「ゼスの石」  
デジタルワールドの湖のほとりに人知れず在るオブジェには  
そんな名前が付いている。  
 
波紋一つない湖面に、二つの人影が映る。大輔とタケルだった。  
「あーあ…なんで俺がお前と組まなきゃいけないんだよ?」  
「ジャンケンで決めたんだから、仕方ないじゃない」  
「ヒカリちゃん達、今どの辺かなぁ…」  
選ばれし子供達は、今日もダークタワーを破壊するために  
デジタルワールドに来ていた。二組に分かれて行動することになったのだが  
大輔はお約束通り、ヒカリと組むことができなかったのだ。  
「一休みしたら、どんどんダークタワーを破壊して、ヒカリちゃん達と  
合流するからな!」  
「はいはい、わかってるよ」  
 
「それじゃ俺達、食べ物取ってくるよ」  
ブイモンとパタモンは、林の奥へ奥へと進んで、やがて見えなくなった。  
それを見送ったタケルが湖に視線を戻すと、奇妙なオブジェが目に飛び込んできた。  
 
「大輔君…あれ、何かな?」  
「あん?」  
湖の対岸を指さすタケルの視線の先には、奇妙な形をしたオブジェがあった。  
「何なんだ?ありゃあ…」  
「見に行ってみようか?もしかしたらカイザーの道具かも知れない」  
 
「これって…?何?」  
近づいてみたものの、その物体は正体不明だった。  
大輔の身長の倍ほどの高さで、いびつな岩石が連なった形をしており  
中央には「XES」と刻まれたプレートがあった。  
「ん、何か書いてあんぜ?」  
プレートに手を伸ばす大輔を、タケルがあわてて制止した。  
「大輔君、あんまり不用意に触らない方が…」  
「いーの!この位どってこと…うわーっ!?」  
大輔がプレートに手を触れた瞬間、強烈な光が辺りを照らした!  
タケルは光に包まれた大輔を直視できない。  
「だ、大輔君っ!?」  
 
光は少しずつ、大輔に収束して消えていった。  
白んだ視界が少しずつ晴れていく。  
「ビックリした…何だったんだ今のは…?」  
タケルは返事をしない。というか、目の前で起きたことを  
まだ整理できていない様子だ。  
「なんだよタケル。腰抜かしたのか?」  
「君…大輔君…だよね…?」  
「…なんだそりゃ。当たり前だろ!」  
タケルは驚きを隠せないまま、大輔の映る湖面を指さした。  
大輔はそれに促され、おずおずと湖面をのぞき込む。  
(一体何だってんだ?ブツブツ…)  
 
のぞき込んだ湖面に、ゆらめく人影が映っている。  
年は大輔と同じぐらいの、小麦色の肌のボーイッシュな女の子だ。  
大きくはないが形の良い胸、引き締まったプロポーションが将来を期待させる。  
大輔が笑いかけるとその子も笑った。大輔が阿波踊りをするとその子も阿波踊った。  
……  
大輔は、全身の血の気が引くのを感じた。  
「…なあ、タケル…まさかとは思うけど…俺…ひょっとして…」  
「うん。女の子に見えるけど」  
その言葉を合図に、大輔はのたうち回って頭を抱えた。  
「だーーっ!!どうしてこんな事にっ!?」  
「どうしてって…あのオブジェに触ったからだよね。明らかに」  
大輔は必死になってオブジェに触りまくるが、身体に変化は起こらない。  
だんだんと情緒が不安定になっていく。  
「畜生!俺が女の子になっちまったら!なっちまったら…!」  
「…なっちまったら?」  
「ヒカリちゃんと結婚できないじゃないかぁーーっ!!」  
大真面目に叫んだ大輔に、タケルは思わず吹き出してしまった。  
「な、何がおかしいんだよっ!?」  
「だ、だって…結婚まで考えてただなんて」  
笑うタケルを見て、大輔は面食らった。  
 
(タケルの奴…こんな…男前だったっけ…?)  
 
