光子郎くんは本を読んでいる。  
 「何度いきました?」  
 私はその隣で彼の方にもたれかかっている。肩を掴み、袖を引っ張り、彼のシャツはしわだらけ。  
 「さん、かい」  
 光子郎くんの目は本に釘付け。殺し続けている吐息に酔っている。  
 「いつもそうやって何回もいくんですか?」  
 私の目はとろんと蕩けている。息が続かなくて胸が苦しい。  
 「いかない」  
 光子郎くんの左手には緑のコントローラー。右手には難しい本。  
 「じゃあどうしてそんなにいくんですか?」  
 私のスカートのすそから伸びるコードの先につながっているのは暴れ狂うベスパ。  
 「こーしろーくんがリモコン持ってるから」  
 会えないのを我慢している時みたいに寂しくはない。  
 「でもぼくよりローターがいいんでしょう?」  
 でも一番最初にこうした時みたいに頭がぐるぐるしない。  
 「ちがう」  
 とぼけているのか、それとも本当に気付いていないのか。  
 「じゃあどうして日本にまで持ってきたんですか?」  
 判らないだけなのか、判らないふりをしているのか。  
 「友達が……プレゼントって……空港で無理やり」  
 胸がふかふかする。スカスカ、というよりは詰まってる。ふくふく、というよりは頼りない。  
 しっかり握っている彼の手は汗だらけでドロドロして気持ちが悪い。なのに離そうと思えない。彼の指は開かれたまま、  
 
私の手を握ってはくれなかった。  
 「こんな物を女の子にプレゼントする友達がまっとうな人だとは思えませんけどね。……で、そのマイケル君とやらとは  
お付き合い長いんですか」  
 「……だからぁ……違うっていってるのにぃ……」  
 
 「違わないでしょう。ご丁寧にカードまでついてます、“良い夢を!”ですって」  
 ぴし、と指で弾かれたカードが軽く微かな音を立てた。その音がいやに耳について離れない。  
 「だーかーらー、久しぶりに彼氏に会いに行くって言ったら友達に無理やり持たされたんだって何度言わせるの?……ホントにこーしろーくんが開けるまで中身知らなかったのよう」  
 下着の上からあてがわれている蜂の羽音。彼の指先ひとつで自由自在にバイブレーション。私はトガビト、彼はヒガイシャ。私はカガイシャ、彼はケガニン。  
 「とぼけてんですか?それとも本当に気付かないとか?」  
 まるで私の頭の中を覗いたかのように、意味のたがわぬ同じ言葉で彼が少し冷たい視線を投げかける。  
 「――――判ってないんですね、解りました。」  
 呆然とする私を一瞥し、ぱたんと閉じた本を脇に置いたと同時に彼はコードを手繰った。甘い振動を繰り返す悪魔の機械を左手の中指と人差し指の間に挟む。  
 瞬く間に舌に唇が当たった。蠢く唇と舌の粘膜が光子郎くんの唾液を潤滑液にしてなめらかに擦れる。私はこのちょっと偏執的でえっちなキスがお気に入りだった。それを彼に伝えた事はないけれど。  
 ……伝えた事はないけれど、光子郎くんが“する”と決めたときは絶対このキスをする。それに気付いたのは何度目だったか。  
 「んんっ!」  
 ムネの先端に添えられた左手から伝わる振動に身を縮めた私の顎を、右手が強い力で引き戻した。  
 「やっ……」  
 光子郎くんの両肩を押し返すように身をよじりながら左手を引き剥がそうとするのに、左手はゆるりゆるりとノンキに旋回などして、途切れ途切れに上がる悲鳴を堪能している。  
 「なんか手の動き方が変態っぽいー!」  
 「失礼な」  
 「あっイヤっ……くすぐったい!なんか!やだぁ!ヘン!」  
 「なって下さい。ヘンに」  
 にやりと笑んだ光子郎くんがローターのぬるぬるを拭った首筋から胸にかけて舌を這わせた。  
 「んもー!なんで意地悪ばっかすんのぉ!普通にしてよフツーに!」  
 
