じじいがウサギになったり、はたまた猫になったり、ゾンビ化する人間が多発したりと
科学班(というよりむしろコムイ)が原因で起こるトラブル満載の引越しも、ようやく終りつつある。
新しい本部となる建物に、いちどきに荷物を搬入するのは物理的に不可能な為、教団は3班に分けられた。
移動も3日に渡って行われ、各人割り振られたその当日に身の回り品を持ち込むことになっている。
「あぁ、疲れたわ……」
うっそりと溜息を付いたミランダは荷をほどく手を止めて、これから暮らすことになる小部屋を
ぐるりと眺め回した。彼女はラビやブックマン、マリらと共に第1班に振り分けられ、初日に移動を済ませたのだ。
ノロノロと手を動かしてスーツケースから衣類を取り出しながら、ミランダは再び溜息をついた。
身の回り品は決して多くはないのだが、襲撃、引越しと、最近立て続けに起こった出来事に彼女は疲れていた。
おまけに引越し作業の途中に不本意にもゾンビ化するというオマケまでついていたのだから尚更だ。
「それにとっても喉が渇いた……」
小さな声で独り言をつぶやくと、ミランダは立ち上がって自室を後にした。
幅の広い階段を降りて直進すると、細長く広いホールにでる。食堂になるはずのその場所は、今は
薄暗く静まり返っていた。それもそのはずで、調理担当の人々は明日移動してくるのだ。
誰もいない食堂はこころなしか不気味で、ミランダは肩を軽く竦めると小走りにホールを抜けて
調理場を覗いた。やっぱりここも人っ子一人見当たらず、シンと静まり返っている。
調理台や床の上に雑然と並べられたダンボールの中には、蓋の開いたものもいくつかあり、
その中に缶詰や瓶詰めの類があるのを見つけたミランダは目を輝かせた。
「ええと… お茶は、お茶はないかしら?」
ブツブツと小声で呟きながら、あちこち箱の中を物色してみるが、なかなかお茶は見つからない。
なかば諦めかけた所でシンクの上にある小箱をふと開けてみると、ようやくそれらしきものを発見した。
中国茶だろうか? 鮮やかな黄色のパッケージには見慣れぬ漢字と桃らしき果物が描かれている。
「桃の… お茶?」
ティーバッグの封を開けて、そっと匂いを嗅いでみると、かすかに漢方薬めいた匂いはするものの、
それは確かにお茶らしかった。
ここだけの話、パッケージには『催淫媚茶・紅玉痴花』とかなんとか怪しげな字が並んでいるのだが、
悲しいかな、ミランダは漢字を読むことができないのだった。作った人間がコムイであることと
効能の程は改めて申し上げる必要もないと思うけれど、一応言っておくと、このお茶は鉄の処女であろうとも
その気にさせるバリバリの媚薬なのである。
湯を沸かす間にもう一度ダンボールをあさって、クッキーを取り出し小皿に盛り付ける。
調理台の前にスツールを据えると、一人だけの茶会の準備はまたたくうちに整った。
カップに注いだお茶は金色に輝いて、香り高かった。
「あら、案外美味しいわ……」
そっと一口啜ったミランダは、幸せそうな微笑を浮かべると、アーモンドの乗ったクッキーを小さくかじった。
今度はお茶を大きく一口含む――と次の瞬間、真顔に戻ったミランダは聞き耳を立てる表情で食堂の方を振り返った。
重々しい足音がゆっくりと近づいてくる。その足音は食堂の内部で一旦立ち止まったと思うと
また動き出し、今度は真っ直ぐにミランダの元へと近づいてきた。 緊張の面持ちでミランダは、口に含んだお茶を
ごくりと飲み下した。
大きく目を開けたまま入り口を見守るミランダの前に現れたのはよく見知った顔で、その個性的な
ヘアスタイルと、大きくいかつい体躯の彼を見た途端、彼女の口からは安堵の溜息がこぼれた。
「マリさん……」
「ミランダ」
