宿にて。
夕食を終え、部屋で一人でくつろいでいると、リナリーがやってきた。
「……何で上半身裸なのよ?」
「や、暑いからさ」
「ふうん」
あれ? あっさり。
「風邪ひくよ」
「大丈夫さ」
俺は、部屋では上半身裸で過ごすことが多い。
あまり知られていないけど。
そういやこの前、アレンと同室になったときにも色々言われたっけ。
――じゃなくて。
えっと……上半身の俺が言うのもあれだが、リナリーもかなり際どい格好をしている。
薄いTシャツ一枚にスパッツ。どうやら寝巻きらしい。
「――で、何用さ?」
「うーん……ちょっとね。今、いい?」
「いいけど……」
落ち着いたふうに答えながらも、内心ひどく焦っていた。
(何でリナリーが俺の部屋に来るのさ!?)
(俺、なんかやらかしたっけ?)
(今日の戦闘でも特に足引っ張るようなことはしてないし……むしろリナリーのピンチを何度も助けたような……うーん)
(あ、助けたときにお姫様だっこする形になって、それでちょっと胸を触ったことか!?)
(あれはわざとじゃないさ、わざとじゃ……)
(……わざとだけど)
「悪かったさ、リナリー!」
先に謝ったほうが良いと思い、頭を下げたのだが――
「何のこと?」
「え?」
振り向くと、リナリーは俺のベッドに座っていた。
「…………」
「何突っ立ってるの? 座れば」
そう言って、リナリーはぽんぽんとベッドを叩いた。
「あ……ああ」
平静を装いながら、俺はリナリーの隣に腰掛けた。
ちっくしょー……ガラにもなく緊張してるさ。俺。
「ラビってモテなさそう」
いきなり言われた。
ちょっと……どころではなく、かなりショックだった。
なぜなら、俺は最近リナリーのことが気になっていて……
「聞いてる?」
「わっ」
顔近いって! リナリー……くそう、こうして間近に見ると、やっぱり可愛いさ。
あー、白いほっぺた……柔らかそうさ。
「この前、アレンくんから聞いたんだけどさぁ」
「? 何さ?」
「ふっふっふ」
うわ。なにその邪悪な笑顔。つーかアレンのヤツ、何を吹き込みやがった。
「クロウリーのお城」
ぎく。
「エリアーデさん」
ぎくぎく。
「ラビ、その人に惚れちゃったんだって? そう聞いたけど?」
リナリーはニヤニヤ笑っている。
アレンの野郎……覚えてろさ。
「どうなの?」
「どうなのって訊かれても……な、何のことかさっぱりさ」
へらへらと答えてみた。
「ほんとに?」
じぃっとリナリーが見つめてきたので、俺は目をそらした。
「……リナリーはどうなんだよ」
「どうって、何が?」
「や、好きなヤツだよ。いるのか?」
「んー……」
え? 何で考え込むさ?
「私は……」
顎に手を当てる仕草がとても可愛くて、つい顔が火照ってしまう。
「――コムイ兄さんかな」
「兄貴かよ」
「何よ? 文句ある?」
「いーや、ないさ。全く」
言って、少しほっとしている自分に気づく。
ああ、やっぱり俺は――
ごくっとつばを飲み込み、リナリーを真正面から見据える。
――今しかないんじゃないのか。
こういうふうに、二人っきりでいられる機会なんて滅多にない。
大抵、ほかのエクソシストや仲間がいるし……
それに今は戦争をしているわけで、気持ちを伝える機会はもう二度とないかも――
そう思うや否や、俺はリナリーの肩に手を置いていた。
「俺さ……リナリーのことが」
「ラビ?」
「…………」
どうして言えない? どうして――
ふと、アレンの顔が浮かんだ。
同じエクソシストとして共に戦う仲間の一人、アレン・ウォーカー。
たまに毒を吐くけど、何事にも一生懸命で、負けん気の強いあいつの場合はどうなんだろう?
少し気になった。
そういえば……以前、訊いたことあったっけ。
あのときは、たいした意味もなく、暇潰しに訊いてみただけだが……
「僕ですか? いませんよ。好きな人なんて」
「目泳いでねえか、アレン。ちゃんと目合わせて言えよー」
「な、なんですかいきなり! ラビには関係ないでしょう!」
……深く考えなかったけど、あいつももしかしたらリナリーのことが好きなのかもしれない。
でも。
それは、俺の気持ちには関係ない。
俺は、俺の気持ちに素直になるだけさ。
だから――
「リナリー。なんつーか、その……俺はお前が好きさ」
少し声が震えてしまったが、俺は正直に告白した。
「…………」
目をぱちぱちさせて、リナリーは何も答えない。
「リナリー」
「冗談……よね?」
やはり、そう取られたか。ある程度予測していたけれど。
「ねえ、ラビ」
「マジさ。大マジ。俺はリナリーのことが大好きさ」
言ってしまえばもう抑えるものもなく、俺はリナリーを抱きしめていた。
そしてそのままベッドの上に押し倒す。
「や……ラビっ……待って」
「待たないさ」
ぎゅう、と力いっぱい抱きしめる。リナリーはとても柔らかく、温かかった。
「んっ……あ、あん……っ」
色っぽい声出すさ、全く。
リナリーの首筋にキスをする。何度も何度も。
「ちょ、くすぐったいよぉ、ラビ……」
「ちゅっ」
「ん、んん……」
自分の唇をリナリーのそれに重ねる。
甘い香りがして、頭がどうにかなりそうだった。
「ちゅぷ……」
「うぅ」
そのとき、リナリーの唇が震えているのがわかった。
俺はしまったと思い、唇を離した。
リナリーは涙ぐんでいた。
……ああ、やってしまったさ。
俺は自分の欲望を、リナリーのことも考えずに、ぶつけてしまった。
「リナリー……ごめんさ」
「何で謝るのよ」
「俺は……」
「嬉しかったよ」
「え?」
「私、ラビのこと好きだから。気づいてなかった?」
リナリーはそう言って、俺の頬を触った。
「ラビって鈍いよね。ううん、それは私も同じか」
あははと笑うリナリーに、もう先ほどの涙は見えない。
「ああ、これね。私、くすぐったがりで、すぐ涙目になっちゃうのよ」
「…………」
そうだったのか。
「それよりキスの続き、しよ?」
「あ、ああ」
こうして――再び唇を重ねる。今度はお互いの舌を絡ませるようなディープ・キス。
「くちゅ……んんっ」
リナリーの舌が積極的に俺の口内を犯す。
俺も負けじと舌を動かし、リナリーの中を唾液で一杯にした。
「んくっ、んん……ぷはっ。はぁ、はぁ……ラビ、好きよ」
「リナリー、俺……」
「ラビの好きにしていいよ」
にこっと笑うリナリーがたまらなく愛しくて、もう一度キスをする。
「ちゅるっ……リナリー、シャツ脱がすさ」
「あう。恥ずかしいよぅ」
「そら」
勢いよく脱がすと、リナリーの艶やかな身体が露になった。
「……すっげー綺麗さ」
「ありがと」
形の良い双乳は白く輝いて見える。
「胸、触っていいさ?」
「ふふ、昼間、戦いのときに触ったでしょ?」
ばれてるし。
俺はあえて答えず、その胸に手を伸ばした。
((……続きます。))