 「…………フツウってなんですかね」  
 つい怒鳴った私の耳元で、いつもの落ち着いた声でない声がした。  
 「ミミさんはフツウを知ってるんでしょうか。他の誰かにフツウにしてもらったことがあるんでしょうか。  
 ぼくの知らない友達の話をするミミさん、ぼくの知らない選ばれし子供と戦っているミミさん、ぼくを嫌いだというミミさん、変わりたくないというミミさん、世界を救えないというミミさん。  
 今、言われてはじめて自分が変わってた事を知りました。」  
 私の首と肩にすっぽり光子郎くんの顔が収まってしまって、表情を窺い知る事はできない。  
 「全てを知る事だって無理なんです。光り輝く知識を無邪気に望んでたあの頃のぼくとは違うんだと、知りたがることを封じる賢しさを手にしてたんだと……気づいてまったぼくには……」  
 難しい言葉の懺悔は私にはよく解らなかった。ただなんとなく、私たちは同じ事で胸が塞がってるんだなと思った。  
 「本当は訊きたい、知りたい。解ったフリなんてしたくない」  
 「でも怖いのよね」  
 はっと息を飲む音が聞こえて光子郎くんの体が私から浮いた。  
 「なんだ、同じじゃない」  
 背中に回してた腕に力を込めて浮いた体を引き止める。  
 初めて告白をし合ったのは空港のロビーだった。  
 初めてセックスをしたのは確か目黒のホテルだった。  
 そして、今日初めて光子郎くんの部屋で朝まで一緒に居られる。  
 嬉しいはずなのに、パソコンルームの机の下で抱きしめられてから、少し私は気分が沈んでいた。この憂鬱はすぐにアメリカに帰らなきゃいけないとか、そういう種類の寂しさとか残念さとかから来るものじゃない。  
 変わってしまうことが恐ろしかった。自分の知らない自分になっていくのが怖かった。見知らぬ彼に戸惑っていた。  
 「ねぇ、こーしろーくん」  
 「はい」  
 「いつか京ちゃんたちも私たちみたいにデジタルゲートを開けなくなって、こんな思いをする時が来るのかしら」  
 「来るでしょうね。  
 デジタルワールドというのは、本来は存在すら知りえないはずの場所なんです。ぼくたちはたまたま呼ばれて、たまたま向こうに行っただけのいわば旅行者ですから」  
 
 「偶然、すれ違っただけってこと?」  
 「基本的に異界ですもん。  
 でもこうも言えますよ。無いはずの世界を垣間見ることを許された時間があった幸運な人間」  
 耳元でささやかれる声にもう硬さはない。  
 「ぼくたちは短い間でも掛け替えのない親友を持てた。例えもう会えなくなったとしても、パルモンもテントモンも、デジタルワールドで平和に暮らしていることを知ってる。こんなに幸運なことはそうそうありません」  
 ゆっくり持ち上がって行く彼の重さを、私はもう引き止めなかった。  
 「もう二度と会えなくても」  
 いつか必ずそんな日はやってくる。それに気付かないほど子供じゃなくなってしまったのだ。永遠を信じられるほど強くない、大人に。  
 「例え彼らの姿形を忘れてしまっても、ミミさんが今のミミさんになるにはパルモンが居なくちゃいけなかったという事実は残ります。誰も覚えてなくても、何もなくなりません」  
 光子郎くんのそれは、まるで自分に言い聞かせているみたいだと私は思った。声にやどる憂鬱は拭う事も消す事も、きっと誰にも出来ない。  
 「忘れてしまっても、ミミさんの中にパルモンは生きています。だから寂しくなんかないんですよ」  
 ベッドに押し付けられている彼の腕が、手の平が、スプリングを悲しげな音で軋ませる。  
 いつの間にかベッドの端へ追いやられた光子郎くんの本が視界に留まり、シーツを少しだけ引っ張って手繰ると、本が無粋な音を立てて床へ落ちた。  
 ねえ光子郎くん、私ほんとはこんな事する人間なのよ。ワガママで、ずるくて、やきもち焼きで、もう純真の使徒なんかじゃない。……こんな思いを、京ちゃんもするのかしら。……汚い自分に気付くのかしら。  
 「いつかこうしてこーしろーくんと一緒に居たことも忘れちゃうのかな」  
 「そうならない様にお互い努力しましょう。ぼくたちは異界の友人じゃない。会おうと思いさえすればいつでも会いに行けます。会いに行きます」  
 この言葉もきっと変わっていってしまう。いつかの淡い思い出になるんだろう。  
 「うん、待ってる」  
 お互い笑った顔に嘘はない。なら変わってしまっても大丈夫、きっと何も失くならない……と、思う。  
 
