「はい、じゃあ報告もこんなトコでしょ。お疲れさま、神田くん」
「ああ」
黒の教団本部。
ホームとも呼ばれるここへ遠い派遣先から帰ったばかりといってもすぐに休めるというわけではなく、「任務」は報告まで全て済ませてようやく終了をむかえる。
その事後報告書をコムイへと提出し、神田は司令室を後にした。
「お疲れさま」
「・・・いいのか?あっちはまだ俺の報告まとめる作業残ってんだろ?」
連れ添って歩きながら自分をねぎらう少女に、神田は一応、問いただす。
「それだけじゃないよ。いっつもいろいろやってるし。でもいいよ、コーヒーもたっぷり作っておいたしね」
カチャカチャと手元に抱えたティーセットが音を立てる。普段彼女が抱えているものとは違うタイプだ。
「任務終了ってことで、神田にお茶淹れてあげようと思って。チャイニーズティ、コーヒーよりいいでしょ?」
別に飲めないわけじゃない。好んでも飲まないが。確かに中国茶はずっと飲みやすい、と神田は思う。
「・・・嫌いじゃないな」
「ふふ、じゃおいしいの淹れてあげるね」
部屋に温かな湯気が漂う。
蒸された茶葉の香りが次第に広がって、しばらく人の居なかった部屋を居心地のいいものに変えた。
「アレンくんが帰ってきた日ね、大変だったんだから」
教団が壊滅寸前になった事件の話を聞かされて、教団内のところどころが壊れかけていたりいかにも修復途中といった様子だったのを思い出した。
「アホか」
「あはは、まだちょっと直りきってないんだよね」
淹れたての中国茶を少しずつすすりながら、教団であんなことがあった、こんなことがあったと話すリナリーの声を聴いて、神田はようやく「ああ、戻ってきたんだな」と心のどこかが安堵した。
「アレンくん今また別の任務に行ってるのよ、ついこないだ。入れ違い残念だったね」
「なんで残念なんだよ」
「だって仲いいじゃない?」
「はぁ?なんでそう思うんだか・・・」
「ほら、同じようなこと言ってる」
リナリーはそう言って笑ったが、別にアイツが今の俺と同じ意図の発言をしたとして、どうして仲がいいになるんだとしか、神田には思えない。
だいたいなんで今あのモヤシの話題になっているんだ。
そもそも自分のいない間のアイツとのことを話されたところで・・・あまり心証は良くなかった。
「・・・・・・そっちこそ、ずいぶん仲良くなったんじゃないか?」
言って、まずかったかと思う。
「・・・そりゃあ、アレンくんまだまだここに慣れてないし、私だって歳が近いもの。だから色々、構うわよ?」
「別に、構うなとか言ってねぇよ」
空気がさっきまでのそれと変わる。
それが自分の放つ不機嫌さのせいなのか、それともリナリーも同じく穏やかならぬ心持ちにしてしまったのか。
「・・・あのね、言おうと思ってたの。アレンくんから任務のこと聞いたよ?」
「あの時、危なかったでしょ?神田・・・怪我したでしょ。全部神田のせいだよっ?」
「はぁ?なんでそうなる・・・」
「アレンくんも、まぁ勝手はしただろうからそれは二人とも良くないわ。
でもあなたは彼より状況把握できたでしょ?慣れてるんだから。
なんでフォローしてあげないのよ。あの子はまだ・・・」
ガシャン!
「・・・勝手に動いたのはアイツだ」
イライラするっ!