男はさほど驚いた様子もなく、わずかに口許を緩めてうなずくと彼女の名前を呟いた。
「俺にも茶を淹れてもらえるかな?」
そのマリの言葉に、パッと頬を赤らめたミランダは立ち上がると、慌ててもう一人分の茶を用意した。
そういえばあのゾンビ化事件の時、自分はマリに思い切り噛み付いたのだと、後で人に聞かされた。
そのことも彼にはまだ謝っていない。
(きちんと謝らなくっちゃ……。 二人だけの今が丁度いいチャンス……)
この広い調理場の片隅で、マリと二人きりでいると考えた途端、胸がドキドキして頬に血が上るのを抑えきれない。
それでなくても、なぜだか最近、自分はずっとマリを意識しているというのに。
まぁ、ミランダの頭に血が上っているのは媚薬のせいでもあるのだが、気の毒なミランダは知る由もない。
彼女が動悸を抑えようと、無駄な努力をしながら茶を淹れる間に、マリは自分用の椅子をどこからか調達してきて、
腰掛けると黙って彼女を見守った。
「ハイ、どうぞ…」
手渡そうと伸ばした指先が震え、ソーサーにカップがあたってカチャカチャと音を立てた。
「ありがとう」
短く礼を言ったマリに、ミランダは目を伏せたまま口を開いた。
「あ、あのっ… この前は…… ごめんなさいっ! かっ噛みついたりしてしまって……」
「なぜ謝る? ミランダは別に悪くないだろう」
「でも… 痛かったでしょう?」
潤んだ目で見つめられて、マリはドキリとした。
彼女はこんなにもキレイだったろうか。確かに以前から好ましい女性だとは思っていたが、決して
美人だとか色気があるとか、そういうタイプではないと思っていたのだが。
「いや… 別に痛くはなかったよ」
ぼそりとそう呟いて、渡された茶を一口啜る。上目使いにミランダの方を見ると、彼女はほんのりと桃色に染まった頬
を自分の両手で挟んでいた。
(それにしても? この心音は??)
途切れ途切れに聞こえるミランダの鼓動は通常より明らかに速く、息もせわしく苦しげだ。
(この間のゾンビ薬、コムビタンなんとかとまるで同じような…?)
思わず身の危険を感じて、椅子から半ば身を浮かせたマリの眼前で、ミランダが勢いよく立ち上がった。スツールが
ガタンと音を立てて後ろに吹っ飛んだ。
「マッ マリさん、私――」
言葉を途中で途切れさせ、苦しそうに喉元を掻き毟ったかと思うと、ミランダはうつ伏せにずるずると
倒れ伏してしまった。
「おいっ! ミランダ!!」
慌てて駆け寄り、そっと仰向けにする。幸い意識はあるようで、ハァハァと苦しそうな呼吸を繰り返しながらも
ミランダはうっすらと目を開けた。
「 …… 」
見守るマリの前で、ミランダの震える唇は何か聞き取れぬ言葉を小さくつぶやいた。
「何だ?」
ヘッドフォンを付けているにも関わらず、耳をミランダの口許に近く寄せて問い掛けると、うわ言のような返事が
返って来た。
「――あつい… あつい…のぉ……」
吐息まじりの囁きに思わずぞくりと鳥肌がたった。
「おい? ミランダ?」
呼びかけながら、彼女の身体を抱き起こすと、マリの指が彼女の腕や胴体にわずかに触れただけで、ミランダは
喘ぐようなを悲鳴を上げた。はっきりと欲情を秘めたその声に、マリも思わず頭にかっと血が上るのを感じた。
ドクドクとこめかみが脈打つ。と、同時に下腹部の非常に怪しからぬ部分も熱を持って疼きだすのが分かった。
(オイィ! おかしいだろ、コレ!?)
動揺してキョロキョロと辺りを見回すマリの目に、さきほどミランダが捨てたティーバッグの袋が飛び込んでくる。
ミランダ同様、漢字は分からぬマリだが、『回春』とか『淫花』とかその類の文字は直感に訴える所があって、
マリは今現在自分達がどのような状況にあるのか、たちどころに理解した。
(またあいつかーーーーーー!!)
