数時間・・アレンが黒の教団を去ってから大分時間がたった。  
 
アレンはドラゴンの首に跨りながら雲の中をつき進み、不思議な高揚感を味わっていた。  
ドラゴンに乗って空を飛ぶのが子供のころから夢だった、マナに子供のころ読んでもらった絵本、  
夜が怖くて眠れなかった彼にマナ・ウォーカーが読んであげた絵本にドラゴンの話があった、  
その話を聞いてドラゴンに乗って空を飛んでみたいと言ったら  
マナはいい子にしていればきっとドラゴンが来てくれるよと言った、純粋なアレンは信じて疑わず、  
ずっといい子にしていた、結果ドラゴンが現れるどころかマナがいなくなってしまったけれど。  
 
父さん・・・・。  
 
アレンの頬を一筋の雫が濡らす。  
 
「・・ウラヌス・・一緒に世界を救おう・・・。」  
 
雲を抜け上空から見下ろす下界にはアクマの軍団が黒の教団に向かって進軍していた。  
アレンはそれをドラゴンの首を脇に覗き込んで目を細める。  
 
「急いだほうがよさそうだな・・・ウラヌス・・お前の分身を作るぞ。」  
 
アレンがドラゴンの頭の頂に触れると、アレンの乗っているドラゴンから  
いくつもの光が飛び出し、その光は全く同じドラゴンの姿となった。  
 
「ウラヌスの分身たちよ!!人間を守れ!!それがお前たちの使命だ!!」  
 
「「「ギャオーーー!!」」」  
 
ドラゴンたちは一斉に咆哮をあげた、中には火を吹いている物もいる。  
その咆哮と炎はあたりの雲を吹き飛ばす。  
 
 
大地が揺れた。  
 
リナリー達はアクマたちがこちらに向かっていることに気付き迎撃態勢を整えていた。  
ファインダーも最新式の結界装置を構え、エクソシストをサポートする。  
 
「ボクはここで現場の指揮を執る・・、みんな・・準備はいいかい?」  
 
無数のアクマが教団から見える空を覆い尽くしている。  
空間が黒く塗りつぶされているようだ・・・。  
 
リナリーは空を見上げる、雨が降りそうな雲行き。  
ラビやクロウリーが心配そうに見る、神田はアクマの軍団を睨みつけているサポート型のミランダは命を削り  
タイム・アウトで非戦闘員を守る役目を担うようだ、ずっと後方で4人を見守っている  
 
「まだ・・アレンのこと気にしてんのか?」とは誰も言わない、  
アレンのことを口に出すことは彼女を傷つけるだけだと皆が知っている、  
今残っているエクソシストの中で彼女が最強だ、その彼女の心のバランスが今崩れたら  
もう戦いどころではなくなる、だが彼女は戦いに集中すると決めたようだ、  
真っすぐに透き通った眼でアクマの軍勢を見据える。  
 
決戦の時!!  
 
アクマの軍勢がひと塊りとなり巨大化した、巨大な頭部の頬に同じ形の顔が付いて巨大な角が二本生えており、  
細く長い手足は金属の光沢を放つ、レベル3が合体した巨人形態より遙かに大きい  
レベル4以上が合体するとさらに強い巨神兵とも呼べる存在へと進化できるようだ・・。  
合体しなかったアクマは巨神兵の周りで屯っている・・・  
 
ギュオオオオオオオ!!  
 
アクマの大群が集まり大きな手を形造り、リナリー達に襲い掛かる・・・。  
リナリーは先頭を切ってアクマの群れに突っ込んだ・・。  
 
ドーーン!!  
 
 
 
高度を下げあたりを飛びまわる・・・。  
何かを探しているようにじーと周囲を観察する、ある一点がアレンの視界を捕まえた、  
 
見つけた・・・。  
 
視線の先には大きな屋敷、周りの建物が全部崩壊しているというのに一つだけその場に  
君臨することを許されているかのように堂々とその風貌を露わにしていた。  
 
間違いねぇあれだ・・・。」  
 
アレンはタンっと軽くドラゴンの首を踏むとドラゴンは屋敷に向かって鋭い角度で下降した。  
 
 
 
屋敷の中で異形の姿をした尖った耳大きな口をした道化  
千年伯爵、今まさに彼は人類滅亡のシナリオにチェックメイトをかけようとしていた、  
踊りながら、自分の勝利を確信しはしゃぎ倒す、周りに彼の家族のノアの姿は見えない・・・。  
 
「楽しいデスネ?」  
 
そこにそのチェックメイトを邪魔するもう一人の道化が現れる。  
 
ドーン  
 
「!?・・ドラゴン?」  
 
壁を乱暴に突き破り粉塵をたちあげるドラゴン、その背には『愚かな道化』の天敵  
退魔の剣を携えた『白い道化』・・その道化はドラゴンの背から飛び降りた。  
 
「千ちゃん、おっひさ〜♪元気〜♪」  
 
久しぶりに会った友人に話しかけるような調子で千年伯爵に話しかける。。  
 
「オ前は・・アレン・ウォーカー・・・・・・随分雰囲気ガ変ワリマシタネ?」  
 
口調は変わらないが本当は衝撃を受けている、本来彼は表情から感情が読み取りにくいからしょうがない。  
すぐに冷静さを取り戻す。  
 
「本当ニ、オ久シブリです?本日は何ヨウデスカ?」  
 
半円の額縁眼鏡の向こうの目を鋭く黒く変化させる千年伯爵に不自然なほど微笑みかけるアレン。  
 
「もー言わせたがる年頃でもないでしょうに・・・・勝負だ、最後まで自分のシナリオを踊り続けれた  
方の勝ちだ・・・お前は人類滅亡のシナリオを・・俺は人類救済のシナリオを踊る。」  
 
一呼吸おいてアレンは告げる。  
 
「さぁ踊ろうぜ!!レッツショーターーイム!!!」  
 
アレンはイノセンスを発動、仮面を頭部に装着、白いマントに身を包み  
退魔の剣を右手に構え千年伯爵に向けて駆け出す。  
 
この舞台で人類救済のシナリオを踊るために・・・。  
 
最後まで踊り続けるのは『愚かな道化』(オーギュスト)か『白い道化』(クラウン)か?  
 
 
 
アクマの大群を相手にすら中、ミランダが倒れ防御を失い、今はコムイが開発した一番強力な結界装置で  
避難してきた人々を守っている、だがそれも長く持ちそうにない・・・。  
アクマに比べエクソシストの数は少数、多勢に無勢。  
 
アクマの大群が黒の教団の建物を完全に破壊し結界がむき出しになる、  
リナリーはアクマの大群を薙ぎ払い、ラビは火判でアクマを何体も焼きつくす、クロウリーはアクマの血を吸い  
限界まで、体を酷使し、今もはや彼の姿は人の姿をしていない、神田は結界からはみ出た二人の子供を庇い  
縦横無尽に襲いかかってくるアクマをチーズのように斬り伏せる。  
左目から血を流し、その目はもうつぶれている。  
 
ズバズバズバズバ  
 
だがあまりに振り続けたために握力が弱り六幻がスッパと彼の手から抜けてしまった。  
六幻は近くの瓦礫に突き刺さる。  
 
しまった・・・!  
 
慌てて六幻に手を伸ばしたが、そこにアクマが襲い掛かってきた。  
それにリナリーが気付く。  
 
「神田!!」  
 
ドーン  
 
「!?」  
 
神田に襲い掛かったアクマが炎に包まれ吹き飛んだ、その軌跡が陽炎を描く。  
 
「「ぎゃおおおおーーー!!」」  
 
周りにドラゴンが囲っていた、翼をばたばたとはためかせ、  
 
これは・・アレン君の・・・・!?  
 