 はあはぁ途切れる息が恥かしくて切ない。  
 「パジャマ、よごれちゃう」  
 「いいです…たくさん汚してください」  
 ボタンの隙間から進入してくる熱っぽい指が何度も何度も嬲るように先端を転がしている。  
 「あっあっ……やだぁ……それ、やぁ……!」  
 だぶ付いたズボンの上から震える機械を押し当てられて、背中で弾けている熱い溜息がどんどん汗ばむ身体を狂わせていく。抱きかかえられるように背を預けた彼の身体はとても熱くて、焼き切れそうな自分の頬がその熱に呼応する。  
 クローゼットの前に置かれていた姿見に映っている。絡まっている光子郎くんの足が、痙攣しながら閉じようと必死な私の足を無理に開かせているのが。  
 「もうイヤだって言っても逃がしませんよ。もっとしていいって、言ったじゃないですか」  
 少し弾んだ息に混じる悪戯っぽい声。湿った肌が背筋と首筋を確かめるように辿る指に震える。  
 「電気、消してくれたらって付け足したのにぃ〜」  
 「だってちょっと離れたら逃げたじゃないですか」  
 耳元、首の付け根に唇が這う。舌がゆるい円を描くように深く浅く突き刺さりながら嬌声を無理矢理引っ張り出した。  
 「懲罰は当然受けるべきです……それとも、もっと別のペナルティがいいですか?」  
 もっと別の、という声がこれ以上ないくらいに妖艶で禍々しく、背筋がそそけ立った。光子郎くんがこれほど嬉しそうな声を出すのだ、どんな無理難題を言い渡されるのか解ったものではない。  
 「あっ……ぅ……いい、電気、がまんするぅ……んぁっ!」  
 中指がパジャマごとゆるく突きたてられて、思わずしがみ付いていた彼のズボンの裾を強く引き締めた。  
 「おっぱい、おっきくなりましたね」  
 「……誰かさんがいぢりまわすから……あっあっいっ!」  
 いつの間にか両腕が脇の下から生えていて、指がまるで一本一本意思を持っているかのように蠢き、揉みしだかれていた。  
 「いや…いやぁ……なんか上手くなってるぅ〜」  
 「あの特訓の成果ですかね」  
 「……なっ!?」  
 どこで、誰の、いつ、何故、どうして。一気に全ての言葉が我先に出ようと唇の裏で大渋滞を起こしているのを、満足そうに眺めた彼がゆっくり言葉を続けた。  
 
 「太一さんがだいぶ前におっぱい玉という液体入りのボールをプレゼントしてくれまして。」  
 なんか和むんですよ、アレさわってると。弛緩していく私の身体を確かめ、光子郎君は勝ち誇ったようにニヤニヤ笑い。  
 「〜〜……い、いったいどんだけ寂しかったのよ?」   
 「それはミミさんが今解ったでしょう」  
 ヤラレタ。もう搦め手で反撃する要素なんか残ってない。……なら正攻法だ。  
 「――――嫉妬させて面白い?私は面白くない。人を突き放してしか愛情を量れないなんて貧しいわ」  
 「別に量ってませんよ、これはいじらしい仕返しです。短いメールに毎回毎回よくもまぁマイケルマイケルと煽ってくれたもんですよね。  
 ミミさんはみんなの前に居る、よそ行きの冷静参謀泉くんが必要なんですか?」  
 「……ほんと、意地悪。ぜーんぶ私に言わせないと気が済まないんだから」  
 「いいえ、意地悪じゃありません。単なる“ズルい男”です」  
 するするとパジャマのズボンに手がかけられ、子供のように片足を持ち上げられたまま手際よく下着ごと脱がされる。  
 「すごい……見えますか?」  
 赤く濡れそぼったそこが今まで見たこともない程大きく開かれ、添えられている彼の決して白くない指の白さが際立っていた。  
 「やああぁ!ばかっイヤっいやぁあぁ!」  
 「イヤじゃないからこうなったんでしょう?」  
 「やぁ、もう、ゆるして……見せないで……はずかしいよぅ……」  
 「さっきからずっと“悪さ”してましたからね……許しましょうか?」  
 「……ゆるすって、電気消してくれるってこと?」  
 「電気を消して、布団被って、別々の部屋で寝るって事です」  
 「〜〜〜〜〜〜っ!」  
 「……いじわる、して欲しいですか?して欲しくないですか?」  
 嬉しそうに、私の拒否権を弄ぶ光子郎くんの目の奥に潜む揺らめく闇。調子に乗って、甘えて、最後の最後にこうして上目遣いを気付かれないように縋るんだ。  
 『許してくれますよね?』  
 ――――――ほんと、ズルい男。  
 
