「犯してあげましょうか?」
「は…?」
よりによって、こんな所でそんな台詞を吐かれるとは思わなかった。
リナリーがその一言に身じろぎすると、リナリーの後ろに座っていたアレンはニヤリと笑った。
腕をぐいと引かれ、そのままベッドに押し倒される。瞬時に頭の中は真っ白だ。
訳がわからず混乱するリナリーを組み敷いて、アレンの骨ばった手がリナリーの頬を包んだ。
「ッ…!」
「怖いですか?」
「ちょ、何いきなり…や、ぁッ!」
着ていたシャツを引っ張られ、白い腹が露わになる。
身体をすくめ、その瞬間に腰を浮かせてしまったリナリー。シャツは胸の上までたくし上げられる。
そこには無防備な膨らみが、確かに2つ存在していた。
夜、上の下着は着けないと言うのがリナリーの習慣になっていた。
アレンはそれをあえて包む込むように触らず、指先だけで先端部をつついた。
「ひァっ!?」
「え?」
「え?って…、ん……や…だぁッ」
「ちょっと静かにして下さいね」
「!」
「なっ…!?」
一気に顔が紅潮すると、アレンはその様子を見てくつくつと笑った。
リナリーが恥ずかしさのあまり顔を真横に傾けると、いきなり首筋に噛み付かれた。
ぬらりと現れた舌の感触に寒気に似た感覚が背筋を伝い、リナリーの脳内で暴発する。
アレンのさらさらした髪が、首筋周辺でリナリーの肌を撫でた。
「きゃぁッ!!あ…んッ!」
「…」
「ん、あ…ぅんっ、ふぁ…」
「本当に…初めてですか?」
「え…?」
そんなの、当たり前じゃないかとリナリーが言い返そうとしたとき。
アレンが突然、リナリーの両手首を左手だけで拘束した。
只でさえ、両脚は彼の両脚に挟まれて、身動きがまともに出来ない状態なのに。
再び唇を塞がれると、今度は甘くてとろけるような感覚に襲われた。
嫌なはずなのに、どうして。
「んっ、ふ…ぁ…!」
今度はより深く、より執拗に絡み取られる舌。頬が熱い。頬だけじゃない、全身が。
どうしてだ。腰が疼く。今まで感じたことの無い下腹部の違和感が、リナリーを不安にさせた。
動くたびに太ももが擦れ合い、自分の身に起こっている事態が酷くなる気がする。
やけに、疼くのだ。何がと言われれば判らない。ただ、どうしようもない不安感が身体を満たす。
「ん…ぁ…―――」
「そんな眼で見ないで下さい、抑え効かなくなっちゃいますから」
「でも…な、んで……こんな、こと…アレン…?」
「いちいち理由なんていります?」
そして、露わになったまま放置されていた乳房に、アレンの冷たい手が触れた。
彼の手に包まれてもなお余りそうな程に成長しているそれは、ふわふわと柔らかい。
じんわりと温かい感触が伝わる気がして、一瞬身震いをするリナリー。
背筋が、凍りそうだった。その眼光に、体中がフリーズしてしまう。
ゆっくりと揉まれて、酷く安心してしまったのは何故だろう。
異性に触れられることなど、今まで全く無かったリナリーにとって、この瞬間は恐怖感に捕らわれてもおかしくはないのに。
「い…ッ」
「感じてるんだ、可愛い」
「…ん、あぁ…っ」
「満更でもないみたいですね、その様子だと」
指の腹で先端を撫でるように転がしてやれば、跳ね上がる声。
湿り気を帯びた下腹部は、更に湿度を上げてゆく。軽くつまんでやると、ピクンと肩が跳ねた。
つまんだまま、くりくりと動かしてやれば声を上げて、転がしてやれば漏れる吐息。
アレンはそれを見て、突起を口に含んだ。
「ぃ、やっ…!?」
生暖かいアレンの口内で弄ばれるそれが、酷く敏感になっていて。
