ルキはトイレから上がると、やれやれとため息を漏らした。  
 中庭にある水道で手を洗う。街灯もほとんどない沖縄の夜は、真っ暗に近い。空はあいにくの曇り空で、星灯りもなく、ぼんやりとかげった月が浮かんでいるきりだ。  
 メフィスモンとの戦いのため、東京から転移させられたルキは、タカトの親戚である浦添家に泊まっていた。  
 本当は一刻も早く東京に戻りたかったのだが、ウィルス騒動で欠航が相次ぎ、飛行機の席を取るのもままならず、東京に帰るのは一日二日、後にならなければ無理そうだった。  
 トイレといっても、水回りは、デジモンとの戦いで壊れてしまっている。あるのは、家畜小屋か何かの餌箱をトイレに流用したような、中庭の隅にある桶一つだ。  
 一応の囲いがあるから、用をたしているところが見えるわけではないが、それでも中庭で用を足すというのは、どうにも落ち着かない。  
 おまけに、すぐ側の小屋から、今にも何か這い出てきそうな嫌な感じがあった。  
 街の夜に慣れたルキの目には、沖縄の暗闇はひどく不気味に映る。部屋を出てトイレに来るまでの間も、あるはずのない気配を感じたりもしたものだ。  
 
「馬鹿馬鹿しい」  
 おびえを振り払うように呟き、早く布団に戻ろう、と廊下にあがったとき、人影がぬっと現れた。  
 びくん、と心臓が跳ね上がる。  
「あれ、ルキ?」  
「……なんだ、タカトか。  
 タカトも、トイレ?」  
 驚いたのをごまかすようにそう問うと、タカトは首を横に振った。  
「カイ、見なかった?」  
「見てない。タカト、一緒の部屋じゃなかったの?」  
「そうなんだけど……目が覚めたら居なくってさ。てっきりトイレかと思ったんだけど」  
「とか言って、一人でいるのが怖かったんでしょ」  
「そんなんじゃないよ」  
 そう言いながら、タカトは顔を赤くした。夜の暗闇が怖いのは、タカトも同じなのだろう。そう思うと、何となくほっとする。  
「散歩でもしてるんじゃない? 自分の家なんだから、心配することもないでしょ」  
「そうだね。戻ったら、カイの方が心配しているかもしれないし」  
「じゃ、あたしはもう寝るわ。お休み」  
「あ、部屋まで送るよ」  
「そんなこと言って、一人で戻るのが怖いんでしょ。  
 でもまあ、一緒に行くって言うなら、別にいいわよ」  
 からかいながらも、ルキはそう言った。正直に言えば、一人で帰るのは気味が悪い。  
 二人は何となく、おそるおそる、といった様子で歩き出した。足を踏み出すたびに、きしい、きしい、と廊下がきしみをあげる。  
「ほんと、なーんか出そうな雰囲気よね」  
 おびえを振り払おうと、陽気な声を出したつもりだったが、出てきたのは、かすれるような小声だった。廊下に横たわる暗闇が、そんな言葉をも飲み込む。  
 ふと、部屋の手前で、二人は足を止めた。静かに耳を澄ませる。  
 うぅ……  
 ちら、とタカトの方を見る。タカトも強ばった顔をしていた。  
 
「……聞こえた?」  
 タカトの言葉に、ルキはかくかくと頷く。  
 うめき声に、時折切迫した響きが混じる。声には、何か、押し殺したようなくぐもりがあった。  
 声は、ルキの寝る部屋から聞こえていた。部屋にはミナミがいるはずだった。部屋数の都合で、女の子同士、一つの部屋にまとめられているのだ。  
「どうする?」  
 あぁ、ぐぅ……  
 声は、細く、とぎれとぎれに続いている。ミナミの声かどうかはわからないが、ただごとではない雰囲気を漂わせていた。  
「とりあえず、覗いてみよう。急病なのかもしれないし」  
 二人は足音を忍ばせ、障子をわずかに開くと、部屋の中をのぞき見る。  
 とたんに、聞こえてくる声が大きくなる。  
「あ、う、ぁ……」  
 少しずつ目が慣れ、部屋の中の様子がぼんやりと見えてくる。  
「……ふぁ、あっ」  
(何? あれ……)  
 部屋の中では、二つの肉体が絡み合っていた。比較的がっちりとした人影はカイだろう。その下に組み敷かれている、白い身体はミナミだろうか。カイが身体を動かすたびに、押し殺したような声が聞こえる。  
 部屋の中には、物音を立てるのさえはばかられるような、奇妙な空気が流れていた。暗闇で動く二つの身体からは、どこか切迫した雰囲気が漂っている。  
 ごくり。  
 自分がのどを鳴らす音が、どこか遠くに聞こえる。夜の空気の中、部屋の中の音だけがはっきりと響く。  
「しずかに、しろよ」  
 かすれた声に、ん、とミナミが頷く気配が感じられた。  
 カイが動きを早めた。  
 ミナミの喉から、うめきが漏れる。  
「ん、ん、ん」  
 ミナミの腕と脚が、カイに絡みつく。  
「んんっ」  
 カイに絡みついた脚が、びくびくっと震えた。一瞬の間をおいて、カイの身体が強ばる。  
 とたんに、あたりを包んでいた空気が、不意に和らいだ。カイとミナミの身体が、力が抜けたように崩れる。  
 