 許してあげるわ、ズルくて卑怯で意地悪なあなたを。だから同じ私を許して……なんてのは、いけないお願いかしら。  
 「……して、いじわる、いっぱいして……」  
 私の小さな悲鳴に嬉しそうな顔をした彼がぬるくて深いキスをくれた。  
 蒸れた汗だらけの背中は彼のにおいを脳に刻み付ける。ずるずる滑る唇にときどき当たる歯の凹凸、もどかしげに弾む彼の鼻息、必死に私の舌を探る彼の舌。擦りつけるようにしがみ付く彼の腰。その全てが悩ましげですこし可笑しい。  
 「ローター、気持ちよかったですか?」  
 「……んもう、またその話!?」  
 「だって、三度もいくなんて」  
 「あんなキカイより、こーしろーくんの指の方がひゃくまんばい!きもちいいわよっ!」  
 「そりゃぁ、いいこと聞きました」  
 あんなに必死の形相でしがみついてたくせして、手に持ってる白色の箱ときたら。  
 「……なにそれ」  
 「避妊フィルムです」  
 「それ、どーゆーものだか知ってて出してるのよね」  
 「ミミさんこそこんなクラシカルなもの良くご存知で」  
 「……アメリカではまだ主流なのよそれ……」  
 「へー、耳年増ですね。それとも――――」  
 使用経験でもあるのか、とでも言おうとしたのだろう。ぎろりと睨んだ私がその先を牽制しなければ。  
 「何度言わせれば気が済むの、そんなに信用がないの、どれだけ独占欲が強いの、どんなに疑えば……落ち着くの?」  
 悲しくなるより先に情けなくなってがくんと肩を落とし、そう嘆くしかなかった。  
 「こーしろーのばか!あたしだって不安なんだから!京ちゃんとか空さんとかヒカリちゃんとかクラスの女子とか!  
 何で私は嫉妬しちゃいけないのよ!こーしろーばっかずるいじゃない!ワガママは私の専売特許のはずなのにィ!」  
 我慢してばっかりなんてもうやだぁ!全ての手札を失った私は声を上げて泣くしかなかった。  
 「こーしろーのばかぁ〜もうミミ大人のフリすんの疲れたー!飽きたー!  
 甘やかしてよーわがまま聞いてよーぎゅってしてー意地悪ばっかしないでー!」  
 天井に向かってあげる私の悲鳴に、彼は何故だかホッとした顔で笑っていた。  
 「……やっと帰ってきましたね。おかえりなさい、ミミさん」  
 
 「緊張しすぎです、ミミさんらしくもない。」  
 頭を抱きかかえられるのがすき。胸の中に抱きしめられるのがすき。少しせわしないあなたの鼓動を聞くのがすき。  
 「大人になりたくないなんて馬鹿なこと言うから心配しました。  
 ……一人ぼっちな気がして寂しかったんですよね。心配かけないように平気な顔してるの、疲れますもんね。」  
 ぐすぐす啜り上げる音さえ安心している。この人の匂いがすき。この人の声がすき。この人の体温がすき。  
 「ミミさんもぼくもまだ子供です。……まだ子供でいていいんですよ。少なくとも、お互いの前では」  
 「……子供でいていいの?……ほんとに?」  
 「――――――あー、場合にも寄りますがー、基本的には。」  
 「場合?」  
 訝しげに眉をひそめる私が身を乗り出すと。  
 「例えばこういう時は子供だと困りますよね」  
 照れくさそうに白色の箱の端っこを摘み上げる彼がひどく子供っぽい気がして思わず笑った。  
 「たまには違うの買ってみようと思ったら取り違えました。慣れない事するとダメですね」  
 「うそ。ほんとはちょっと生でしてみたい、とか思ったんでしょ。解るわよ。同じだもん」  
 白い箱を取り上げ、ビニールを破る。小さなパッケージを裂いてフィルムを取り出し、説明書を熱心に読んでいる光子郎くんに渡した。  
 「ちょっ……単独使用の場合避妊率60%!?……こんなの避妊具と言えますか!?」  
 「正しく使えば大丈夫よー。友達が中で出さなきゃ完璧って言ってたし」  
 「そんなあやふやな情報を信用できませんよ!生なんて絶対ダメですからね、今日は諦め……」  
 そこまで言って彼は黙った。これ以上の無粋を並べ立てる野暮天ぶりを発揮するなら殴られる、と気付いたのだろう。  
 「……はいはい……ちゃんと隠してます、予備のゴム」  
 ため息一つ付いて光子郎くんが白状し、説明書を手放した。  
 「さっすが抜かりは無いわねダーリン」  
 ウインクも大仰に投げキッスを振りまく私に向き直り、細く折りたたんだフィルムを中指に被せるように持ち、太陽のようなまぶしい笑顔で、彼が言った。  
 「でもせっかくだから使いましょう。足、開いてください」  
 
