「大輔」
「おう、賢」
某ファーストフード店の前で大輔と賢は待ち合わせをしていた。
今日はお互いパートナーはお留守番をさせ、他の誰にも声をかけることなく二人だけで会う予定だったのだ。
大輔は炭酸のジュースとポテト。賢は紅茶だけを頼んで席に着いた。
「それで相談したことって…何か悩みでもあるのかい?」
「ん?んー…悩みって言うか、最近チビモンのやつが…変なんだよ」
「変?それはどんな風にだい?」
「そっれがさぁ!」
聞いてくれよ!とばかりに大輔は賢に顔を寄せて身振り手振りで話を始める。
大輔のパートナーデジモンであるブイモンことチビモンは見た目通りお子様味覚で甘いものに目がない。
だから家の中のお菓子を勝手に食べないよう言い含めてある。チビモンもそれは了承していてお腹がすいた時
は必ず大輔に強請っていた。
ところが、つい先日家族が出かけている間にチビモンとおやつを食べようと台所に入った彼が見たのは、冷蔵
庫の野菜室から野菜を引っ張り出し、がりがりと無心に齧っているチビモンの姿だった。
「キュウリはわかるさ。でもブロッコリーなんて芯の部分を生で齧ってんだぜ?しかも食べられないって吐き出
してさー…今まで生の野菜なんてほとんど見向きもしなかったのによ」
「…それは」
静かに話を聞いていた賢も思わず眉をひそめる。
少し冷めてしまったポテトを口に運び、大輔は考え込む賢に頬杖をついて聞いた。
「…ワームモンも何かあったのか?」
正確にはミノモンなのだが、大輔にとってはワームモンの方が言い易いためあえて訂正しない。
「あぁ…大したことじゃない、と思う……」
そう返したものの、賢の表情は思い悩んでいる者のそれで。
「部屋で使っている青いクッションが気に入ったみたいで…」
昼寝をする時などはよくそのクッションの上で丸まっているのだと話す。
「物に愛着を持つなんて今までは一度もなかったから特に気にしなかった。でも一週間くらい前かな……そのク
ッションを綿が出るまで噛みついたり振り回したりしているみたいなんだ」
「みたいって…お前が実際見たわけじゃないのか?」
「破れたクッションを持って来て必死で謝ってきたんだ。それもこの間で三回目になったかな。おかげで裁縫が
少しだけ上手くなったよ」
笑おうとして、失敗したらしい。賢はもう一度溜息を零した。
沈黙が重い。街の喧噪がうるさいくらいだ。
ジュースを最後まですすると大輔は重い空気を振り払うように明るく言いだす。
「今度光子郎さんに相談しようかと思ってんだ」
「そうか…僕も一緒に行ってみるよ。情報交換すればもしかしたら原因がわかるかもしれない」
「そうだな!」
次に会う約束だけして二人は別れた。