ただっ広い廊下をクレニアムモンがスタスタと歩いていると
緑色の髪をした女性が一升瓶を片手に
通路の真ん中で|鼾《いびき》を掻きながら眠っている。
「やれやれ、イグドラシルにも困ったものだ・・・」
そう言いその女性に近づくと軽く揺さぶりをかけながら
その女性を声をかけて起こそうとした。
「イグドラシル・・・
起きて下さい、もう朝ですよ?」
そのまま揺さぶりをかけ続けると
イグドラシルにいきなり抱きつかれた。
「ん〜、嫌ぁ、お願い抱いてぇ」
いきなりの事に|吃驚《びっくり》したが、
|鼾《いびき》を掻いているところを見るとまだ眠っているらしい
「仕方の無いお人だ・・・。」
首に手を回された状態で眠りに落ちた彼女を優しく抱き上げると
向かおうとしていた食堂へ急ぐ事にした。
食堂に着くと既に皆集まってはいるのだが・・・
|如何して《どうして》だろうか・・・、
殺伐とした雰囲気が|其処彼処《そこかしこ》に流れているのは・・・。
|クダモン《スレイプモン》、|シャコモン《デュナスモン》はかなり疲れている印象を受けるし、
|ギルモン《デュークモン》、|ブイモン《アルフォース》は何故か機嫌が悪そうだ。
|アグモン《オメガモン》は不敵な笑いをずっと浮かべているし、
|ブイモン《マグナモン》、|ガブモン《ドゥフトモン》は見つめ合ったまま動こうとしない
ロードナイトモンは|シャコモン《デュナスモン》の殻をずっと撫でているし、
更に|ドルモン《アルファモン》や|ドラコモン(青&緑)《エグザモン》に至っては
完全に『我関せず』と言う状態だ。
「あの〜お客様方、朝食の御用意が出来ましたので
どうぞ御自由にお取りください」
リリモンはそう挨拶すると奥の厨房に入り込んでしまった。
暫くするとバイキング形式に一品料理が巨大な器に入れられ、
中央の台の上に並べられていく・・・、
私は朝食を取ろうとイグドラシルを降ろすが
首に回された腕は離される気配が無い…
「イグドラシル?朝食ですよ?
起きて下さい・・・」
そう声をかけ必死に揺さぶる、
すると、朝食の匂いも手伝ってか、やっと目を覚ました。
「おはようございます。
もぅ朝食の用意は出来たみたいですよ?」
「面倒臭いぃ、朝食代わりに取って来てぇ」
「はいはい、分かりました。
大人しくここで待っていてください」
子供っぽく駄々を捏ねるイグドラシルを放置すると
二人分のトレーを持ち一通りの料理を皿の上に盛って行った。
一品ずつの量は少ないのだが全品盛ると相当な量になり、
危なく落としそうになってしまった。
料理をイグドラシルの元へ運び、
横たえている身体を起こしてやる。
「何時までも駄々を捏ねてないで、
シャキっとして下さい。はい、朝食です」
「お願い、食べさせて」
イグドラシルはそう言うと『あ〜ん』と口をあけた。
私も半分そのつもりだったのでフォークを使って
パスタを口に差し込んでやり、隣で朝食を取っている
|アグモン《オメガモン》に声をかけた。
「で、どうなってる?
ちゃんと完成できそうか?」
「ん、大丈夫だよ☆
今、丁度四人分作り終えたところ
入れ物の大きさが割に合わなくて・・・。
あと一日もかからないで残りは作れると思うよ」
あの状況を作り出した本人だと言うのに
全く反省の色が無いのは何でだろうか・・・。
寧ろ、ニコニコして楽しそうにさえ見える。
その表情のまま|アグモン《オメガモン》は愉快そうに言った。
「でもさ多分、進んで戻りたがる奴は
この中では少ないんじゃないかな?」
私はそれには反応せず、
イグドラシルにサラダを食べさせながら少し思案してみたが、
その言葉の意味を理解する事はできなかった。
その完成品について|アグモン《オメガモン》に提案しようとした瞬間
ガシャ!