ゼスの石の魔力は、少しずつ大輔の精神面にも影響を与え始めていた。  
大輔と同年代の女の子にとって、タケルはひどく魅力的な異性なのだ。  
 
「…大輔君?顔が真っ赤だけど大丈夫?」  
「だ、大丈夫だって」  
(なんで…何で俺こんなにドキドキしてんだよ!?)  
タケルを直視できない大輔は、ぷいと顔を逸らす。  
「あんまり心配しないで。もし元に戻らなかった時は…」  
「な、何だよ?」  
「…僕がお嫁にもらってあげるから!」  
「ば、馬鹿言ってんじゃ…」  
冗談のつもりの一言でも、大輔は照れを隠すことができなくなる。  
大輔の顔は際限なく紅潮していく。  
「も、元々、お前があんなモンに興味出すから悪いんだよっ!」  
大輔はタケルの襟首を乱暴に掴んで揺さぶった。精一杯、感情を悟られないように。  
「そ、そんな事言われたって…」  
「うるせー!ゴチャゴチャ言うなっ!」  
「ちょっ、大輔君? うわっ!」  
 
ドサッ  
 
「痛てててて…大輔君、大丈夫?」  
大輔は、タケルの下敷きになっていた。  
揉み合っているうちにバランスを崩して転倒してしまったらしい。  
押し倒される格好になった大輔の、鼓動が早まる。  
(まずい…ドキドキしてんの…バレちまう…)  
「な、なあタケル、そこ、どいてくんない? 立てねぇから」  
 
「…嫌だね」  
 
「えっ…それって…」  
大輔が言い終える前に、タケルは大輔の右手を強引に掴んで  
自分の左胸に押し当てた。  
「大輔君…判る?」  
大輔は、タケルの激しい鼓動を手袋越しに感じた。  
(タケルも…ドキドキしてるんだ…)  
「ホント言うと、大輔君が女の子になった時から、ずっとこうなんだ」  
タケルはそう言って、照れくさそうに笑った。  
(こんな風に笑うとこ…初めて見た)  
大輔は、初めてタケルの笑顔を見たような気がした。  
そして、今までタケルをぞんざいに扱って来たことに気付いた。  
「大輔君…?」  
「馬鹿野郎…俺だけドキドキしてんのかと思ったぜ、へへ」  
大輔はお返しとばかりに、少し膨らんだ左胸にタケルの手を導いた。  
「な、スゲーだろ…?」  
「大輔君…」  
タケルは、少し誇らしげに言う大輔に唇を重ねる。大輔は初めての感覚に  
少し戸惑ったが、すぐに心地よい快楽に浸された。  
大輔がタケルの頭に両腕を回すと、タケルは少しずつ舌を使って  
大輔の唇を刺激し始めた。  
「んっ…」  
大輔はタケルの刺激に応えようと、ぎこちなく舌をからませる。  
そんな大輔に、タケルは愛おしさを募らせる。  
互いに、互いの唇と鼓動を求め合う。衝動のままに求める。  
大輔の頬に唾液が伝わって、こぼれ始めるとタケルは唇を離した。  
「気持ちいいな…タケル…」  
「大輔君…脱がすよ…?」  
タケルは怒張するそれに、さらなる快楽の予感を感じた。  
 
上着を手際よく脱がされて、大輔の形のいい胸があらわになる。  
「やっぱし…ちょっと恥ずかしいな…」  
「でも、もうココ立ってるよ…」  
タケルは立った乳首をつまみながら、舌を這わせるようにして  
大輔の胸を舐める。ざらついた感触に大輔の肌が跳ねる。  
「んっ…」  
「オッパイ、気持ちいいの…?」  
タケルの愛撫が少しずつ乱暴になる。両手でかき混ぜるように  
胸をなで回し、揉みしだきながら顔を埋めて感触を楽しむ。  
はっ、はっ、と息づかいが荒くなっていく。  
(タケル…俺の事…欲しがってる…)  
大輔は、自分の股間が湿気を帯びている事に気付いた。  
それだけじゃない。どうしようもなく、もどかしい甘い疼き。  
(俺も…タケルが欲しい…)  
大輔は自分のズボンに手をかけると、パンツごとゆっくりと下ろしていく。  
タケルはその光景に釘付けになりながら、まだ脚から外れていない  
ズボンと、大輔の股間の間に顔を潜り込ませた。  
「大輔君…すごく濡れてる」  
「タケル…ぅ…してぇ…」  
タケルは、大輔の穴に添えられた突起を探し出すと、舌で突くように  
刺激した。  
「あっ!んっ!タケル…そこぉ…」  
「ここがイイんだ…?」  
「んん…そこ…いいよぉ…」  
舌で刺激する、その度に大輔の口からは甘美な喘ぎが漏れて  
身体は快楽を持て余すように跳ねる。  
「あんっ!」  
突起に吸い付くと、大輔は脚でタケルの顔を締め付け、タケルの  
劣情を加速させた。  
 