あの時は、いろいろと失態もあったと、そんなことは分かっている。
それをリナリーに蒸し返されることも、あのモヤシを「あの子」と肩をもたれる事も・・・神田を苛立たせた。
自分の失態と思っていることを言ってくるのも、アレンを気にかけるのも、それがリナリーだからこそ、苛立った。
勢い良く置いた、叩きつけたともいえるカップからは、お茶が溢れてテーブルに、床に滲んだ。
拡がった水分は、すぐに熱を失って冷えていく。
リナリーとの間に流れる空気も、随分と冷やしてしまった。
「もうそろそろ戻るね。兄さんのところに居るから。お茶、要らなくなったら持ってきて?」
リナリーは席を立ち、離れるほうへと歩みを進める。
違う。こんなことじゃなく。
そう、久々に会った。こんな風に怒らせて、そんな彼女が見たいわけはなくて。
単純に、ただ自分のことで、もっと彼女の頭の中を占めてしまいたい。
俺のことしか、考えさせたくない。
苛立つ心は、すべて彼女に向けられたもの。彼女が欲しくて、向けられたもの。
ドアを目前とするリナリーとの距離を、神田は一気に詰めた。
ノブにかけた手を押さえつけ、背後から自分と扉との間に囲い込む。
「・・・何?」
まだ少し不機嫌そうな反応を返すリナリーの肩を引いて振り向かせ、片手で鳩尾のあたりを押さえ壁に押し付けて捕らえた。
トクン、トクン、と心音が伝わる。
強気な瞳を向けられたのに構わず神田は唇を奪う。
一方的なキス。唇を啄ばみ、舌を侵入させる。
「・・・・・・っ、ふ・・・ぁ」
苦しくなったのか、リナリーが息を漏らす。その隙により深く入り込みリナリーの舌を誘う。
手のひらから伝わる心音が少し大きくなった。
捕らえられた胸の動きで、息が徐々にあがっていくのを神田もリナリー自身もはっきりとわかっていた。
押し付けられた手から熱が広がって、それだけでリナリーは神田の存在を感じて気持ちが昂ぶる。
「んん・・・っ」
二人の舌が絡み合う。いつしかリナリーもキスに答えていた。
「・・・はっ・・・・・・」
唇から離れると、そのまま首筋へと移動する。リナリーは顔をうつむけただけ。
「・・・拒まないのか?」
耳元でささやくと
「・・・・・・いじわる」
と、小さく声がこぼれた。
神田はリナリーの太腿に指を滑らせる。
短い団服のスカートは常にその細い脚をあらわにさせて、ヒラヒラと揺れていた。
──こんな服、考えたヤツの気が知れねぇ・・・おかげで、触れることは容易いが。
柔らかな肌が指先に気持ちいい。脚の付け根の、ギリギリの高さまで這わせて再び下げる、の行き来を繰り返す。
まだ、奥には触れない。
手から伝わる鼓動はまた大きくなっている。
少し脚から力が抜けて、リナリーの身体がずり下がったように思う。
頃合か、と神田は脚を巡っていた手をスカートの奥に秘められた薄布に這わせた。
一枚隔てた内側に、ぬめった感触。
びく、とリナリーが一瞬反応した。
更に指を留めて触れ続けると、薄布が湿り気を帯びて触り心地が変化する。
リナリーが伝える鼓動はますます大きくなり、胸の上下も顕著になる。
それは、押さえられることでリナリー自身もよく感じていた。
「・・・っあ、・・・・・・ふ、・・・はっ・・・は・・・」
リナリーは声を堪えている様で、吐く息にのみかすかに色が混じる。
神田は布の端から侵入して直接に触れる。なら、声を出させてやろうか、という気持ちがうまれる。
くちゅ・・・と水音が響く。
「・・・・・・っんぁ・・・」
指を動かすたびに、かくかくと膝を震えさせてリナリーが徐々に沈んでいく。
手に蜜が滴る。神田は指を埋め込んで、軽く曲げる度にリナリーが反応するのを楽しんだ。
「・・・やぁっ!」
一際高い声があげると、とっさにリナリーは自分の手で口を抑えた。
「・・・カ、ンダ!・・・とびらっ・・・まえ、だから・・・」
瞳が訴える。部屋の外に声が漏れやしないか、ずっと気にしていたらしい。
「じゃあ・・・ベットに行くか・・・?」
煽るつもりでそう聞いた訳で、実際はどう出られようとリナリーを抱きたいと、はやる気持ちが神田の心を占めていた。
しかし、予想外に動かされたのは神田のほうだった。
リナリーが、今まで自分を押さえ込んでいた神田の腕を抱えて、勢いベットへと引きずり込む。
今度は自分からくちづけて、上乗りに神田を押し倒し、目を見据えて言い放つ。
「その気にしたのは、そっちだから。・・・・・・動いちゃダメ」
本気で部屋を出て行くつもりだったのに。
・・・流された、くやしい、くやしい!