「お、お前ぇえぇえぇえぇ
食事中にまで触ってくんなぁあぁ!!!」
|シャコモン《デュナスモン》の怒鳴り声によって、私の声は遮られた。
見ると、ロードナイトモンがパイルバンカーで|シャコモン《デュナスモン》の殻を
物憂げに溜息を深くつきながら、「これでもか」というほど愛撫している。
それを鬱っとうしげに振り払うと、食堂の外へ走っていく、
それをロードナイトモンが「まってぇ」と追いかけ、二人共々何処かへと消えていった。
「ま、まぁ、既に完成している薬は欲しい奴から優先で構わんな?」
「そうだな、其処に異論は無い・・・」
|シャコモン《デュナスモン》に同情しつつ、|アグモン《オメガモン》に『薬を渡してやれよ』
・・・と目配せすると、イグドラシルの我侭に付き合うのだった。
「本当ならロイヤルナイツの面子が集まるはずだったんだがな・・・」
山を登りながらボソリとクレニアムモンが小言を漏らす。
成長期デジモンの集まりをロードナイトモンと率いていると
まるで、幼稚園の遠足のようだ・・・。
更に言うならば、ロードナイトモンはイグドラシルの命令で
登り始めて5分と立たず、肩にイグドラシルを乗せている。
私は鎧が当たって痛いから嫌なのだそうだ・・・。
「その上、|ドラコモン(青&緑)《エグザモン》も何処かへ消えてしまうし
皆の雰囲気はギスギスした状態で最悪だし、はぁ・・・、胃が痛い」
今朝の朝食の時はいたのだが、その後何処かへ失踪してしまったのだ・・・
キリキリと痛む腹を押さえながら溜息をつく・・・
何故、今、私達が山を登る羽目になっているのかというと、
イグドラシルの気まぐれで
『折角来たんだし、何か思い出欲しい!』
などと言った為、現在に至るわけである・・・。
ただ、その本人が一番初めに疲れて
『もう、動けな〜い、乗っけて〜』
と早々にリタイアした訳で、
相変わらず自分勝手な主だ・・・
アルファ「おぅ、あれが火口か?」
アルフォース「みたいだねぇ」
スレイプ「任務で見たこともあるだろうに
初めてなわけではなかろうが・・・」
ドゥフト「あ、熱すぎる也」
マグナ「その毛皮を脱げばいいじゃない」
ドゥフト「そ、某に裸になれとお主は言うのか!?」
デュナス「きゅぅ〜、俺はもう駄目だ・・・」
デューク「クレニアムモン!|シャコモン《デュナスモン》が干からびて!
水筒の水をくれないか!?」
オメガ「おっ!?中々の炭素岩だ、純粋なクロムが抽出できそうだな・・・もらっとこ」
イグドラシル「すご〜い、溶岩が見えるよ〜」
ロードナイト「あ、主様、あまり乗り出されては危険です」
さ、騒がしすぎる・・・
何でこんなに皆元気なんだ?
クレニアム「はぁ、・・・ん?あれは・・・」
噴煙が濃いのと遠いのとで見えづらいが、
火口の奥の溶岩がゴポゴポと動いている・・・
そういえば、この山って活火山だったか?
クレニアム「・・・って、皆!危ない!今すぐ逃げるんだ!噴火するぞ!」
オメガ「おぉ、マグマの活動の様子を直で見られるとは」
スレイプ「のんきな事を言ってる場合か!とっとと撤退するぞ!」
イグドラシル「えぇ〜、もぅ帰るの〜?」
ロードナイト「ですから、危ないんですって!」
クレニアム「(…プチッ)このゆとり共がぁ!!!
ふざけてないでとっとと戻るぞ!!!」
アルフォース「うわぁい、クレニアムモンがキレタァ☆」
アルファ「疲れてきたし丁度良いな」
デューク「やれやれだぜ・・・」
ゴポゴポゴポ・・・
溶岩の泡立ちが段々と激しくなっていくと、
火口の淵から煮えたぎった溶岩が溢れ出して来る。
クレニアム「駄目か!?間に合わない!」
ドゥフト「某はまだ死にたくない也ぃ」
マグナ「あばばばばばば・・・」
デュナス「俺達\(^o^)/オワタ」
アルファ「なんてこったい/(^ρ^)\」
アルフォース「ぐっ・・・うわぁ・・・」
ザバァアァン・・・
私達の目の前を赤い色が染めた・・・
と、思ったら、その赤は何時までたっても襲ってくる事はない
恐る恐る眼を見開いてみると目の前にはエグザモンが突っ立っていた。
エグザ「皆、何をやっておるのだ?こんな所で・・・」
マグナ「あ、あれ?エグザモン・・・俺達と一緒に退化したんじゃ?」
エグザ「ふん、我らに退化など、常にお互いに高めあっておるのだ、
進化など時間をかければ出来ぬものでもあるまい?」
クレニアム「それは良いとして、ここで何をやっていたんだ?」
エグザ「何を言っておる、温泉に来たからには風呂に決まっておるだろう」
デューク「風呂って、ここの一体何処にそんなものが?」
エグザ「ほら、火口の中に並々と溶岩風呂があるではないか」
アルファ「それって、溶岩風呂の意味が違うような・・・」
エグザ「あんな、ぬるい風呂になど入っていられる訳がなかろう
我が身の汚れすら落とせぬわ!その前に我の質問に答えんか!」
クレニアム「実はな・・・
(イグドラシルの気まぐれにより、観光していた事を伝える。)
・・・という訳なんだ。丁度、帰る所だし皆を乗せていってくれないか?」
そう言い、成長期デジモンに退化した仲間達を一瞥する。
エグザ「それは、構わんが我は今まで・・・」
デュナス「よっしゃ、やっと帰れる・・・」
言い終わる前に|シャコモン《デュナスモン》がエグザモンに飛び乗る。
・・・が、その瞬間絶叫と共に悶え苦しむ
エグザ「・・・煮えたぎったマグマに浸かっていたのだぞ?
我の体温が上がっておるのは当然だろうが・・・」
デュナス「さ、先に言え・・・ガクリ・・・」
オメガ「デュナスモーン!www」
マグナ「あぁ、デュナスモンが・・・、オメガモン何故笑っている?」
オメガ「なんとなくw」
クレニアム「あぁ、頭も痛くなってきた・・・」
私は考えるのを止め|シャコモン《デュナスモン》を
抱きかかえると他の者と一緒に下山した・・・。