 二人の身体は、今も絡み合っていたし、物音を立てるのがはばかられるような空気もそのままだった。けれどそれは、どこかやわらかで、秘密めいた空気だった。  
「……ほらぁ、そろそろ行かないと、ルキちゃん、戻って来ちゃうわよ」  
「まだ、大丈夫だろ……ん」  
 静かな空気の中、二人のささやきと、くすくす笑いが聞こえる。  
「……やん……ちょっと、駄目だってば、本当に……」  
「大丈夫だって」  
「ちょっと……んんっ……もぉ」  
 一度は和らいだ空気が、強さを帯びてきた。息を殺すような鋭さはとは少し違う、ねっとりとした強さ。頭を痺れさせ、冷静な判断力を奪うような、そんな空気だ。  
「んっ……んふ」  
 緩慢な動きの中、うめき声に混じって笑い声もが聞こえる。不意に、ミナミの脚がカイの脚に勢いよく絡み、そのままぐるん、と身体が反転する。  
 どしん、というような響きと共に、ミナミがカイの上にのしかかる格好にひっくり返り、ぱさり、とミナミの髪が揺れた。  
 髪をほどいているミナミの背中は、昼とはずいぶん雰囲気が違う。細い障子の隙間から、白い背中が踊った。  
「お、おい……」  
「いいじゃない、別に……」  
 焦ったようなカイのささやきをよそに、ミナミは身体を揺らし始める。部屋の暗闇に、白いお尻がゆるやかにうごめく。  
「んんぅ……」  
 身体を揺れるのに合わせてうめき声が漏れる。心地よさが、鮮やかににじむ声だった。  
 不意に、とん、と肩に触れるものがあった。心臓が跳ね上がり、ひっ、と喉から空気が漏れる。  
 
「ルキっ……」  
 声を潜めて、タカトがそうささやく。どうやら、さっきから何度も呼びかけていたらしい。部屋を覗くのに熱中していたせいか、まるで気がつかなかった。  
「僕の部屋で待ってようよ。今はいるわけにはいかなそうだし……」  
「あ、う、うん、そうね」  
 タカトが案内をするように、足を忍ばせて歩き出す。なぜか、顔が火照り、夜風がよけいに涼しく感じられる。  
 
 ぱちっと、灯りのともった部屋を見て、ルキはあきれた。  
 小さな部屋には、大きな寝袋がひとつ、でん、と転がってるだけで、布団もなければ枕もない。  
「何よ、布団ないの?」  
「しょうがないよ、いきなり大勢で押し掛けたんだもん」  
 言われてみれば、もっともである。  
 何しろ、浦添家は祖父と孫との二人暮らしである。そこに、タカト、ギルモン、ルキ、レナモン、ジェン、テリアモン、ミナミと七人も増えたのだから、布団が満足に行き渡らなくても、おかしくはない。  
「じゃぁ……どうする?」  
 ルキの言葉に、タカトがううん、とうなった。何しろあるのは寝袋一つきりだ。部屋は、風通しがいいせいもあって、少し肌寒いぐらいに涼しい。畳で寝たら、風邪を引くのは間違いないだろう。  
 ちくたくちくたく、と秒針だけが音を立てる。  
「いいわ、寝てましょ。待ってて風邪でも引いたら、馬鹿みたいだもの」  
 そう言うと、ルキはそそくさと寝袋に潜り込んだ。  
「あ、うん、えっと……」  
「いいからタカトも入りなさいよ」  
 ぶっきらぼうにそう言うと、ルキはぷい、寝袋の中で背中を向けた。おずおずとタカトが隣に入り込んでくる。  
「変なことしたら、ぶっ飛ばすからね」  
「わかってるよ」  
 ぱっと電気が消され、部屋が暗やみに包まれる。  
 ちくたくという時計の音だけが、あたりに響く。  
 
