「あ……私、やせっぽっちですからつまらないですよ……?」  
「つまるかつまらんかなんて俺が決める、黙ってろ」  
「はい……」  
 何度も犯された汚れた体、いや、今の体は純潔のままだ。  
その体を後ろから抱きしめている男の手に、自分の手を重ねるミランダ。  
だが、彼女はあの繰り返す日々の中で男たちに犯され、男たちの射精を促す術すら知ってしまった。  
 
(体じゃなくて……汚れているのは私の……心なんだわ)  
 
 なんだか自分の肩に顔を埋めて抱きしめてくれている男、神田を裏切っている気がして、罪悪感がミランダの心を苛む。  
 
ぐす……っ  
 
「っ!!??お、おい……俺、何かしたか?」  
 
 ミランダの瞳から気づかぬ間に涙が零れ落ち、嗚咽が神田を慌てさせる。  
アレンたちが見たら「誰ですか、あなた」と言われそうな心配げな表情でミランダを見つめる。  
その表情が、自分を想ってくれる男の姿が、更にミランダの胸が痛む。  
 
「いえ……ひっく……ちがいます…ちがっ…ひっ…違うんです…私……っ、わたし…」  
「ったく、どうしたってんだよ……ほら、泣くなよ」  
 
 目元に溜まった涙を自らの指でぬぐっていく神田。  
あったかい指、あったかい優しさ……図々しいとは分かっている、だが、ミランダの心は彼に甘えることを選んだ。  
「う……あ……ユウくん……っ!ユウくんッ!!」  
「おっ、おいっ……」  
「うっく……ひっく……ひんッ…」  
「チッ……その呼び方は止めろって言ったろうが……」  
  自分の胸に顔を埋めて嗚咽を上げ続けるミランダの頭を優しく撫でながら、彼女が落ち着くのを待とうと思った。  
小さく震えながら泣き続ける彼女はまるで小動物のような可愛らしさがあった。  
 
 10分、いや20分だろうか……?  
「ありがとうございます……もう、大丈夫です」  
「……ああ」  
しばらくそうしていたミランダが、もぞもぞと体を起こして顔を上げると神田の瞳をまっすぐ見た。  
泣きはらした眼が自分を見つめるのが、なんだか照れくさくて神田は制服の袖口を直す振りをしながら瞳を逸らす。  
 
「わたし……ユウ君に聞いてもらわなくちゃいけないことがあるんです」  
「ん…?」  
 
 意思のこもった言葉に思わず神田はミランダの方を見つめる、ミランダの瞳には何か覚悟の炎が灯っているように見えた……。  
もしもこの事を知ったら、この人は私を汚らわしいと思うかもしれない。  
嫌悪の表情で見られるかもしれない、もう……言葉を交し合うこともないかもしれない。  
だけど、この事を伝えなければ、自分はこの愛する人を裏切り続けることになる。  
だから伝える、まっすぐに。  
 
「私は……アレン君たちに出会う前……」  
 
 ミランダの口から20回以上繰り返された淫虐の日々がゆっくり語られ始めた……  
 
 うつむきながら震える声で、くりかえされた街の日々を語り始める。  
ぽつり、ぽつり、と何があったのかを、涙をこぼしながらゆっくり言葉にしていく。  
あの加虐の嵐を思い出し、体中が羞恥心で燃え尽きそうになるがそれに耐えて言葉をつむいでいく。  
だが、ミランダの必死の告白は暗く、低い声に遮られた。  
 
「……もういい」  
 
 あわててミランダは顔を上げて神田のほうを見た。  
だが、神田は顔を俯けたままで、その表情をうかがい知ることは出来ない。  
きっと自分のことを見たくもないのだと感じ、心臓が握りつぶされるのではないかと思うほど息苦しく、痛かった。  
 