脳裏にコムイの顔を浮かべて、拳を硬く握り締める。
恐る恐るミランダの方に目をやると、彼女はとろんと定まらぬ目線のまま、喉元のボタンをなんのためらいも無く
外して、胸元辺りまでドレスをくつろげている。
自分はわずか一口啜っただけで、心悸高進、やる気満々(心はともかく身体は)、いつでも発車オーライの状態に
なっているのだ。カップに半分近く飲んでしまったミランダは一体……、マリはごくりと唾を飲み込んだ。
「ぁああん… あっつぅい… も、いや……」
もはや行為の最中かと思わせるような甘い声を上げながら、床の上で身を捩るミランダの髪がパラリと解ける。
寛げた胸元からは乳房の膨らみが半分ほど見え、転げまわるうちにドレスの裾は捲くれ上がり、彼女はかなり
あられもない姿になりつつあった。
「とっ とりあえず医療班に……」
言いかけて、マリは口ごもった。 頼りがいのある婦長を始めとする医療班は明日にならなければ、ここには
現れないのだと。
どうしたものかと考え込んでいると、不意に二の腕を強い力でつかまれてマリは思わずのけぞった。
そのマリに覆いかぶさるようにしてミランダが近づいてくる。
「ね… あついの… これぬがしてぇ… お願いぃ…」
いつの間にか襟元はもっと広がって、肩まで露出している。背中のジッパーが中途半端に下がって、コルセットの紐と
絡んでしまったらしい。自力で脱げないもどかしさに身を捩りながら、ミランダは必死でマリに訴える。
マリの眼前でビスチェに押し上げられた胸の谷間がふるふると揺れる。息をする度に揺れる柔らかそうなふたつの
膨らみは、しっとりと汗ばんでいるせいで、細かく霧を吹いたみたいに産毛が輝いている。
まるで本物の白桃みたいだと、思わず触れそうになった指を押しとどめて、マリは深々と溜息をついた。
取りあえず、こんな開けた、いつ誰が来るとも分からぬ場所で、いつまでもこうしているわけにはいかない。
マリがやけくそのようにミランダを抱き上げると、彼女はほぉっと吐息をついて、彼の顔をまじかで覗き込んでくる。
その熱っぽく潤んだ瞳に眩暈を覚えながらも、マリは大股で歩き出した。
一旦は自室に連れて行こうかと考えて、いや、やはりそれはマズイだろうとマリは首を振った。
誰かに見られたらミランダの評判に関わってしまうから。
(しかし、俺は彼女の部屋を知らんしな……)
「おい、ミランダ! 自分の部屋が分かるか?」
声をこころもち大きく、彼女の耳元でゆっくりと問い掛ける。あいかわらずトロンとした瞳で見つめるミランダに、
無駄な問いだったかと諦めかけると、腕の中で女が大きく身を捩り、マリの首っ玉にぎゅ、とかじりついてきた。
「三階の一番、奥……」
ヘッドフォン越しにも、熱さを感じるような囁きだった。
「ね、早く部屋に連れてってぇ… それで、これ、脱がしてぇ……」
ミランダが再び大きく身を捩った拍子にビスチェがずれて、瑞々しい色に染まった乳房の先端までが、ついに姿を
現した。腕の中の柔らかい女体の感触ともあいまって、マリの下腹部は再び己の存在を強く主張しだしてしまう。
(いかん、いかん! このままなし崩しに…っていうのはなしだ、絶対に!)
三階の廊下を奥へと進みながら、マリは唇をぎゅっと噛み締めると、悲痛な決意で中空を睨んだ。
(そんな弱みに付け込むような真似が、出来るわけないだろ! 男として!!)
ようやく辿り着いた小部屋へと、二人もつれるように転がり込み、窓際に置かれたベッドにミランダを横たえ――
たと思ったら、またもや腕を取られて、マリはミランダに覆いかぶさるようにベッドに倒れこんでしまう。
ボスンッと顔を埋め込んだ枕からは、ミランダの匂いがして、ああ、ここは彼女の部屋に間違いないのだと、変な
安心感をマリは覚えた。
(どうやら、ミランダも安心したらしいな… さっきまでとは違うゆったりした顔つきで――ぇええええ!!)