数十匹のドラゴンが同時に火を噴きアクマを焼きつくす、その威力はラビの火判の比ではなかった。  
数匹のドラゴンが強靭な翼を広げ結界からはみ出た人を守り、その結界も守っている。  
 
先ほどのリナリーと同様にアクマの群れに突っ込み。  
鋭い牙と爪でアクマを破壊していく・・・・。  
 
ガキン!! ガキン!! ガキン!!  
 
屋敷の中に鈍い金属のぶつかり合う音が響く。  
屋敷内の広い踊り場二人の道化がお互いの剣をぶつけ合う。  
お互い一歩も譲らない。  
 
ガキャーン!!  
 
今まで一番鈍い音が鳴り、二人は剣を間に挟み睨みあう。  
 
「随分強クナリマシタネ?」  
 
「お宅のお嬢さんのおかげで一皮むけたんだ。」  
 
舌を出しおどけてみせる、挑発している・・。  
 
「精神が壊れていまスネ?」  
 
「・・・・!」  
 
初めてアレンが表情を崩した鉄壁の仮面がわずかに揺らぐ。  
 
「アナタ程の子ガ精神を壊すとは余程のことがあったのでショウ?」  
 
アレンが押され始めた、アレン側に二つの剣が傾く。  
 
「仲間の裏切リデスネ?」  
 
千年伯爵はただでさえ大きく広がっている口をさらに広げ  
笑った。  
 
「仲間に裏切られたのデスネ・・オカワイソウニ?」  
 
ちっとも同情しているようには見えない。  
 
「そんな人間のために何をそこまで頑張るのデスカ?」  
 
アレンがさらに押され、今にも倒れそうな体勢になり、足を大きく下げてこらて・・・。  
 
「お前に何が分かる!!?」  
 
伯爵の剣を跳ね返した!そして伯爵の腹を蹴りつけ、さらに勢い付け後ろ回しけりを叩きこんでくるくる回転し  
右足、左足を交互に使って伯爵を蹴るけるける!!そして高く跳躍した。  
 
「俺はアレン・ウォーカー!!時の破壊者!!」  
 
剣を頭上にあげ振り下ろしながら下降する。  
剣の切っ先から電撃が噴き出し、奇麗な線を描く・・・。  
 
「この世の悲しみの連鎖を断ち切る者だ!!」  
 
ザン  
 
アレンの剣が伯爵の剣ごと伯爵のシルクハットから下の床まで斬り抜いた!!  
 
「マサカ・・・この私ガ・・・・。」  
 
伯爵の体は二つに分かれ消えていく・・・。  
 
「私を倒しても無駄デスよ、アクマは私が死んでも統率を失うだけデス?  
止められませんよ・・絶対ニネ?キャハハハハハハハハハ?」  
 
 
ギャハハハハハハハハ・・・・・・・・?  
 
不愉快な笑い声を僅かに残し・・彼は消え去った。  
と同時にアレンの全身から血が噴き出す。  
 
「ぶは!!」  
 
アレンの体が縮んでいく・・・アレンは仰向けに倒れた。  
もはや人間とアクマの戦いなど知らんとでも言うように月が青白い光を放っていた。  
 
一体のアクマがリナリーの首に噛みついた、首から血が噴き出す。  
ドラゴンがそれに気付いてそのアクマを炎で吹き飛ばした。  
リナリーは力を失い、落ちていく・・  
ドラゴンはそれを追いかけ翼を閉じリナリーに向かって真っすぐ落ちる  
やがてリナリーに追いつきリナリー背中で受け止めた。  
 
その時・・・アクマの動きが止まった、全員が沈黙する・・・  
ラビも神田も突然動きをとめたアクマを不審に思って様子をうかがい動きを止めた。  
静かな時がしばらく流れると・・・・  
 
数多のアクマが集まってできた巨神兵がバラバラになった。  
また無数のアクマへと戻る、そして散り散りになり、暴れ出す、ところどころに攻撃打ち出す。  
その攻撃で森の木は数多くなぎ倒され、山は削り取られていく・・四方八方に攻撃をアクマたちは繰り返す。  
攻撃対象が人間からこの世界そのものへと変わったかのように・・大地を削り取っていく・・。  
コムイは結界装置の内側からその情景を見た。  
 
 
まずい・・このままでは世界そのものが破壊されてしまう・・  
 
今アクマは殺人兵器から破壊兵器へ変わったのだ。  
 
何故だ?なぜ突然こんなに暴走し始めた・・?  
 
リナリーは血が流れる首を押さえてドラゴンの背から首のほうまで登った。  
 
「これは・・・・。」  
 
今まで何度もアクマと戦ってきたリナリーもこんなアクマの攻撃初めてだっと言わんばかりに衝撃を受けた。  
人も何も関係なしに無差別に攻撃する、攻撃はもちろん結界にもあったている。  
 
ラビと神田はクロウリーを担いでアクマの攻撃の間を縫いながら、リナリーに向かって全身から力を振り絞って  
呼びかける。  
 
「リナリー!!大丈夫か!?」  
 
リナリーはその声に気づいてドラゴンの背から下を覗きこんだ。  
 
「・・・・!!!?」  
 
「大丈夫よ!!」と大声で叫びたかったが首の傷のせいでそうはいかなかった。  
指と指のあいだから血があふれる。  
 
 
ドラゴンはアクマから逃れるため高く飛びあがった。  
 
 
はるか上空からリナリーは全体を見渡した。  
共に闘ってくれていたドラゴンも今ではだいぶ数が減り、  
地に落ちたドラゴンにアクマは容赦なく食らいついている。  
尻尾や翼に食いついたアクマを振り払おうと苦しみもがくドラゴンもいた。  
あっ今そのドラゴンが地に落ちた。  
よく見ればリナリーが乗っているドラゴンも多くの傷を負っている。  
結界もひび割れ今にも壊れそう・・・。  
 
もうみんな助からないの・・・・。  
 
リナリーは指を組み合わせて祈った。  
 
助けて・・・・。  
 
彼女は神を信じない、彼女ほど神に運命を翻弄された者はいない・・。  
 
お願い・・・助けて・・・・。  
 
彼女ほど神を憎んだ使徒はいない・・  
ならば彼女は何に祈っているのだろう・・・・。  
 
アレン君・・・。  
 
パアアアアアアア  
 
まばゆいほどの光が・・太陽よりも激しい光が天上から差し込んだ。  
気が付けばリナリーの乗っているドラゴンの背にもう一人の人物が立っていた。  
その人物は蛇がそうする時のように音もなくするりと振り返ってこう言った。  
 
「すまんな、今だけ約束破るぞ・・。」  
 
アレンはリナリーを吹き飛ばす、地面に激突する前に浮遊感を感じ、ふわりと空気に受け止められた。  
降りた場所は結界装置の中、周囲が突然現れたリナリーに驚く間もなく大きな叫びが轟く!  
 
「このセリフを言うのはこれが最後だ!!」  
 
哀れなアクマの魂よ・・・・・。  
 
アレンが眼前で腕を重ねて×字を作り、それを開いた瞬間アレンの体が発光した。  
 
安らかに眠れ・・・。  
 
神ノ道化のマントがどんどん大きくなり辺りに広がる。  
その光景は人々を魅了した、みんなそれを見上げている・・。  
 
見ていた誰もが思った、美しい・・・と。  
 
発動最大限・・・解放!!  
 