 (なんだったんだろ、あれ……)  
 暗やみに包まれると、さっきの光景が鮮やかに甦ってくる。真っ暗な部屋の中、響く息づかいに秘めやかな笑い、それにうごめく白い肌。そうしたものを思い浮かべるたび、どこか奥深いところが、じん、と痺れる。  
 ルキはその光景を振り払うように、ごろり、と寝返りを打った。  
「ひゃっ!」  
 とたんに、背中を向けたタカトが頓狂な悲鳴を上げた。  
「どうしたの?」  
「……ルキ、足、冷たい……」  
「悪かったわね。冷えやすいのよ」  
 狭い寝袋の中で寝返りを打ったせいで、足先がタカトの足に触れたのである。  
 ルキはちょっとした悪戯を思いついて、くすりとわらった。ひょい、と足をタカトのふくらはぎに押し当てる。  
「ひゃあっ!」  
 体質が違うのだろう、タカトの足はじんわりと暖かい。タカトは悲鳴を上げて脚をじたばたとさせる。  
「このっ」  
 そうはさせじ、とルキの足が追いかける。  
「てい、てい、てい、とぅっ」  
「うひゃ、ひゃっ、と、なんのっ! わわわ冷たい冷たい冷たいっ!」  
 布団の中で足を押しつけようとするルキから、タカトの足が逃げ回る。タカトの背中に抱きつくようにして、胸元に冷え切った手を滑り込ませる。ふりほどこう、とタカトの身体が寝返りを打つ。  
 寝袋を戦場にして、二人はしばらくの間ごろごろと暴れ回った。  
「逃がすかっ!」  
「冷た冷た冷た!」  
 向かい合う格好になったタカトの脚を、ルキの脚がからめ取り、ふくらはぎに足の裏をぎゅうっと押しつける。  
 
「おー、あったかいあったかい」  
「うわちょっとルキ、本当に冷たいってば!」  
 タカトが身をよじらせ、脚をほどこうとするのを、ルキの脚ががっちりと挟み込む。  
「とりゃ」  
 ついで、とばかりに、しがみつくようにしてタカトの背中に手を滑りこませた。  
「ひひゃぁ」  
 タカトが悲鳴を上げ、身をよじる。じたばたと暴れるが、狭い寝袋の中、しがみついているのをひっぺがす事はできない。  
 冷え切った手足がじんわりと温もる感覚が心地よく、ルキはしがみついたからに一層力を込めた。  
「ちょっとルキ! 本当にまずい。離れてってば!」  
 タカトの声に、切迫した色が混じった。身体を引き剥がそうと、しきりに身じろぎをする。ルキはいぶかしく思って、わずかに力を弱めた。  
 もぞり、とタカトが身じろぎをする。反射的にしがみついていた手足に力がこもった。はずみで、タカトの身体が、ぐい、とルキに押しつけられた。  
 タカトの脚に絡みついた脚に、じんわりと熱いこわばりが押しつけられるのを感じる。  
 とたんに、ルキは身体を強ばらせた。かぁっ、と頬に血が上る。  
「ちょ、ちょっと! 何してるのよ、馬鹿っ!!」  
 真っ暗な部屋の中、ルキの怒鳴り声が響き渡った。  
 