表情こそ、ゆったりとくつろいではいたものの、指先はゆったりとは程遠い素早さで、ビスチェの絡んだ紐をほどき
目にも留まらぬ速さでジッパーを下ろすと、電光石火の早業でミランダはドレスを滑り落としてしまった。
しかも下着も同時に毟り取るという器用さ。
「だってホントにあついんですもの……」
マリの方を振り返って無邪気に呟くと、ミランダは履いていた靴を蹴り飛ばすように脱ぎ、ベッドにどさりと
腰を下ろした。もはや身に着けているのは、清楚な白のショーツ一枚のみで、膝を緩めて座ったその奥へ、奥へと
向かう己の視線をマリはどうしても止める事ができない。
白く滑らかな両腿の奥、その突き当たりには、渦を巻く恥毛らしき薄暗い翳りと、それから濡れているのだろうか…
谷間に沿ってうっすらと滲んだ色、複雑な凹凸まで見て取れて、マリはたまらず雄たけびを上げたくなる。
――雄たけびを上げたくはなるものの取り合えず、ゴリラのように自らの胸板を叩くことで我慢した。
おお、そして、そのマリの目の前で、ミランダの脚がゆっくりと開いていく。細い指がショーツの脇から潜り込んで
その指が蠢くと、くちゅ、ぴちゅ、と淫猥な水音がマリの耳にはっきりと届いた。
「ぁ、ん… 脱いでも、あついの……ぅん、 ここが… 熱いのぉ…」
切れ切れの呟きの合間には、ご丁寧に んっ とか ふぅっとか色っぽい喘ぎが混じっている。
「ゃあん」
甘い泣き声を上げて、眉をよせたミランダは片方の乳房をぎゅっと握り締め、身をくねらせた。
(!!!! エロすぎる! くそっ! また 声がエロイ!!)
己の聴力の良さを恨みつつ、血を吐くような心の叫びと共にマリは固く、固く、目を閉じた。
一方、ミランダはというと、まったく意識がない訳ではなかった。
ただどうしてこんな事態に陥っているのかということ、全く理解できていない。
例えるなら、心の深い部分で自分が二人に分離してしまったようだった。普段のいい子ちゃんなミランダを
悪い子、奔放で淫乱なミランダがあざ笑っている。
健康的な女性なら誰もがそうだと思うが、ミランダとて常日頃、淫らなことを全く考えないわけではなかった。
例えば、今目の前にいるマリに対して、そういう欲望をかすかに抱いたことだって、実はあったのだけれど
こんな風にそれを剥きだしにするなんて、当然毛筋ほども考えたことはなく、もうどうしていいか分からないまま
悪い子の自分に良い子の自分が引きずられていく。
どうしようもなく、引き込まれてゆく。 目の前の男がたまらなく欲しかった。
ショーツの中で自ら慰めるその部分は、たっぷりと濡れて、ぐずぐずにほぐれている。ぷちゅりと指を抜き去ると
そこは物欲しげにひくついて、もっともっとちょうだいと訴えているようだった。
ミランダはヨロヨロと立ち上がると、マリの首に腕を投げかけて、逞しい男にぶら下がるように抱きついた。
「マリ、さぁん」
そのかすれ声にマリはピクリと反応すると、目を開けてミランダを見た。
自分の名を呼んだということは、ミランダは全く意識がない訳ではないのだ。薬のせいで欲情しているとしても、
目の前にいるのが自分だということは認識していて、それでも自分を求めてくれるのだ……。
それがマリには無性に嬉しく、思わずミランダの身体に腕を回し抱き返した。女の細い背中に指先をすべらせると
「あっ、 はぁっ… マリさぁん」
熱い吐息と共に彼女は再び彼の名を呼んだ。
マリが両の腕で抱き締めると、ミランダの身体は熱っぽく火照り、微かに震えている。
その熱を我が身に吸収するかのように懐深くかき抱きながらマリは考えた。
――媚薬によって引き起こされたこの症状…というか発情は、恐らく性的な充足感を得ることで解消するはずだ。
つまり自分が彼女をエクスタシーに導いてやればよいのだと。