 「……は?」  
 正気に戻るタイミングがあと数瞬でも早ければ、足首を持ち上げた手を振り払えたのに。  
 「避妊フィルムは子宮口に置いてこなきゃいけないんですよ」  
 淡々と私の足を肩に担ぎ、大きく開かれた太もものその奥が露わになる。  
 「あ、知ってると思いますけど、このマンションあんまり大きな声出すと隣に聞こえますからね」  
 その衝撃の告白に声が出そうになったけれど、必死に悲鳴を飲み込んだ。  
 「……こんなにぬるぬるにしたらフィルムが途中で溶けちゃうじゃないですか」  
 しょうがないなぁ。聞こえたのはそんな声。目に映るのは見慣れない天井と、大きな本棚。茶色のクローゼットに、蛍光灯の輪が二つ。  
 「あーっあーっ……だめ、だめ、せめて電気けして……!」  
 視線を何処にやったらいいのかわからない。ぬるく這う彼の舌、ベタベタの内股に擦れる彼の頬。掴んでいるのはサラサラの赤い髪。くしゃくしゃになっている借りたパジャマ。  
 「いや……やぁ……おねがい、でんき……みちゃ、いやぁあぁ……ゆるして…っ…」  
 押し殺した叫び声とも喘ぎ声ともつかぬそれに答えは返ってこない。部屋にはただ“ぬるぬる”を舐め取っているささやかな音が響き渡るだけ。ときどき奥まで差し込まれる固く柔らかな熱い舌が、丁寧に、焦らすように、もどかしく、太ももまで“ぬるぬる”で軌跡を描く。  
 「切り上げたいのは山々なんですが、ぬるぬるが止まらないんですよ。困ったな」  
 薄く笑ったいやらしい作り声。  
 「あ、あたりまえじゃない!そんなとこ舐めたらよけい……!」  
 ひくひく痙攣を始めた自分の身体の主導権はもう奪い返せない。  
 「きもちよくて、ぬるぬるさせちゃう?」  
 「しっ知らない!知らない!もうこーしろーなんて知らないぃ〜!」  
 頭を必死に押し返そうとする両手首に、ふと光子郎くんの左手が掛かった。そのまま胸の前でぐっと固定される。  
 「――――――そんな薄情を言う人にはお仕置きが必要ですね」  
 持っててください。戒められた両手に降って来たのは、あの細く折りたたまれたフィルム。それを両方の親指と人差し指で掴んだ時、押さえ付けていた彼の手にぎゅっと力が入った。  
 
 「〜〜っ!?」  
 いつもならオネガイしなくちゃ、恥かしい言葉で泣きながらオネダリしなくちゃしてくれないくせに。  
 「声……出していいですよ」  
 歯を食いしばって耐えている顔を覗き込んだ、こんな時だけしか見せてくれない悪い顔。私を苛めてる時にしか出てこないスケベでいやらしくて性格の悪い、黒光子郎。強気で傲慢で冷たい、悪光子郎。  
 「よだれ。また出てる」  
 右手の中指が“お口”のなかで折り曲げられ、私の一番弱いところを何度も、何度も、何度も、擦る。リズミカルに、強く弱く、自由自在の遠慮のなさで。  
 「ひやっあっあっあっ…!……いつも頼んでもしてくれないくせに!こんな時だけずっる…い……!ぃあ〜っ!」   
 「4回目はミミさんの大好きな“こーしろーくんの指”でいかせてあげます。優しいでしょう?」  
 「やだやだやだぁ〜ちゃんとしてよぉ〜!!」  
 「ヤダと言う割には指がちぎれそーですが」  
 「こーしろーのばかー!うあっ……もう知らないんだからーっ!」  
 「……また言いましたね。もう絶対このままいってもらいます」  
 「あっあっあっいやっあっ……うぁあぁん……いやぁ、もう、いや、おねがい、ちゃんと、ちゃんと……!」  
 「ペナルティが終ったら考えてもいいです」  
 「いやぁ、まって、まって…!ほんとに、またいっ…いっ……〜〜っ」  
 指、あの細い指。  
 キーボードを軽やかに渡る指。マウスを機敏に滑らせる指。  
 細い手。少し骨張ってる冷たい手。  
 私の頬をなでたり、握手をしたり、絡まって離してくれなかったり、寂しそうだったり、嬉しそうだったりする、手。  
 いつもパソコンが独り占めしているあの手が、指が、私の身体の中で蠢いている。  
 そう考えただけで背筋がゾクゾクして、胸がドキドキして、その指が埋まってるところが甘く痛んだ。  
 ため息が出る。詰まっていた空気が一気に爆発するみたいに唇から漏れた。  
 目の前が歪む。身体が弛緩する。重力が全身を支配する。弾みながら上下するパジャマの上にある両手を戒める彼の手がようやく視界に入っているような具合でしか物事を認識できない。  
 