大輔が十分に潤っていることを確認すると、タケルは  
ゆっくりと、大輔を扇情するように怒張したものをあらわにする。  
大輔にかつてあったものよりも一回り大きい。  
反り返ったそれに大輔の視線は釘付けになる。  
「…触ってもいい?」  
「…うん」  
熱と脈とが握った手のひらから伝わってくる。  
無数の情報が全身を交錯するのが判る。それらが大輔の胎内で欲望を形作っていく。  
見れば見るほど…欲しくなる。かきまわされたくなる!  
女だけに許された感情。それを大輔は手に入れていた。  
「だ、大輔君っ…?」  
「へへ…」  
大輔はそれの先端にそっとキスをすると、少しずつ、飲み込んでいく。  
「う…ああ…」  
タケルの口から甘美な声が漏れる。  
唾液と、舌と、唇と、指をフルに使って、自分の気持ちを伝えようとしている大輔。  
それに応えるように、タケルはゆっくりと腰を動かし始める。  
くちゅっ くちゅっ くちゅっ くちゅっ  
液体音が聞こえるたびに、大輔の口の中のそれは脈打って硬度を増していく。  
タケルの口から漏れる吐息が、高まる感情を伝える。  
先端を舐め取りながら、口からそれを吐き出すと、タケルが余韻に浸る間もなく  
大輔はそれを手にとって、ゆっくりと上下にしごきだした。  
 
「はぁ…っ」  
ぴちゃぁぁっ ぺろっ ぺろっ ぺろっ  
全体をしごきながら、ゆっくりと舌先で裏筋を舐め上げて頂上に達すると、  
先端の割れ目から漏れだす液体を残さず舐め取るように、舌で小刻みに刺激する。  
それだけで、もうタケルは達しそうだった。快感の波に呑まれているタケルの目は  
ほとんど閉じられていて、大輔の乳房に挟まれたことに一瞬、気づけなかった。  
ぷにゅう ぷにゅっ ぷにゅっ ぺろっ ぺろっ  
(柔らかいっ…オッパイ…柔らかいっ…)  
大輔は、押し上げた胸でしごき上げながら、乳房に収まらなかった部分を舐める。  
「はっ…あ…!…出る…っ…!」  
急激に変化した刺激に、タケルは耐えられなかった。  
どぷっ  
ぴしゃっ  
どろっ  
タケルは、満遍なく大輔の顔面に熱を吐きかけた。  
吹き掛かったそれが大輔の胸にしたたり落ちる。  
「ごめん…大輔君…」  
「…別にいいって…それよりさぁ…」  
「…何?」  
極度に湿気を帯びた自分の陰部に視線を落としながら、大輔は続けた。  
「俺…こんなになってんだけど…そろそろ…」  
 
タケルは、指で潤った果肉を左右に押し広げる。  
「…入れるよ…」  
ずりゅ ぅ ぅ  ぅ ぅ ぅ ぅぅぅぅ っ  
大輔の肉が、ゆっくり、熱くタケルを包み込んでいく。  
「ん…あっ!!」  
初めての感覚に、大輔はひきつったように上体を反らす。  
にちゅっ ちゅっ ちゅくっ ちゅくっ  
タケルは大輔の反応を楽しみながら、少しずつ腰を動かしていく。  
「んっ、あっ、あっ、あ…っ」  
出し入れされる度に、大輔は身体をもてあますようによじって声を漏らす。  
そうやって快楽を発散させなければ、体内で爆発してしまいそうだ。  
「…気持ちいい…?」  
声にならない声を漏らしながら、タケルの問いかけに潤んだ瞳で応える大輔。  
ちゅくっ ちゅくっ ちゅくっ ちゅくっ  
熱い粘膜が、タケルに至上の快感を送り続ける。  
熱と熱が解け合って、混ざり合って、一緒になってしまったみたいに。  
「はっ、はっ…はっ…」  
タケルは、大きく腰を回転させて大輔をかき回す。  
「んあっ…いいっ…!いいぃぃっ…!」  
タケルの首に回した両手で、だらしなくぶら下がりながら下半身をよじる。  
 