だがしかし、この状態の彼女とセックスするのは、どうもズルいというか何というか、マリには納得いかない。
だからといって、このまま彼女を放置して去ったとして、後で彼女が部屋から抜け出し他の男を誘うようなことが
あれば、それはそれで気に入らない。
心の中で逡巡しながら、マリは腕の中のミランダを見下ろした。
目と目が合うとミランダは切なげな吐息を漏らし、甘えん坊の子猫みたいに身を摺り寄せてきた。
薄いシャツ越しにふたつの柔らかい膨らみが押し付けられる。押し付けては身をくねらせるうちに、乳房の先端が
ツンと硬く尖ってきてマリの胸板を刺激する。そのせいで、さっきから激しく自己主張しているマリの分身が
更に姿勢を正す。パンツの中のそれは、もはや直立不動といっていい状態だ。
口付けをねだるように、うっとりとマリを見上げるミランダ。その唇は半ば開いており、白い歯と桃色の舌が
チラチラと見え隠れしている。
その上気した顔を見ながら、マリはある悲壮な決意をした。 ――ここはひとつ挿入せずにいかせてやろう、と。
まことに紳士というべきか、クソ真面目というべきか。とある日出処の小国には『据え膳喰わぬは男の恥』
とかいう諺もあるけれど、それはこの際どうでもいい。
迷いを振り切ったマリは、身をかがめるとミランダをグイと抱き寄せ唇を重ねた。
柔らかい唇の間にマリがそっと舌を差し込むと、ミランダは一瞬ためらうように身を強張らせたが、すぐに
その舌を彼の舌に絡めてきた。
最初は柔らかく探りあうようだった動きが、徐々に激しいものに変わり互いの呼吸を奪い合う。
「んっ… っふぅ……」
ミランダが唇の端から苦しげに息を漏らすと、透明な唾液が零れて彼女の顎を伝った。
長い口付けを交わす二人を、午後の陽射しが斜めに照らし出す。
やがてマリはゆっくりと唇を離すと、肩で息をするミランダをベッドにそっと横たえた。大柄なマリは特注の
頑丈な寝台を使っているのだが、ミランダは当然、ごく普通のシングルベッドを使っている。
果たして俺と彼女、二人分の重量をこのベッドは支えきれるだろうかと、マリは恐る恐る彼女に覆いかぶさる。
彼女の頭の横に両腕をついて体重をかけると、ベッドはわずかにきしんだものの、なんとか大丈夫そうだと
見極めて、マリは安堵の溜息をつくと再びミランダの唇を塞いだ。
「ぅあっ、あぁん」
マリの唇が、顎から首筋、胸元へと下りてゆく。その熱く濡れた感触にミランダは身を捩った。
柔らかくゆっくりと乳房を揉みこまれて、その心地よさにうっとりしていると、もう片方の乳房にかすかにざらつく
感触が走る。マリの舌が螺旋を描いて、乳房を円く舐め上げているのだ。やがて頂点に辿り着いたその舌が、
硬く勃ちあがった乳首を絡めとってやわやわと吸い上げた。
ミランダの背筋を寒気がゾクゾクと走り抜けて、身体の奥深くにキュウッと差し込むような快感が走った。
ミランダの乳房は決して大きくはないが、丸く形が良い。その乳房を丹念に愛撫しながら、マリは空いた片手を
ミランダ腹部や太腿に滑らせた。彼女の肌は肌理が細かく、普段は陶磁器のようにサラリとして見えるのに、
欲情している今はしっとりと潤って、マリの掌に吸いついてくる。撫で回し、吸い上げる度にピクピクと跳ね上がり、
こらえきれない喘ぎを漏らすミランダの、その素直な反応が実に可愛かった。たまらず口に含んだ彼女の乳首を強く
吸い上げて、甘噛みするとミランダは白い喉を反り返らせて細い悲鳴を上げた。
思い切ってミランダの脚の付け根に指を這わせると、ショーツ越しでもそこが濡れているのが分かった。
いや、濡れているというような生易しさではない、むしろびしょ濡れ。もはや下着として用を成さないぐらいに
濡れそぼった布切れがべったりと張り付き、太腿の辺りまでしっとりと湿っている。
