〜 イメイジimage 〜
つややかであった。人肌の生々しさを目の前で広げるその色、光は。
若干色白なその様は、不思議な吸引力を以ってその場に臨んでいるようにも見えた。
言葉を発さずとも二つの眼が発する強い視線が、無表情ながらも不思議な威厳を
放っているようでもある。そして堂々としたその様子は、何事にも屈しない強固な意志を
持っている事を告げているようでもあった。
マキノルキ。
それが彼女の名前だ。ルキは何も言わず、裸でジェンの眼前に立っていた。
目は真っ直ぐにジェンを見据え、まばたきをする事もない。ジェンはルキの全身に
目を走らせた。自分とまだ大差のない肩の線と、それとは少しだけ対称を感じさせる
ふくらみかけた胸。
背中に手を回して抱き寄せてみると、体格の小差とは裏腹に、ルキという女の子の
柔らかさを覚えた。自分の体が男性の逞しさを持ち合わせているか、と聞かれれば
まだYESとは答え辛い。だがそれでも、ルキの肢体はおそらく自分の体と比べて柔和で
女性的なはずだ。10歳という年齢に相まっているであろう差、それを意識する事は
きっと相手を1人の女性として見る事にも繋がるのだろう。ジェンは、手に覚えたルキの
背中の肌の感触を追いかけながらそんな事を考えた。
服を脱ぎ捨ててルキと同じ姿になる。
ルキは、ジェンの裸を見ても無表情だった。手を引いてベッドに寝かせ、その上から
体を重ねる。互いの胸、腹が合わさり、体温を生々しく感じた。最も男女の別が
現れるその部位が触れ合うと、ジェンは自分の呼吸が乱れるのが分かった。
すぐそこに毅然として表情を見せないままのルキの顔がある。ジェンは軽くルキの
唇に自分の唇を押し当てて、その感触を味わった。
「ルキ、入れてもいい?」
小声でそう尋ねる。ジェンの下半身では、性に目覚めたての雄の器官が次の刺激を
求めて張り詰めていた。熱いほど猛るその欲の権化を股にこすりつけながらそう
聞いてくるジェンに、ルキは抑揚の無い声で平たく言い放った。
「別に・・・好きにすれば」
人形のように表情を見せないルキの目に、今の自分の顔はどのように写っているの
だろう。余裕のない、いやらしい顔をしているのだろうか。抑えの効かない、
情けない男として写っているのだろうか。触れている白い肌を伝ってルキの秘部に
自分の分身の先端を当てがいながら、ジェンはルキの目に写っている自分の姿の
様子を想像した。
その姿からルキがどんな感情を自分に持つのかは想像に難い。ルキ自身がどんな
女の子なのかすらまだよく知らないのだ。そのルキが持つ感情など想像の及ぶ
ものではない。ジェンは先端から徐々に埋め込まれていく分身の快感にもだえ、
表情を歪ませながらルキに再び問いかけた。
「ルキは・・・僕みたいなの、嫌いかい?」
「あんたの望むように思えばいいじゃない。その通りになるでしょ」
ルキはそう答えながら初めて表情を変えた。からかうような、少しイタズラめいた表情だった。
ジェンは性器を根元までルキの中にねじ込んだ。包まれ、絡みつく感触に口元が歪む。
目の前で意地の悪い返答をするルキを抱きしめ、勢いをつけて腰を前後に動かした。
ジェンが快感を感じるほどにルキも表情を変え始めた。それがルキの、快感を訴える
表情なのかどうかはジェンにも分からない。だがジェンはその表情と性器に流れ込む
快楽とで着実に絶頂へと登っていくのだった。
「あんたの望むように思えばいいじゃない。その通りになるでしょ」
ルキがその言葉を繰り返す。脈絡も何も感じさせないが、それはジェンの心の内に響く
一言であった。ジェンは一瞬、隠していた部分をさらけ出したような気にさせられた。
呼吸を乱しながら腰を動かして快感を追い求め、性器に集まる熱を確かに感じながら、
ジェンは小声で「・・・そうかもね」と口に出した。その目の前でルキは、ジェンと同じ顔の
歪ませ方をしていた。
訪れる性の開放。ジェンの性器から、まだ決して濃いとは言えない精液が飛び出る。
はじける瞬間の性の悦びに言葉にもならない声を上げながら、ジェンはルキの中で
快感をむさぼった。
乱れた呼吸に肩を上下させながら、ジェンは射精後の余韻が体内で澱んでいるのを
感じていた。それが段々気だるさに変わっていく様子に何とも言えない空虚感を
覚える。射精のため、自慰の副産物として生み出された幻影のルキという女の子は
既にベッドから消え、そこにはジェンが吐き出した白濁した精だけが残されていた。
時間と共に呼吸のリズムが元に戻るのを感じながら、ジェンは一度大きく深呼吸した。
目をつぶると、夕方タカトの家で会った、本物のルキの姿がまぶたの裏に映し出された。
トレーにパンをいくつか乗せるルキの服の、胸元に空いた隙間からちらりと見えてしまった
胸がぼんやりと思い出される。最近になってふくらみ始めたような、まだ小さな
女の子の乳房。たった一瞬のその光景が脳裏に焼き付いて離れなかった。
正直なところ、ルキに「女の子」を感じた事など初めての事だった。
好きな女子は?と聞かれて思い浮かぶ名前は特にない。それでも一瞬目にしてしまった
だけのルキの胸は、そんな自分の頭の中を占めるウェイトを増やしていっているように思えた。
翌日、ルキと会った。ルキはいつもと変わらず、ディーアークを手に「行くよ、レナモン」と
言い放ってカードを通す。ルキの目に写る自分の姿がどのようなものか、それ以前に
自分はその目に写っているのか、それさえも推察のしにくいルキの言動は、どこかしら
現実的な距離感をジェンに感じさせた。
おそらく自分とルキの距離はこれからもそう変わらないだろう、と思う。
他のみんなにしても同じだ。タカトにしたって、自分の全く知らない一面というものを持ち
合わせているに違いない。仲良くしているように見えても、自分は彼らが内に秘めて
いるであろう部分については何も知らないのだ。
彼女が外部から快感を呼び起こさせる刺激を受けてどんな表情をするのかも何も知らず、
頭の中で思い描いているだけ。そう、全ては自分が望んだ妖かしにすぎないのである。
だから、今夜もきっと自分はその妖かしのルキを部屋で呼び出してしまうのだろう。
距離感を感じさせない、距離感など初めからあるわけもない、
「自分が望むように思えば、その通りになる」妄想の産物を。
本当のところ、ルキは僕の事をどう思っているんだろう。
妄想だけの答えを妖かしにしゃべらせる事に一抹の不安を感じながらも、
ジェンはその夜も表情に乏しいマキノルキを抱く。いつかこの妖かしの
表情も豊かになるほど、本物のルキの事を知る事が出来るよう望みながら。
完