 力が入らない。立て続けに3度も4度もいくなんてことは普通じゃないし、昨日から徹夜で体力だってない。それは光子郎くんも同じハズなのに。  
 そういえばデジタルワールドでも一人異様に元気だったわ。知的好奇心さえ満足すればそれで体力回復しちゃう変態なのよね。好きな事さえしてれば何でも平気なのよ、周りの事なんてなーんにも見えなくなっちゃう人なのよ!  
 「……なんか別の事考えてるでしょう」  
 「自分のこと自己中だと思ってたけど、こーしろーくんも大概よねーって思ってたとこ」  
 「心外ですね」  
 「だったらもういい加減にそこから顔上げたらどうなの!」  
 太ももの間で顔中ベタベタにしながら舌を出し、ひたひたになったそこをまた舐める。  
 「失礼、思わず熱中してしまいました」  
 いつの間にか指に装着されているフィルムがかさりと音も立てない。オブラートに白い色がついているみたいな、何の変哲も無いフィルムがあの指に巻きついている。あの、あの、私の身体と頭の中をかき回すイジワルな指に。  
 嫌なのに。恥かしいのに。どうしてこんなに心臓が煩いの。どうして頬が熱くなるの。どうして……逃げられないの。  
 本当はこうやって苛められるのが好きなのかしら?そんな馬鹿な。だって、他の人にこんな事されたらきっと殴ってるし、その前に絶対嫌いになってる自信があるわ。  
 「では……入れますね」  
 ちゃんと見てますか?伏せがちに見える彼の降りた睫毛が見える。いつの間にかがっしりしている肩も、ぐちゃぐちゃにしちゃった赤い髪も、みんな好き。  
 「そんなに力を入れないで下さい、怖くありませんよ。ぼくの指です」  
 すこし低くなった優しい声も、甘え方を知らない不器用な性格も、ちょっと自虐的なトコも、やっかいな絶望癖も……愛してる。みんな光子郎くん、あなただから許してあげられる。  
 「……そんなにぬるぬるさせられると、入れにくいですよ?」  
 わざと意地悪言ってそれを許して欲しいなんて、そんなワガママなフリなんかに騙されてあげるもんですか。  
 くりくりと、私の表情を窺うように入れた指を中で動かし、目を見る。薄笑いなんかしたってダメ。  
 「きもちいいですか?」  
 もう恥かしがってなんかあげない。……ちゃんと言って、恥かしがり屋さん。  
 
 「……ね、わたしも聞いていい?……私の中、きもちいい?」  
 少し指が止まった。  
 「……な、なにを言うんですか」  
 「指、気持ちよくない?私の中に入れるの、いや?」  
 「いっ嫌ならこんな事しませんよ!」  
 「じゃあ言って。光子郎くんの言葉で、ちゃんと言って。今私が欲しい言葉、わかるでしょう?」  
 甘ったるい呼び方をしない。身体の中に彼の指を封じ込めたまま、逃がさない。  
 目を見る。さっきまでの意地悪な本心とはまた違う彼の本心。それが聞きたい。  
 「言って。今、言ってくれなきゃ意味がないの」  
 揺らぐ胸の痛み。絡める指なんかじゃ許さない。深いキスなんかではぐらかしたらブッてやるわ。汗がにじんで背筋が張る。光子郎くんの一挙一動は緩慢で、渋い表情。  
 そしてゆっくり口が開かれた。  
 「愛してます。他の誰より、何より、ミミさんだけ。  
 ……すみません、陳腐な言葉で。でもこれ以上自分の頭の中に言葉が見つかりませんでした」  
 あいまいに笑う瞳を離さない。自信無さげに緩む手を離さない。  
 「ううん、それ以外にまだ光子郎くんが言いたい言葉があるはずよ。探して。」  
 言い淀む弱気な光子郎くんが肩を落とすのなんか、予想済み。  
 「――――――これを言ったら、だめなような気がするんです。……こわい。」  
 「いい。それが欲しいの。受け止めてあげる、だから――――――信じて」  
 例えどんな言葉でも。例えそれがひどい言葉でも。あなたの言葉なら、受け入れてみせる。  
 痛いほど握られた手が熱くなっていた。私はその手を握り返すしか出来ないけれど、この手は絶対に離さない。  
 「――――そばに――――ぼくのそばにいてください。――――――アメリカなんか、かえらないで……!」  
 嫉妬するのも嫌なんです、寂しくて苦しいのはもう嫌なんです、会える日を待ち望んでるのに、こうやってしか甘えられないなんて嫌なんです……こんなに愛してるのに、これが本当に愛なのか疑うのはもう嫌なんです……!  
 痛かった。  
 一つ一つの言葉に身を切り裂かれそうだと思った。  
 
