
どうやら体の主導権が変わるときだけ瞳の色が意志の持ち主のものに変わるらしい。  
 
『それに、別に大怪我をしたというわけではない。コレの治し方だってそのうち分かることだ』  
「…だとしても、やっぱり気にするよ。ルキの事……守れなかったから」  
 
その瞬間、再び瞳がルキのものとなり、少しだけ口元に笑みが浮かんだ…  
 
「…いつもアンタに守ってもらうほど、弱くなった覚えはないんだけど?」  
「わかってるよ。それでも………好きなんだから…心配する資格ぐらいは欲しいよ」  
 
そっとルキの肩に手を添え引き寄せる…ルキはそれに抵抗せずにタカトの胸に額をつける…  
パラサイモンの事件の後…少しだけ変わった二人の関係…  
普段は気弱で頼りないのに、いざというときは誰よりも強くなる…  
ロコモンから落とされそうになったとき、パラサイモンに捕らわれたとき…真剣なその心を感じることが出来た。  
誕生日会から数日後に気持ちに自覚し…更に数日後、考えた末にタカトに伝えると…しばしの沈黙の後、いつもの柔らかな笑みと共に受け止めてくれた…  
 
「ルキが強いのは知ってる、ルキを守るのはレナモンだってことも分かってる。  
けど…それでも、大切な人は自分の手で守りたい…戦いでも、日常でも。それぐらい大好きだから……我侭、かな…?」  
 
ルキのサラリとした髪を、ついでにレナモンの耳を撫でながら、囁く。  
少しだけ顔を上げ、ルキはタカトの顔を見つめた。  
 
「……多分、ね。けど…」  
 
そっと……両手をタカトの背中に回す。  
 
「少しくらいなら…あたしはそれでもいい……」  
 
「…レナモンにはちょっと悪いけどね」と小さく付け加えると、また瞳が水色となり『ルキがそう思っているのなら、私は構わない…』と一言だけ言ってすぐに紫へと切り替わる。  
二人は少しだけ苦笑し……僅かな沈黙の後…ゆっくりと、互いの唇が重なった…  
永く感じる一瞬…そっと目を開けると、自分と同じように見つめ、滅多に見れないような澄んだ笑みを彼女は静かに浮かべていた。  
更にそれに加え、パタパタと左右に揺れる尻尾が目に入り……我慢できずに、言葉が出てしまった…  
 
「ルキ…その、こういうこと言うのもなんだけどさ…」  
「え……?」  
「……やっぱりそれ、可愛いよ。本当に…すごく……」  
「っっ……!」  
 
ガスッ  
 
タカトの言葉が言い終わったその瞬間笑みがなくなり、代わりに一気に頬が朱色に染まり………鈍い音が響いた。  
 
 
翌朝、ルキとレナモンはあっさりと二人に戻っていた。  
昨日の心配はなんだったんだと拍子抜けするほどに、本当にあっさりと。  
 
「ルキ……」  
「なに?レナモン」  
 
帰るタカトの背を見送りながら、不意にレナモンが言い出す。  
 
「私はいままで戦いの時しかルキと一つになっていなかった。だが……昨日はお蔭でまたルキの心を知れた気がする。人間同士の好きという気持ちが…少し、分かった気がする…」  
「そ、そう……」  
 
レナモンの言葉にルキの顔が若干赤くなる。  
あの時は流れのままにキスまでしてしまったが、よく考えてみればパートナーとはいえすぐ間近で見られてたのとほぼ同じ状態だった。  
いや、同化した状態だったから多少なりとも感覚も共有していただろう。今頃になって、顔がどんどん熱を帯びていく…  
 
「それと…」  
 
しかし、レナモンの口からは更に言葉が続いた。  
 
「デジモンに性別は無いと聞いたが……あるとすれば、私は多分“女”なのかもしれないな…」  
「…………は?」  
 
思わず間の抜けた声が出る。いまいち言葉の意味がわからない。わからないが……  
小さくなっていくタカトの後姿をジッと…いや、むしろ若干惚けて見つめているレナモンを見て、ルキの頭にイヤな予感が走る…  
 
「(な、なんか…余計ややこしくなった気が……)」  
 
穏やかに吹き抜ける風と共に、朝の空気と時間が流れる。――――ルキの中の不安と共に。  
 
 

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