「で、でも」  
「もういいっ!!」  
 怒気をはらんで放たれたひと際大きな声に、びくり、と体を強張らせて怯えるミランダ。  
「ひっ!!ご、ごめんなさい……」  
「謝るな……」  
「あ、はっ、はいっ……ごめんなさい」  
「謝るなと言っているだろうが!」  
「あっ、あっ、きゃっ!!」  
 埒が明かない、と言わんばかりに神田はミランダの腕を取ると、ぐい、と自分の方に手繰り寄せた。  
バランスを崩して神田の胸の中に倒れこむ彼女の細い体を抱きしめる。  
「あ……」  
 一見すると女の子のような顔をしているが、逞しく、厚い神田の胸板を感じてため息を吐く。  
「……」  
 神田は何も話そうとしない。  
ミランダもこのような状況になるなど思っておらず、混乱した頭を必死に落ち着かせようとするのに精一杯だった。  
「あ、わた、わたし……」  
 それでも必死に贖罪の言葉を紡ごうとするが、まるで自分の心の中を読まれているかのように、  
言葉を口に出そうとする度に背中に回された腕がぎゅうぅ…っとミランダを抱きしめられて言葉を出せない。  
「ユウ……くん……」  
「……言いたくねぇ事をわざわざ言わなくていい……」  
 
 ぽん、とミランダの頭に神田の手が載せられると、まるで子供をあやす親のように優しく撫でられる。  
あたたかい― 、と思いながらもこの温かさに甘えてよいのか分からないが無意識のうちにぎゅっと、神田の胸に顔を埋める。  
「わたし……だけど、わたしはあんな事された女なの……」  
「黙ってろ」  
「あ……」  
 くいっ、と神田がミランダのあごに手を置いて彼女の顔を上向かせると、神田と視線が合ってしまいミランダの鼓動が高鳴り始める。  
 
「だ……だめ……ユウく…」  
 
 ゆっくり近づいてくる顔に、緊張と不安で一瞬体を放そうとするミランダだったが、神田は掴んでいる彼女の腕を手繰り寄せて逃がしはしない。  
やがて息がかかるほどの近さまで近づいていき、とうとう二人の距離がゼロになった。  
「あ……ん……」  
「……」  
 柔らかく、あたたかいミランダの唇に唇を合わせて、その柔らかさを確かめるかのように軽くかむ。  
しばらくそうしていたが、その唇を割り割いて、そっとミランダの中に舌を送り込む。  
「ンぅっ!?」  
 口の中へ進入してきた神田のそれに体をビクリと震わせて、体を引こうとするがいつの間にか背中に回された神田の腕がそれを許さない。  
 
『オラ、しっかり舐めろや!』  
『下手くそがっ!』  
『次は俺のだ!歯を立てたりしやがったら全部歯ぁ抜くからな!』  
 
 一瞬、頭の中に繰り返された陵辱が頭の中に思い浮かぶ。  
あの陵辱の日々でも男たちは自分の口腔など、あぶれて手持ち無沙汰な男たちに犯されるためだけの穴に過ぎなかった。  
つまり、ミランダにとって、小さなころから夢見た甘い口付けというのはこれが初めてだった。  
驚きと恥ずかしさと喜びに赤く染まった顔、きゅっと瞳を閉じて口の中を蠢く神田のそれにされるがままにされている。  
(あ……ドキドキして……ユウ君の舌が……気持ちいい…)  
 ミランダの心の中にあったかい感覚が広がっていく。口腔をなぞられるのがこんなにも気持ちいいものだとは思っていなかった。  
 
「ん……ふァ……ちゅっ……んふ……ん」  
 鼻にかかった甘い声を上げるミランダに興奮しながら、神田は彼女の粘膜を、無抵抗な舌を弄り続ける。  
奥歯の裏や歯茎をなぞる度に、ぴくん、ぴくん、と震えるミランダの可愛らしさに嗜虐心を刺激されてしまう。  
 
(……これじゃ俺がこいつを汚した外道どもみたいじゃねぇか)  
 
 だが、それでも、もっとミランダの恥ずかしがる様を見たい、その気持ちが口内への愛撫を続けさせる。  
「ゃ……ゆぅく…っん…」  
 とうとう神田の制服の胸元を掴んでいたミランダの両の手が彼の背中に回されてぎゅぅぅ…っと抱きしめた。  
おずおずとミランダ自身の舌が神田の舌に触れるために差し出される。  
「んぁ……ふっ、ふはっ……んっ……」  
 絡み合う舌と舌、神田の舌に自分の舌の裏側を舐められた瞬間、電撃が走ったかのように快感が走る。  
 