「しょ、しょうがないだろ! なっちゃったんだから。とにかく離してってば」  
 もぞり、とタカトの身体が離れるように動く。素直に離せば良さそうなものだが、動揺したルキの手足は強ばり、タカトに強くしがみついていた。  
 ふとももに熱いものが、ぐい、ぐい、とこすりつけられる。  
 パジャマ越しに感じられるものが、ひどく熱い。馴染みのないその感触は、人間の身体ではないような、異質な不気味さがあった。  
「ん……」  
 タカトが、声を押し殺した。タカトの腰が、ぐっと押しつけようとするのを、こらえている。そんな力加減が、ルキの脚に伝わってくる。  
(う、うわぁ……)  
 ごくり、とルキののどが鳴った。思わず身体が強ばる、と、ルキのふとももがタカトにこすりつけられた。  
「んっ……」  
 タカトのうめきが聞こえ、身体がわずかに震えた。  
「あのさ……普段、どうしてるのよ」  
「え?」  
「だから、普段はそう言うときどうしてるのよ」  
 何か、大声を出してはいけないような気がする。タカトの返事も聞こえるか聞こえないかほどの小声だった。  
「あー、まぁ……しばらく放っておけば、そのうちに戻るし、出せばすぐに戻るけど」  
「……出せば、すぐに戻るの?」  
「え? あ、まぁ……」  
 ルキは絡めた脚に力を込めた。心臓がどきどきと高鳴る。  
「……出るの?」  
 暗闇の中で、タカトが頷く気配がした。  
 長いような、短いような沈黙のあと、タカトがもぞり、と動いた。  
 
「……ルキ、ちょっと、じっとしてて」  
 ルキは「ん」と短く答えると、タカトの腕が背に回り、ぎゅっと抱きしめる。  
「あ……」  
 驚きがささやきとなって喉から漏れる。じんわりとした体温が、パジャマ越しに伝わってくる。  
 そのまま、タカトの腰がふとももにこすりつけられ始めた。ぐい、ぐい、と腰を押しつけ、ルキの身体が逃げないように腕に力が込められる。  
 んっ、んっ……  
 興奮したような熱い吐息が、ルキのすぐ耳元に吹きつけられる。  
(男の子も、こするんだ……)  
 ルキはわずかに身じろぎをした。ふとももにタカトの身体がこすりつけられるたびに、ルキの秘部がタカトのふとももにこすりつけられる。ぞわぞわした、奇妙な感覚が、背筋を駆け上がる。  
 脚の間にある秘部が、じんじんと熱い。  
(や、やだ……)  
 ルキはこれまで、そこを強く意識したことはなかった。せいぜい、衣服越しに指をこすりつけると、何となく気が紛れる、という程度の認識でしかない。  
 タカトが動くたびに、どくん、どくん、と身体の中に大きな波ができるがわかる。  
 ごくり、とつばを飲み込む。頭の芯が痺れ、考えがまとまらない。好奇心と嫌悪感と恐怖が混ざり合いながらも、止めるきっかけは、すでに失われていた。  
「……手伝ったげる」  
 くい、くい、とルキの身体がタカトに合わせて動く。小刻みに身をよじり、角度を変え、より強い感覚を生み出す。  
「んっ……」  
 知らず知らずのうちに腕に力がこもる。手のひらを暖めるためでなく、身体が離れないように、がっちりとしがみつく。  
 ルキは静かに目を閉じた。神経が秘部に集中し、ぞわぞわという感覚を、熱っぽさをつぶさに感じ取る。  
 
 こすりつけるたびに、どくっ、どくっ、と血の流れがはやまる。  
 神経が飢えを満たすように、生み出される感覚を拾い上げ、ルキの身体はどんどんと高ぶっていった。  
「んっ……んっ……!」  
 殺しきれない声が漏れた。身体の熱がどんどんと高まる。  
「っく……」  
 自分の感じている感覚がなんなのか、ルキにはまだわからない。気持ちいいというよりも、こらえるような苦しさが先に立つ。それでも身体をタカトにこすりつけているのは、この感覚を高めれば解放されると言う、本能的な直感だった。  
 ぐい、ぐい、と秘部を強く押しつる。  
 身体の芯からにじみ出た熱は、すでにルキの中に充満し、あふれかえらんばかりになっている。  
(……もうすぐ……もうちょっと……)  
 唇をきゅっと噛み、こみ上げてくるものをこらえる。  
「んっ!」  
 不意にタカトの動きが止まった。ルキを抱きしめていた腕の力が、ぐったりと抜ける。  
 ふうっ……  
 タカトが長いため息をついた。ルキのふとももに押しつけられている身体は、まだじんわりと熱かったが、すでにこわばりを失っていた。  
「……すんだ、の?」  
 ほっとしたような、残念なような気持ちで、ルキは目を開けた。タカトがけだるげに頷く気配がする。  
「……そう」  
 ルキの脚は、まだタカトの脚に絡みついていた。秘部はじんじんと痺れ、熱い。もう少し、というところで動きを止められた熱気が、ルキの身体の中で暴れ回っていた。  
 意志に反して、ぴくっ、ぴくっ、とルキの腰が動き、タカトのふとももにこすりつけられる。  
(んぅっ……)  
 ずきん、とした鋭い心地よさが背筋を走る。ルキは慌てて脚に力を込め、腰の動きを封じた。  
 くはぁ。  
 ほっとしたような、もの惜しいような吐息が漏れる。  
 