マントはさらに広がり、アクマの群れを覆っていく・・・  
優しくアクマの群れを包みこみ・・・パンと音をたて  
大きな光を放って消えていった。  
誰もがその光景を見守っていた、下手に声を出して・・・下手に手を出して  
この光景を汚してはならぬと思っていたかのように・・。  
 
この世からアクマが去った瞬間だった。  
人とアクマの戦争は幕を閉じた・・一人の神となった少年によって・・。  
 
 
ゆっくり・・ゆっくり・・・力尽きていくかのように、アレンは下降していく・・。  
そして地面が彼を受け止めると首に包帯を巻いたリナリーが走り寄った。  
包帯には血が滲み、包帯では止めきれない血が胸を伝って流れ落ちている。  
治療にあたっていた人が「まだ動いちゃダメ」と言っていたが彼女には聞こえていない。  
 
ブッシャーー  
 
リナリーにおびただしい血が降りかかった。  
リナリーの顔や団服に血が点々と飛びついている。  
アレンの血だアレンの体から突然耐えかねたかのように血が噴き出した。  
アレンは口や目からドロドロ血を流し、膝をつく、リナリーが走り寄るとアレンは手をかざし静止した。  
ただ一言「寄るな。」と言って。  
 
「アレン君・・・。」  
 
アレンが制止のために伸ばした手から優しい光が迸りリナリーを包み  
傷をいやすと出血が止まった、アレンは顔をあげリナリーの傷が治ったことを確認すると  
立ち上がり指笛を吹いた、フィーと音が鳴り響くと全く傷ついていないドラゴンが何処からか飛んできた。  
ドラゴンはあたりに飛んでいたドラゴンや死んでしまったドラゴンを吸収した。  
アレンは血の塊を地面に唾でもはくように吐き捨てるとドラゴンに乗ろうと翼に捕まる。  
さらに乗り上げるアレンの背中をリナリーが引っ張った。  
アレンが振り返ると目が訴えている「行かないで・・・。」と・・・。  
彼は彼女の目に何の感情も汲み取る気はないらしく「離せ。」言い放つ。  
 
「行かないで・・お願い・・。」  
 
「消えろと言ったのはお前のほうだ・・お望みどおり消えてやる・・・。」  
 
アレンは血を吐き翼から手を離してしまい落ちた。  
リナリーが受け止めようとしたがアレンはそれをよけ、地面に体を打ち付け呻いた。  
 
「ぐ・・!いてぇ・・痛い・・。」  
 
ファインダーと教団の医療班がアレンに近づいてきた。  
 
「治療しましょう・・。」  
 
アレンは血をだらだら流す、さっきからずっと目から鼻から口から流れる血が止まらない。  
リナリーを横目に睨み、医療班の手も払いのけた。  
 
「要らん世話だ、自分で治す。」  
 
「何を意地になってるかわからないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃ・・。」  
 
「やかましいんだよ!!」  
 
アレンの叫びに反応して大地が揺れた。  
 
神が怒れば大地が揺れる・・。  
 
「俺はお前たちを見捨てようと思っていた!!世界なんざ知るかとほおっておこうかと思っていた!!  
お前たちが大嫌いだ!!だから寄るな!!貴様の汚らわしい口で俺の名を口にするな!!虫唾が走る!!」  
 
彼が怒号を放つたび大地が悲鳴を上げ揺れる。  
凄まじい地響きにリナリーも含め全員まともに立っていられない。  
 
「本当は今だってお前ら殺したいんだ!!がまんできる間に消えるんだ!!邪魔すんな!!」  
 
よろめきながら、アレンの怒りに脅えながらもリナリーは尋ねた。  
 
「じゃあなんで!?何であたしたちを助けてくれたの?」  
 
揺れる弱い声色でそれでリナリーは尋ねたのだ。  
 
「この世の悲しみの連鎖を断ち切る・・それがアレン・ウォーカーの使命であり、  
願いだったからだ・・・。」  
 
血を吐きながらも不気味なうすら笑いを浮かべてアレンはドラゴンの背に飛び乗った。  
ドラゴンが翼を羽ばたかすと辺りに強い風が吹き砂を舞いあげリナリー達の髪がなびく。  
 
ドラゴンはある程度飛んでその高度を維持した。  
 
「最後の土産だ受け取れ!!」  
 
パンという乾いた音と同時に青白い光があたりを包んだ。  
皆の傷が癒えていく、光が止むとドラゴンは消えていた。  
 
アレンは雲の中を飛行していた、雲の上に出て太陽が見えた。  
ドラゴンが雲の頂点の目にとまるとまるで待っていたかのように・・。  
空間の一点がゆがみ、大きく黒い穴ができる、この世のすべての光を飲み込み二度と離さない  
だからこの世の何よりも黒い穴。  
その中に吸い込まれるようにドラゴンとアレンは入っていく。  
 
中も穴に負けず劣らず暗い。  
アレンはドラゴンの鼻先を撫でた。  
 
「御苦労さま・・ウラヌス・・もう休んでいいよ・・後で君の仲間も作ってあげよう・・。」  
 
髪が白い・・どうやら仮面の姿を保っていられなくなったようだ。  
すぐにそれに気付いてまた仮面をつけ直す。  
 
「これからは余生だ・・長く・・幸せな・・おっとその前にやることがあった・・。」  
 
アレンは頭にをやり、突然目がうつろになり機械的な言葉を紡ぎ出す。  
 
「ピーピー神、アレン・ウォーカー今より  
全人類のアレン・ウォーカーに関する記憶と記録の削除及び歴史の修正を行う。  
千年伯爵を倒したのはリナリー・リー・・その他は・・・  
次に巻き戻しの町の事件は・・・クロス・マリアンの弟子は・・・。」  
 
虚ろな目は世界そのものを見て、機械的な言葉は全人類にむけられているようだ。  
しばらくして虚ろな目も機械的な言葉も終わった。  
 
「終わった・・。」  
 
アレンが手を振るとおもちゃが出てきた。  
アレンはそのおもちゃをいじって壊した、壊れたらまた新しいおもちゃを作って  
壊れるまでいじった、次は絵を描き始めた。  
今まで楽しかったことを全部絵に描いた・・・描きながら彼は涙を流した。  
次は悲しかった思い出を書き始めた。  
 
ポロポロと大粒の涙がこぼれおちる。  
ドラゴンはその様子をじっと見ていた、近くにアレンがさっき作ってくれた卵がある。  
その卵をくわえドラゴンは暗い空間を出て行った。  
 
遊び疲れた・・  
 
アレンは椅子を作ってそれに身を預けた、だらしない格好でもたれかかる。  
するとアレンは何かの気配を感じ取った、その気配に向かって語りかける。  
 
「お久しぶり神様・・・。」  
 
「久しぶりアレン・・・。」  
 
 
 
