「・・・ンくん・・・アレン・・・くん・・・」  
 
呼ばれてる・・・?僕はぼんやりとその声を聞いていた。  
ロードとの戦いの後、再び負った傷はまだ完全には癒えていない。ベッドの上で過ごす、少々退屈な病院の午後。  
いつの間にか僕はうとうとと眠っていたようで、この声はそんな僕に覚醒を促しているらしい。  
誰・・・だろ?起き、ないと・・・な。  
僕の意識はいまだ夢うつつで、視界はかすかに白んできた。  
ん・・・  
くちびる・・・なにか、ふれる感触が・・・ある、ような・・・  
・・・!?  
僕の意識は一気に現実に引き戻される。  
はっと目を覚ますと、少し心配そうにして僕をのぞき込むリナリーの顔が映る。  
 
「あ、起きた?」  
ベッドの淵に腰を下ろして、別段変わった様子もなくリナリーは微笑む。  
「ごめんね、どんな様子かなっと思って」  
「あ、いえ・・・」  
訳もわからず、とりあえず僕は身体を起こした。  
そういえば僕が気付いていた限りではリナリーはまだ回復していなかったのに。  
「ああ、いいよ!寝てて?」  
「もう大丈夫ですよ。・・・リナリーこそ、目が覚めたんですね。身体の方は、大丈夫ですか?」  
会話を交わしながら、よくよく考えてみる。・・・つまり、さっきのが気のせいじゃないなら・・・  
「うん、もうすっかり大丈夫だよ」  
ああ、いつもと変わらない、僕が可愛いと思った、リナリーの笑顔。  
「アレンくんのほうが、重症だったね」  
そう言って僕の身体に顔を寄せる。  
かぁっと全身が熱くなった。  
さっきの・・・まさか。でもリナリーは変な様子も、ないし。気のせい・・・?でも・・・  
顔が、赤くなってやしないか不安になる。すごく、ドキドキしてるし・・・。  
「・・・きづいてた?」  
リナリーがつぶやいた。上目遣いに僕のことをみつめてくる。  
「え?」  
そっと僕の手にリナリーの手が重ねられる。  
「・・・キス、しちゃったこと」  
 
突然そんなこと言われても、僕の頭は真っ白になるだけで。  
え、え、え・・・っ  
戸惑う僕の口元に、リナリーの白い手がスッと伸びてきて・・・  
ふわっと軽く、その細い指先が2本、そろえて押し当てられた。まるでキスするみたいに。  
「・・・ゆびだよ!だまされた?」  
嬉しそうな、少しいじわるそうな、小悪魔な笑顔で僕をのぞき込む。  
「・・・っっ!!」  
そんなリナリーが可愛くて、勘違いが恥ずかしくて、触れられたことが嬉しくて、僕は言葉にならない。  
「はやく傷、治そうね。アレンくん」  
ちゅっ  
頬にやわらかい感触。甘い香りが漂った気がした。  
「じゃあね!」  
一瞬のできごと。  
吹きぬける春風みたいに、リナリーは部屋を出ていってしまった。  
 
「・・・ゆびより、ずっとやわらかいんだ・・・」  
キスを受けた頬に手をやり、取り残された僕は固まってしまった。  
すっかり、リナリーに心を占領されて。  
 
外気を遮断する窓から差し込む光がとてもあたたかな、そんな午後の話。  

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