その場所を見たいという誘惑には勝てず、マリは彼女の両膝を大きく割った。覗き込んだ途端、あまりに扇情的な
視覚的刺激にぐらりと眩暈がした。透けた白いレース越しに、彼女の全てがそれはもうはっきりと見えすぎる
ぐらいに見えている。
「ミランダ… すごいな……」
じかに見るより濡れた布越しに見る方がむしろ生々しく卑猥なのは何故だろう。
すでに直立不動のマリの分身がびくりと跳ね上がってパンツの中で狭さを訴えた。
「すごく濡れてるぞ」
「ぃっ やぁ… いや、見ないでぇ…」
直裁なマリの言葉にミランダは顔を手で覆って泣き声を上げた。けれど泣き声とは裏腹に彼女の腰はぐっと
せり上がって、男を誘うように円を描く。誘われるままにその場所に顔を近づけると、甘酸っぱくむせかえる
ような雌の香りがマリの劣情を更に煽った。
(まずいまずいまずい… このままじゃ犯っちまう、どんな拷問だよ、こりゃ一体……)
マリはミランダの股間で激しくかぶりを振ると、やおら彼女の下着を毟り取った。
もう指でもクンニでも何でもいいからとにかく彼女を一度いかせてしまおうと。
そして自室に駆け戻って、猛りくるう息子を宥めてやりたいと。
たまらなく恥ずかしいのに、たまらなく気持ちいい。
マリの手で脚をこれ以上開かないほど開かされて、恥ずかしくて泣きたくなる。そこが熱くてひどく濡れているのが
自分でも分かる。
マリの腕が胸に伸びてきて乳房をぎゅっと握られると、自然に高い声が喉から漏れ出た。更に乳首をこりり、と
つままれると、その電流のような快感は子宮へと直接伝わり、ミランダは身体の奥から熱いものがどっと溢れ出す
のを感じた。
いまや、いい子のミランダは心の中の檻に完全に閉じ込められてしまった。
今表に出ているのは、奔放で淫乱なミランダオンリーで、そっちのミランダときたら、マリを挑発するように
腰を振ってみせたり、もっとひどいことに、恥ずかしい場所を指で広げて『ここを触って』と訴えるような
真似までしてのける。
「ぁ…ん、マリさぁん… お願ぁい、ここぉ…… っあ、あぁーーーっ!」
秘所を自ら開いて誘った途端、それまで優しい愛撫を繰り返していたマリの指が自分の中に深く突き立てられて、
その衝撃にミランダは背中を反り返らせた。
突きたてた指は思いがけない熱さの中にいた。ミランダの中はとろとろに蕩けているにも関わらず、マリの指に
絡みつき、しごきたてるような動きをする。マリは思わず、夢中になってミランダの中に指を抜き差しした。
内部の複雑な形を確かめるように、指をもう一本差し込むと、ややきつさは感じるものの、ミランダのそこは
柔らかく優しく二本の指を包み込む。
じゅっじゅっじゅぷじゅぷくちゅぴちゅっじゅく…
音高くそこをかき回しながら乳房の先端にちゅうっと吸い付く。とにかく早く彼女をいかせなければ、自分の
脳内の回線の方が先にショートしてしまいそうだった。
「あっあっあっあぅ、あっ、くぅ… んん、あっ」
切れ切れに嬌声を上げるミランダの最奥まで指を捻じ込んで、一番敏感な肉の芽をくりくりと擦り上げると、
「ひゃぅっ んん あぁーーーーーーっ!」
高い声を上げてミランダは達した。腰を高く持ち上げた彼女の内部はキュキュキュッとマリの指を不規則に
締めつけ、やがてその身体がぐったり弛緩すると奥から白濁した蜜がマリの指を伝ってトロリと流れ出し、
シーツに半透明な染みを作った。
くたりと力を抜いたミランダの中から指を抜き去り、マリは天を仰ぐと目を閉じて深い溜息を付いた。
いつの間にか額にびっしりと浮き出した玉の汗を拭うと、指先から濃い女の匂いがして、マリの雄が股間で何度目かの
悲痛な叫びを上げた。先走りとかカウパー氏線液とか分泌物とか、もう色々と大変で、見なくても己の股間が悲惨