神様と呼ばれた気配はアレンの後ろに佇み、身震いするように笑った。  
 
「ずっとこんなところにいるのか?女作れよ女・・。」  
 
「俺はここで静かに死んでいく・・誰に気付かれることもなく消えていく・・・。」  
 
「童貞のまま死んでいいのかよ、今時の男子には耐えがたいことなんじゃないの?」  
 
「あれ?俺、ロードとやってるんじゃありませんでした?」  
 
「記憶ないだろ?」  
 
「ああ・・ないけど・・。」  
 
あなたを最初に見たとき、てっきり自分の心の闇を見ているのかと思った・・  
だが違った・・あんたは神だ・・。  
 
「俺の姿借りて話すのやめていただけますか?変な感じしますんで・・。」  
 
神様はアレンの姿をしている、ただし髪は黒い・・。  
神様は黒髪をくるくるいじりながら、胡坐をかいて座った。  
 
「私の願いはお前の幸せ・・・お前すばらしい・・愛してるぜ。」  
 
「そりゃどうも・・愛してるなら・・一人にしてくれ・・。」  
 
そうする・・そう言い残して神様は消えた。  
 
アレンは目をつぶり楽しい思い出を記憶の中から取り出した。  
ああ・・数え切れないほどたくさんある・・・。  
マナに教えてもらった芸を始めて披露した時のこと、マナが僕の誕生日に無理して  
買ってくれた絵本、黒の教団のみんなで盛り上がったパーティー、ジェリーさんの作ってくれた料理  
コムイさんの作った兵器まがいの発明品も今となってはいい思い出。  
 
アレンはそれらの思い出で胸を満たして・・・・・  
彼は眠りについた・・・・・・・。  
 
ようやく手にした・・小さな幸せ、やさしい思い出に包まれて彼は死んでいく・・・。  
死ぬまでずっと楽しい夢に甘え続ける・・・。  
 
 
 
誰か・・大切な人が自分の胸の中から消えてしまったような気がする・・。  
 
「リナリーどうした?」  
 
 
千年伯爵との戦いが終わって、数十日がたった。  
 
黒の教団は人員を集め、けが人の治療と町の再建に力を入れた、黒の教団の当分の目的はそれになるらしい・・。  
千年伯爵を倒した英雄であるあたしはみんなの感謝と尊敬のまなざしを受けながら・・  
町の再建を手伝っていた、今ようやく復興のめどが立ち、  
少し遅れて勝利を祝ってのパーティー、残った食料でみんな盛り上がっている。  
でもあたしはとても勝利を祝う気分にはなれなかった。  
 
「リナリーどうした?」  
 
ラビが心配そうにあたしの顔を覗き込む、気づいて「とりあえず何でもない」と答えておいた。  
その場を後にしてパーティーのみんなの騒音を背中に受ける、兄さんがまたろくでもない発明品を取り出したようだけど  
今日は無視しよう・・。  
 
おかしい?とにかくおかしい・・。  
 
千年伯爵を倒したのはあたし?あたしの記憶でもそうなってるし、みんなもそう言ってる。  
巻き戻しも町にあたしと一緒に任務に言ったのは?ラビとあたし、ミランダもそうだったと言っている。  
ラビは時計人間って言ってミランダのイノセンスで遊んだ?クロウリーと最初にあったエクソシスト、ラビとあたし。  
クロウリーもそうだって・・・。  
 
おかしい・・・。  
 
神田が襲った入団者、チャオジー・・。  
 
自分の記憶が信用できない、でもみんなはそう言ってるし、  
記憶にないエクソシストは黒の教団の記録には残っていない。  
自分の部屋の窓から外を覗きこむ、ドラゴンが飛んでいる、  
この前子供が生まれたらしい・・ドラゴン、あたしたちの戦争に協力してくれた、  
今は親と子の二匹だけだがあの時は何匹ものドラゴンが一緒に戦ってくれた。  
部屋で親が子に餌をやっている光景を眺めていると・・。  
 
「おーい、今から大食い大会やるからみんな集まれって!!」  
 
ラビの声が聞こえて、考えをやめてそちらに向かう、ラビがあたしを見送りながら  
「さっきの返事よろしくな。」と言った。  
 
あたしはラビに告白された「前から好きだった、付き合って欲しい、今みたいな関係じゃなくて・・」と言われた。  
ラビのことは嫌いじゃない、嫌いじゃないけど男として好きかと言われれば返答に困る、なぜかあたしのなかで完全に  
答えはNOと決まっている。  
 
「大食い大会か・・・が喜びそう・・・・!?」  
 
突然の疑問に足が止まる、立ち止まり全脳細胞を使用して、思考した。  
 
今誰の名前を言おうとした・・・・?  
 
誰・・・誰・・・誰・・・お願い思い出して大切な人なの・・大切な思い出なの・・・。  
 
頭を抱えてうずくまった、くるしい・・このままどうしようもないのではないかと・・・  
疑問がよぎる・・いやだ・・嫌だ・・思い出して・・・。  
 
「アレン・・・・。」  
 
頭をあげて走り出す、廊下でたくさん人にぶつかったがごめんの一言も言わずに走り抜ける、  
広場に出た、みんなで大食い大会の真っ最中、焼きそばをこれでもかというくらい口に詰め込んでいる。  
コムイ兄さんが司会をやっている、あたしは兄さんに走り寄る。  
 
「あっリナリーこっちこっち、みてよ盛り上がってるだろ・・!?」  
 
あたしが胸ぐらをつかむと兄さんは困惑した目であたしを見るが今は気にしない  
もっと重要な事がある。  
 
「アレン君どこ?」  
 
「・・・?アレン?」  
 
聞き慣れない男の子の名前に不審感をもつ、冷静な兄としても眼なった。  
 
「アレン?誰だいそれは?避難民名簿にはそんな名前はなかったが・・。」  
 
「避難民じゃないわ、あたしたちの仲間よ!!」  
 
あたしの声に反応してみんなひそひそ何か話している、そうとう大きな声を出してしまったようだ。  
それに気付いてなるべく小さな声で話そう。  
 
「そういうわけだか、誰もアレン君こと覚えてないの、あたしもそうだった、兄さん何か覚えてない?」  
 
「そんな子いなかったよ・・リナリーどうしたん・・・が!」  
 
それならもう用はないとあたしが手を離したので兄さんは転んだが無視して走る。  
 
外に出て、ダークブーツで飛ぶ、てっきり千年伯爵を倒したらイノセンスは消えるのかと思ってたけど  
そうではなかったらしい・・。  
 
窓からさっきまで見ていたドラゴンのいるところまで飛んでいく。  
ドラゴンから少し離れたところに降りた。  
 
「アレン君の所へ連れてって!!」  
 
心からドラゴンに願った、ドラゴンは少し困ったようにあたしから顔をそらしたがあたしは回り込んでもう一度願った。  
 
「お願い!!会いたいの!!」  
 
目頭が熱いきっとあたしは泣いているんだ、でもかまうものか!泣き落としでも何でも使ってやる。  
 
ドラゴンは首を下げた、背中をこちらに差し出し、何度も顎を背中にむけてふる。  
乗れってこと?  
 