「もっとしてあげるよ」  
その声が大輔に聞こえたかどうかは判らない。  
タケルは柔らかい胸に顔を埋めながら、片足を抱き込んで  
挿入したまま大輔の身体を反転させる。  
「大輔君…行くよ」  
 
ぱんっ ぱんっ ぱんっ ぱんっ  
ぐちゅ ぐちゅ ぐちゅ ぐちゅっ  
「…う…っあああああああああぁぁっ!!!…」  
背後から胸を鷲掴みにされて、さっきより激しく突かれると  
濁りを増した喘ぎが大輔の口からこぼれていく。  
(…んぁ…ぁっ…!いいっっ…!気持ちい…っっ…!!)  
四つん這いになった大輔の腕から力が抜けて、痙攣するのが分かる。  
タケルは、胸を愛撫していた手を大輔の腰に添えて、全力で陰部を突き立てる。  
もう駆け引きは無い。ただ快楽を求めて、大輔に激しく出し入れする。  
ぱんっ ぱんっ ぱんっ ぱんっ  
ぐちゅっ ぐちゅっ ぐちゅっ  
「あっ…!!そこ…ぉ…っ…!…いいぃ…っ!!」   
タケルの愛撫から解放された乳房が、突かれる度に激しく揺れる。  
(もっとっっ…!タケルの…っ…もっとぉ…!)  
 
大輔の願いとは裏腹に、タケルはゆっくりと大輔からそれを引き抜いた。  
「…あっ…やあ…」  
快楽の渦からいきなり弾き出され、大輔は戸惑った。  
(やだっ…もっとぉ…っ…!)  
タケルは大輔の心を見透かしたような笑みを浮かべ、先端を使って  
なぞるように大輔の淵を刺激し始めた。  
大輔の肉が、物欲しげに愛液を漏らす。  
「やっ…先っぽぉ…早くぅっ…!…入れてぇ…」  
大輔は、ほとんど無意識に腰を動かして、タケルに哀願する。  
「何を…?どこに入れてほしいの…?」  
意地悪で淫らな問いかけに、大輔の潤んだ瞳から熱がこぼれる。  
「俺の…俺のオマ○コにぃ…っ…タケルの…っ…オチンチンん…っ…!」  
むせび泣く嗚咽混じりに、精一杯欲求を伝えようとする大輔。  
だが、タケルは意地悪な笑みを浮かべたまま動かない。  
「…早くぅ…っ!!…オチンチン…ちょうだいぃ…っ!」  
 
ず う っ  
(…あっ…はあ…ぁ…っ…)  
ず っっ  
(はあ…ぁん…っ…気持ちぃ…)  
わざとゆっくり挿入されてゆくそれが、深度を増すにつれて大輔から  
歓喜の笑みが漏れる。  
 