自分から神田を押し倒して、彼の腰あたりにまたがって見下ろす。
こちらが視線を離さないのと同様に、神田もじっと見つめてくる。
それでもリナリーは自分が引き起こした状況に、慌てることも臆することもなく神田の胸元のボタンへと手を伸ばした。
一つずつはずしながら、露わになった胸元に唇を這わせる。
完全にはだけた上着の右側だけを開いて、リナリーは神田の胸元に頬を寄せた。
いつもそうだ。
リナリーは左側の胸に、そこに刻まれた『梵字』にはあまり触れようとしない。
「・・・また怪我、したんでしょ・・・」
その声は小さすぎて、神田には届かなかった。
「・・・オイ?」
「動いちゃ、ダメだからねっ」
そう言ってバッと起き上がると、リナリーはもう一度自分からくちづけた。
「・・・んっ・・・ふぅ・・・・・・ぁ・・・」
舌が絡み合う。
また、随分と長いこと・・・と神田が思っていると、リナリーの手が自分自身に触れてきた。
既にそれなりの反応は示していたが、服越しに鈍く撫で付けられて、更に反応は増していく。
「ん・・・」
唇を離すと、リナリーは身体をずらして神田の腰のベルトへと手を移した。
カチャカチャと音を立てて開かれていく。が、ベルトを開放しズボンに手を掛けたところで、動きが止まった。
さすがにわずかな戸惑いがあるのが表情から読み取れる。
「・・・どうした?」
口の端を少しだけあげて、神田は問う。
「っいいから、黙ってて・・・!」
いったん手を引き、リナリーは自分のロングブーツの方に手を掛けた。
脱ぎ捨てると、そのあまりに短いミニスカートの裾から、長い脚がスッと伸びてなんとも艶めかしい。
団服はそのまま、下着も取り払ってリナリーは再びおずおずと神田の下半身を覆うズボンへと手を伸ばした。
恐る恐るその前を解放し、ゆっくりと乗り上げる。
戸惑いがどんどんと前面に出てくるのに、神田の視線が、リナリーに行為を留まらせようという意識を持たせてくれない。
自分の行動を、表情をずっとみつめられて、ここまでやっておいて引くに引けない。
「・・・あっ・・・ゃ、あ・・・・・・」
先端に暖かい柔肉が触れたかと思うと、徐々に飲み込まれていった。
確かにわざと煽るように触れた。
それがここまで効果があるとはな・・・。
身を包む団服は微塵も乱れていないのに、その奥で蜜は溢れてしかもそこは露わになっている。
そんな状況も、リナリーが自分からそうしてくることも神田を堪らなく昂ぶらせた。
リナリーはゆっくりと沈んでくる。
その腰を引き寄せたい衝動を抑えるのはそう容易くはなかったが、まだ、駄目だ。
「ん・・・んんっ・・・、あ・・・やぁっ、あ・・・・・・」
完全に腰を落とし、そのままリナリーは震えていた。
神田はその胸元のボタンへと手を伸ばす。
「ちょ・・・ダメッ」
「見たいんだよ、開けさせろよ」
「・・・っっ」
自分から上乗っておいて、これ以上のことはもうできないとリナリーは思っていた。
動けって言われるよりは、マシかな・・・と思っているうちに、胸元は開かれて冷たい指先が頂上に触れる。
「あっ・・・んやぁ!」
びく、と身体を引くと、受けとめていた下半身にも刺激が走る。
「ん、ああぁ・・・んっ」
リナリーの上半身の力が抜けかけたのを見て、神田はまぁここまでかな、と下から突き上げた。
「あっ、やぁ・・・っ、ん、んっ・・・あ!ああぁっ」
一点を捉えて突き上げると、びくっと一瞬震えてリナリーが身を倒した。
「・・・は、はぁ・・・・・・ふ・・・」
「どうした、イったか?」
「・・・も、やだぁ・・・」
顔を伏せるリナリーの顎に手をやって自分の方に向かせる。
「いったん抜け。服が邪魔だ。脱ぐから」
「っ・・・」
リナリーに戸惑った表情が覗いて、湧き上がる笑みを隠すのに意識しなければならない。
彼女は引き抜かれる感覚が苦手だと、分かっていてそう言った。
「・・・っ、・・・ぁ・・・・・・ゃ」
少しずつ腰が浮き上がる。全身を震えさせて、その表情がイイ。
「はぁ・・・っ」
リナリーが身をずらしたのを受けて、神田は起き上がり上着を脱いだ。
その場に座りなおして、言う。
「来いよ」
「・・・来いよって・・・」
座ったまま?口には出さずとも、顔が明らかにそう問うている。
「さっきはお前の言うとおりにしただろ?次は俺の番ってのが筋だ」
「・・・だって、動かないでっていったのに動いたじゃない・・・」
「それでイったのは誰だよ?」
「・・・っ」
あんなこと、やっぱりするんじゃなかった・・・今更ながら後悔の念が沸き起こる。
その笑み。
自信ありげで、くやしい。
でも、普段とどこか違う・・・私の前でしか見せない空気がわかって、それで私は弱いんだよ?