あたしは翼に足をかけて翼に飛び乗った。  
 
「あっ!」  
 
思わず声をあげてしまった、急上昇し地上から離れる。  
一度後ろを振り返り、地上を見た、人が蟻のように小さく見える、アレン君もこの景色を見たのかな・・。  
しばらくすると雨が降り始めた、激しい雨、ドラゴンの羽根に水滴が浮かびあたしの顔にも雨がかかる。  
 
あたしは雨に打たれながら、アレン君の言葉を思い出した。  
 
神が嘆けば天は荒れ、神が怒れば大地が揺れる。  
 
アレン君、今あなたは泣いてるの?何がそんなに悲しいの?  
お願い何か答えて。  
 
答えは返ってこない・・・ドラゴンが雲の中に突っ込んだ。  
白い光があたしを包んだ。  
あたしの意識がどこか違う場所へと飛んでいく・・・。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
ここは・・何もない・・・。  
 
リナリーは何もない空間の中で一人浮いていた・・・。  
声が聞こえてた。  
 
「幸せを与えて、それをすぐに奪い取るなんてなかなか残酷だよなお前。」  
 
声がしたほうをみるとリナリーがいた、いつか彼女が夢で見たもう一人の自分・・。  
ただし髪が白い、得体のしれない相手にリナリーは強気に疑問をぶつける。  
 
「あなた何?」  
 
「今私が何かあなたに関係ある?」  
 
誰かではなく・・何かということにまるで疑問がない・・。  
 
「あなたの前に現れたのはこれを見せるためなの。」  
 
もう一人のリナリーは小さなビー玉を取り出し、リナリーに差し出す。  
 
「それは何?」  
 
「アレンの記憶よ・・・これをまず見れないなら・・あなたは彼に会う資格はないわ、これを見たあと  
まだアレンに会う気があったらアレンの所へ送ってあげる。」  
 
「わかったわ。」  
 
ビー玉を覗き込み、意識が吸い寄せられる。  
 
 
 
アレンが歩いている・・・・とても幸せそうにご機嫌だ。  
 
嬉しい・・彼女が僕を好きだと言ってくれた。  
本当はすぐにでもはいと答えたかった。  
 
今彼はとても幸せ・・でもその幸せはすぐに終わる。  
 
今度の彼は走っていたコムイから発明の実験体になってくれと言われ逃げている。  
しかたなく人気のない倉庫に逃げ込む。  
 
ここでしばらくやり過ごそう・・・。  
 
彼は倉庫の器物の後ろに隠れて座った、しばらくすると誰か入ってきた。  
 
リナリー・・ラビ?  
 
何で二人してこんな場所に?という疑問は次の瞬間吹っ飛んだ。  
二人が唇を重ねた、ラビがリナリーを押し倒した。  
たまらずアレンは顔をそむけた、だが一度脳に入り込んだ記憶は追い出せない。  
 
壁にかかる影が見え二人が何をしているのか大体わかってしまう・・  
リナリーのあえぎ声が聞こえる、目を閉じ、耳をふさぐ、でも聞こえる・・・・。  
 
喘ぎ声が聞こえなくなるとガタンという音がして気配が消えた。  
どうやら出て行ったようだ、アレンは一人狭い個室で泣いていた。  
 
彼は呪った自分の無力を・・・悔しくて、悔しくてたまらない・・・。  
 
もう消えてしまいたい・・・死にたい・・・。  
 
 
その映像をビー玉を通して映画でも見るようにリナリーは見ていた、全て知った。  
どうして自分の申し出を断ったのか?どうしてあんなに自分に対して憤りをあらわにしていたのか?  
大嫌いだ、と言われたわけをようやく彼女はしった。  
感情のない人形のような瞳で彼女は涙を流す。  
 
突然白い髪をした自分が黒い髪をしたアレンに変わった。  
こいつの正体はアレンが言う神だ。  
神はリナリーの頬を掴んで自分の目を見るよう促した。  
 
「アレンは今、神しか享受できない幸せの中にいる・・今確かにアレンは幸せだ、安らかで心地いい、  
まどろみの中・・普通の人間ではそれは苦痛でしかないが、今のアレンの精神は神だ・・だから  
問題ない。」  
 
「・・・・・・。」  
 
「お前のしようとしてる事はアレンの幸せを壊すことなんだ、アレンのことを傷つけてまた  
アレンの幸せを壊すのか?それでも一緒にいたいと思うのはお前のエゴだよ。それでも行くのか?」  
 
「・・・・・・。」  
 
リナリーは答えない、涙を流し続けるだけ、だが神はそのままパチンと指を鳴らした。  
神の前からリナリーの姿が消えた。  
 
 
 
ロード・キャメロットに破壊された彼の心は思念体となり私のところまで流れついた。  
それはとてももろく繊細になっていて、下手に刺激すれば完全に消滅してしまう、だから肉体に神の力を与え  
壊れた精神をその肉体に戻してやった。  
神の力を持っていれば、絶対に傷つくことはない・・人が傷つくのは思い通りにならないことがあるからだ・・  
神の力を持つ者は何でも思い通りになるから傷つかない、思い通りになるものだけが全て・・後は全部幻・・それが神の思考回路  
だけどアレンは誰よりもただの人であることを願ってきたんだ・・だから・・。  
 
 
リナリー・・アレンを救え・・・。  
 
「お前だけがアレンを人に戻してやれる・・・・。」  
 
気がつくとドラゴンは消え、あの何もない空間でもなくリナリーは暗い空間に立っていた、  
何もない空間、その中央に肘掛椅子がひとつこの空間唯一の存在のように佇んでいる。  
リナリーは中央を見て、「あっ。」と声をあげた、視界が潤んだ、それでもその姿だけがはっきり見えた・・・  
 
「アレン君・・・。」  
 
リナリーの視線の先には肘掛椅子にもたれているアレンがいる、ぐったりと手ひじ掛けに垂らしている、  
周りには子供の遊ぶおもちゃや絵画を描く絵の具、本などが散らばっている。  
何と声をかけていいかわからず、走り寄ってアレンの腕をつかんだ。  
 
「アレン君!・・・アレン君!」  
 
リナリーがアレンを揺さぶると眉と目もとが少し動いた「ううん・・」と声をだす。  
顔は最後に見た時よりずっと生気がない、神が言っていた神にしか享受できない幸せとやらのせいだろうか・・。  
ぐらりと首が折れ、目が開いた、リナリーはその顔を覗き込むと自責の念がこみ上げてきた。  
視界を潤ませていただけのものが頬を濡らす。  
 
「アレン君・・ごめんなさい・・あなたのこと傷つけて・・・。」  
 
アレンは寝むそうに眼を瞬くとリナリーの顔を確認する。  
 
「リナリー・・・?」  
 
「アレン君・・。」  
 
アレンはほんのわずかだけれど驚いてはいるようだ。  
 
「どうやってここに来たの?」  
 
 
頬を濡らすものを袖で拭いながら「アレン君の作ったドラゴンに乗ってきたの。」と答える。  
アレンは一層頭の中の疑問を深めまったように眉を片方吊り上げる。  
まぁその事はいいかと別の疑問を投げかける。  
 
「ごめんって何?意味がわからない。」  
 
「・・・・・・・見てたんでしょ・・ラビと・・その・・セックスしてるところ・・・。」  
 
「それにどうしてあんたがあやまるんだよ?」  
 
その言葉にはうんざりした、もう疲れたという時のような雰囲気があった。  
でもその言葉にリナリーは喰ってかかる。  
 
「当然よ・・・あたしはあなたに好きだって言ったんだもの・・・。」  
 
「好きって言っただけだろ・・・付き合ってたわけじゃない・・・。」  
 
「同じよ!あたしは自分の言葉に責任を持つべきだった!」  
 
リナリーが声を張り上げるとアレンは目をギュッとつぶった。  
 
「うるさいよ・・・静かにしてくれ・・・。」  
 
何て頼りない声・・・・今にも崩れおちそうなほど。  
 
「アレン君一緒に帰ろう・・・。」  
 
リナリーは掴んでいたアレンの腕に力をこめ、引っ張りアレンを立ち上がらせアレンを引いてこの暗い空間を出ようとする  
がその手は振り払われた、リナリーは振り返ってアレンの顔を見る、下を向いているその顔には陰りが見える。  
 
