「ヒカリちゃん」
タケルが呼びかける。
夕暮れ時の公園は、もう人もほとんどいなくて、どこか物悲しい空気がただよっているが、
そんな中ヒカリは一人でブランコに座っていた。
「風邪ひいちゃうよ。帰ろう。」
そういってタケルはヒカリの手をとろうとするが、ヒカリはそれを拒む。
ヒカリちゃん、とタケルが言おうとしたその時、
「・・・ねぇ、タケル君。タケル君は、お兄ちゃんのこと、好き?」
とヒカリが問う。
「お兄ちゃんって、僕の?それとも太一さん?」
とタケルが聞き返して、ヒカリは
「ヤマトさん。」
と答える。
「うーん、べつに好きだけど、でもそれだけだよ。」
そっか、と小さい声でヒカリはつぶやき、小さくブランコをこぐ。
タケルがもう一度ヒカリちゃん、と呼びかけようとすると、またヒカリが唐突に、
「タケル君、わたしはお兄ちゃんのことが好き。一番好き。でも、それはだめなんだよね・・・。」
とつぶやく。
タケルは何も言えずに、ヒカリのそばにいるだけで、その間にもどんどん陽はしずみ、あたりは暗くなっていく。
タケルは知っていた。ヒカリは、自分の兄が一番好きで、世界一好きで、
自分はどんなにヒカリのことが好きでも、そこには入り込めないのだと。
しばらく間があってから、タケルが
「そう・・だね、ヒカリちゃんが太一さんのことが好きなのは、本当なんだよね・・・。
でも!でも僕はヒカリちゃんのことが好きなんだ!
ヒカリちゃんが太一さんのことを好きなように、僕もヒカリちゃんのことが好きなんだ・・。
だから、ヒカリちゃんが悲しそうにするのは、イヤなんだ・・・。」
タケルの気持をいきなり告白されたヒカリは、一瞬迷ったようなそぶりをみせたが、すぐに、
「タケル君、ありがとう・・・。もう寒いし、帰ろっか。」
と言って、立ち上がった。タケルも、
「・・・うん、風邪ひいちゃつまんないしね。」
と言って、ヒカリに手を差し伸べ、そして手をつないだ。
もうすっかり陽の沈んだ公園で、二人は立ち上がって、歩き出した。