歯に触れるたび、体中がビクビクと反応してしまう。
物足りないと感じてしまった自分が、恐ろしいと思った。
何度も舐られて、リナリーは何度も意識を手放しかけた。
異常なまでに、身体は熱い。
「や…め、アレンッ!無理、むりぃッ…ぁん!」
「胸だけでこんなに感じてるひとは、見た事ないんですけど…」
「やぁ…ア…」
硬くなった乳首を指で押され、今度は体中が小刻みに波打った。
紅く染まった頬が、いやに可愛らしい。
リナリーの穿いていたジーンズに、アレンの手が伸びる。
へその下に指先が触れた瞬間、リナリーの腰が浮いた。
一気にボトムスを剥ぎ取られ、下に穿いているものはショーツだけとなる。
「ひゃっ!」
「濡れてる…本当に処女ですか?」
「な…、ヒッ!!」
脚を掴まれ、無理矢理広げられた。
リアクションを取る間もなく、アレンはそれ以上脚が閉じないように自分の胴体を挟んでしまった。
下着の上から割れ目をなぞられて、リナリーの身体は大きく弓なりになった。
まだ軽くなぞられただけなのにも関わらず、リナリーの反応はアレンの予想以上であった。
実体験の無いリナリーにとって、それがどんな事を示すのかはわからない。
「…本当、何も知らないんですね…リナリーは」
「ぇ…キャァッ!!」
「大きな声出さないで下さい。隣に聞こえます…ま、貴女がいいならいいですけど」
「…!」
隣の部屋には、神田がいる。
リナリーはとっさに口を両手で塞ぐ。いつの間にか、両手には自由が戻っていた。
それさえも、気付かなかったのだ。
「んっ、うぅ…」
「さて、どこまで大声出さずに耐えられるか…見せてもらいましょうか」
「ひぅっ、んん…ッあ!」
痛みよりも恐ろしい感覚に、完全にリナリーは怯えきっていた。
何度も行き来するアレンの指が、妙にゆっくりに感じた。
割れ目をなぞるのを繰り返すうちに、下着はその向こうの様子を浮かび上がらせる。
下着の向こうから秘所を軽く押されて、リナリーは悲鳴にも似た声を上げた。
アレンが「だから、聞こえますよ?」と脅しをかければ、リナリーは目にうっすらと涙を浮かべて首を横に振る。
リナリーにとって、神田と合わせる顔がなくなってしまうのは絶対に嫌なことであった。
それはアレンでも同じことだったが、既にこの行為がいつ終わっても、合わせる顔などあるはずが無い。
リナリーの中で、何かがはじけた瞬間だった。
「ッ!」
突然下着にかけられた指が強引に引っ張られた。
「な…やだッ!」
下着を剥ぎ取られ、とうとうまともに纏うものさえなくなってしまう。
胸と両脚をさらけ出した姿は、服の意味をまるで成していない。
じっとむき出しになった秘所を見つめられ、泣き出す寸前のリナリーが必死に抵抗しようとする。
でも脚はこれ以上閉じることが出来ない。怖くて、体も動かない。
「や……見ないで、見ないで…ッ」
「じゃあこれでどうだよ?」
「ぁんッ!や、ひっ…あぁぁアァッ!」
「だから聞こえる言ってるでしょう。そんな事も解らないんですか?」
罵声を浴びせられて、リナリーはもっと狂いそうな甘ったるい感覚に襲われる。
指で直接そこを撫でられて、リナリーは初めての感覚に不安でいっぱいいっぱいの様子だった。
陰核に指が触れ、先ほどの乳首と同じ様に弄られると、リナリーは妙な感覚に捕らわれっぱなしになる。
狂ってる…瞬間的にリナリーはそう思った。
「や…アレンく…、んんっ」
「ほー、まだそんな余裕があったのか」
「えっ、キャ…い、痛ッ!!」