ちゅっ、ちゅぷっ……じゅぷっ……  
コチ、コチ、コチ、コチ………  
 
 いやらしい水音と時計の秒針が進む音が、しばらくミランダの部屋に響いていたが、銀糸を引いて二人の唇が離された。  
「あ……」  
 呆けたような表情で自分を見つめるミランダの涙の跡をふき取ってあげると、恥ずかしそうに口を開き始める神田。  
「……お前は汚れてなんかいない……なんて恥ずかしいこと言う気はねぇけどよ……  
 嫌な事思い出して、わざわざ暗くなる必要なんてねぇよ……だから、その口……閉じてやっただけだ」  
「……」  
「お前がまた嫌な事思い出しそうになったら、また止めてやるからよ……もう、自分から不幸になろうとすんな」  
「ユウくん……」  
「だっ、だからその呼び方止めろって言ってるだろうが!」  
 ぼりぼりと頭をかきながら照れくさそうに声を荒げる神田の可愛らしさと、自分を励ましてくれている、という喜びと、彼に対する愛しさに微笑むミランダ。  
その表情はどこまでも優しくて、可憐だった。  
ドキリ、と神田の胸が大きく高鳴り、そのままミランダを再び抱きしめた。  
「……」  
「っ……ユウ君……あのことを……忘れさせて……くれますか?」  
「……!……ああ、わかった」  
 ミランダの発した言葉の意味をしばらく考えた後、合点が行って顔を赤く染めながら頷く神田。  
 
どきん……どきん……どきん……  
 
 心臓が口から飛び出してきそうなほど、鼓動が大きく高く鳴り響いている。  
ベッドに腰掛けた神田の体の上に、彼と向き合って座っているミランダ……自分の鼓動が聞こえてしまうのではないかという感覚に襲われるミランダ。  
「……ん」  
「あっ……ん……んぅ」  
 恥ずかしそうに身を震わしているミランダを、神田は抱き寄せて唇に再び触れあう。  
舌を絡ませながら神田の指がすっと彼女の細い首筋をなぞる。  
「んッ!!」  
 その刺激にビクゥッ!!とミランダの体が硬直するのを楽しそうに見つめながら、制服のコートのジッパーに手をかける。  
「ぁ……」  
 消え入りそうな声を上げながらミランダが唇を放し、神田の手を恥ずかしそうに見つめる。  
ジッ、ジジ…ッとゆっくりとファスナーが下ろされていき、コートの下に着た、ミランダによく似合う黒いワンピースが晒されていく。  
頬を朱に染めながらあらぬ方向に顔を背けて震えるミランダの乳房をそっと手で覆う。  
「ひゃ……っ」  
 素っ頓狂な声を上げて体を離そうとするとミランダの目をじっと見つめた神田が少し心配そうな表情で問う。  
「……怖いか?」  
 あの巻き戻しの街でのことを思い出してしまうのか、という意味で聞いてきているのだろうか?  
それは分からないが、自分を気遣ってくれるのが嬉しくて、そして、乳房に手を置かれた瞬間、  
体に走ったものがゾクゾクとした快感以外の何物でもなかったことが気恥ずかしいが「ううん」と首を横に振る。  
「……だいじょうぶだから……もっと、して……」  
 あまりの恥ずかしさに最後の方は聞こえないほどの声で答えるミランダの言葉に、乳房を包んだ手のひらをゆっくりと、あくまで優しく愛撫する。  
「……っ……ん……ッ!!……ぅん……」  
 必死に声を出すのを耐えるミランダがあまりに可愛らしくて、愛しさが募る。  
興奮した神田が彼女の首筋を吸い、痕をいくつも創っていく。  
ちゅっ、と少しわざとらしい音を立てて吸うたびにピクン、ピクンと震えるミランダの反応を楽しみながら、  
ミランダの背中に回して抱きしめていた方の手が、彼女のうなじの下のほうにあるワンピースの後ろボタンに触れられる。  
「あ………」  
 ボタンが一つずつ外されていく度に、自分の裸体を晒す時が近づくことに怯えるミランダ。  
 