大輔の腕は、とうとう体重を支えきれなくなって崩れてしまった。  
淫らに尻を上げるような体勢になって、押し寄せる快楽に呑まれていく。  
「…タケル…っ…んっ…はあっ…んっ、あ、あっ…」  
撫で回すように、突き上げた尻が愛撫される。  
突かれる度漏れる声は、これ以上なく淫らに変わっていた。  
大輔の肉が、乳房が、声が、タケルを確実に高まらせてゆく。  
ぱんっ ぱんっ ぱんっ ぱんっ  
じゅぷ じゅぷ じゅぷ じゅぷっ  
タケルは大輔の両腕を乱暴に引き上げ、大輔の上体を思い切り反らすように  
突き上げる。  
大輔の濡れた身体が、美しい曲線を描き出す。  
じゅぷっ じゅぷっ じゅぷっ じゅぷっ  
淫らにそれを飲み込み続ける陰部が、かつてないほど発熱して  
液体を垂れ流す。大輔の脚を滴っていく。  
「あっ…あっ…んっ…はっ…いっ…いいっ…!」  
「はっ、はぁっ、出るっ、出ちゃ…っ…あっ…!出るっ…!!」  
「…出してっ…出してぇ…っ…オマ○コにぃ…っ!!!!」  
「ふうぁっ…っ!!」  
タケルは大輔の中で達した。と同時に、眠っていた記憶がフラッシュバックする。  
(全部…分かった…全部…僕の…!)  
受け入れきれなかったタケルの欲望が漏れ出す。  
大輔は、打ち上げられた流木のように官能的な肉体を  
力無く横たえた。  
 
僕は昔、エンジェモンから聞いたことがある。  
性別を反転させる力を秘めた「ゼスの石」のことを。  
それが、「偶然」に見つかった。  
自分を偽るな。「偶然」のハズがない。  
なぜ大輔君と二人きりの時に!?偶然じゃない!!  
デジタルワールドは、想いが無限の可能性を秘めた世界だ。  
想いは、正義を守る盾にもなるが、時には悪に殉じる剣にもなる。  
それは誰よりも知っていたはずなのに…  
誰よりも傷ついて、思い知ったはずなのに…  
(僕が願ったからだ!大輔君とこうなる事を!)  
(僕の気持ちに応えて、石は現れた!)  
(僕はデジタルワールドを汚した!自分の欲望で!)  
(同じじゃないか!!)  
 
(僕はカイザーと同じじゃないか!!!!)  
 
タケルの涙を拭ったのは、大輔だった。  
「タケル…平気か?」  
「…大輔君、君は…」  
「…えっ?」  
「…君は元に戻れる」  
 
「セックスって知ってるよね?」  
「そりゃあ…おめぇ…なぁ」  
タケルの突然の問いに、大輔はさっきまでの自分たちを思いだして  
赤面してしまった。  
タケルが苦笑して、続けた。  
「そうじゃないよ。パスポートを思い出して」  
「パスポート?」  
大輔は、渡米した際に作ったパスポートの書面を思い出した。  
「そうか…SEXって、性別だな?」  
「当たり。…そしてゼスの石のプレートに刻まれた文字はXESだった…」  
「…つまり?」  
「ゼス…XESは性別を意味するSEXを逆さまにしたもの…  
 性別の反転を意味すると思うんだ」  
言いながら、大輔の手をプレートに導いた。  
「SとX…この二つを入れ替えれば、きっと君は元に戻れる」  
「…そうか…」  
「嬉しく…ないの?」  
「…お前、さっき泣いてた…初めて見た。タケルが泣いている所」  
「…うん」  
(僕は最低だ…このうえ大輔君に心配をかけている)  
自己嫌悪の波が再びタケルに押し寄せた。  
 
「大輔君…僕は…」  
「言うなよ」  
大輔の細い腕が、タケルを、そっと抱き寄せる。  
心地よいぬくもりが伝わってくる。心が無防備になる。  
(大輔君…)  
「俺、お前の悩みとかさ…一度も聞いてやれなかったよな」  
(いいんだ…大輔君…これ以上…僕に…優しくしないで…)  
「俺さ…こういう時でもなきゃ、お前に言えないと思うから…言うけど」  
 
「…いつも、大事な仲間だって、友達だって、思ってっから」  
 
我慢していた涙が、さっきとは違う涙が、堰を切ったように流れ出した。  
大輔はそれ以上何も言わなかった。何も言わないで、ただ抱きしめていた。  
 
プレートは整列され、大輔を再びまばゆい光が包む。  
(デジタルワールドは、想いが無限の可能性を秘めた世界)  
タケルは、目をそらすことをしなかった。  
(だけど、僕らはこの世界に留まらない)  
遠くで、仲間達の呼ぶ声が聞こえる。  
(帰る場所があるから)  
 
「さ、行こうぜ!!」  
 
光の中、いつもと変わらない大輔がいた。  
 
                      終  
 
 

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