 痛みの海で一人居る彼の孤独と絶望は、他人である自分には理解なんてできないんだというのが解って悲しかった。共有できる言葉も感情もある。でもそれは所詮自分のもので、彼のものじゃない。孤独を肩代わりすることなんて出来ないのだ。  
 「寂しいから慰めて欲しいだけなんだって、そんな言い訳で納得したくないんです。  
 ミミさんの身体をおもちゃにしたり好き勝手に従わせたりすればするほどミミさんが帰った後で後悔ばかりだ。なのにしなければならないような気がして、そうしてないと頭がおかしくなっちゃうんじゃないかって、一人で馬鹿なこと決めて……  
 ぼくはダメだ……ぼくにミミさんとこんな事する資格なんてない……愛してるなんて……言葉ばっかりだ」  
 ねぇもしも、この繰り返す日々が苦痛だったらどうする?  
 愛を囁くことが苦痛だったらどうしたらいいの?  
 「……ごめんね、解ってあげられなくて」  
 凍りついたように硬い身体をぎゅっと抱きしめたい。でも今抱きしめるのは違う気がする。それはきっとママの仕事だわ。私は光子郎くんのママじゃない。手を引いてあげるなんてことは出来ないもの。だから我慢する。  
 「でも私、ちゃんとここに居るでしょ。光子郎くんの傍には居ないけど」  
 絡んでいない、自分の体重を支えていた手を持ち上げ、彼の胸を指した。  
 「私たちは離れているけど、世界のどこかに相手が生きてるって思うだけで勇気が湧いてくる」  
 吐き出された彼のヘドロを全部飲み込むなんて出来ないけれど、私はちゃんと覚えている。ヘドロを吐き出すあなたの苦しみを覚えておく。……きっと忘れない。  
 「背が低くて、すぐパソコン盾にする卑怯者で、意気地なしで、悪ふざけが止まらなくて、甘えたで、ほんとは幼稚で素直じゃなくて……そんな光子郎くんでも好きよ。  
 だから自分の事ダメなんて言わないで。ミミちゃんの自慢の彼氏なんだから。  
 あいしてる。あいしてる。あいしてる。何度でも言うわ、耳にタコが出来ちゃうくらい。そしたらそのタコを触って私を思い出して……そこに私は居る。」  
 そんで、私にもお揃いのタコをちょうだい。  
 指を開いて彼の胸の鼓動に触れた。  
 心臓はゆっくり、心地いい振動を私の手の平に伝えている。彼が生きている、その事実と共に。  
 
 ぐっと涙が出るのを食いしばったのだろう。震える背中が愛しかった。  
 「やっぱり……ぼくは一生、ミミさんには敵わないと思います。どれだけ知識を増やしても、どんなに難しい言葉を覚えても、きっとあなたには手が届かない。  
 素直な心が羨ましいです。正直な言葉に憧れます。何も疑わすにぼくを信じてくれて、ほんとうに……うれしい」  
 途切れ途切れの言葉が、それ以上軋むことはなかった。  
 「あったり前じゃん!だって私は純真の使徒だ・も〜ん。だ・か・ら、敵うわけないのよ、こーしろーくん如きが!」  
 「……ご、如きって……」  
 「そのかわり私は知識じゃ敵わないわ。……だから私たち、一緒に居るのよ」  
 欠けてる部分は補えばいい。簡単なことではないけれど、私たちならきっと出来る。だって、選ばれたんですもの。この世界に生まれたってことは、そういうことだと思うから。  
 「愛してるわよ、こーしろーくん」  
 「――――――ぼくだって愛してます。……たぶん」  
 「こ、の、く、ちィー!?今余計な言葉を付け足したのはぁこの口なのぉ〜!?」  
 両ほっぺを掴んで本気で引っ張る私に、出そうになった涙も引っ込んだみたい。……まったく、世話の焼ける。  
 「あいしてます!あいしてます!いたい!いたいー!」  
 ぱっと手を離して、大げさに頬をさする光子郎くんの腕にキスをした。  
 「もう辛い時に平気な顔しないで。わかんないことは一緒に考えましょう。」  
 「……はい。」  
 やっと柔らかい顔で、光子郎くんが笑った。おかえり、私の大好きな光子郎くん。  
 「ところで」  
 「はい?」  
 「この指はいつまで私の中に入ってる気かしら」  
 封印されてたようやく生気の戻った手が、慌てて引き抜かれた。  
 「ひゃぁ!!……きゅ、きゅうに……!」  
 抗議の悲鳴を上げる私に、手の持ち主がぎぎぎ、とロボットみたいに首をこちらに向けて言った。  
 「……長居、しすぎたようです……」  
 少し折り曲がった中指には、ドロドロに解けてべろりとだらしなく垂れ下がった透明のフィルムのなれの果てがくっついていた。  
 
 あっ、はっ……ううぁっ……いっいい……よぅ……!  
 ……ミミさんのおしり、えっちですね……  
 ばか、いやっ……あひっ……うわぁん……あっあっあっ、それ、だめ、すごい、いい  
 いいんですか?だめなんですか?  
 いや、いや、あっあっん、んぁっあ、あ、あぃぃぃ……い、いいぁー!  
 後ろからするの、そんなにいいんですか?  
 ばか、そんなの、きかないでよ!  
 だって、ぜんぜん、ちがう。いつもだったら、こんなに……  
 いやぁ……おっぱい、さわっちゃだめ……やめてぇ……!  
 嘘言っちゃダメですよ、見てください、鏡、顔、すごい、いやらしい……  
 やだぁうそうそうそうそ、鏡、みないで……かお、見えちゃう……  
 見えたらダメなんですか?そんなにヤラシイ顔してる自覚があるんですか?  
 もう!やだ!えっち!へんたい!ばか!  
 呂律が回らない。身体を押し付けられているパソコンデスクの上に置いてあるペン立てがガタガタうるさい。こんなにずんずんしたら、パソコンの中身に、良くないんじゃないの?  
 頭の中にぐるぐる渦巻いてるそんなどうでもいいことが一秒だって記憶に留まってくれない。  
 お尻にあたる光子郎くんの腰と、熱心に胸をいじくる両腕が、弾む彼の呼吸が、何もかもを許してくれない。  
 肘を置いている机で、後ろから私の身体をがんがん押し付けるように突き刺さしているこの人が、これからも平気な顔をしてメールを書いたり、勉強したり、居眠りしたりするのかと思うとなんだかヘンな気分になった。  
 まるで私が光子郎くんの日常を犯してるみたい。  
 ……なーんて、光子郎くんの変態が染っちゃったのかしら?  
 休みなく繰り返される甘い衝動がすこし速さを増す。私の中の彼はまだ膨張を続けている。  
 鏡の中の私はとても信じられないくらい、だらしない顔で笑っている。舌を出して、いやらしく涎が伸びた頬。玉の汗が光る額。早いリズムで喘ぐ開かれた唇。  
 そのどれも真っ赤で、今まで見たどんなエッチな本やビデオの中の人よりも、私の頭の奥を痺れさせた。  
 こんな顔を私にさせる光子郎くんの顔が……鏡の角度のせいで見られないのが残念だわ。  
 