強引に、1本の指が秘所に突っ込まれた。
濡れていた。確かに濡れてはいたのだが、初めて感じるその部分の違和感に、リナリーは泣き出しそうな顔でアレンを見上げる。
もぞ…と内部で指が動けば、ピクリと身体は反応する。脳と身体が、相反する。
くちゅくちゅと、卑猥な音が耳に焼きつく。
「痛いですか?」
「痛い…やだ、抜いてぇ…ッ」
「リナリー、まだ指1本しか入ってませんけど…大丈夫なんですか?」
「え、や…アッ!」
「動かしますよ」
まだ1本だけだ。それでも痛いとリナリーは言う。それでもキツいとアレンは思う。
リナリー自身、こんな行為を全く知らないわけではない。実際に体験した事がなかっただけだ。
頭ではわかっている。でも身体はそんなこと知るはずが無い。だから怖いのだ。
指が抜き差しされて、リナリーの其処からはみるみるうちに愛液が溢れ出す。
前にも増した、厭らしい水音が木霊した。
「はぁん…アッ、あぁっ!」
「だから、まだ1本だけですから」
こんなに感じてる女なんて初めてだ、とアレンは徐に指の本数を増やした。
2本埋まると、やっぱりそこはキツく絞まっていて、水音は一気に鈍いものへと変わった。
痛みに顔を歪めたリナリーだったが、そこには多少の快感もあるのだろうか、唇からは止め処なく溢れる嬌声。
中で別々に指を動かせば、たちまち腰を浮かせてビクビクと肉壁を痙攣させた。
愛しげに曲げた指を内壁に沿ってなぞった。わざとゆっくりと指を抜くと、リナリーは不安げな目で宙を仰ぐ。
指先に絡まったリナリーの愛液をぺろりと舐め取ると、リナリーは小さな声で「やめて」と願った。
アレンが耳元で、そっと囁いた。まるで悪魔の様な、冷ややかで恐ろしい声で。
「挿れますよ」
「…え…―――」
「力、抜いてて…ね?」
「え、あ…いぃっ!痛、アァァッ!!」
「キツ…」
激痛が全身を貫いた。次に、声にならない痛みがリナリーの口から漏れる。
目をぎゅっと瞑った瞬間、アレンが心底つらそうな声をあげた。
膨張したアレンのそれは、リナリーの入り口付近でギチギチと悲鳴をあげかけていた。
「力抜いてください、まだ先しか入ってませんから」
「…!?」
これだけ痛いのに、まだなのか。
リナリーは再び次に来る痛みを堪えるべく、身を強張らせた。
アレンはリナリーの前髪をそっとかきあげて、優しく言葉を発す。
柔らかく、それでいて温かな。
「大丈夫、怖くありませんよ」
「なーんてね?」
「ヒッ、ア…あぁああぁっ!」
安心感で、一瞬弛緩した肉壁の間を、悪魔が突き破った。
なんて騙すのが上手いのだろうか。異物感で満たされたリナリーの膣内は、張り裂けんばかりの締め付けだった。
アレンがニヤリと笑うと、激痛に全てを支配されたリナリーが声にならない悲鳴をあげて腰を動かそうとした。
ぐっと腰を押さえつけられ、それもままならず。ただリナリーは、痛みの次に襲ってくる熱さに、唇をかみ締める。
「痛ッ、い…あぁあっ!」
「少し、黙ってて下さい」
アレンの大きな手が、リナリーの小さな口を覆った。
「んーっ、ん゛ッ!」
「噛んだらもっと酷いコトしますよ」
「ん゛っ、ん…んんッ!!」
「…覚悟して下さいね」
ゆっくりとアレンのものが引き抜かれようとした。リナリーは大きな手で口を塞がれ、喘ぎながら激痛と戦っていた。
入り口ギリギリまで引き抜いて、一気に奥まで貫く。リナリーは奥を突かれる度に、痛みと同時に襲ってくる妙な快感に溺れかけていた。
痛いはずなのに、身体は反応する。やっぱり私は、変なの?