な状態になっている……もっとハッキリ言うと、お漏らし状態になっていることが思い切り自覚されて、マリは
情けなさにもう一度深く溜息をついた。
と次の瞬間、マリは余りの驚きに目を閉じたまま硬直してしまった。
ごそごそと音がして、自分の腹部に触れる何かを感じる。その何かがミランダの髪であることに気付き、制止の声を
あげようとしたけれど、喉はカラカラにひり付いて言葉は出てこず、意味不明な呻きだけが漏れた。
パンツの前の濡れた部分を恥ずかしく思う暇もなく、ミランダの細い指は器用な動きで、マリのベルトを緩め、パンツ
を下着もろ共に引きずり下ろしてしまう。その途端に自由になった男根が勢いよく跳びだしてマリの腹を打った。
身体に見合ったサイズのそれは、長々と閉じ込められていたことが余程不満だったのか、紫がかって怒張しいくつも
節を浮き出させている。
「まぁ…」
処女なら裸足で逃げ出しそうなその威容に、ミランダは一瞬驚いたようにその手を止めたけれど、すぐにその指を
伸ばして、マリの猛りをおずおずと包み込んだ。赤黒い怒張はミランダの指の中で落ち着きなくびゅくびゅくと痙攣し
ミランダはごくりと唾を飲み込んだ。
先程エクスタシーを感じたおかげでやや落ち着いていたボルテージが、猛り狂う男根を目にしたことであっという間に
振り切れてしまう。
マリはというと、予想外の展開に狼狽を隠せずにいた。ミランダを一度絶頂に導いて落ち着かせ、自分も部屋に戻って
思うさま自慰にふけるはずだったのに。自分ときたら彼女の前で欲望全てをさらけ出して、立ち尽くしている。
彼女の白い指が己の昂ぶりを優しく握りこんでいる。柔らかい掌が棹を握りやわやわと扱き上げる。
(嗚呼神様!もう無理だから!普通の神経の男じゃ到底耐えられんだろ!? しかし、さっきの誓いを破るわけには…)
マリは内心激しく葛藤しながら、それでもミランダを制止しようと彼女の肩に手を伸ばし、彼女を見下ろした。
頬を真っ赤に染めたミランダはマリを上目使いに眺めてきて、そしてその目はキラキラと輝いている。
「マリさんの、すごい…… びくびくして、あつい……」
風前の灯だったマリの理性、挿入しないという誓い、或いは男の純情は、その言葉を聞いた途端に宇宙の彼方へ
光速で飛び去り、チリと化して消えていった。
「ミッ ミランダァアアア!」
鬼神のごとき表情で身に着けたものを毟り取ると、マリはがば、とミランダに覆いかぶさった。
彼女の頭を髪ごと掴み、むさぼるように口を吸いながら、乳房を揉みたてる。指の間に乳首を挟んで転がしながら
もう片方の手を濡れたクレバスに滑らせ、下からクリトリスを擦り上げる。唇と舌をミランダの身体中に這わせ
最後に尖らせた舌先を脚の付け根のぬかるみに突き立てると、ミランダははげしく頭を打ち振ってたまらないような
よがり声を上げた。
「本当にいいのか? ミランダ」
どくんどくんと脈打つ己自身を握り締め、ミランダのヴァギナに宛がったマリは、まさに挿入しようとしながらも、
彼女の意思をもう一度確認した……のだが、行為に深く没入したミランダから返事は返って来なかった。
ミランダは目を硬く閉じ、ゆっくりと頭を左右に打ち振っている。汗で濡れた巻き毛が額や首筋に張り付いて、
浮き出た汗で濡れて光る肌は、いまや全身薄桃色に染まっている。
頭を振っていると言っても勿論否定の印ではなく、その証拠にミランダの腰は上下に揺らめいてマリの先端、丁度
鈴口の部分を擦り、それを自分の中に迎え入れるような動きをしている。
(うむ、身体はいやとは言ってないな ――どうみても)
とりあえず、自分を納得させることに成功したマリは、ぐっと腰を推し進めてミランダの内部へと分け入った。
熱い。 柔らかい。 そのくせ侵入を拒むような初々しい動きをする……。飲まれる、どこまでも飲み込まれていく。
