海の向こうに太陽が沈んでゆく。  
赤く輝いていた海がだんだんと黒く染まっていくのに気づいて、ヒカリの胸にさっきまでの恐怖がよみがえってきた。  
「もう帰ろうか」  
隣でずっと手を繋いで佇んでいたタケルが、ヒカリに笑顔を向けた。  
「ありがとう」  
ヒカリは笑顔を返せなかった。  
普段は太陽のように笑うヒカリから笑顔が消える、そんな事件が起こっていたからだ。  
「家まで送っていくよ」  
「イヤ。離れたくない」  
暗黒の海。ハンギョモンに似た滅びゆく運命の一族。ヒカリはその場所でこれまで感じたことのない恐怖と孤独に包まれていた――タケルが救いに来てくれるまでは。  
「じゃあ、ウチにおいでよ。太一さんにはあとでぼくから連絡するから。ウチの母さんも、話せばわかってくれると思う」  
そういうとタケルは、ヒカリの頭を優しく撫でた。  
「ありがとう」  
ヒカリはまた笑顔を返せなかった。代わりにあたたかい泪が一粒、ヒカリの頬を伝った。  
 
「ごちそうさまでした!さっすがヒカリ、おいしいね!」  
「ふふ。ありがとパタモン」  
結局、タケルの母奈津子は急な来客を大歓迎してくれた。もっとも直後に「夕食は自分たちで作ってね」と自室に引き込もってしまったのだが。締め切りが近づいているらしい。  
奈津子に気兼ねしなくて良いことは今のヒカリにはありがたく、二人と二匹だけの暖かな食卓はヒカリにいつもの笑顔を取り戻していた。  
 
洗いものを終えた二人は、タケルの部屋へと移動した。ドアが閉まる音を耳の端にとらえると同時に、ヒカリは後ろから抱きしめられた。  
「――タケル君?」  
「ぼくは、君に謝らなくちゃいけない」  
タケルの表情を見ることはできなかったが、声色から泣きそうなタケルの顔が連想された。  
あのことか、とヒカリは思い当たったが、タケルの言葉を聞きたいと思った。  
「なあに?」  
「ヒカリにひどいことを言っちゃった。太一さんに頼ってばかりだって……ぼく、太一さんに嫉妬してたんだ」  
「謝らないで。あの言葉、嬉しかったんだから」  
「え?」  
ヒカリを抱くタケルの腕がゆるまったので、ヒカリはタケルに向き合った。  
 
「これからはタケル君が守ってくれる、ってことでしょう?だからありがとう。」  
そういって、タケルの頬に口づけ、  
「タケル君と、久しぶりに一つになりたいな」  
と、耳元で囁いた。  
「だめだよ、パタモンとテイルモンがいる!」  
タケルの顔は真っ赤だ。  
「二人とも寝てるわ」  
いじわるな顔でそう言いながらヒカリは膝をつき、タケルのジッパーに手をかけた。  
確かに二匹は、部屋のすみ、パタモンの寝床で仲睦まじく抱きあって静かに寝息をたてている。  
「だめだよ、母さんがいる」  
必死に止めようとするタケルを無視して、ヒカリはタケルのモノを取り出した。ソレは既に熱く、硬くなったいた。  
「タケル君だって、やる気じゃない……」  
ヒカリはタケルの先端をペロリとなめると、手でしごき始めた。  
「ヒカリちゃんっ!」  
「しっ、お母さまに聞こえちゃう」  
その言葉に反応するようにタケルのモノは更に熱さを増した。  
ヒカリは胸の鼓動が高くなるのを感じ、手のスピードを上げた。  
「タケル君っ……タケル君っ……」  
「ヒカリ……声抑えて」  
「タケル君っ……!」  
息が荒くなるのを感じた。目の前のタケルが愛しくて仕方ない。他に何も考えられなかった。  
タケル自身に口づけた。下筋を舐め上げた。何度も何度も頬擦りした。  
「声抑えて、ヒカリ!」  
マズイ、とタケルは思った。  
目の前で夢中になって自分自身への頬擦りを繰り返すヒカリは、タケルの声さえ聞こえてないようだ。  
恍惚とした表情のヒカリは、その白い顔の左頬から耳までがタケルの先走り汁で妖艶に光っている。  
「タケル君っ……はぁっ……あんっ……気持ちいいよぉ……」  
ヒカリの白く美しい頬が自分の最も汚い部分に擦り付けられている背徳感に、タケルはこのまま絶頂を迎えたい気持ちだった。  
しかし、このままではヒカリの声が隣室の母に聞こえてしまう。パタモンたちも目覚めてしまうかもしれない。  
「タケル君っ……あっ……いやぁ……」  
ヒカリの顔を自分の顔と同じ高さにまで強引に引っ張り上げ、奉仕の相手を見失って惑う唇を唇でふさぐ。  
ヒカリの腕がタケルの背中に回される。ヒカリの荒れた息が整っていくのをタケルの頬が感じた。  
そろそろか、と頃合いを見計らって唇を離す。  
――その判断は、甘かった。  
 
途端にヒカリは淫らな表情へ豹変し、ヒカリの太股がタケル自身を挟み、捕らえた。  
「タケル君っ……大好きな……タケル君っ……」  
再びタケルの名前を呼びながら、ヒカリは腰を前後にスライドし始めた。  
スパッツの生地を通して、ヒカリの体温が上がるのを感じる。ヒカリ自身も、その摩擦で感じているのだろう。  
「タケルく……」  
ヒカリの唇を塞ぐ。と同時に、ヒカリの舌がタケルの舌に絡みついてくる。  
タケルの中で、何かが切れた気がした。  
ヒカリの腰の動きに合わせて、自分の腰も上下に動かし、ヒカリの芯を擦るようにする。  
「ふぅっ、ふっ、ふっ」  
ヒカリの呼吸がさらに激しさを増した。  
「んむぅ……っ」  
ヒカリが感じ腰を引いた瞬間を逃さずに、タケルは先端でヒカリの股間を圧す。引き延ばされたスパッツが、ヒカリの穴に密着し、その形を再現した。  
「……ぷはっ!……はっ、はっ、ひっ」  
下着がくい込んで芯を刺激したらしく、ヒカリは舌を出したまま口を離して、反り、言葉を発しなくなった。  
同時に太股がタケル自身を再び捕らえ、圧迫した。そのことで、タケルも射精した。  
放たれた精は、ヒカリのスパッツを汚し、更に床へとしたたり落ちた。  
 
「見て、タケル君。私のおつゆとタケル君のおつゆで、私、おもらししちゃったみたい」  
一息ついたヒカリは、しかし淫らな表情のままだった。  
タケルは、導かれるままにヒカリの股間の、濡れそぼったスパッツに手を触れた。  
「ぼく、我慢出来ない」  
「……私も」  
抱きあい、スパッツを脱がそうとしたそのとき  
「デジタルゲート、オープン」  
呆れたような声が聞こえ、タケルのノートパソコンからゲートの光が溢れだした。  
「テイルモン、起きてたの……」  
「そーいうことは、向こうでやりなさい!」  
そのまま二人の姿はデジタルワールドへと消えていった。  
残されたテイルモンは床に残った精液を丁寧にふきとって、寝床へと向かった。  
「まったく、見てるこっちまでサカってきちゃったじゃない。ね、パタモン」  
「うん。テイルモン、おいでよ」  
二匹は、二人がこの部屋へ入ってきたときと同じように抱きあい、今度こそ口づけをした。  
 
【了】  
 

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