結局敵わない。
リナリーは意を決しておずおずとその膝の上に腰を下ろした。
ぐぐぐ・・・っと自分が沈み込むのが分かる。
深い・・・。
随分と這入り込まれている感じがして、リナリーは全身がより熱くなるのを感じた。
「んっ、ふ、ッあ・・・、やっ・・・あ!」
下から突き上げられる。この状態はいちいち奥まで這入ってくる気がしてリナリーは余裕などとうに失った。
首に回された腕は揺さ振られるたびにしがみつく力を増して、神田をますます追い立てる。
「やっ・・・も、だ・・・ダメッ・・・、ユ・・・あっ、ん・・・っ」
今・・・。
突き上げるたびに併せて途切れるリナリーの声に聴き入る。
「や・・・っユ、ユウ・・・!」
名前で呼ばれる。
普段から神田が回りにそう呼ばれることを拒むから、彼女もまた「神田」と呼ぶようにしている。
本当は彼女が口にする自分の名の響きは・・・嫌いじゃない。
こうやって自分の存在で彼女を埋め尽くして、高めてやるとそれを聴くことが出来る。
それは特別である、証。
同様にリナリーによって随分と余裕をなくされていた神田が、少し口の端をあげて笑うと、押し倒すように倒れこんだ。
「きゃ・・・っんん、やあぁっ!」
身体の位置が変わり、違うところを刺激されてリナリーは身を捩る。
そのまま奥へと突き進みながら、神田は唇を塞いだ。
そこの余裕まで奪ってしまえば、もう声を抑えることなどかなわずにリナリーは身に響く快感を包み隠さず表わすほかなかった。
「んんっふ・・・ぁ、ん、あっ、んんーーー!」
リナリーがびくっと震えて達する。
神田も,
締め付けられる内側からすぐさま引き抜いて昂ぶった熱を放った。
「はっ・・・は、・・・はぁ」
結局余裕がないのはどちらも同じ。
しかし、リナリーは太腿辺りに感じるあたたかいものから何かに気付いたようで、重い身体を無理やり起こした。
「ちょ・・・っや!スカート、汚したでしょ・・・っ」
見ると確かに、神田の放ったものによって黒い教団服のスカートはところどころ白い染みで彩られていた。
「・・・あぁ、着たままはじめたのはお前だろ・・・」
そこまで気が回るかよ、と思いつつ神田は頭を掻く。
「もぉ・・・っ落とさなきゃ」
リナリーがベットから降りようとしたのを神田は抱え込んで引き止めた。
「んなもん拭いたところで、すぐ出てけるような身体じゃねぇだろ?」
ベットに留めて、代わりに神田が立ち上がる。
「布、ぬらしてくればいいか?」
もう既に、彼女をコムイのところへ帰すには充分に時間を費やしすぎている。
ならあと少し、引き止めて俺の元に捕まえておいてやろう・・・そんなことを考えながら、神田はベットを離れた。