「俺はここにいる・・ここがいい・・精神が壊れた今俺には覚悟も生きる気力も何もない・・  
外に出るのが怖い・・だから出ない。」  
 
「アレン君・・で・・。」  
 
「もうやめてくれ!」  
 
アレンの叫びはリナリーの言葉を遮った。  
 
「一人にしてください・・これは僕に残された最後の幸せなんです・・  
どうかとらないでください・・・。」  
 
震えるような切ない声、久し振りに聞いたアレンの言葉だ、いつぶりだろうか彼の言葉を聞いたのは  
リナリーはその場に膝から崩れ落ちた、自分の所為でここまでアレンを追い詰めていたなんて・・  
絶望した・・・この世で最も傷つけたくない人を自分は深く傷つけたのだと彼女は自分を責めた  
視界がぐらりと揺らいだ倒れそう・・・。  
 
「どうした?」  
 
アレンの声が壁一枚隔てた向こう側のもののように感じる・・。  
 
「大丈夫か?」  
 
リナリーは床に伏して、震えはじめた、泣いているのかとアレンは思った。  
が違った・・。  
 
「ふふふ・・ははは・・・。」  
 
泣いているのではないではない、笑っているのだ。  
 
 
「あはは・・はははははっはあっはははははははははは!!」  
 
リナリーは声をあげて狂ったように笑い始めたアレンはその様子に恐怖を感じ後ずさる。  
そして開いた瞳孔でアレンの顔を見る。  
 
アレン君・・・すごく怖がってる目をしてる・・何をそんなに怯えてるの?  
大丈夫よ・・何があってもあたしが守ってあげる・・。  
 
「きっ気持ち悪い・・・。」  
 
アレンは踵を返し、リナリーから距離を取ろうと走り出すが、それにリナリーが飛びかかる。  
アレンは「うわ!」と声をあげ、リナリーを振り落とそうと回るがリナリーはしがみついて離れない  
意地でも逃がすものかとリナリーはアレンにかみついた。  
 
「あっ・・・・!」  
 
かみついた場所は耳だった、耳をかまれた途端ピリッと脳内の電気信号が少し許容範囲を超えたように全身に広がる  
アレンは顔を赤くして膝を崩して倒れた、リナリーは少し不思議そうに肩からアレンの顔を覗き込む。  
 
「どうしたの〜もしかして感じちゃった?」  
 
色っぽい声、大人の女の声・・その声をだす唇は大人の女の色気を醸し出している。  
アレンはその問いに答えずプルプルと体を震わせるだけ  
艶やかに赤く光るその唇はアレンの耳を挟み込む、彼の耳を自分の唾液で染めると  
彼女は彼を仰向けにひっくり返した。  
 
「あれんく〜ん。」  
 
次は甘える仔猫のような声をだし、アレンの胸を撫でまわす、彼はくすぐたっそうに身をよじり  
逃れようとするがしかりと体重を乗せて押さえつけられているため、それは叶わず、ただ必死にリナリーを睨みつけるだけ  
だった。  
 
ちゅう ちゅちゅちゅ ちゅ  
 
アレンの右乳首を吸いたて、左乳首は指手弄ぶ、そしてどんどん上に登って行き首を舐め顎を舐め後頭部に手をまわし  
彼の髪をなでながら顔中を舐めまわす、一呼吸おいて彼の唇に狙いを定め目を閉じ顔を下ろす、どんどん  
リナリーとアレンの唇の距離が縮まり、もう少しで触れる・・・。  
 
ピキッ  
 
アレンは目が覚めたかのように目が開く、そしてリナリーの腹を蹴った、リナリーは「きゃっ!」と声をだし床に背中から  
打ちつけることになった。  
 
「ばーか!ばーか!死んじゃえ!」  
 
今まさに彼の姿は幼い子供が駄々こねて地団駄を踏む様子そのもの・・。  
アレンは手をあげてその先から濡れたタオルを出した。  
「気持ち悪い。」と何度も言いながらリナリーが触った場所を必死に拭いている。  
拭き終わりアレンが顔を上げると眼前にはリナリーの顔、拭くのに夢中で彼女の接近に気付かなかった。  
両頬を掴ままれ、唇に食らいつかれた、歯と歯がぶつかり合う噛みつくようなキス、まるでけだもの・・。  
 
しゅうううう  
 
骨が溶ける・・・アレンがそう思っていると、アレンの体が縮み始めた茶色になっていた髪は白くなり、  
ガッチリとしていた体系は幼児のそれとなっていく、精悍な顔も元の童顔に・・・。  
さっきまで頭一つ分高かった身長が急に小さくなったのでリナリーに持ち上げられているような格好になった。  
リナリーが唇を離すと、彼の今の顔が見て驚き、落とした。  
 
「あれん・・くん?」  
 
さっきまで着ていた服がべろべろだ・・・。  
 
「見たな・・くそ・・・。」  
 
アレンは恨めしげな眼でリナリーを見上げる。  
この姿を誰にも見られたくなかったようだ。  
 
これが今のアレン君の本当の姿・・・  
 
最初は驚いたがすぐに口元の両端が上がる・・。  
 
「かわいい・・アレン君ちっちゃい・・かわいい・・・。」  
 
リナリーは再びアレンの唇にむしゃぶりついた。  
アレンの全身から力が抜けていく、リナリーはアレンを離すと服を脱ぎ始めた、  
彼女の美しい裸体がアレンの前に晒された、形よく適度な大きさまで発達した乳房  
美しい曲線を描いたくびれ、細く長い脚、見れば誰もが唾をのむが今のアレンは例外  
アレンは彼女に見とれているようにも見えるが  
実際は意識が混濁し目は宙を泳いでいて彼女に視点を全く合わせていない。  
混濁した意識が戻ったのは、アレンの顔に彼女の秘所が押しつけられてからであろう。  
急に頭にかかった負担に意識が戻る、ぎゅうと両足で顔を絞められる、隙間がなく息ができないアレンは混乱した。  
 
「舐めて・・息がしたかったら、アレン君舌でなめて気持ちよくして・・。」  
 
その言葉を聞き”とにかく舐めればいいだな”と考えリナリーの秘所をアレンは舐め始める。  
知識のない彼にテクニックなどありはしない、とにかく舐めるだけ  
何も考えず切れ込みに舌をつきいれ上下に動かす、初めて味わう愛液の味に吐き気を覚えたが  
我慢して舐める、吐けば足を離したろうが、息ができないアレンはそんな考えには至らない  
リナリーはアレンの舌が自分の敏感な所に触れるたびにビクンビクンと震える、  
 
「あっあっあっあ!いいよ!その調子!」  
 
リナリーの言葉などもう聞いていない、息ができなくなり、もう我慢の限界スピードをあげると  
リナリーは絶頂に達した、彼女が叫ぶと、足の力がゆるむと同時に秘所から愛液が噴き出しアレンの顔にかかる  
喉に入ったようで、彼女の秘所から解放されるとげほげほとせき込む、そして快感の余韻に浸る彼女をほおって  
その場を去ろうと体を引きずるがリナリーはそれを許さず捕まえる。  
 