 「あっ……はぁ、はぁ、こし、持ち上がってます、よ」  
 「あっやっ!いっ……いく…っ!いく……」  
 「うぁ……、は、はぁ、は、はぁ……ミ、ミさんはすけべですね」  
 もう何度目だったか?そんなこと覚えてない。はしたない声上げるのに慣れちゃった責任、取ってくれるんでしょうね。  
 ゾクゾク全身を駆け回る快感。神経を侵してゆく艶めかしい満足感。腰が笑っている。こんなにしちゃって、私の身体をこんなにしちゃって。ひどい、ひどい。もうこれじゃ、あっち帰ったら絶対欲求不満だわ!私まだ中学生なのに!  
 ぶるぶるぶる。一気に開放される鈍い痙攣が脳味噌を壊してゆく。  
 あいしてる、あいしてる。彼の身体がそう言っている。快感で縛り付けるように、毒の実で惑わすように、羽をもがれてゆくみたい。  
 「こー、しろ、だって、なんかいも、だし、てるくせっに……あっいっ……うぁっ」  
 だらしなく開く口から粘着質の涎が垂れる。目に映る世界が滲んで歪んで、まるで夢の中。  
 「出しますよ、いっぱい、出します……はぁ、はぁ……うっかり屋さんが、ぼくを忘れないように……!」  
 はぁ、はぁ、はぁ。息切れの中、朦朧とした口調で光子郎くんがそう言って、また出した。  
 「……い、いったぁ……?」  
 「いっ……はぁ、はぁ、はぁ……い、いきました…ぁ…」  
 ヒクヒクと両方の身体が痙攣している。気を失いそう。汗と、精液と、唾液とゴムの匂いで頭が狂う。  
 身体の上に落ちてきた、熱っぽくて汗だくの光子郎くん。背中に手をやると、まるで雨にでも打たれたかのようにびしょ濡れだった。……お、お疲れ様……  
 よくよく見ると髪もびしょびしょ、顔も汗まみれでひどい姿。表情は憔悴しきってて、なんだか笑えた。  
 疲れたように閉じられた瞼になんとなく舌を這わせたら汗の味がして、それまでなんだか愛しかった。  
 「でも、ミミさんも大人になりたくないなんて思うんですね」  
 不意に光子郎くんがそんなことを呟いた。  
 「偉そうなこと言ってて、実はぼくも思ったことあります」  
 「やーだ、一緒じゃない。いついつ?」  
 私はなんだか嬉しくなってしまって、その先を促す。  
 「小学6年の夏休み、観覧車の中で」  
 声がいつの間にか変わっていた。  
 「本気で願いました。観覧車が止まらないかとか、空港がジャックされないかとか」  
 覆い被さっている光子郎くんの動悸はまだ静まってなんかいない。なのに声はすっかり大人びていて、そのアンバランスさが奇妙だった。  
 「でも今は観覧所が止まらなくてよかったし、飛行機がちゃんと飛んでよかったと思います。じゃなきゃミミさんに告白できなかったし、恋人にもなれなかった。  
 不思議ですね。あの時あんなに離れるのが怖かったのに。……いっぱいしたからでしょうか?  
 我ながら厚かましい大人になったものだと思います」  
 ははは、と自虐的に笑った声が消える前に私は言う。  
 「違うわ」  
 大人なんてまだ早いって言ったのは誰でしたっけ?  
 「こーしろーくんは男になったのよ」  
 驚いた顔をした彼は見開いた目を細め、私の唇に天国行きの長い長いキスをした。  
 きっとこのキスを忘れるのは至難の業だろうなと、思うような。  
 
 本当はこの後そのまま気を失うように寝ちゃってどえらい騒ぎになるんだけど、その話はまた今度。  
 

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