濡れて熱い渦に巻き込まれ、マリは深く女体に溺れていった。
「んっ んあっ ぁあああっ……」
熱く巨大なものが自分の中に押し入ってくる。その熱さと異物感はほとんど痛みに近い快感をミランダに与え、
それでもそれは苦痛などではなく確かに快感で、ミランダの目から生理的な涙が溢れ出す。
頬には涙、身体中の汗腺からは汗、さらに身体の奥深くから湧き上がる溶けた蝋みたいに熱い謎の液体……
全身びっしょりと濡れながら、ミランダは揺られ続けた。硬く熱く張り詰めたものが、突き入れられ、抜かれるたびに
身体中をゾクゾクと寒気が走る。それは突き落とされると同時に高く昇りつめていくような不思議な感覚で、
快感がたかまるのに反比例して頭の中はぼんやりと霞がかかってくる。
マリの規則的な動きに合わせて、ベッドもリズミカルに軋みを上げる。
(きもち、いい…… ああ、でも… もっと もっと……)
脳内で誰か叫んでいる。どうすればもっと快感を高められるか本能で知っているかのようにミランダはマリの
抽迭に合わせて腰を振り出していた。
ぎしぎしと揺れるベッドの軋みはひどくなる一方で、マリの動きが一段と早まるのに合わせて断末魔の呻き声を
上げたかと思うと、ついにその脚が一本折れてしまった。傾いたベッドから床へと二人は繋がったまま、ズルズルと
滑り落ちたが、どちらもまるで気にする様子はない。
上体を起こしてミランダの片足を肩に担ぎ上げると、マリは一匹の獣になったように、喉の奥で低く唸った。
じゅぷぱっつ、ちゅっ ぷっぷつじゅぷじゅぷ、ぐちゅちゅ、っぱ
より深く繋がった二人の身体がぶつかり合う度に粘っこい水音が高くして、弾ける汗が床に飛び散る。
来るべき絶頂を前に、マリの動きは更に加速度を増す。
「ぁっ ぁっ ぁっ ぁっ あぁっ マッ マリさぁあああああーーーー!」
マリが角度を変えてミランダの内部を擦り上げた途端、焼け付くような快感が背筋から脳天まで突き抜けて、
ミランダの意識は白く弾け飛んだ。
達した女の口から自分の名前が呼ばれた途端、マリも込み上げる射精感を抑えきれず、最後にもう一度ミランダの
最奥を抉るように突き上げた後、素早く抜き去って掌に吐精した。
ハァハァと荒い息をつきながらも、マリは素早く後始末をした。先程脱ぎ捨てた自分のシャツで、掌の白濁を拭うと
そのシャツを丸め、汚れていない部分で汗を拭く。部屋に備え付けの小さな洗面所でタオルを濡らして絞り、
ミランダの元に戻ると、意識を失った彼女の身体を素早く拭き清め、シーツでフワリと覆う。
下着とパンツを身に着けながら、壊れてしまったベッドを眺めて溜息をついた。ミランダには悪いが、これは彼女に
なんとか上手く誤魔化してもらい、新しいベッドを入手してもらうしかないだろう。
床に横たわった彼女の呼吸を確かめる。それは深く安定していて、安らかな寝顔にはかすかに微笑みのようなものが
浮かんでいる。
(結果的に言うとこの場合… 俺はコムイに感謝した方がいいのかな… しかしこれが最初で最後だとしたら少し…)
マリはミランダの眠りをさまたげぬよう、そっと彼女の巻き毛をかき上げた。
(いや、かなり残念だな……)
マリはそっと彼女の頬に口付けると、静かに部屋を後にした。
「おい! じじい、こンの忙しい時にどこに行ってたんさ!?」
「――うん、ちょっと、な……」
「んで、ミランダは見つかったのか? 夕めしどうするっていってたさー?」
「ぅむ…… 多分、ミランダ、今夜は疲れて夕飯どころじゃないんじゃないかの……」
「――???」
ラビの許に現れたブックマンは、怪我で失血した後の人間のように青ざめて、その鼻の下から上唇にかけては
血を拭い取ったような後がうっすらとついていたという。
<了>