 全てのボタンが外されて、たわんだ布地がゆっくり下ろされていき、神田の眼前に彼女の黒いブラと、時計のねじ回しだけをつけた上半身が現れる。  
熱っぽい視線を感じながら、シャワールームでリナリーの健康的な体を見る度に、  
自分の体の貧相さを恥ずかしいと思い続けていたミランダは、神田に対して申し訳ないとさえ思ってしまい、また謝罪する。  
「ご……ごめんなさい、その、つまらないでしょ?」  
「何がだよ?」  
「私の体……ほら、貧相だから……」  
 神田にとってはミランダがなぜ謝るのかまったく分からない。  
肉の少ない肌に薄く浮いたろっ骨も、真っ白な肌も、どこかのサナトリウムで療養中の病弱な女性や、深窓の令嬢のような神秘さを感じさせて興奮が高まる。  
そして、この体を今から自分のものにできるという喜びばかりが頭の中を支配していた。  
薄く浮いたその肋骨に、そっと指を伝わせる度にピクン、ピクンと小さく体が震えて桃色に体が染まっていく。  
泣きそうな瞳を閉じて唇を噛みしめている彼女の顔に口付けるとそっと手を動かす。  
「ひん……っ!」  
 唇で口を封じたまま、肋骨の上の穏やかなふくらみを包み込むと、小さく鳴いた彼女の鼻息が顔に当たる。  
口腔を舌で嬲りながら乳房に優しく手を絡ませる度に口の中の彼女の舌も強張る。  
その緊張を解きほぐすように自分の舌で優しく愛撫すると「ん……っ、んふ」と鼻にかかった喘ぎ声が伝わってくるのが心地よい。  
巻き戻しの街で男たちに嬲られたときとはぜんぜん違う快感に酔いしれるミランダ。  
だが、揉み解しながら乳房の頂点を指の間に挟んで摘み上げた瞬間、  
「ン……ッ!!!」  
 
がりっ……  
 
「……っぐ!!」  
 突然の刺激に驚いたのかミランダの歯が神田の舌を噛んでしまった。  
神田は顔を離して、じんじんと痛む舌を手の甲で拭うと口の中に鉄の味が広がり、拭った手の甲には赤い液体がこびりついていた。  
その様子を見てわたわたと慌てるミランダ。  
「ご……っ、ごめんなさい!ごめんなさいっ、大丈夫?ユウ君っ!ごめんなさいっ!!」  
「なんれもねぇよ」  
 彼女を落ち着かせようと舌の痛みに耐えて強がりを言おうとしたが、うまくろれつが回らない。  
そのことが更に彼女を不安にさせる。  
「ち……っ」  
 
「っ!!…ごめんなさい……」  
 さっきまでの快感を耐えているような涙ではなく、また、自分の嫌いな涙……自分の失敗にとことん拘る陰気な涙だ。  
こんな涙は見たくないし、流して欲しくない、そんな気持ちで舌打ちする神田。  
だが、ミランダにとってその舌打ちは自分への拒絶として受け止められる。  
「ごめんなさい……ごめんなさ……」  
「……心配すんな……こんなもん舐めときゃ治る」  
 俯いて謝り続けるミランダを見て自分の舌打ちを後悔して告げた言い訳のような言葉に、神田は悪戯心が働いた。  
「だけど……舌を傷つけちゃったらどうやって舐めるって言うの……」  
「舌ならあるじゃねえか」  
「え……?」  
 きょとん、とした顔のミランダの唇に手を置くと、にやり、と微笑みながら  
「ここに、な」  
「え、えええ!?」  
「ほら、さっさと治療してくれよ」  
 混乱しているミランダの前で、べろ、と舌を出す。  
・  
・  
・  
・  
・  
 しばらくの沈黙の後、ミランダの舌がおずおずと差し出されて神田の傷ついた部分をぺろ…と一度舐める。  
そのまま犬のように傷口に舌を這わせる。  
ぺちゃ……ぺちゃ…とはしたない水音がミランダの耳に届いて羞恥心を刺激する。  
どきどきと心臓が高鳴り、おへその下あたりがきゅぅぅぅ……っと疼きだす。  
熱い息を吐きながら、年下の男の子に下を這わせる自分はどんなにいやらしいのだろうという羞恥心がさらに興奮を高めていく。  
 

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