「これ以上僕に何させる気だよ・・・。」  
 
まるで仕事を終えて、家に帰ろうとしたところを残業してくれと言われたサラリーマンの気持ちだろう。  
 
 
「まだあたし・・アレン君を気持ちよくしてない。」  
 
「しなくていい!!・・いいかげ・・んぐ!!?」  
 
またアレンの唇にむしゃぶりつく、多少隙間を開けびしゃびしゃと音を立てながら  
舌をつきいれる。  
 
ぐじゅ ぐじゅ ぐじゅ  
 
「や・・め・・ろ」  
 
口を動かすの辛くなるほど力を奪われているのか、絞り出されたようなかすれた声を出す。  
眼の端からは涙がにじんできた、。  
 
「ん・・ぐじゅるる・ん・・・。」  
 
リナリーは貪るようにアレンの口内を舌で舐めまわしまわしながら脳が溶けるよな快感を味わっていた。  
二人のどちらのかわからない唾液が口の接触部から漏れアレンの頬を通って下に落ちる。  
 
リナリーはアレンの口内を侵食しながら彼のズボンに手を懸けアレン自身を取り出した。  
 
「アレン君・・ごめんね・・あなたはあたしが傍にいるのが苦しいかもしれないけど・・あたしあなたの傍にいたいの・・。  
嫌だと言われてもあなたが欲しい・・すごく欲しい・・我慢できない。」  
 
それを聞いた瞬間、今まで一番の力で暴れ出す、体全体を力の限り上下に揺さぶる。  
それをリナリーは力の限り押さえつける、全力で暴れても今の彼の力は少女以下、たかが知れている。  
 
「嫌だ!嫌だ!やめて!穢れると力がなくなるんだ!神の力を失っちゃうんだ!  
だからやめてほしいものなんでも出してあげるから離して!」  
 
アレンは涙目で懇願する、子犬のような潤んだ瞳・・・だがそれは逆効果リナリーの性欲に火をつけただけ・・・。  
リナリーはアレン自身に手を添え自らの秘所にあてがう・・秘所から漏れる分泌液がアレン自身を濡らす。  
 
「もう自分から死にたいだなんて思いたくな・・・!」  
 
 
彼女の秘所は亀頭を飲み込んだ、じゅぶりと音を立て、徐々にゆっくり入っていく。  
入っていくごとにアレンの口が開き、喉が狭くなっていき「ヒューヒュー」と細いところに空気が通ったような声が出てくる。  
眼は見開き、瞳孔は小さくなり、彼が嫌がっているのは明らか、それでも彼女は止まらない。  
 
誰か・・・一体どうすれば・・・。  
 
アレンの手が助けを請うように、宙に差し伸ばされ、やがてパタリと落ちた。  
完全に納まりきった時ほとんど経験のない彼は絶頂に達したのだ、リナリーの子宮にドロドロの白い種子が流れ込む。  
彼女は満足そうに息を吐いた・・・。  
これで彼は神の力を失った。  
 
「あっ・・あっ・・うああ・・。」  
 
アレンは目を見開いたまま目頭から涙がにじみ出し、口をパクパクさせて息を荒だ立たせていた。  
リナリーの膣はじゅううっと焼けるような音がしそうなほど熱く、肉壁がうごめきアレン自身全体に絡みつき  
根元から亀頭まで順に柔らかく締め付けもっと多くの精液をくみ出そうと動き出した。  
 
「あつい・・あつい・・離して・・い・・や・・だ・・は・・して・・。」  
 
リナリーは腰を動かし始める、アレンの胸に手を置き体を揺らす、動くたびに彼女の美しい黒髪も彼にワンテンポ  
遅れて揺れる。  
 
「ああ!いい!気持ちいいよ!アレン君!アレン君!」  
 
リナリーの乳房が揺れる、揺れる乳房を手で押さえて無理やりアレンの口に押し込んだ。  
さらに激しく自身の腰をアレンの腰へ打ちつける。  
 
 
「んぐーーー!んーー!」  
 
アレンの頭を抱き込み、喘ぐ、自分の体を貫く電流のような快感が子宮から脳へ走り抜ける。  
リナリーも絶頂に達した。  
 
「ああああああああああ!!」  
 
グポっと音をたて乳房をアレンの口から抜く、アレンの唾液で濡れた乳房が照かる、歯形も付いている。  
ぜぇぜぇと激しく息を吐きリナリーは心地いい疲労感に浸っていた。  
 
「はぁ・・はぁ・・神田よりも・・ラビよりも・・ずっと気持いい・・よ・・  
アレン君・・。」  
 
アレンはリナリーの体から力が抜けているのに気付くとリナリーの体をどかし彼女の秘所から自身を引き抜く  
そして体を引きずり彼女から逃げる。  
 
「はぁ・・はぁ・・んぐ!」  
 
突然重みで前へ進めなくなる、横を見るととリナリーが自分の肩に顎をおいていた  
アレンは泣きだした、泣き声でリナリーに懇願する、命乞いしているようにも聞こえるが彼女に彼を殺す気なんてない。  
 
「もう・・許して、神の力ももうないの・・もう何もできない・・許して・・。」  
 
リナリーは無言でアレンの体を持ち上げる、骨がすかすかなので体重は見た目以上に軽い。  
自分の体の上にアレンを乗せ、アレン自身を掴んで自分の秘所へ再び入れる、首に手をまわし  
引き締まった足でアレンの腰を挟み込む、アレンの体はリナリーよりはるかに体躯が劣っているため  
リナリーに下から包み込まれているように見える。  
そのままじっと動かない・・。  
 
「・・・・・・・・。」  
 
「はぁ・・はぁ・・・。」  
 
彼女は彼の何かを待っている・・・じっと待っているのだ・・。  
焦らしているわけではない・・「やめちゃおっかなぁ・・。」なーんて言えば彼は間違いなく逃げる。  
 
アレンは自分に魔法をかけた愛を忘れる魔法だ、その対象者を好きになった時の記憶をぼやかして  
対象者に対する愛情を忘れる・・・。  
解くには記憶を思い出させればいい・・ぼやかしただけで消したわけではないのだから、きっかけさえあれば思い出す。  
同じシュチュエーションを作るんだ・・考えてみなリナリー、アレンがお前を好きになったのはいつか・・。  
 
リナリーはアレンの頭を掴んで彼の瞳に自分の顔を映す。  
アレンの顔はとてもつらそうだ、リナリーは無言でアレンの瞳を見つめる。  
アレンはたまらず目をそらすが、顔をつかむ握力を強めて、「あたしの顔を見続けなさい」と命令する。  
アレンはリナリーの顔を見続けることにした。  
 
自信はないけど・・これでいいんじゃないかな・・。  
 
リナリーはアレンに笑顔を向けた、あの時と同じ笑顔を・・・。  
 
「う・・あっ・・・。」  
 
トクッ・・・  
 
アレンの瞳の奥の奥に光がバチッと光映像がよみがえる、最初の任務を終えて帰ってきた時の映像  
初恋の人の笑顔・・・・「おかえり、アレン君」と言われたあの時の映像。  
 