溢れ出す愛液に混じった紅が、真白のシーツを汚す。その紅さえも、リナリーの白い肌を彩った。
何度かピストン運動を繰り返した時のこと。
「んっ、ンン…ん!ふぅ…ァッ」
「大分、慣れたかなぁ」
「ぷはっ…あ、アァ、ん…いやあ!」
「…とても初めてとは思えませんよ。ねぇ、リナリー?」
「…あ……ねぇっ、ひ…ゃぁッ」
「何ですか?」
「たりな…ぁ、っと…っねが…!」
初めて、リナリーがアレンに要求した。
艶かしい雌が表面に浮き出たリナリーは、腰をくねらせてアレンに懇願する。
これでは足りないと、めちゃくちゃになるまでしてほしいと、リナリーは小さく言った。
アレンはリナリーの額に口付けを落とすと、先程よりももっと厭な笑みを浮かべる。
「もう「いや」とは言わせませんよ?」
「ん…」
「いいんですか?」
「ん、いいっ…早く…ッ!」
「うわ…どんな心境の変化でしょうね」
リナリーが答える間もなく、アレンは一旦自分をリナリーから引き抜き、リナリーを無理矢理四つん這いにさせた。
そして躊躇いもなく後ろから貫くと、さっきよりも激しく腰を打ちつけた。
肌がぶつかり合う音と同時に、快感に溺れたリナリーの喘ぎ声が、更に大きくなってあふれ出る。
狂いだした歯車は、止まらない。
「っあ、あ、あぁっ…!」
「ッ…」
「い、やぁ…んぅ…いッ、あぁ…ん!」
「声、もっと聞かせて下さいよ」
振り返ったときに見せたとろんとした目が、アレンの理性をプツンと切る。
余裕なんて、元から無かった筈だが。
「…い、あ…もう、駄目ぇっ…!」
「まだです」
登りつめかけたリナリーの乳首をつまんで、これでもかと言うくらい執拗に焦らす。
もとより、自分自身こんな余裕は無い。できるなら、もう直ぐにでも果ててもいいと思う。
だがここであえて意地悪いまねをするのは、アレン自身頭の片隅に残っていた僅かなプライドがそうさせたのだろう。
主導権を握るのは、今もこれからも自分だと、言いたいかのように。
「アッ…ひゃぁ、やだっ…おねが…っ、あ……!」
「…ッ」
一気に突き上げた途端、リナリーは小さな悲鳴を上げた。
同時に放たれた熱は、そのまま彼女の内部にぶちまけられる。
一際大きな嬌声をあげて、リナリーが脱力した。
虚ろな目で振り返ったリナリーを再び仰向けに押し倒し、口付ける。
「…リナリー」
「…?」
「綺麗だ…」
何の心の準備もないまま無理矢理抱かれて、初めてなのに中に熱を放たれて。
脳内の整理が追いつかない状態で、リナリーは汗でじっとりと濡れたTシャツを、自分の意思で脱ぎ捨てた。
首元や鎖骨、肩のラインが露わになり、乱れた呼吸を整えながら、リナリーはほっとしたような笑みを浮かべる。
「…アレンの方が、…綺麗、よ」
「男が綺麗って言われて嬉しいと思います?」
「だって綺麗なんだも…んんっ」
リナリーの鎖骨近くに唇を落とし、紅い華を咲かせたアレン。
順序は違ったかもしれないが、白い肌に紅がとても映える様は、アレンにとってとても満足感を得られるものであった。
「平気ですか?」
「……無理…」
「初めてなのに…少しやりすぎちゃいましたかねぇ?」
「最低…」
「その最低な人に犯された挙句、乱れ狂って啼きまくってたのは誰ですか?」
「…」
現在の時刻は午前1時過ぎ。月さえも暗闇に溶けていきそうな夜。
まだまだこれから、かもしれない。
『夜ノ夢』...Fin