「ふんふんふーん、ヤーマートーさん!」
「あれ、ミミちゃん」
冒険の最中のお話。
ヤマトが座って休んでいると、さっきまで光子郎に対して猛烈な癇癪を起していたミミが珍しくヤマトのほうへ寄ってきた。
寄ってきたミミはなにやらご機嫌で、それがヤマトにはちょっと不気味だった。さっきまであんな怒ってたのに。
「なにしてるんですかぁー?」
「いやなにって、えーっと、休憩。」
「じゃああたしも休憩―!」
そう言ってミミはヤマトの隣にどさっと座り込んだ。
お互いのパートナーは、今は食糧を探しに行っててここにはいない。
基本的に集団から離れてることが多いヤマトはさっきまで一人っきりで、今は二人っきり。
そしてこの年下の女の子とイマイチどう接したらいいのかが未だにわからないヤマトは、ミミが寄ってきたときから焦り始めていた。
太一や空たちはすぐそこにいて何やら話あっているけど、ここまで声は届かない。
当然こっちの声も届かないんだろう。
どうしたらいいのかわからない。救いを求めるように太一のほうを見詰めていると、どうやら太一がその視線に気づいたらしい。
気づいた太一は空になにか耳打ちをして、二人でこっちを見る。
空はなにやら太一にあきれているようだが、太一はたいへんおもしろそうだ。
光子郎もまたなにかにあきれているようで、その後ろでタケルは太一にしがみついていた。
ちくしょう太一のヤツ、俺のタケルを。
そして間の悪い丈は目の届く範囲にはいなかった。
どうやら太一たちに救いを求めてもどうにもならないらしい。それはわかった。
つまり、このどう接したらいいのかわからない女の子との二人っきりの状況を俺は一人で切り抜けなければならないわけだ。
しかしどうやって?
そして思いついた。向こうに戻ればいいんだ。そうすれば二人っきりじゃなくなる。我ながらなかなかの名案だ。
その名案を実行しようとしたとき、つまり立ち上がろうとしたとき急にミミがヤマトに話しかけた。
「ヤマトさんって、好きな人とかいるんですかぁ?」
「ひぇっ?」
驚いて、思わず声が裏返った。恥ずかしいことこの上ない。
「え、えっと、なんでそんなことを?」
動揺してるのを悟られないように(とは考えているものの、実際ミミからはヤマトが慌てふためいているのはモロバレで)冷静に聞き返すと、
ミミはまた楽しそうに笑顔をつくり
「だってヤマトさんってかっこいいじゃないですかー。金髪だしー、スタイルいいし!やっぱり女の子から告白されたりするでしょう?」
「い、いや!そんなことないよ!」
本当のところ、ラブレターの一つや二つ貰ったことがないわけではないが、冷静にそんなことを顧みる余裕はヤマトにはなく、
なぜかあわてて全力で否定していた。
そのヤマトの大袈裟な動きを遠くから観察していた太一は、あまりの可笑しさに身悶えていたが、
しかしヤマトはもはやそれに気づくどころではなかった。
「えー、じゃあ好きな人とかもいないんですかぁ?」
「え、いやだからなんでそんな、、…あ、じゃあミミちゃんはいるの?」
これはいい反撃だ。ヤマトの自画自賛である。
自分がこれだけうろたえる質問をそんな簡単に返せるわけがない、というヤマトの判断はまったく甘いものだった。
「えー、あたしはやっぱりヤマトさんかなー?」
その回答にヤマトは目をパチクリさせた。俺ですか?
「だってぇー、やっぱり太一さんは空さんがお似合いだし、タケルくんはまだちっちゃすぎるし、丈さんはすぐ怒るし!
やっぱりヤマトさんが一番かなーって。えへ」
えへ、と言いながら上目づかいでヤマトのことを見詰めるミミに、ヤマトはどう答えていいのかさっぱりわからなかった。
しかし咄嗟に、
「あ、光子郎は?ほら、ミミちゃんと同い年だし…」
としどろもどろに言うと、
「あんなパソコンオタクはー、どうでもいいんですー!…ヤマトさんは、あたしのことキライ?」
そう言いながらまた拗ねたような表情をつくるミミに、ヤマトは完全にまいってしまった。
しかしそれも束の間、ミミはすぐに笑顔に戻ると、急に立ち上がり
「さーって、あたしの休憩おしまいー。パルモン達も戻ってきたし!ヤマトさんはゆっくり休んでてくださいねー」
と言い残し、ヤマトを残して一人でさっさと戻ってしまった。
パートナー達が食糧を抱えて戻ってきていた。
入れ替わりでこっちに来たガブモンに思わず抱きついたヤマトは、ガブモンに
「俺はどうしたらいいんだー!」
と泣きついたが、なんのことか事情が呑み込めないガブモンはただオロオロするだけだった。
ヤマトが、太一に唆された年下の女の子にからかわれていただけと知ったのは、また後年のお話……