ドクンドクンドクンドクンドクン  
 
アレンの白い顔が真っ赤に染まる、心臓も情熱を取り戻したかのように鼓動を強める。  
 
「違う・・違う・・違う・・。」  
 
アレンは頭の中の何かを追い出そうとしてるように激しく首を振った。  
その動く頭を力を強めて動きを止める。  
 
「嫌だ・・。」  
 
さっきまでよりもっと大量の涙があふれ、リナリーの顔におちる。  
 
「こんな仕打ちはあんまりだ!他の男とあんな事しないでほしかった!ひどい!ひどすぎる!」  
 
涙と共に今までずっとこらえていた言葉があふれ出る。  
リナリーはアレンのもう一度抱きしめる、自分の肩でなくアレンの耳に口を近づける。  
 
「アレン君、ごめんね、あなたのことを傷つけて、もう二度とあなたを悲しませないから・・  
帰って来て・・・。」  
 
そう言い腰をを小刻みに上げ始める、腰をグラインドさせて、アレン自身がリナリーの膣肉にしごかれる。  
アレンもリナリーもお互いに意識が飛びそうなのを必死でこらえる、アレンはリナリーの肩につかまり  
打ち上げる快楽の波に必死でこらえる、リナリーの腰の動きがっさっきよりも激しくなっていく  
どんどんスピードが上がっていく、アレンの脳内に意識が飛びそうな恐怖感と快楽が入り混じる。  
アレンは絶頂に達しそうになる、アレンが達しそうになるのを感じ取ったのか「もう少し我慢して」とリナリーは  
アレンの背中に爪を立てた、痛みに「ひっ」とほんの少し悲鳴をあげてアレンは震えた。  
リナリーはアレンと自分の位置を入れ替えまた自分が上になり、活動を再開した。  
 
「ああっんあああっああぁぁぁ!」  
 
「ぜぇ・・はぁ・・はぁ。」  
 
もうアレンは完全に身を投げ出し、リナリーに身を任せてる。  
今のアレンの体は少しでも乱暴に扱えば壊れそうなほど脆い、リナリーは  
それを肌で感じなるべく優しく、それでいて激しく腰を振る。  
 
「戦争終わったんだからアレン君のお嫁さんにして!嫌だって言ったって絶対なるんだからーー!」  
 
二人同時に絶頂に達した、先ほどよりも凄まじい量の精液が再びリナリーの  
胎内に流れ込み、彼女は体を反りけらせて絶頂を味わう。  
顔を下げアレンの顔を見る、アレンもリナリーの顔を見つめていた。  
 
「愛してるわ・・アレン・ウォーカー・・。」  
 
リナリーは唇をもう一度重ねる、今度は優しく、自分の魂に触れるよりも厳かに・・・。  
アレンもそれに応え舌を自分から絡ませる、その顔は愛しい男性にファーストキスを捧げる少女のよう・・。  
目をつぶり与えられるものを享受する、そして彼は眠りに落ちた。  
リナリーも快楽の余韻の中で眠りに落ちる。  
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  
 
「二人の体が重なり合い気持ちが一つになっていくどこまでが自分の体でどこからが相手の体かわからなくなる  
魂を共有し・・・。」  
 
教師が生徒に教えを説くような声が聞こえてくる。  
 
 
「生きたまま天国へ行く・・・。」  
 
完全に意思がはっきりするとそこには黒髪の青年が立っていた。  
アレンそっくりの・・。  
 
「アレン君・・・じゃないわね・・。」  
 
本物はリナリーの傍らに倒れていた。  
あたりを見渡すと草原だった、上を見れば青い空、下は生い茂る青々とした草の絨毯。  
 
「ああ・・そうさお前たちの言葉で神と呼ばれるものだ。」  
 
「神?・・・イノセンスを作った人?」  
 
「いや、イノセンスを作ったのは古代の魔術師だ、あいつらは千年伯爵を倒したあと  
お前らのために自分の魂と力を結晶化させて残したんだ・・・。」  
 
「そうだったの・・全然知らなかった。」  
 
神はリナリーの顔を見ないで言う。  
 
「例え千年伯爵を倒しても、暗黒の三日間は訪れるんだ、人類の穢れが一定に達すると世界の防衛システムが働いて  
人類を排除する、それが暗黒の三日間の正体、世界の防衛システムなんだよ・・お前たちがどれだけ頑張っても  
全て無駄だったというわけ・・。」  
 
「無駄じゃない、アレン君のおかげでみんなこの世界を大切にしていこうと決意したんだもの。」  
 
リナリーはアレンの顔を抱きしめた。  
眼が開かない、眠っている。  
 
「いつ目をさますの?」  
 
「その質問の答えはお前しだいだ。」  
 
「どういうこと?」  
 
「壊れた心はもう元には戻らない・・割れたガラス玉をいくら接着剤で繋ぎ止めてもひびを隠せないようにな・・  
おおと誤解するなよ。」  
 
リナリーが余りに悲しそうな眼をするのですぐに取り繕う。  
 
「ひびは隠せなくても、接着剤でくっつければ・・・形だけは元に戻せる、  
いつかは生きる気力も取り戻すかもしれない、だから・・。」  
 
ずっとそばにいてやれ・・そしてもう二度と傷つけるな。  
 
リナリーにそう言い神は姿を消した、彼の役目はこれで終わり。  
 
リナリーはもう姿が見えなくなった神に言った。  
 
「はい。」と・・・・。  
 
 
ここは崖にたたずむ小さな小屋  
そこに白髪の少年と黒髪の少女が住んでいた。  
 
「はい、アレン君あーん。」  
 
リナリーは箸でつまんだふかしたジャガイモをアレンの口の前に差し出す。  
アレンは黙って口を開け、ジャガイモを口へ迎い入れる。  
 
「アレン君、おいしい?」  
 
「・・・・・。」  
 
ニコリと微笑みかけるリナリーにアレンは何も答えない、  
目からは生気がまったく感じられない、食べ物を噛み砕こうと口をもごもごさせるだけ・・・。  
次は風呂場でアレンの背を洗う、体を洗い終わり風呂から出るとタオルで体を拭き  
髪をとかす、首のところまで髪が伸びてきた、今度を切ってあげようと彼女は思う、  
ロッキングチェアに背を預け天井をぼーと見ているアレンにリナリーは詩を読み上げる。  
聞こえているかどうかは定かではないがそれでも彼女は続ける。  
 
こうして毎日毎日彼女は彼の世話を焼く、今の一番の楽しみは眠る彼の寝顔を一晩中ずっと  
見続けること・・・。  
 
黒の教団、崖から町の外の景色を見ながら。  
神田とラビが話している。  
 
「俺らふられたな?」  
 
「何の話だ?」  
 
ラビはいやらしい笑みを浮かべて神田を見る。  
 
「お前もリナリー好きだったろ?」  
 
「別に・・・・。」  
 
神田の言葉をやれやれと言った感じで景色に視線を戻す。  
ドラゴンが三匹の子供ドラゴンを率いて飛んでいる。  
 
「突然現れた、子供にとられるなんてなぁ・・あんなのまだガキじゃねぇか・・・。」  
 
「この世界の真の救世主とか言ってたぞ。」  
 
「意味わかんねぇよ・・。」  
 
アレンとリナリーは外に出て、高台に登った。  
ここから見る景色は光り輝いてる、町の人々は活気づき、壊れた町はもうほとんど元に戻った。  
子供たちがドラゴンと遊んでいる。  
 
リナリーはアレンの頭を膝に乗せてそんな景色をながめる。  
 
「綺麗ね・・アレン君が守ったんだよ・・・。」  
 
リナリーは目を細めて、呟いた。  
 
本当はリナリーのほうが奇麗だよ・・・そう答えてくれる日を彼女は待ち続ける。  
彼が今話せたらきっとそう言ってくれるだろう・・。  
 
「おかえり・・アレン君・・・。」  
 
その言葉に呼応して一陣の風が吹くアレンの白い髪がなびいた・・・。  
 
ただいま・・・そう聞こえた気がしてアレンの顔を見たがその目は閉じたまま・・・。  
 
数年後二人は黒の教団から完全に消息を絶つ、そしてさらに数年後、人々は暗黒の三日間から世界を救う勇者を目撃する。  
その勇者は黒い髪、銀灰色の瞳をしていたという・・・・・。  
 
 

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