「……あのさ」  
 ルキの耳元で、タカトがささやいた。  
「何?」  
「あの、えっとその……もう一回、いい?」  
 どこか困ったような言葉に、再びももに強ばりが押しつけられているのに気がついた。  
「ちょっと、さっき済んだばっかりじゃない」  
「しょ、しょうがないだろ……なっちゃんたもんは」  
 どこか怒ったようにタカトがそう言った。  
 一瞬、ルキは迷った。けれどこのまま眠るには、ルキの身体は高ぶりすぎていた。  
「……しょうがないわねぇ、ほんと」  
 言葉に出すと、じわり、と何かが秘裂からあふれる。中途半端で放り出された身体が、期待に一層熱を高めた。  
 脚に力がこもり、腕がタカトを抱きしめ返す。  
 じわり、とぬくもりが伝わってくる。  
 タカトがこわばりをこすりつけ始める。ルキもそれに合わせて身体を動かす。  
「ん……」  
 一度お預けを食ったせいか、それとも達する直前まで行ったせいか、ルキの身体は貪欲に感覚を捕らえ、どんどんと熱を高めていった。  
「んっ! ……んくっ……!」  
 小さな声が漏れる。秘部がじんじんと熱く痺れる。  
 タカトの脚が、小さく揺れる。  
「くぁっ……」  
 不意打ちの刺激に、思わず声が漏れる。  
 ルキの身体の中は、あふれ出す熱で充満していた。  
 ぐっ、ぐっ、ぐっ、と秘部がリズムを持ってタカトにこすりつけられる。  
 熱が、ルキの身体をはじけさせようとするのを、力ずくで押さえ込む。  
 不意に、ばちん、とルキの中の熱がはじけた。  
「っぁあっ!」  
 ぎゅうっ、とタカトを抱きしめる腕に力がこもり、そしてふわり、と身体中から力が抜けた。  
 
 タカトがルキの背をなでた。手のひらの暖かさが、パジャマ越しにふれあう肌の感触が心地よい。  
 生まれて初めて感じた絶頂の感覚に、ルキはまどろんでいた。達した後のことは、あまり覚えていない。どれぐらいの時間がたったのかわからないが、タカトは動きを止めていた。  
 ルキを抱きしめていた腕がほどかれ、抱きしめていた胸が離れる。力の抜けたルキの腕が、するり、と外れた。  
(あ……)  
 さっきまでぬくもりを与えていたタカトの身体が離れ、空気が触れる。寝袋の中の、暖められた空気のはずだったが、ひどく肌寒く、寂しい気がした。  
「ね、ルキ、離してくれる?」  
「え? あ、ごめん」  
 ルキの脚はがっちりとタカトを挟み込んだままだ。ぐったりと力の抜けた脚を、ゆっくりと外そうとする。  
 不意に、ルキは動きを止めた。  
「ねえタカト……終わって、ないみたいだけど」  
 ルキのふとももに押しつけられた身体は、まだ暖かく、固い。タカトがぎくり、と身体を強ばらせた。  
「いや、あの……別に……」  
 歯切れ悪く、タカトがそう言った。かぁっと羞恥に身体が熱くなる。  
「……タカト、気が、ついてた?」  
「えっ? な、なんのこと?」  
 瞬間、かあああぁっ、と顔が熱くなるのを、ルキははっきりと感じた。  
 二人とも抱き合っていたのだ。ルキにタカトの身体が伝わってきたのと同じように、タカトもルキの身体を感じ取ることができたのだろう。  
「タカトの、ばかぁっ!」  
 ルキは思わず、枕にしていたタオルをたたきつけた。続けざまにぽかぽかと殴りつける。  
「なにすんだよっ!」  
「うるさいっ! 馬鹿っ! すけべっ! ぶっとばすっ!!」  
 狭い寝袋の中、つかみかかり、転げ回り、逃げ回る。  
 どたんばたんという物音は、四時近くまで絶えることがなかったという。  
 
            おわり  

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